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1-31『最弱』

 俺の村の近くの森(『魔の森』というらしい。昨日知った)に住む最弱の魔物は何か?


 この質問は案外難しい。

『ブラッドバイト』を持つブラッドラットも、『キャロットサーチ』を持つ夜光兔も、候補には挙がるだろうが、生身の人間がこれらの魔物に出くわした時、案外危険な状況に陥ることもある。

 ブラットラットの反撃能力、夜光兔の角の鋭利さ、夜目の良さなどがその理由だ。


 簡単に倒せる、というか、気がついたら踏み潰していたり、叩き落としたりしている可能性があるのが虫系の魔物だ。大型のマンティス種ならともかく、小型の人の靴の裏よりもはるかに小さい種であれば肉体的には最弱と言えよう。

 ただし、体液に毒が入っていたり、刺されると麻痺したりする種もいるため油断のならないのがこの森の虫系の魔物の特徴でもある。


 そう考えると、攻撃力に乏しく、一般の大人の人間が単体で出くわした場合、最も脅威が少ない魔物を最弱と考えることもできる。


 その魔物はゴブリンである。


 複数で出てきたらまずい。奴らは連携するので、訓練を積んでいない人間には厄介な相手となる。そういう意味ではゴブリンもまた危険な魔物だ。


 あいつらブルートみたいに姑息だから、数で有利と思ったら突然強気に攻撃してくる。

 いや、ブルートがゴブリンみたいに姑息なのか?


 また、武器を持っていれば、それなりに危険な魔物とはいえる。

 人間と同じように鋭利な刃を持つ武器で傷つけられれば、万が一の場合命にかかわる。


 まあ、「それでもゴブリン」と思われているほど、狩り慣れした村人や冒険者から低く見られているこの魔物は、単体、武器なしで現れた時、ある意味最弱と言える。


 何せ、攻撃力がない。そして臆病。

 ひょっとしたら、距離を取ってこちらを伺い、自分に対処できる相手なのか見極めているだけかもしれないが、とにかく慎重な行動をとる。


 そんなゴブリン、それも変異種や亜種ではなく、ただのゴブリンが単体かつ素手で現れた時に放つ固有魔法が『マジックパフ(マジックパフラッシュ)』である。


 音はとにかく派手。バンッと平手で叩いたような衝撃音がする。

 しかし威力は皆無。なぜならこの魔法、ゴブリンが逃走するときに使う魔法だから。


「な、何をした?」


 ジェシーは当惑している。

 そりゃそうだ。知らない人間からすれば当然の反応。

 離れた所から見えない空気の塊がいきなり音を立てて彼女に当たったのだから。


「だから、最弱の魔法だよ」


 バンッ!

 バンッ、ババンッ!

 これで4発。


 はい、観客の皆さんも目が点になっておりますね。

 もう少し分かりやすくしようか。40秒くらい経ってそろそろ頃合いだし……


「『ウォーター-マジックパフ』」


 パシャンッ!

 パシャッ!パシャンッ!


 破裂音のあと、水飛沫がジェシーの拳付近で舞う。

 拳にまとった炎が水蒸気となって消える。


 威力は、もちろんない。

 薄い布に水を含ませて当てたくらいか?

 いや、あれも水の重みと遠心力が加わって結構痛いから、それよりもさらに軽いな。

 柄杓ひしゃくの水を顔面に当てられた感じか。


 はい7発。


「くっ、こんなもの……」


「1分経過」


 抑揚のないクローニ先生の声。


 その声に一瞬ためらいをみせたが、ジェシーはすぐに拳に炎をまとう。

 でも、ごめん。その間が命取り。


「『ウォーター-マジックパフラッシュ』」


 パシャ!パシャ!パパパパパパッパパパパパッパパパッパパパパパッパパパ!!


 連打。連打。魔法の拳による水飛沫みずしぶきの連打。


 上半身を狙えば、どんなに威力がなくても、音と空圧と水飛沫みずしぶきによって、本能的に両腕でガードしてしまう。

 腕でガードすれば当然、拳にまとった炎は消える。

 消えた炎はまた発動させなければならない。


 そこから抜け出すには避けるか、魔力を使って炎をまとい続けながらこちらに向かってくるか、とりあえず、身体だけこちらに突っ込みながら濡れていない部分で攻撃するかの3択しか現状ないだろう。


 その考えに行きつくまでにどれほど時間がかかるか?

 そして、魔力量は持つかな?


「ぐおおおぉぉぉーーー、こんな!こんなぁ!!くそぅー!」


 彼女は水のラッシュによる壁を肉弾特攻によって破り、こちらに向かって来る。


「食らえーーー」


 炎による蹴り攻撃。ふむ、そう来たか……

 だが、残念。俺はもうそこにはいない。


『ステップ』しながら離れたからね。


 パシャァーン!パシャァーン!

 大ぶりの2発。蹴りの空振りで勢い余った身体の態勢をさらに崩してもらう。


「ぐっ!!卑怯だぞ!?」


「何が?」


 パシャッ!パシャッ!パシャーン!!


「正々堂々と戦え」


「戦っているじゃん!?魔法勝負だよ?これ」


「ぐわぁぁーーー!!」


 今度は拳をクロスさせて突進攻撃。

 だが、それだと前が見えないから俺を見失うだろう。

 俺は『ウインド-フロート』でふわりと浮き上がり、ジェシーが突進して俺の下を通過したあと、背後を取る。


 パシャッ!パシャッ!パパパパパパッパパパパッパパパパパパパパァーン!


「2分経過!」


 再び平坦な声。

 さて、残り1分。

 彼女は俺に背を向け、膝を着いて息を切らしている。


「はぁっ、はぁっ、ぜえっ、はあっ、あくまでも卑怯な戦い方をするつもりだな!?もうぜぇったいに許さないっ!」


「卑怯、卑怯というけれど。俺はこの決闘のルールに則った形で最も確実な戦い方をしているのだが。一体、どこが卑怯だというんだ?」


「ぜぇっ、普通、決闘というものは力と力、技と技のぶつけ合いだ。はぁっ、貴様は小手先の技をこちらに当てているだけだろ!?卑怯じゃないかっ!」


「だったら、それを交渉時に言えば良かったじゃん?」


「え?」


「決闘の条件交渉の時になんで言わなかったの?『小手先の技は禁止、相手にダメージを与える有効打でなければ認めない』とつけ加えれば俺のこの技を封じることができたのに。しなかったのはそっちの落ち度だよ」


 まあ、提案されたところで、たぶん認めないけど。

 万が一の場合は、別の方法もあるしね。

 そっちだと、ボコボコ以上の結果になってしまう恐れがあるから選ばなかったけど。


 20秒くらい時間が稼げたな。

 そろそろか……


「う、うるさいっ!!うるさーい!!こんな弱い技に私は負けるわけにはいかないっ!!絶対に許さなーい!!!」


 おうおう。

 癇癪玉かんしゃくだまが弾けたようだ。


 実際にジェシーはまるで爆発したかのように、全身に炎をまとった。

 見るからに魔力の消費が激しい、燃費がだいぶ悪そうな技だが、ここぞという時の決め技なんだろうな。


「これで、お前の小賢しい水攻撃なんかで私の火は消えない。殴り倒してやる!!」


 俺は身にまとっていた紫のローブを脱いで放り投げる。

 その後『ウインド-フロート』を掛けてローブをそのまま浮かせておく。


「ふんっ!そんなことで身軽になったつもりか?私の炎からはもう逃げられないっ!」


 何か、聞いたことある台詞だったな。忘れたけど。

 それよりも、ジェシーがこちらに向かって駆けだしてくる。

 彼女の足にまとっていた炎が燃え広がり、石畳の足場をなくしていく。

 なるほど。足場を奪って身動きを取れなくするつもりか。


 地面に落ちた炎がまるで意思を持っているように上に巻き挙がったり逆に萎んだりを繰り返している。

 見事だ。やはり学年上位にいる魔導師はこうやって規格外なことができるんだな。

 たしかに、普通の動きをしていては炎に当たって燃えるし、身動きが取れないわな。


「ふんっ、貰った!食らえーーーー」


 彼女の鬼気迫る顔と炎の拳が眼前に迫る。

 必死だ。

 こういうガムシャラに魔法を行使する姿は動機がなんであれ、嫌いじゃない。


 彼女も決してクズではないんだな……幼馴染によく似て。


「『身代わり』」


 バンッ!ババン!!バフッ!!!


「ハッハァ!!もらったー……え?」


 ジェシーは炎が急速に自分から離れて殴った相手に吸い込まれていくのをあっけにとられたように見ながら、意思のはっきりしなくなった両腕で、数発魔力の伴わないパンチを繰り出している。


 そのローブの「内側」の大好物は人の魔力。

 とりわけ、人が研鑽を重ね、少しずつ上達させていった魔法特有の魔力が大好物だ。


「最弱」の魔物の一種であるゴブリンも、知恵を絞って森を生き抜いている。

 徒党を組むのもそう。武器を使うのもそう。得意な役割に徹するのもそう。


 そして、独りになったときに迷わずに逃げ出すのもその1つ。


 なりふり構わず、落ちている枝でも、石ころでも『身代わり』にしてほんの数メートルの範囲だけでも居場所を入れ替える。


 たとえ、それが倒れて動かなくなった仲間であろうともね。


 卑怯でもなんでも、とにかく生き抜く。それがあの森で勝ち続ける第一条件だ。

 そして、そんな相手を絶対に馬鹿にしてはいけない。仕留めなければならない。

『マジックパフ』や『身代わり』によって逃げ出したゴブリンが、半刻もすれば味方を大勢引き連れて襲って来る。そんな場所だ、あの森は。


 あそこでどの魔物が「最弱」か?という比較論は成り立つが、あそこに「弱い」魔物は存在しない。もっと言うなら、人間があそこでは最弱だ。野営すらせいぜい1週間が限度だから。


「ぐぅぅ……な、なんで……!?」


 ジェシーが横たわりながら身体をもがくように動かしている。


「『ウインド』」


 風を送ると、ジェシーを覆っていたローブが舞う。

 周囲に残った火を食べながらひらりと舞うと、俺のもとに嬉しそうに戻って来る。


 魔力切れを起こしかけている彼女は、しばらくは立つことができないだろう。


 ホカホカの紫ローブ。

 美味しい魔力を吸って随分満足そうだ。


 こいつの性能はまだまだ分からないことが多いが、その性格はよく分かる。

 好き嫌いが激しい。

 どんなに溢れんばかりの魔力でも、丁寧に磨かれていないものは嫌い。

 その基準からすると、ジェシーの魔力は満足のいくものだったようだ。


 それならば、きっと、まだ引き返せる。

 だから、これからの1か月でどうか自分の魔法を見つめ直して欲しい。


 あんたが馬鹿にした給仕の仕事をしながらね……


「3分経過!勝負あり!」


 VS『炎格』のジェシー戦 結果『勝利』

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!



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