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1-24『将来』

 村に兵隊さんの集団がやって来たことがある。かなり幼い頃の記憶。

 村長以下、村人はその知らせを聞くと天変地異が起きたかのように狼狽し、その兵隊さんたちがやって来るまでの間、村の空気はピリピリと張りつめていた。


 数年経ってからその時のことをそれとなく村長に聞いてみたことがあったが、僻地へきちにある村にとって、帝国軍の視察ほど恐ろしいものはないらしい。


 僻地へきちだから、何をやっても情報として伝わりにくい。

 仮に、村にやって来た軍の兵士たちが村人に乱暴狼藉を働いたとしても、それが帝都に伝わるにはかなりの時間を要するし、最悪、村ひとつ滅ぼして魔物のせいにすることもかつてはざらにあったのだと。


 幸い、俺の村にやって来た兵隊さんたちは温厚な人たちで、村長たちの心配は杞憂となったのだが、俺は別の意味で彼らに恐怖を植えつけられた。


 それは、彼ら軍人の生活。


 朝早く起きて肉体訓練。

 朝食後は肉体訓練のウォーミングアップ後に、見回り。

 その後、武器を用いた訓練。

 昼食を取り、昼食後は肉体訓練を経たあと、戦術訓練。

 夕食。食後のデザート代わりに肉体訓練を行い、夜間の見回りついでに訓練。


 軍人の生活が気になってこっそり覗いた彼らの1日がこんな感じだった。


 腕立て伏せをする兵隊さんの背中に他の兵隊さんのお尻が乗っていることもあれば、腹筋をする兵隊さんのお腹の上に兵隊さんが立っていることもあった。しかも、そこで何度もポンポン飛び跳ねたりもしていた。


 上官らしき人は計算が得意ではないらしく、よく99の次、10に戻っていたよ。

 あの頃は、そういう数の数え方があるのかとさえ思っていた。


 そんな彼らの異常な日常を目にして、子供ながらに思ったよ。


 やばいものを見てしまった、と……

 あれも、そういえば春の出来事だったな……


「ノーウェ様、ノーウェ様!!」


「はっ……!?」


「どうしたの?ノーウェ君、何だか遠い目をしているよ」


「あ、いや、なんでもない。それで、個人戦に参加するデメリットは1つだっけ?」


「いえ、2つです」


「……」


 ああ、やっぱり幻聴じゃなかったか。幻覚はあった気がするが。

 あんな風にお腹の上で跳ねられたら、軽くヤキソバまん5個は吐き出せる気がするよ。


「お前は軍人の道に進む気はなさそうだな」


「あるわけないだろ」


「ふむ、どうしてだ?」


「どうしてって……」


 暖炉の前で椅子に背中を全力で預けながらヤキソバまんを頬張るブルート。

 腹の上に乗って吐き出させてやろうかと思う。

 いや、床がまた汚れるのは嫌だな。


「まさか、ブルートは将来、軍に入るつもりなのか?」


「当然だろう。貴族の跡継ぎでない者は誰でも帝国軍人のエリートを志すものだ」


「あ!跡継ぎじゃなかったんだ!?」


「う、うるさいっ!!」


 自分から振っておいて、聞かれると怒るやつ……

 ブルートが軍人志望とは、人は見かけによらないものだな。

 というより、本当になれるのか心配になってくる。

 明日からトレーニングを手伝ってあげようかな。

 重力を倍にして、腹に乗ってやるとか……


「このように。本来、軍に体験入隊ができるということは大変に名誉なことであり、貴族であれば喜んで向かうところなのですが……」


「俺は全力で拒否したい」


「なんともったいない!」


 ブルートが俺を見て呆れた顔をしている。

 そんなブルートを見て、俺は呆れている。


「この価値観の隔たりは大きいのです。かく言う私やレミも帝国軍人の道は望んでいませんが、大事なことは、この道を望む学生はかなり多く、そういう学生たちはノーウェ様から全力でそのポストを奪いに来るだろうということです」


「譲っちゃダメかな?」


「残念ながら、辞退はできないのよねー」


 むう。これはかなりの難問だぞ。


「少々お待ちください……」


 そう言ってリバーが自分のマスボを操作し始めた。

 黒光りする石が綺麗に磨かれたその品は高級感溢れている。

 そして、マスボの面を操作するリバーの指の動きが速すぎて見えない。


「昨年の個人部門出場者で派閥に所属していない個人の参加者は、40名でした」


「ということは……?」


「例年通りですと確実に選抜されます」


 ノー。全力で逃げたいけど、逃げれる状況ではないということか。

 どうにかして、回避する方法はないだろうか。


 当日、お腹が痛くなるとかか?


 いや、ダメだ。そしたら無条件で軍隊送りになる。

 そして、よりお腹が痛い毎日を送るハメになる。


「現状、個人部門への選抜を回避する策は3つございます」


 リバーが今度は指で3を作った。


「1つ目は、足切りの500点以下になることです。決闘に数回負ければノーウェ様は500点を下回りますから」


 それはすぐに思いついた。だがなあ……わざと負けるというのは少し抵抗がある。


「ちなみに、決闘は原則記録され、裁定委員が裁定しますので、八百長があると罰則がございます。重いものですとその試合が無効試合の上に両者3か月間決闘の禁止」


 やはり罰則があるのか。しかも、かなりきついな。


「これがあるから、皆、非公開の派閥内決闘で八百長をするのですよ。見えなければ何をしてもいいと思っているようです」


 そう言って、リバーはため息を吐きながらブルートの方を見つめる。

 よく見ると、ブルートがヤキソバまんの中の具である薄く細切りされたニンジンだけを器用に取り除いて紙に包んでいる。あの野郎!


「2つ目はベスト8に入ることです。この場合、軍への体験入隊はなくなりますが、代わりに対外決闘団体戦である『皇師宴こうしえん』のメンバーに選出されます」


「『皇師宴こうしえん』?何それ?」


「皇帝陛下や皇太子殿下はじめ皇族の方々が観覧する中で行う魔法決闘戦ですね。ここで良い成績を収めたものの多くは皇族の親衛隊や近衛兵、宮廷魔導師などに抜擢されます」


 何それ?さらに面倒くさいじゃん!?


「目をつけられたら一生宮仕えですね」


 危ないところだった。何なら8位までに入ればいいじゃないかと思っていたよ。


「そうなりますと、最後の3つ目が一番現実的な方法となります。それはノーウェ様が『派閥』を作るか、どこかの『派閥』に加入するかです」


「むう……結局その結論に行きついてしまうのか……」


「はい」


 これは説明がなくとも分かった。

 派閥を結成するかどこかの派閥に入ればとりあえず個人活動ではなくなる。

 個人活動でなくなれば、選抜メンバーからは自動的に外れるから、軍隊に入りたい肉体鍛錬が大好きなやばい連中から狙われることはなくなる。


 あとは、派閥を作るか、派閥に入るかだが。


 どちらも俺にはハードルが高いが、どちらの方がよいのだろう?


 イチから作ればまあゼロからのスタートだから派閥部門でも選抜に選ばれることはまずないだろうし、個人部門への選出もないだろう。


 だが、そもそも人が集められるかの問題がある。そして、その後の運営が面倒くさい。

 かといって、他の派閥に入れてくださいと挨拶にいくのも難しい。そもそも作法がわからないし……


「ここで1つ提案させていただいても?」


「ん?何を?」


 心を読んでいるかのようなリバー。何か少し怖い。


「まだ入学式まで10日、選抜メンバーの発表までひと月ほどあります。派閥を作るにしろ、入るにしろ、あるいは個人戦に挑むにしろ猶予はございますから、ここは、そのどれを選んでもいいようにそれぞれの準備を同時に進めていくというのは?」


「う、うんまあ……そうなるかなぁ……」


「その上で、もし派閥を作るということもいくつかの選択肢の中から考慮されているのであれば、その人選を私にお任せいただけますでしょうか?」


「リバーに?」


「はい。もちろん、候補者との面通しはさせていただきますし、人格重視でそこにいるブルートのような者は選考から除外いたします」


「お、おいっ!!」


 ブルートが椅子から勢いよく起きようとして、逆に背中から倒れそうになっている。


「まあ、ブルートぐらいまでならギリOKだけど」


 クズでなければいい。


「お、おいっ!!あ、いてっ!!」


 あ。頭から落ちた。ブルートは頭を抱えている。


「では、あくまで将来的な予定として動かせていただいてもよろしいでしょうか?もちろん、結成直前でしたらキャンセルしていただいても構いません」


「う、うーん。まあ、将来的なことって言うのなら。まだ考える時間はあるし……」


 予定は未定というしな。


「ありがとうございます。前向きなお言葉がいただけて何よりです」


 そう言ってリバーが会釈をする。


「あ、時間だ。私、行かなくちゃー!」


「ん?何か用事があるの?」


「うん。ちょっと将来の進路相談の予約を入れていたんだよね~。先生に話を聞いてもらおうと思ってさー。同じようにどこの派閥に入るか悩んでいる子と友だちになったから、一緒に受けに行くんだ~」


「はえ~。入学早々大変なんだなあ」


 自分は入学したことで安心して浮かれていたが、レミみたいに将来のことを考えてすでに動き出している子もいるんだ。リバーも卒業後はそのまま商会で働くのだろうし、ブルートですら目標を持っているみたいだった。


 俺も何か具体的な目標を持つべきだろうか?将来について。


 ただ最強の魔導師になるのじゃ駄目なの?


「じゃあ、ノーウェ君。また明日みんなで食事会でもしようよ」


「おっ、いいね!よろしく!!」


「それじゃ~」


 そう言ってレミはささっと支度をして部屋を出て行った。元気ハツラツ。


「少しゆっくりしましたら、私たちも食事にでも行きましょうか?商業施設にある良いお店をご案内しますよ」


「お、良いね」


「乗った」


 案内役はお前のはずだがな、ついてくる気まんまんのブルート。

 でも、まあ男3人で外食っていうのも悪くない。

 気心が知れるってやつだな。

 ……なんか忘れている気がするけど。


 俺たちはリバーの淹れてくれた紅茶をしばらく堪能したあと、窓に戻って寮の外に出た。


 もちろん、俺のマスボは部屋でお留守番だ。


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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― 新着の感想 ―
こうしえんは草。 まさかファンタジーものでその名前を見るとはw
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