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1-28『策士』(後編)

「はい?決闘?なんのことでしょうか?」


 驚いた様子のジャネット先輩。どうやら演技ではなさそう。


「おや?ジェシー様や幹部の方々から事情を伺っていませんか?」


 後ろでまた少し焦った表情となる幹部連中。

 さらに焦っているジェシー。

 その様子から察するに、ジャネット先輩には、まあそうだろうと思ったが、話が通っておらず、幹部連中とジェシーにはこちら(リバー)が不意打ちをしたようだ。


 ソナタ商会の商談と銘打ってジャネット先輩を動かし、この場を用意させたというところだろうか?

 だとしたら、リバーはやはり策士な一方で、幹部連中は意外と間が抜けている。


 普通、昨日の今日でリバーのソナタ商会から商談が入ったら警戒するよね。

 そして、リバーはしれっとジェシーだけでなく幹部を巻き込んでいる。策士だ。


「私は聞いておりません」


 一瞬にして超不機嫌顔のジャネット先輩。

 そりゃ、派閥の長が何も聞かされていなくて、幹部が裏で勝手に動いていたら不機嫌になるよなあ。


「ジャネット様。出過ぎた真似をしてしまい申し訳ございません!!私はどうしてもこの男がジャネット様のポイントをかすめて学年1位の座に就いているのが許せないのです!」


 おう……

 何を思ったかジェシーによる急な土下座。


「ジェシー、控えなさい!!ジャネット様。ジェシーの行き過ぎた行動は我々の監督不行き届きによるものです。申し訳ございません。ですが、彼女も新入生の中では学年上位に位置する実力者です。学年4位としてさらに順位を上げるためには上位の者と決闘をしていくしかありません。そんな彼女のジャネット様を慕う純粋な気持ちと学生としての志をどうかお認めいただけないでしょうか?この通りです」


 幹部の1人がうやうやしくジャネット先輩に向かって頭を下げる。

 水色髪の背の高い女性だ。


 これは、あれだな……茶番だ。それもかなり見え透いた。

 リバーが言っていた通りの筋書きなのが笑えてくる。


 ジェシーが勢い良く土下座をして謝り、幹部がそれを叱りつつ、彼女の行いがジャネット先輩のことを想ってのことだと誘導する。そうすれば先輩は怒るに怒れなくなると見越しての汚いやり方だ。


 あ、メイドさん。僕には番茶をください。できるだけ苦くて色の濃いやつを。

 え?ない?

 じゃあ、紅茶で。


「……はあ、そういうことですか。分かりました。うちの者が迷惑を掛けましたね。ごめんさい。それで、ソナタ商会の貴方はなぜ、交渉の場に?」


「乗り掛かった船と申しますか、行きがかり上、こうしております。私共がフードパークで会食をしている最中での出来事でしたから。私も不用意にご案内してノーウェ様を巻き込んでしまったことに責任を感じております」


 本当は俺の方が巻き込んだのだけどな。

 さらに詳しく経緯を説明するリバー。

 一応、ジェシーが先輩の育てた野菜を「どうでもいい」と言ったことは伏せている。

 これは伝家の宝刀だしな。


「へえ?そんなことが……」


 後ろの幹部たちと土下座するジェシーを見るジャネット先輩。怖い。

 ジェシーは、頭を上げられずに床に額をつけたままだ。

 ちょっとブルートに似ているな……と思ったのは内緒だ。


「ふうー……わかりました。そのような事情でしたら2人の新入生同士の決闘をいくら派閥の長としては止めることはできません。決闘を認めます。ただし、私との寮内決闘の直後ですので、こちらにとってあまり外聞の良い行いとは言えません。そちらさえよろしければ非公開の決闘とさせていただきたいのですがよろしいですか?」


「構いませんが、それでしたら当方からもいくつか要望をさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「何でしょう?」


「非公開ということでしたら、決闘場所はそちらでお使いになられている稽古場で行うのはいかがでしょう?それと、ジャネット様、幹部の方々の他に【魔花】の顧問の先生もお立会の元での出稽古という形にさせていただきたく存じます」


「こちらの稽古場で行うことは非公開にする以上、こちらも願ったり叶ったりの提案ですが、私共だけではなく、こちらの顧問も立ち会うというのはなぜでしょう?」


「はい。有り体(ありてい)に申しますと、今回のジェシーさんの行動は、そちらからすれば純粋な学生らしい行動なのかもしれませんが、ノーウェ様や私共からすれば迷惑千万な行為でしかありません」


「それはそうでしょうね。私の監督不行き届きでもありますわ。ごめんなさい」


「私も、ジェシーさんがノーウェ様に決闘を持ち掛ける際に、一度お止めしたのですよ。こちらの会食中でもありますし、食事をしている際に決闘を持ち掛けるのはマナー違反で校則違反ではないのでしょうか、と」


「それは重ね重ね、失礼致しました」


「せ、僭越せんえつながら。食事中に決闘を持ち掛けてはいけない校則などないのでは?それにこの学園の校風は『決闘せよ』となっています」


 別の幹部が横やりを入れた。


「校則には第一義として『学生らしい生活を行う前にまずは人間らしい生活を送ること』とあります。その次に『学生の本分を忘れず研鑽けんさんを積み、志を同じくする者と切磋琢磨』せよと書かれていますね。『決闘せよ』の前に人間らしい生活をまずは怠るなということです。それはつまり衣食住を充足させ、心豊かな生活を送ることではありませんか?それを邪魔する権利は『決闘』にも『派閥』にもないと読み取れるかと」


「ぐっ……」


「まったく、その通りですわ!!」


 なぜかジャネット先輩の力強い同意。

 そして、幹部の動きはこちらの思うつぼ。

 よく考えたら、食事中の商談は良いのか?って話だけど、気づいていないみたいだし、それは黙っておこう。


「このように、『派閥第一義の論理』によって動かれることをこちらは非常に危惧しております。幹部の方でさえ、こほんっ、失礼ながらこのように『校則など軽視していい』というお考えなのですから。それを牽制する方法は、ジャネット様と顧問の先生にご同席いただく以外にないかと。ちなみに、この考えは私の一存で今この場で初めて口に出してございます。ノーウェ様にもお伝えしておりません」


 そう言って、リバーは俺に頭を下げる。

 まあ、正直俺にとってはその場に誰が居合わせようが関係ない話だし、「ソナタ商会の役員の息子」として周囲に見られているリバーにとって重要なことなのだろうし。


「そうなのですね。では、ノーウェ君はそのような条件でよろしいのですか?」


「俺はどちらでも。どちらにせよ、勝者の権利の方でそちらの派閥の方々の暗躍を控えてもらえるように求めますしね」


「わかりましたわ。ノーウェ君側の勝者の権利以前に私が今後はこのようなことがないように目を光らせるつもりですけどね」


「どうか、よろしくお願い致します」


 とりあえず、交渉時点で面子ボッコボコ。これが俺とリバーの戦略だ。


「それでは、今回の決闘はノーウェ君が【魔花】に出稽古に出向いたという(てい)で進めていきたいと思います。ジェシー、ここに座りなさい」


「い、いえ、私は……」


「何を言っているの?決闘交渉が始まったのですよ?当事者同士が座らなくては仕方ないでしょう」


 こうして、ジャネット先輩の横に座るというガッチガチの緊張状態で、ジェシーは、決闘の内容と条件を決める、2対2の交渉の場に着くことになった。


 2対2の交渉……だったはずだが、こちらは、レミとブルートもちゃっかりソファに座って4対2となっている。


 まあ……友だちだからな。

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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