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1-25『ラタトゥイユ』

 夜の外食は心が躍る。

 元村人の俺には特に!


 村で外食っていったら、食堂と酒場の2軒しかなかった。

 しかも、食堂の方は村長家の人間は行くことが禁止されていたから、実質一択。

 酒場は未成年である俺は、当然夜には入れない。


 結果、昼間にちょっとした定食めいたものを店主が気まぐれで出す時だけが、日常的な外食と呼べるものだった。まあ、村長宅のご飯の方が豪華だったんだけどね。


 あと、村の外に出て魔獣を狩って食べることはおそらく外食とは言わないはず。

 それなら数限りなくある。


 そんな俺でも、年に数回。夜の外食を楽しむ日があった。


 春と秋に行われる収穫祭の日に出される屋台だ。

 より取り見取りの食べ物を選ぶあの楽しさは他の何物にも代えられないものだろう。


 俺は、今、そんな春の収穫祭を思わせるような華やいだ場所にいる。


「すっげぇー」


「お気に召したようで何よりです」


「ふんっ、カッペだな」


 寮の食堂よりもさらに広いスペースの中央にたくさんの椅子やテーブルが置かれ、学生や学校関係者の人たちが座って食事をしている。


 テーブル群の周りは通路で、料理の乗ったトレイを持った人たちが談笑しながら、テーブルの空きがないかを探している。


 通路の反対側、つまりこの大ホールの周囲にはお祭りの日に見たような屋台の数々が立ち並び、大小軽く20を越える料理屋が自慢の品を販売していて、どれを選んだらいいか目移りしてしまう。

 しかも、屋内だから雨に濡れる心配もない。

 なんてことだ!これじゃあ、毎日がお祭りじゃないか。


「これをどうぞ」


「……これは?」


 なんか、リバーから黒いカードをもらった。


「ここの支払いを行う魔道具のペイカードです。銀貨や銅貨で毎回支払うのは大変でしょうから。店員の差し出す別の魔道具にこのカードを当てると支払いは完了します。先ほど、お部屋でノーウェ様のマスボとこちらのカードを連結させておきましたので」


 周囲を見渡すと、確かに皆、硬貨で支払いをしていない。

 皆、カード……いや、マスボで支払いを済ませている。

 お金を払わなくていいわけではないだろうが、一体どういう仕組みなのだろう。


「このペイカードやマスボを用いることでこの商業施設の中での買い物はすべて『ツケ』にすることができます」


 ツケか。あまりいいイメージはないのだが……


 村長の息子がよく鍛冶屋や道具屋でツケの買い物をして村長の奥さんに怒られていた。


「支払いは学費と一緒に月々の請求になり、マスボから引き落とされますから、きちんと計画的に利用していればさほど問題にはならないと思いますよ」


「え?学費もマスボで支払うことができるの?」


 俺は毎月あの事務棟に支払いに行くものだと思っていた。

 そう考えると、すごく便利でありがたい魔道具のように思えてきた。


「はい、ということは硬貨払いされるおつもりだったようですね。よろしければ、明日同行致しますので、その辺の手続きをされませんか?学費分の硬貨はご持参いただくことになると思いますが」


「うん。たぶん、来年分まではあるはずだけど……そういえば、何かお金を稼ぐ方法をさがさなきゃなあ」


「よろしければ、そちらもご相談に乗りますよ」


「いいの?じゃあ……」


「お、おいっ!夕飯を食べに来たんだろう?さっさと行こうぜ!?」


 案内役が待ちきれないようだ。


「そうでしたね。では、話は食事を取って来てからにしましょうか。屋台で品物を選びましたら、そちらのカードを店員に見せてください」


「わかった!ありがとう」


「いえいえ」


 食事を取る際のシステムは、寮の食堂のものと似ていた。

 まず、トレイとトングを取って、目当ての場所に行き、注文し、皿をもらう。

 あるいは並んでいる料理をトングで掴んで、皿やトレイに乗せて支払いをする。

 違うのは、料理種類がとんでもなく多いのと、店ごとに精算をする必要があるということ。

 屋台と同じだな。


「どこに行ったら良いか迷うなあ」


「今後も来る機会はたくさんありますから、まずは食べたいものをいくつか選べばよろしいのでは?」


「さっさと行くぞ!?」


 食べたいものねえ……


「あっ!あれはヤキソバまんの具じゃないか!?中身だけ売っているなんて珍しいなあ。まずはあれにしようっと!」


「あっちが本体だと思うが……」


 俺はヤキソバまんの具を皿でもらい、支払いをする。


「ん?これは?」


「へいっ、これは『タコもどき焼き』でがす」


 スキンヘッドの店員のおっちゃんがそう教えてくれた。


「もどき?」


「これは、たこ焼きと呼ばれる小麦粉を生地に使った食べ物です。本来は海のタコを具に使うのですが、内陸では手が入りにくい食材なので、食感が似ている『オークテイルグース』と呼ばれる魔物のスジや軟骨を煮込んだものを使用しております」


「あ、坊ちゃん!」


 おっちゃんよりも詳細な説明が隣から聞こえてきた。坊ちゃん?


「俺はあの肉が気になる!!あっちに行くぞ!?」


 ブルートがトングで遠くの肉を指差す。


「あれは、ローストアックスオックスですね。焼いた時の肉汁をぶどう酒と混ぜてソースにしています。美味しいですよ」


「よし、じゃあメインはあれにしよう」


 俺はブルートの後を追う。

 今度は、おっちゃんと言うには所作が優雅過ぎる、コック帽を被った人が巨大なかたまり肉を刃の長いナイフで皿に薄く切り落としている。


「旨そうだな」


「ああ。『アックスオックス』はこの辺りではなかなか獲れない貴重な魔物だからな。特別な販売ルートがあるこの学園内の料理屋でなければなかなかお目にかかれるものではないぞ?」


 ブルートはそう言いながら、リバーの方にちらりと目を向ける。


「え?そうなのか?」


 案内役がやっと説明責任を果たしてくれたが、今1つ腑に落ちない。


「何だ?相変わらず世間知らずだな。アックスオックスはこの帝国内では『魔の森』と呼ばれる大魔境か、さもなくば難所の多い山岳地帯でしか見かけない魔物だ。採りに行くのも困難な場所にいる魔物でしかも凶暴だからなかなか市場に出てこないのさ。昔は牧畜していたらしいがな」


「へえ~」


 昔は飼われていたという事実にびっくり。

 あのアックスオックスを飼うとは奇特な人もいたもんだ。

 まあ、あの森では放し飼いみたいにわんさかいるけどね。


「はい、こちらをどうぞ」


「ありがとう」


 俺はコック帽を被った料理人から皿を受け取る。

 外はこんがりと焼けた茶色、中の大部分は薄ピンクの分厚く広い、いかにも弾力があって噛み応え十分です、と訴えかけてきそうな肉を皿に載せ、赤紫のソースが中央から外に向かって少量の肉汁とともに流れて出ている。


 シンプルに美味そう。早く食べたい。


「これは、これは、リバー坊ちゃん。お二人はご学友ですか?珍しいですね、レミ様以外の方とお食事とは」


「ええ、こちらはノーウェ様です。私にとって大切なご客人でもありますから、今後粗相のないようにお願いいたしますよ」


「かしこまりました。一同、気を引き締めて参ります」


 そう言ってコック帽の料理人は頭を下げる。

 釣られて自分も会釈するが、実の所、頭を下げているのに落ちないあの帽子が気になってしょうがない。


 そして、紹介もされていないのにブルートは胸を張っていた。


「これだけ取ればお腹いっぱいになるかな。あとは……なにか野菜料理が欲しいな」


 俺は、ヤキソバまんの具とアックスオックスのローストの他に、兔肉のゼリー寄せとデザートのプリンを取った。

 野菜系が少ないので、席に行こうとするブルートを止めて周囲の店を見渡す。


「ノーウェ様、こちらはいかがでしょう?」


「あ、美味しそう」


 リバーが3人分の野菜料理の皿を持ってきてくれた。

 片手に自分のトレイ。片手に皿を2つ、器用に乗せて歩く所作はとても優雅だ。

 眼鏡以外。


「ラタトゥイユという野菜料理です」


「ありがとう」


 リバーが持ってきてくれた品はトマトベースの赤みがかったソースにナスやアスパラ、たまねぎなどが深皿に入った煮込み料理だ。トマトとナスはまだ収穫時期が早い気がするけど、何か特別な作り方があるのだろうか。トマトとニンニクの合わさった香りはとてもかぐわしく、実に蠱惑こわく的だ。


「あ、あの席が良いな。俺が取って来る」


 ブルートがその場から逃げるように歩き出す。

 一緒に食べるのだから、先に行こうが無駄なことなのにな。

 リバーはちゃんと3皿分用意しているし。


「私たちも行きましょうか」


「おう」


 俺たちは、三角形のテーブルの席に着いた。

 ここは色んな形や大きさをしたテーブルがあり、形に応じて椅子の数も違っている。

 3人で来る者もいれば、大所帯のグループもやって来る。それに応じたテーブルの配置なのだろう。

 テーブルの色も形によって違うので見ていて面白いし、見分けやすい。


「「「いただきます!!」」」


 3人揃って食事を始める。


 まずは、リバーが取って来てくれたラタトゥイユのナスの部分をスプーンですくう。


 実食……!


 ……うん、美味い。トマトの酸味と旨味に加えて、ニンニクの風味がアクセントとなって絡まり、それが油を吸ったナスの食感と合わさって絶妙だ。噛むたびに三者が混然となり、最後には三位一体となって口の中に至福を運んでくれる。


 ナスだけでこれだよ……

 他の野菜では、またどんな顔を見せてくれるんだろうか。


「おい、そこの田舎(ねずみ)。この私と決闘をしろ!」


 俺はラタトゥイユの入った深皿を見つめた。

 いや、ねずみは入っていないよな?

 トマトのソースに隠れているのはただのナスだ。あ、オクラも入っている。


「聞こえているのか、ボケナス!お前のことだ。いんちき『紫魔導師』野郎!」


 目の前には赤髪の、燃え上がるような瞳をした女子学生が立っていた。

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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