1-27『青と赤』(前編)
甘酸っぱい。
このフードパーク(という名前らしい)内には色んな場所にドリンクコーナーがある。
冷蔵保管の魔道具に入ったドリンクを出す装置もあり、セルフサービスで専用のコップを取り、マスボ(俺はカード)をかざして任意の飲み物をボタンで選ぶと、なんとジュースでもお茶でも水でも好きに選べる。
俺は山ぶどうのジュースを選択した。氷入りで冷えていて甘味とほどよい酸味が喉に染み渡る。
「幼馴染だと?」
山ぶどうのような響きの言葉だな、この甘酸っぱさ。
そんな言葉がブルートから出てくるとは、やはり帝都の学園は一味違う。
「お前が考えているような、甘いものではない」
お、珍しくブルートが俺の表情から心を読んだな。
正確には甘いではなく甘酸っぱいだが、ひょっとして甘さが足りなかったのか?
「あいつは……ジェシーは、小さい頃は一緒によく遊んでいたんだ。同い年だしな」
訂正。十分に甘いじゃん。
もう、デザートは要らないわ。でも、プリンは食べる。
「だが、歳を重ねて俺を無視するようになった。まあ、俺がずっと水魔法しか使えないからだろうが……初めは同じ2文字の称号持ちってことで励まし合っていたんだけどな。次第に俺よりも兄や姉たちの方ばかり行くようになって……」
再訂正。苦い!山ぶどうジュースと一緒に入れて来た冷やし煎り豆茶より苦い。
「貴族あるあるではありますね。急にそうなったのですか?貴方の方からは特に……?」
おう、さすがリバー。
聞きづらい所を聞いてくれる。
短くとも濃いつき合いの俺から見ても、その性格上、ブルートの方が悪い可能性というのも捨てきれない疑惑がなきにしもあらず。人を第一印象だけで判断してはいけない。
……どっちも第一印象最悪だけど!
「まあ、意地は張っていたと思うがな。だが、俺はそもそも兄や姉たちに疎まれていたから仕方ないな。才能に乏しい俺と一緒にいる不利益を考えたのだろう」
うーん、そういうことか。何か嫌な話だな。
……と言っても、こいつの話がすべて真実なのかも今一つ確信は持てないが、彼女のあの振る舞いといい、あの派閥の幹部に唆されている所といい、年上の言うことに素直に従って下のものを見下している感もあるから何ともいえない。
まあ、少なくとも俺にわかる話ではない。
「そうだ!この決闘、ブルートが…」
「絶対にやらん!」
「ノーウェ様、それは酷というものにございます」
あれ?全否定。ダメなの?
ますます謎が深まった。
「俺はあいつと決闘がしたいわけじゃないんだ。見返したくはあるけど、それは決闘という方法ではないんだ……」
「ノーウェ様、異性の幼馴染という存在は結構複雑なものなのです。一緒にいた方がいい時もあれば離れていた方がいい時もあり、つかず離れず、がいい時もあります」
複雑すぎる。
そういえば、リバーとレミも幼馴染だったな。
初めは貴族と従者の関係と勘違いをしたが……
俺に幼馴染と言えるものもいなければ、異性との微妙な距離感という奴も残念ながらよくわかってはいない。
それを偉そうに語っていたちょっと年上の村長の息子がいつも村外の女の子に言い寄ってはフラれていたからだ。
往復60キロ以上も歩いて、毎回フラれて帰って来る男は観察対象としては不適格だ。
あと出世払いと言って俺から借りていった魔石の代金はいずれ村長になったら返してもらうからな。
「まあ、複雑な事情というのは分かった。でも、良いのか?そんなお前の幼馴染と俺が決闘をするのは」
「ああ。できればボコボコしてやってほしい。俺の時のようにな。でないとあいつもこのままずっと変わらないだろうから」
え?俺、ブルートのことは全然ボコボコにしていなかったような……
打ちのめしてやったのはゴミクズの方だったはず。
「ノーウェ様、この場合、ブルートのいう『ボコボコに』というのは精神的にという意味です。鼻っ柱を折ってやらないと人は変われないですから」
「あ、そういうことね。翻訳ありがとう」
貴族語ってむずかしい。
「要するに、あのジェシーって子がこちらを全力で攻撃してきたとして、それを軽くあしらって力の差を見せつけてやればいいんだな?俺は手加減に手加減を重ねたぞ、と?」
「それがようございます」
「そ、そうなんだが、そう言われると何か複雑な気分だな……」
俺たちは食事とドリンクを堪能したあと、店を出た。
フードパークは今後も何度も足を運びたいと思わせる場所だ。
「リバー、ありがとう!料理も美味しいし、楽しい場所だった」
「いえいえ、お気に召していただけたようで、何よりでした」
寮まで歩いて20分近くかかるが、食後の運動と考えればちょうど良いものだと思えてくる。辺りはすっかり暗くなっていて、商業施設群と学業棟を抜けると、次第に月明りと街灯の明かりだけになる。
街灯も魔道具の一種で、道の両脇を等間隔に、青と赤の光が交互に並べられていてとても幻想的だ。昼とは全く違う趣がある。
まだ2日だが、楽しいな、魔法学園。
「それでは、失礼ながら、これからノーウェ様のお部屋で作戦会議と行きましょう」
「うむ」
リバーの提案は先ほどの流れ通りだから良いとして、なぜ返事をするのがブルートなのだろうか……
まあ、あのジェシーという女子学生に相当思う所があるということにしておこうか……
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今回は文字数の関係で前後編となります。ご容赦くださいm(_ _)_
後編は寮に戻ってからの話です。
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




