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1-26『食事中の作法』

 何だ、何だ?

 こっちは野菜料理を堪能しているというのに、いきなり喧嘩を売られたぞ!?


「おいっ、聞いているのか?お前は」


「やれやれ、いけませんねえ」


 そろそろ言い返そうかと思った矢先、思わぬ人物が俺の代弁をしてくれた。

 

 リバーだ。


「我々は今、席について食事をしています。食事中に決闘を持ち掛けるのは重大なマナー違反ですよ?お控えください」


 え?そうなんだ。

 食事のマナーも決闘のマナーも詳しくないからよく分からなかった。

 もちろん、全力で乗っかるけども。


「そんなマナーは知らん。私はそこの男と話をしているのだ」


 女性も腕を組んで引く様子がない。

 なんだか、面倒くさいことに2人を巻き込んでしまったな。


「貴方は、同じ新入生とお見受け致しますが、どうやらこの学園の校則をよく読み込んではいないようですね。それに、こちらにおられるノーウェ様とは今、私が食事を供にさせていただき、開発中の料理の試食をお願いしているのですよ、学年ランキング4位で【魔花】所属の『炎格(えんかく)』のジェシー=トライバルさん。こちらの仕事中ということでもあります。邪魔をしないでいただけますかな?」


 リバーがこちらに目配せをしてウインクをした……気がする。分厚いレンズのせいで見えないけど。

 試作って……このラタトゥイユのことかな?十分美味しいし、合格点だと思うよってことで俺も親指を立ててグッドサインを送る。


「そんな校則も、どうでもいい野菜のごった煮の話も知らない!私は……」


「どうでもいい?今?どうでもいいとおっしゃいましたか?この料理と野菜を?」


「な、何だ?それがどうかした……」


 リバーがおもむろにマスボを取り出し、指で操作をし始める。

 相変わらず指の動きが速すぎて何をやっているのかわからない。


「な、一体何をしている?」


 焦り出す赤髪の女、たしかジェシーという名。

 たしかにあの動きは焦るよな。俺でも何か不安になってくるもん。


「貴方の派閥の長であるジャネット様と幹部の方々に連絡を。貴方の発言は【魔花】の方々との商談を今後も進めていく上で、極めて深刻な問題を引き起こす重大発言となりそうですので……」


「おう、そういうこと……」


 俺にも分かった。

 いや、この野菜はとても美味しいよ。愛情いっぱいに育ててもらったのがわかる。

 あの人、根菜だけでなく果菜もお手のものなんだな。


「え?え?」


「この野菜をどなたがお作りになられたのか、お分かりになりませんか?」


 リバーからグサリと一言。


「ま、まさか……」


 青くなる赤髪のジェシー。まるでナスみたいだ。


「ええ。これはジャネット様のお野菜を頂戴しまして、私共、ソナタ商会が運営するこのフードパークの季節の名物料理スペシャリテとして、期間限定、人数限定で販売する予定でした料理の試作品です。その試食人としてジャネット様の野菜を大変誉めておられたノーウェ様を推薦させていただいた次第でございますが、まさか、その場をよりにもよって【魔花】のメンバーである貴方がぶち壊しなさるなどとは露ほどにも想像できませんでした。ええ、まさか、ジェシーさんがね」


「いや、私はただ決闘を……」


「まさか、ジャネット様との大事な商談に関わるこの場よりも貴方の決闘が大事で、その決闘を食事の場で持ち掛けるなと校則に書かれているにもかかわらず、強引に事を進めるおつもりですかな?学園の規則にも派閥のトップにも反発する実に素晴らしい姿勢だ」


 汗ダラッダラなジェシー。


「も、申し訳なかった!非礼は謝る!!だ、だからどうか……」


「謝るのは私にではないでしょう?それに非礼というのは貴方の発言の最初から最後まですべてですよ!?勘違いなさらないように」


「……っ!!!」


 リバーはとりつくしまもない。

 いや、この場で思いっきり謝罪するのは止めてもらえないかな。

 周りの人も見ているし、こっちが極悪人のような気がしてくるから。


「決闘の件は、行きがかり上、この場に居合わせた私がお預かりします。一旦こちらでお預かりし、ノーウェ様とご相談の上、貴方には改めてこちらから交渉の日時と場所をご指定いたします。よろしいですかね?ジェシーさん」


「い、いやそれは……」


「ほう?ではこの商品開発の件は一旦中断して【魔花】の方々と協議を……」


「わ、分かったから!な、何卒穏便にお願い……致します」


 苦悶の表情で頭を下げるジェシー。

 そんなに人に首を垂れることが苦痛なのだろうか?

 もしや、彼女は貴族か?

 ……って、【魔花】は貴族の子女しか派閥に入れないんだっけか、たしか。


 俺は斜め左に座っている別の貴族を見た。

 青髪の子爵令息はずっと首を垂れている。

 正確に言うと、野菜料理が入った深皿を一点に見つめている。


 ……苦悶の表情だ、なるほど。


「では、貴方のマスボに追ってご連絡致します。ええ、【魔花】の方に連絡先を聞きますからお見せいただかなくても結構ですよ」


「はい……お願い致します……」


「ああ、それともう1つ」


 軽く会釈をしたあと、トボトボと引き返すジェシーをリバーは呼び止める。


「幹部の皆様にくれぐれもよろしくお伝え下さいませ」


「っ!!」


 リバーの言葉に慌てるジェシー。何か引っかかるやり取りだったな、最後のは。


「リバー、ありがとう。あと、すまない。なんか巻き込んでしまったみたいで…」


「いえ、それはこちらからと言いますか、出過ぎた真似を致しました。申し訳ございません。それと言いますのも、寮の前でお話させていただいた不穏な動きというのは、あれでございました」


「あれ?」


「ええ。【魔花】のメンバーは現在ノーウェ様のことを目の敵にしております。言い方は悪いのですが、どうにかして復讐の機会を伺っているという状況でしょう」


「それが、あれ?」


「はい。幹部たちはジャネット様が再決闘を申し込む前に何としてでも先回りしてノーウェ様を潰したい。しかし、自分たちも上級生であり、ジャネット様に止められている以上、自分たちは『戦闘方式』の決闘に持ち込むことができない。そこでメンバーに加入したばかりの新入生で有望株をノーウェ様にぶつければいい……浅はかですが、そういうお考えのようですね」


 うーん、なんか汚い、よどんだものを感じるぞ……


「新入生なら止められないのか?」


「ランキング上位である彼女が1位のノーウェ様に挑みたいという気持ちを止めることははばかられますからね。言いつけを守らなくても許されるギリギリの所というわけです」


 まあ、あの直情的な様子からして、上手く乗せやすい有望株だったというわけか。

 そして、話の流れからいって、どうやら決闘を避けることはできなさそうな予感だ。


「残念ながら、決闘を回避することは難しいでしょう。また手を変え、品を変えどうにかしてノーウェ様を挑発しようと画策するはずです。それならば、いっそ一度受けて、勝者の権利に何か盛り込むのが得策かと存じます」


「うーむ、そうだなあ」


 たしかに、一理ある……か。

 幸い、リバーが徹底的に脅しつけてくれたおかげで、相手の心は縮み上がっていることだろう。

 仮に、明日交渉するとしても、こちらの有利に立ち回れるかもしれない。


「場所の設定は私が致します。また、ご相談なのですが、お部屋に戻りましたら一度交渉前の作戦会議を致しませんか?決闘前に事前に情報を得るというのも今後の決闘においては必要な場面も出てくるかと存じます」


 それを教えてくれるというわけか。

 まあ、断る理由はないな。


「じゃあ、頼む!よろしくリバー」


「かしこまりました。ところで、ノーウェ様」


「ん?」


「お味はいかがでしたか?」


「ああ、このラタトゥイユね!?とても美味しかった。調理の腕も見事だけど、何より素材が抜群だな。愛情込めて育てられたことがよくわかる野菜の味だったと野菜の生産者に伝えておいてくれ」


「それはようございました」


 そう言って俺は目の前の深皿を綺麗に完食した。


 左斜め前?

 そこから30分は皿を睨みつけたままだったな……


 ローストアックスオックスも本当は温かい時に食べたかったけど、冷めても十分に美味しい。肉は弾力があって噛み応えがあるし、口の中でソースと絡むと得も言われぬ味わいをじわじわと舌に運んでくれる。甘味、塩味、旨味。そのバランス、プライスレス。


「ときに、ブルートよ……お前、わざとずっと下を向いていただろう?」


「ん?な、何のことだ?」


「お前、一瞬あのジェシーって子の顔を確認したよな?」


 そう。斜め前にいたから視界に入った。

 ブルートは、ジェシーがやって来た時、一目、彼女のことを確かめた。

 そして、それが誰かを認識した途端に頭を下げ、ラタトゥイユの皿を再び睨みつけていたのを俺は見逃さなかった。


 リバーは何も言わず、ブルートを一瞥いちべつしてから、ゆっくりと水を飲んでいる。


「あ、あいつは……ジェシーは、俺の幼馴染だ……」


「はいー??」


 俺はブルートを二度見した。


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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