1-32『監督責任』
デジャヴ。
いつか見たような光景。
でも、実は起こった出来事を以前に見たことと錯覚しているだけとかなんとか……
俺は、今そんな光景を目にしている。
ただし、これはデジャヴではない。
つい先日もあったな、こんなこと。
「この決闘は不当だ!!」
「そうだ!その男の戦い方は神聖な決闘を汚している」
【魔花】の幹部7人による猛烈な抗議。困り顔のクローニ先生。
ジャネット先輩との「探索方式」での決闘の時とまったく同じ構図だ。
違うのはジャネット先輩が今回は近くにいないことかな。
今回も彼女たちは必死。気持ちはわかる。謹慎1か月がかかっているからね。
「いやいや。さすがに、そんな理由での抗議は受けつけないよ。決闘の条件交渉は当事者間同士で行っているものなのだからルール通りならそれが正しく、順当だよ」
「しかし、あんな卑怯なやり方で勝ちなんておかしいでしょう!?」
「先生、イトヤ先生も何かおっしゃってください!」
「んあ?」
あくびをしたあとに目を擦っている顧問の先生。
「先生も今回の決闘はおかしいと思いますよね!?」
「ふぁ~、んにゃ、決闘の結果はそこの若僧の言う通りだと思うぞ!?決闘自体はざっくりとしか観ていなかったけど」
やる気の欠片も感じられない顧問。大丈夫か?この派閥。
あと、「若僧」という言葉がすごく気になる。クローニ先生も苦々しい表情。
「なぜですか?あんな戦い方、決闘を汚しているでしょう!?」
「「「「「そうだ、そうだ!!」」」」」
「お前たちは一体何を言っているんだ?」
「「「「「え?」」」」」」
首を傾げる両者。俺もこの人たちが理解できないけどね。
「まさか、強い魔法で相手を打ち負かすのが決闘の正しい在り方だなんて思ってはいないよな?」
「「「「「え?」」」」」
違うんですか?とでも言いたそうな幹部連中の顔。
「おいおい、ジャネット。お前、こいつらの教育は一体どうなっているんだ?」
イトヤ先生が右を向いて声を張り上げた。
その視線の先では、ジャネット先輩が白い高そうなテーブルチェアの席に座り、メイドさんに入れてもらったであろう紅茶を優雅に飲んでいる。
屋内なのに日傘差してるし……
「あら?それは先生の仕事でもありますわよ。先生ももう少し『自分磨き』のお時間を減らしていただかないと」
「私にこれ以上、労働をさせる気か?ただでさえ、睡眠時間と入浴時間が足りないのに」
「半日の睡眠と4時間の入浴は世間一般では多すぎですわよ。先生ももう少しお日さまの光を浴びないと。それに今回の件は先生にも責任の一端があります」
何だ?この会話?
それと、先輩は室内で日傘を差しながらそれを言うのですか?
そして、監督責任を顧問に思いっきり、まるっと投げつけているね。
「はあ~、お前は本当に意地悪小姑みたいな奴だな。わかった、わかった。ではお前たちにはっきり言っておくが、私が『立会人』をしていたとしても、そこの若僧と同じ結果を言い渡していたからな!?交渉条件はあんま聞いていなかったけど、仮に何も条件設定をしていない『戦闘方式』だったとしても、そこの小僧の勝利は全く揺るがない」
「「「「「!!!!!!!」」」」」
「し、しかし……」
相手の所属する派閥の顧問から、勝利と小僧認定をいただきました!
若僧のクローニ先生には負けているけども。
「この学園の決闘は、ただの決闘ではない。魔術師による決闘だ。魔術師の価値を測る尺度は何も魔法の威力や技の練度だけじゃないんだよ、ウスラ馬鹿共!そんなに力と力の決闘がしたけりゃ、この学園をさっさと辞めて、剣術学校でも、騎士養成学校でも、好きなとこに行ってこい!」
「「「「「!!!!!!!」」」」
騎士養成学校はともかく、剣術学校で魔法は使えないんじゃないか、と思ったが、先生の言いたいことは理解したのでここは黙っておく。
「いいか?今回の決闘が仮に戦場での魔導師同士の対決だったらどうする?そこにうずくまっているジェシーの魔力はすっからかん。そっちの小僧はピンピンしている。戦闘がその後も続いた場合、戦場における魔術師の役目を果たせるのは一体どっちだ?」
「「「「「うっ……」」」」」
「ううっ……」
ジェシーは相変わらず床に突っ伏している。
だいぶ時間が経っているので、魔力切れからは回復しているだろうが、立てないのは別の理由からくるものだろう。彼女は抗議には一切参加していない。
「例えなら他にもたくさんあるぞ!?もし、街中で大量に『魔虫』が発生した場合、ジェシーとそこの紫小僧のどちらが街を救えた?」
「「「「「うっ……」」」」」
俺の呼び名に「紫」が加わりました。うれしい。
「お前たちは浅いんだよ。この学園がなぜ生徒自身に決闘の交渉をさせているのかもっと深く考えろ。考えて、考えて、考えて生きろ!何も学園はお前たちに貴族の真似事をさせているわけじゃあないんだ。優れた魔術師は、魔法を使って誰よりも賢く生きる者のことだ。なあ?紫小僧?」
「え?ああ、はい。その通りだと思います」
急に話を振られてびっくりした。
でも、この先生には逆らわないことを、俺は今決めた。
この人からは村長の奥さんと同種のにおいを感じるから……
「それに、うっすらと決闘を観ていたが、そこの紫小僧はやろうと思えば、ジェシーを肉体的にも完膚なきまでに打ちのめすことができていたと思うぞ!?そうしなかったのは何か別の意図があったように私は感じたがな。うっすらと。」
ぎくりっ!なんだこの人?
この学園に来て初めて魔導師としての力を誰かに見透かされたような感覚だ。
あと、自説で他人の擁護をするなら、信憑性を薄める言葉をちょいちょい挟んでくるのは止めてほしい。
「まあ、これ以上抗議しても決定が覆ることがないから、これで終わり!よって、決定は紫小僧の勝ち!それでも抗議したいなら私が顧問と第2学年教務主任の権力を使って、あんたらを3か月の謹慎処分にするよ!?」
「「「「「!!!!!!!」」」」」」
「いや、それは、立会人の私が言うことだけどね。あと、学年教務主任にそんな権限ないからね……」
抗議する学年教務主任。
あれ?てことは、学年教務主任がこの場に2人?
「うるさいよ、若僧。派閥内の問題だよ」
「若僧もやめて欲しいのだけど」
「じゃあ、黒坊ちゃんのほうがいいか?」
「……」
違う所で決闘が始まりそうだ。
というか、誰か、早く収集をつけてくれないかな……
「抗議は終わったようですね。貴方たちもさっさと引きなさい」
「ジ、ジャネット様……」
「これ以上は派閥自体の恥となりますわよ。いえ、もうとっくになっていますが……」
「も、申し訳ありません!」
幹部7人が膝をついて顔を下に向ける。
紅茶を飲み終わって、絶妙のタイミングでやって来る先輩。
何て言うか、ものすごく合理的な判断だな。
自分が言ってもどうにもならないから、顧問に任せ、最後に一言釘を刺して黙らせる。
……上手いのだが、内々でやってくれよという気はしないでもない。
「ノーウェ君たちにも大変迷惑をかけましたね。本当に私たちのせいでごめんなさい!」
「あ、いえ……」
俺も、リバーも、レミも、ブルートも皆で会釈を返す。
不満は覚えても、こう直々に謝られると何ともやり辛いんだよなあ。
この人も相当食えない人だ。
「今回はこちらの派閥の不始末です。勝者の権利の約束はもちろん果たすつもりですが、それ以外にも要望がありましたら、なんでもおっしゃってくださいな。なんでしたら、私もジェシーと一緒にレストランで給仕をやりますよ」
「ジ、ジャネット様!?」
「貴方たちに今喋る権利を私は与えていません。控えなさい」
「……も、申し訳ございません」
「貴方たちの責任はもう確定しています。粛々《しゅくしゅく》と約束に従いなさい。今は派閥として、派閥の長としての責任を話しています。貴方たちにどうこうできる権利はありません。どうでしょうか?ノーウェ君」
監督責任ということか……
まあ、ないことはないとは思うのだけど、そもそもこんなことになったのは、派閥の長であるジャネット先輩を一方的に崇拝しているくせに、先輩の忠告を守らずに意図しないことを好き放題やって先輩をないがしろにしている幹部たちと、それを許してしまっている派閥内部の問題ではあるのだよな。
先輩をメイド服にした所で、彼女たちはたぶん何も反省しないだろうし、むしろ余計に恨まれるだろうからなあ。
ふむ……
「今回の決闘ですが、戦ったのは俺ですが、戦うことに決めた理由は俺のものではありません。だから、先輩の申し出に対しては、そいつの口から語らせます、おい、ブルート」
「え、俺?」
お前だよ。
「……い、いや……そうだな。それでは、ジャネット様」
ブルートは立ったまま足を交差し、右手を胸の前にだして左手を伸ばす。
おお、貴族のポーズだな!?
初めてブルートを貴族らしいと思ったぞ。
「僭越ながら申し上げます。私は、そこにいるジェシーと幼い頃によく遊んでいた仲でありました……」
「そういえば、貴方のフェスタ家とジェシーのトライバル家は昵懇の間柄でしたね」
「はい。彼女は、昔から一本気で自分の魔法を高めるために一心不乱に練習するような真っすぐな子でした……」
今でも真っすぐだとおもうけどな。むしろ真っすぐすぎるというか……
うずくまっていたジェシーが何かを思い出したかのように起き上がると、ブルートのことをじっと見つめている。涙で前が見えていなそう。
「私は、旧知の間柄として、彼女がこれから先、この学園で自らの魔法を磨くことに集中できるような環境下に置かれることを心から願っております」
そう言って、ブルートは再びお辞儀をする。
「分かりました。私の派閥の長の責任として、今後はジェシーや新しく入った子たちが本来の魔法学園の生徒として研鑽を重ねられるような派閥に変えていきます。ジェシーの大切な友人である貴方の心からの忠言、重く受け止めておきますね」
「有り難き幸せにございます」
うむ。ブルート、良く言った!
何もしていないけど、心に響くいい言葉だったよ!
お前、何もしてないけどな!?
そして、先輩なら心配はしていないけど、派閥の長であるからには、今後はしっかり自分の派閥のことは把握していて欲しいものだ。
「よし、大団円となったね!?これで、ようやく私の『立会人』としての本来の役割を全うできるというものだよ」
手をパンッと叩きながら、クローニ先生がこちらにやって来て、俺たちとジャネット先輩たちの間に入った。
そういえば、この人が立会人だった。
「それでは、今回の決闘の結果を、この立会人クローニの名の下に宣言いたします。派閥【紫雲】の代表者ノーウェと派閥【魔花】の代表者ジェシーによる派閥間決闘代表戦の結果は、【紫雲】の代表者である『紫魔導師』ノーウェの勝利。よって派閥間決闘は【紫雲】の勝利です!!」
ワーーー!!
キャーーーー!!
バンザーーーイ!!
俺の周囲で歓声が上がり、リバーは拍手をし、ブルートは腕を組んでうんうんと頷き、レミはモモエと手を取り合って飛び跳ねている……
……あれ?いつの間にかモモエがいる!?
そして、俺はというと……
「はいーーーー?」
唖然としていた……
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




