1-22『ある幹部たちの暗躍』
「たはーー。すごかったねーー」
ノーウェがトラスカムとの決闘を終えた直後、学術棟にある建物の屋上の一角に造られた、四角い箱のような、土製の簡易家屋の中で、新入生レミはマスボの画面を見つめながら感嘆の声を上げた。
「さすがは、ノーウェ様でしたね」
2人が入っている土の簡易家屋を建てた張本人、同じく新入生のリバーがレミの感想に同調する。
2人は、ノーウェとトラスカムが行った壮絶な決闘を、レミの持つ光と風の探索魔法と、リバーの生家で開発した最新型のマスボの性能によって、遠くにいながらもまるでその場で観ているかのような臨場感で生観戦していた。
「だって、相手は学年2位だよっ!?」
「ええ、学年の頂上決戦という観点でいえば、実に申し分のない、大変見ごたえのある戦いでした」
淡々と話すが、リバーも十分以上に驚いていた。
前夜にノーウェから、彼が土魔法と相性が悪いという話を聞いていたからだ。
同時に、ノーウェは自身にとって相性が悪い相手だったとしても、攻略法は必ずあり、戦いの中で見出していくとも話していた。
その時から、彼が自分と戦ったらどのような戦い方をするのだろうと、リバーは興味を抱いていたのである。
ノーウェの今回の決闘相手であるトラスカムは、リバーと同じ土魔法の使い手。
リバーが土の精製を主とし、それを火魔法で焼き上げて堅い防御主体で戦うのに対し、トラスカムは同じ土魔法でも、『アース(土)』系と『ストーン(石)』系の双方が使え、風魔法と水魔法にも高い素養があるため、自在に石を変形させて浮かせたり、相手に勢いよくぶつけたりすることで、よりその攻撃能力を高めている。
このトラスカムという男については、あまりいい噂は聞かない。自分の幼少期からつき合いのある貴族の子女仲間や自分にすり寄ってくる人間のみを優遇し、決闘で自分が倒して従者にした相手は徹底的に冷遇する。
最も嫌悪している派閥政治の典型的な手法をこの歳で身に着けている男に対して、リバーが好意を抱くはずもない。
それでも、実力に関して認めざるを得ないのは、これまで数回、この男の決闘での戦いぶりを見てきて抱く偽らざる本音であった。
今回の決闘も、序盤はトラスカムのペースで進んだ。
土魔法が最大限に生きる砂と土の闘技場を選び、相手の足元の地面を操作し、攻撃を加えて注意を引きつつ、自身の近くの砂を集めて石に成形し、不意打ちをする。
憎らしいが、防ぐのが実に困難な合理的な戦法である。
その罠に嵌まった……いや、嵌まったかに思われたノーウェは石の直撃を受け、地面に倒れると、次々にトラスカムの石攻撃の連打を浴びる。
そして、仕上げは『土屑』の称号通りの技である鋭利な砂による一斉攻撃だ。
何度も全身に砂攻撃を受け、流石に勝負があったかとレミとリバーが落胆しかけたその時、奇跡のような状況が起こった。
ノーウェの血によって真っ赤に染まった砂が突然攻撃を停止し、空中で止まったまま動かなくなったのである。そればかりか、先にノーウェの身体を打ちつけていた石塊が、次々と今度はトラスカムを攻撃し始めたのだった。
「あれは、一体どんな魔法だったのでしょうね……」
「ノーウェ君の?これまで彼を攻撃していた石たちが、急に、トラスカムの方を攻撃し始めたよね。たしか……『お前のしたことを返している』とか言ってたかな」
レミの持つ特殊な光魔法が映像を運び、風魔法が音を集める。
その音声をマスボがしっかりと拾って保存してくれていればいいが、こればかりはまだ実験的な試みだから上手くいっているかの保証はない。
ただ、仮にこの決闘が映像と音声ともにきちんと撮影できていたとしても、ノーウェの魔法を解明するのは難しいのではないかとリバーは感じていた。
何しろ、前例がない。
「まあ、でも、これで私たちがリーダーと仰ぐ人物は決まりましたね」
「でしょ?初めから私は言っていたじゃん」
胸を張るレミ。
別にリバーは彼女の意見を否定していたわけではなく、慎重であっただけだが、この場でそれについて特に言及することはしない。
「実力、人格、共に申し分ありません。強いて言えば決断力ですが……」
「でも、ああやって虐げられている子を見て見逃せない所を見ると、なんだかんだ言っても最後は決断してくれるんじゃないかな?」
「そうですね……」
唯一の懸念点は、ノーウェ自身に派閥の長になる気があまり感じられない点だ。
むしろ、あの実力であれば、派閥を作らずに個人で活動したとしても卒業までの評定ノルマを軽々超えてしまいそうではある。
もちろん、個人の意思なので、ノーウェがそう望むのであればレミにもリバーにも口出しできることではないのだが、2人にもここで成し遂げたい大志があった。
「私に策があります」
「え?無理強いはしないんじゃなかった?」
「無理強いはしませんし、もちろん本人の承諾を得ます。何かと引き換えにするような脅迫めいたこともしませんよ」
「けど、何かはするんだねー?」
「ええ、まあ。そこは彼との交渉次第ですね。私たちも急がないと、彼を取り巻く環境が大きく変わってしまう可能性がありますから」
リバーはそう言うと、自身のマスボを取り出して操作を始めた。
「何か急ぐ事情ができたの?」
「ええ、寮内で【魔花】の幹部連中が暗躍を始めたようです」
「え?だってリーダーのジャネット様が再戦するまで派閥として決闘を申し込めないんじゃないの?」
【魔花】の長ジャネットがノーウェとの寮内決闘に敗れたあと、彼女は派閥のメンバーに「入学式」を過ぎるまで派閥戦と彼女自身の個人戦を行わないことを宣言した。また、幹部たちにも派閥に所属する者がノーウェに「復讐戦」を持ち掛けることがないように厳命している。そこまでが、レミが聞き入れていた情報であった。
「入学式」まで個人戦をしないということは、言い換えれば、入学式後に再戦を申し込むということである。それも、おそらく「戦闘方式」だ。
リバーが少し事を急いている理由にはその辺もあるのではないかとレミは思った。
「例外があります。上級生はノーウェ様に『戦闘方式』の決闘を申し込むことはできません。ですが……」
「新入生だ!?」
「そうです。派閥に属する新入生が自発的にノーウェ様に決闘を申し込んで決めてしまった場合、ジャネット様の性格上、おそらく強く叱責することはできないでしょう。幹部たちはそのことを計算に入れて動くはずです」
「うーん、何かイヤだねー」
「同感です」
「リバーはその流れを止めたいんだね?」
「いえ、むしろ進めます。ただし、こちらで準備をしてからです。より大掛かりな舞台を……」
「あ、そういうことね。了解」
「ここからは、私とレミ、貴方の動きの速さと正確さが重要になってきますよ」
「わかったよー!まずはどうするの?」
「ノーウェ様が【魔花】に喧嘩を売られるのを一旦防ぎます。足止めの段取りは商会の人間に今、指示をしたので、我々は寮内にいる彼らを説得したあと、玄関前でノーウェ様を待ちましょう。その後の段取りは今、貴方のマスボに流れを送りました。私と貴方の連携に懸かっていますよ」
「りょーかい!」
こうして、レミとリバーは全速力でマゼンタ寮に向かった。
2人にとってはこれまでの決闘以上に重要となる交渉の場に臨むために。
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




