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1-33『祝勝会』

俺は猛烈に抗議した。

 いや、抗議しようとしたが、友人だと思っていた面々に手を抑えられ、口を塞がれて連行された。


 そして、今、俺は自室にいる。


 別に引きもっているわけではない。

 俺以外に20人以上の人が集まり、皆、楽しそうにわいわいやっている。

 先輩から譲り受けた広い部屋が広く感じないくらいの盛況さ。


 俺は、裏切り者の姿を探す。


 リバーは忙しなく食事の配膳指示を出している。

 並べられる様々な種類の料理。共通しているのは見た目の豪華さと食べ易さ。

 彼は目下、第一容疑者。

 この見事なまでの裏切りの全体像を描ける人物は、リバーをおいて他にはいない。


 だが、独りではできない。

 おそらく、共犯がいる。


 レミはモモエや何人かの赤、白のフード付きの服を着た女の子たちとマスボを見せ合いながらはしゃいでいる。

 レミも容疑者の1人。彼女はマスボの扱いに長け、撮影はお手の物だ。

 この2日間、リバーは俺と同行している(俺を油断させるために)時間が長かったので、裏で彼と連携を取って動ける人間が必要だ。間違いなく彼女だな。


 もう1人、容疑者がいる。


 ロッキングチェアを揺らしている男。

 周りに人だかりはない。まあ、それはそうだろう。

 だが、この男が共犯だと断言できる歴然とした証拠がある。


 ここにいる俺、リバー、レミ、モモエ、事務員のフィッティさんを除いた他のメンバー全員が、かつてこの男が決闘を吹っ掛けては打ち負かし、無理やり自分の派閥に組み込まれるように約束させた『赤・白・黒魔導師』の新入生たちなのだから。


 こいつも間違いなく裏切り者だ。


 ああ、ブルートよ、お前もか……!


 ヤキソバまん、買ってこい!!


 思えば、引っ掛かる点は多々あった。


 なぜに、リバーが今回の決闘に対して積極的に交渉役を担ってくれたのか?


 なぜに、レミとリバーは俺のマスボを見て、なにやら目配せをしていたのか?


 なぜに、姑息で臆病で自己中心的で過大評価なブルートが、いくら幼馴染ジェシーのためとはいえ、自分の謹慎まで決闘時の賭けの対象に加えるような真似をしたのか?


 ……等々。


 こいつらは、すべて内々で派閥結成のために動いていたんだ。

 そして、その派閥の長は俺。何も知らされておらず。


 おかしくない!?


 抗議しようとしたら、リバーに「派閥については昨日お話しした際に、前向きなご回答を頂けたと思っていましたが?」と言われた。


 たしかに、「将来的に」「前向きに」……とは言っていた気がする。


 だが……


「今がその時です」とも言われた。俺が何かを言いかける前に。


 ひどくない?


 完全にしてやられた。


 そして、なし崩しに乾杯の挨拶が始まる。

 なぜか皆の前に立つ、事務員のフィッティさん。


 決闘の場でもこの部屋でも仏頂面のフィッティさんは、立会人となったクローニ先生に言いくるめられて、いつの間にかこの派閥の顧問に納まっていたそう。


 他の面々はともかく、彼女だけには少し同情する。

 俺と同じように騙され、言いくるめられてここにいるわけだからね。


「まあ、とりあえず、今は難しいことは考えずに飲もう。乾杯」


「「「「「「「「「「かんぱーい!!♪」」」」」」」」」」


 覇気のない掛け声に対し、元気いっぱいの合いの声。

 皆、ドリンクを手に立食形式の食事を始める。


 1人だけ酒を要求し、グラスを空けては注ぎ、空けては注ぎを繰り返しながら、並べられた料理皿から比較的高そうな肉ばかりを選んで食べていくフィッティ先生(事務員でも顧問は先生と呼ぶそうだ)。

 彼女はどこか吹っ切れた様子だった。いや、やけになっただけか!?


「お前もそろそろ諦めたらどうだ?」


 暖炉の方から声がした。

 ブルート、もとい裏切りヤキソバまんだ。

 相変わらず独りでロッキングチェアを揺らしながら手にはワイングラスを持っている。


 こいつは、ジェシーとの決闘後からずっとこんな感じだ。


 周りに人が集まらないのは分かる。

 ブルートが決闘で下した相手は全員、彼の立ち上げる予定だった派閥に強制入会させられそうになっていたからだ。

 鼻持ちならない貴族の典型のようなこの男に、今後どんな圧政を敷かれるか皆びくびくしていたらしいからな。


 実際は、この男は彼らに特にひどいことはしてないんだけど。

 その点はどっかのゴミクズとは全然違う。 単に、鼻持ちならないだけだ。

 ムカつくよね。あのすました顔。


 今も何か優雅に椅子を揺らしながら、如何にも自分はひとつ上のステージに上がったんだというような振る舞いをしている。

 グラスの中身、ただのぶどうジュースのくせに。


 諦める?

 たしかに、時計の針はもう進んでしまった。


 派閥はいつの間にか結成されており、いつの間にか【紫雲しうん】とかいう派閥名になっており、いつのまにか俺がその派閥の長として登録されていた。


 しかも、いつの間にか派閥同士の決闘である派閥間決闘が執り行われていて、いつの間にか有力派閥である【魔花】に勝ったことになっており、いつの間にか発足したばかりの弱小新入生派閥に5千ポイントが加算されている。


 主犯のリバーから「どうせでしたら、このポイントを使って豪華な部屋を借り切って盛大にパーティを行いますか?」と提案されたが、もちろんそれは断った。


 どのような理由であれ、こういう祝いのパーティをするのであれば、自分たちの懐から出た金じゃないと心からは楽しめない。


 俺は会自体を開くのは構わないが、今後、派閥として会を開くなら、決して身の丈以上の背伸びをせず、自分たちの持ち寄りで賄える範囲の会にしようと話し、全員が払えそうな額を設定してくれとリバーにお願いした。

 リバーも笑顔で了承していたよ。確認してくるあたり、律儀な奴ではある。

 裏切り者だけど。


 この教えは、村長の奥さんが、俺があの村を出るときに餞別に贈ってくれた言葉からきている。

「大人になったらもう本当の身の丈は伸びない。だから、いつだって今いるあなたの身の丈に合わせなさい」と。


 いつも鼻の下を伸ばしている旦那の身の丈を物理的にぐいぐい縮めている奥さんの言葉は大変貴重なのである。


 だから、目の前に並ぶ豪華そうな料理が、実際、本当に豪華かなのかはわからない。

 少なくとも酒は安酒だと思う。

 ほらね?フィッティさんが早くもぶっ倒れた。


 諦めろ……か。


 分かった!ならば、そうしようじゃないか。

 リバーじゃないけど、こうなったら乗りかかった船だ。


 やってやろうじゃないか。

 目には目を、歯には歯を、裏切りには裏切りを、だ。

 皆が俺に派閥の長として期待するのなら、俺はその期待を裏切るような圧制を、悪魔に魂を売ってでも、いてやろうじゃないか。


「え~、みんな~!それではこの辺りで今回の主役でー、派閥戦初勝利の立役者でもあってー、私たちの派閥の長に満を持して就任したノーウェ君から話をしてもらうよー」


 レミが司会進行っぽいことをしている。


 皆が、大きな楕円のテーブルを取り囲み(2名以外)、暖炉側の端に立つ俺の方に注目し始める。


 注目していないのは、すでに高級ソファにだらしなく身体を投げ出しているフィッティさん(お願いだからソファは汚さないで欲しい……)と火のついていない暖炉の傍にいるブルートの2人だけ。


「えー。ご紹介に預かりました、ノーウェです。ノーウェ=ホーム、ただの元村人」


 パチパチパチパチ!


 大きな拍手が起こる。

 ふん、いつまで笑顔で手を叩いていられるかな?


「ご紹介には預かりましたが、今回、俺のまったく預かり知らない所で派閥が発足し、いつの間にかリーダーになっていました……おそらく、その首謀者はあいつ!」


 俺はリバーを指差した。


 パチパチパチパチ!ヒューヒュー!!


 一同、リバーの方に向くと、なぜか拍手をしている。リバーもお辞儀しているし。

 いや、なんで?別に冗談を言っているわけじゃないんだが。糾弾しているのだが!?


「え~、かなり不本意ではありますが、それでも拝命したからには長としての役割を全うするつもりですし、早速、この派閥の方針を打ち出していこうと思います」


 拍手のあと、場は一旦静まる。


「この派閥の方針は『自分で勝手に強くなりやがれ!』です!!」


「「「「「???」」」」」


 急に困惑した表情になる一同。ふっ、ようやく期待した通りのリアクションだ。


「あれ?ひょっとして、この派閥にただ所属していれば、強くなれると思っている?それともこの派閥が強くなることで自分が守られる?高い理想を掲げて皆で連帯していけばどんなことでも実現できる、とでも……?」


「「「「「……」」」」」


 一瞬で凍りつく場。ふっ、ふっ、ふっ!これこれ。

 勘違いしてもらっては困る。俺はブルートよりもずっと冷酷なのだよ。


「甘いよ。そんな派閥はさっさと決闘に負けて潰れるか、大きな派閥に飲み込まれるか、あるいは早々に内から腐るよ!?」


 ゴクリッ……

 誰かが生唾を飲み込んだような緊張感。


「では、ノーウェ様はこの派閥をノーウェ様ご自身で強くするおつもりも、大きくするおつもりもないのでしょうか?」


 リバーが姿勢を正して聞いて来る。


「ないね。俺は強くなるけど、そのためには派閥が強く、大きくならなきゃいけないとは思っていないよ。少なくともそこに俺が労力を割くことはないな」


「それでは、ノーウェ様にとって派閥が強くならず、自分に必要なものではないと感じたら解散するおつもりで?」


「当然だな。解散か、もしくは折を見て俺だけ脱退することになるね。もちろん、しばらくは様子を見るけどさ」


 ざわざわ……


 皆の表情が困惑から不安に変化していくのが手に取るようにわかる。泣け!喚け!


「まあ、そもそもの話だけど、学生生活はたった3年だよ?3年後には皆、社会に出て1人前の魔導師になっていなきゃいけないんだから、立ち止まっている時間はない」


「で、でも……!派閥のみんなで力を合わせて決闘を戦ったりすれば、チーム力がどんどん上がって、派閥もメンバーの力も大きくなっていくわけじゃん!?」


 次の質問者はレミ。

 実にレミらしい質問。


「レミは冒険者志望だよね?」


「うん……」


「たしかに、冒険者を目指すレミや、その他にも、例えば魔道具をチームで開発するような職場なんかではチームワークが重要になるとは思うし、派閥内で何か共同作業をすることで経験を積むことはできると思うよ」


「うん、そうだよね。だから……」


「でも、それもまずは魔導師としての実力があっての話だよね?」


「う……」


「冒険者はよりシビアだよ。魔物と戦うために命を懸けているわけだからさ。腕のある魔導師は彼らから引く手数多だけど、実力のないものは声を掛けられすらしない。だって魔導師は魔力と魔法がすべて。それがなければチームの役割の中でも一番『弱い』んだから」


「た、たしかに……」


「他の職業だって同じさ。仮にこの派閥が大きくなったとして、それが世間的にも認められるようになったとしても、いざ職場に行った時に試されるのはこの派閥じゃあない、君たち自身の魔導師としての能力だよ?」


「「「「「!!!!」」」」」


「『あら~、貴方あの魔法学園の【紫雲】にいたのね~?そんなに優秀なら、こんなお仕事お茶の子歳歳よねえ~』とか言われながら、職場に就いたその日から上司に仕事と嫌味を投げつけられる可能性だってあるんだよ?大丈夫?」


 顔を青くする数人。主に女子学生。


「つまり、だ……お前は、ここにいる者たちひとりひとりが強くならなくてはならないと言うのだな?ここにいる者たちのほとんどが『色付き』だというのを分かっていても!?」


 色付きのフードや装飾具を身に着けた学生たちが、一斉に暖炉の方にいるブルートを見つめる。

 その目はどこか、悔し気で、恨みがましい瞳をしている。まあ、無理もない。


「ああ。『色付き』の何が問題なんだ?現に『色付き』の俺は今、学年1位だし、そこにいるブルートを実力でけちょんけちょんにしているぞ!?」


 ブルートがこちらを見ている。

 その目はどう見ても恨みがましい瞳をしている。


「で、でも……ノーウェさんは特別で……」


 モモエが俺を見てそう言った。モモエも十分特別なんだが、それはさておき……


「言うほど、特別じゃないよ」


「え?」


「全部突き放すのもあれだから、ヒントだけは見せる。あとは自分でよく考えてくれ」


 そう言って俺は右手の人差し指を立てて、その上に小さな火を作る。


「これが何か分かるかい?えーと、そこの……」


 俺は黒いフードを制服の中に着込んだ男子学生を左手で指差した。

 明らかに『黒魔導師』だと分かる恰好。


「ブ、ブランクです……」


「分かった。じゃあ、ブランク!これは何か分かるかい?」


「え、えーと……『ファイア』……いや、でもずっと小さいし……」


 ブランクはおどおどしている。


「そう。これは『ファイア』だ」


 ザワザワ……再び場がどよめく。


「え?で、でも、どうやって『ファイア』をそんな風に」


「魔法には初級、中級、上級とある。それは知っているよな?」


「は、はい」


「『ファイア』は初級の魔法。手のひら大の火を作り相手に当てる」


「はいっ、そうです!」


 だんだんと声が大きくなるブランク。顔も少しずつ上に向き始めている。


「『ファイア』は初級の魔法……これは正しい。でも、手のひら大の火を作り相手に当てる……これは明らかに間違い」


「え?」


「『ファイア』は()()()()()()()()()()()()()()だよ」


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!



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