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1-21『モモエと紫ローブと透明マスク』

「「「「トラスカムッ!!」」」」


「ストーップぅ。トラスカム君の状態確認を行うからぁ、離れているようにぃーー」


 取り巻き共が、横たわるゴミクズの方へ駆け寄るが、それを立会人が制止する。


「これは、かなり重傷のようだねぃーー死にはしないだろうけど、後遺症が残るかもしれないねえぇーーーいぃーー!!」


 キャリーさんはマスクのあごに手を当てながら、ゴミクズの身体を仰向けにひっくり返して、念入りに目視している。

 この人、ただの事務局員ではないのだろうか。


「君たちは、トラスカム君の仲間なのだろうぅーーー?」


「「「「は、はいっ」」」」


 取り巻き4人全員がその場に直立し、気をつけの姿勢をとり、ブルブル震えている。


「じゃあぁ、今すぐに事務棟に走ってぇーー『治療院緊急救護班』を呼んできなさぁぁいーーー!!担架も忘れずにいぃーーー」


「「「「は、はいーーー!!」」」」


 蜘蛛の子散らしたように駆けだす取り巻き共。

 同じ場所に向かうのなら散る必要はないんじゃないかと思う。


 ゴミクズは相当ダメージを負ったようだ。

 時折せき込んでいるが、ここからでも呼吸が荒々しいのが分かる。


 受けたダメージは俺と変わらない程度だろうが、元々の体力に大きな差があるためだろう。

 それに、俺は即座に『ハイヒール』を自分に掛けたことで、なんとか出血は止めたし、残った細かい傷も少しずつ塞がってきている。


「ノーウェ君の方はぁ随分余裕がありそうだねぃーー。なるほどぉ、回復魔法も使えるのかぁーー興味深いなぁーー」


 あ、バレた。

 まあ、この人にバレたからといってどうってことはないのだが、なんか不安だ。


「せっかくの貴重ぅなランチタイムぅが奪われちゃったけどぉーー、なかなか良いものが観れたねいぃーーー感謝するよぅ、ノーウェ君んぅんんーーー!」


「……いえいえ、そんな……」


 ランチ中はあの透明マスク、どうするのだろうか……


「君の魔法は実にぃ興味深いぃーーー。今度はもっと大きな所でやってもらいたいねぇえぇーーいぃ。私とお揃いのマスボも役立ててねえいぃーーー!!」


 ぐはっ。

 血が足りなかったのか、何かがショックだったのか、急に足の力が抜けていく。


「おいっ、ノーウェ。大丈夫か!?」


「私が治します!ノーウェさん」


 モモエが俺の足の近くに寄り、華奢な両手を膝の方にかざす。

 彼女の手から淡いピンクの光が放たれ、体内に吸い込まれていく感覚になり、全身を駆け巡った。身体の中が少しずつ綺麗に浄化されていく感じだ。


「これはまたぁ……驚いたねえぇーいぃーー」


 俺よりもびっくりした顔になっているのはキャリーさん。

 マスクではなく、本体の方。


「使っているのは『ハイヒール』だけどぉ、発動から治癒ぅ、再発動をものすごい速さでやってのけてるのだねえぇいぃーー」


 キャリーさんも気づいたか。

 彼女の魔法の特殊さに。


 いくら中級魔法だからといって、発動後にはどんな属性でも待機時間クールタイムが存在するものだ。しかし、彼女はほとんど隙間なく、待機時間を作らずに魔法を連続してかけ続けている。


 持続している……とでもいうべきか……


 破格の力だ。

 しかも、掛け続けながら傷の深さの違う部位によって魔力を調節している。


「君は、子供の頃からずっとその回復魔法を使ってきたの?」


「は、はい。私は孤児院育ちだったので、傷を回復する仕事をしていました」


「なるほど。『称号』は?」


「そ、そのう……」


 モモエは言い辛そうにしている。


「『色付き』?」


「はい……『赤魔導師』です……」


 やはり、か。貴族に目をつけられやすく、決闘で負けてしまう称号といえば『色付き』。中でも『赤魔導師』は器用貧乏が過ぎて狙われやすいというのが、クローニ先生に教わったことだ。

 そういえば、ブルートも『赤魔導師』を狙って決闘を吹っ掛けていたんだっけ。


 俺がブルートの方を見ると、彼は眉間にしわを寄せて力のこもった厳しい顔をしている。

 なんだ、恥ずかしいのか、反省しているのか、とにかく何だ?その表情は!?……


 ……あっ、ローブ預けたまんまか。モモエが俺の治療のために手を放しているから、重いよな、そりゃ。


「ああ、もう大丈夫。だいぶ気分が良くなったよ。ブルートもありがとう」


「ふんっ。ぬっ!!」


 ブルートが胸元までローブを上げて、俺に両手で手渡す。

 俺が受け取って羽織ろうとすると、ローブは風によって独りでに俺の肩にかかり、早く袖を通すように急かしてくる。

 慌てて着たが、決闘前よりワンサイズ締めつけがきついような気がする。


「そ、そんな……」


 落ち込まなくても良いよ、ブルート。

 これ、俺が着るときだけ軽い現金にも軽くなるやつだから。


「しかし、不思議なローブだな。持っているだけで重くて魔力を奪われるような、まるで魔道具のようだった。なぜこんな……あ、いや……」


「このローブは俺の父ちゃんの形見なんだ」


「お前の父親の?」


「ああ。俺の父ちゃんは、俺に魔法使いの『称号』があると知ると、これを取りに出掛けたんだよ。『ただの村人』が絶対に取りに行ける場所じゃなかったていうのに。それでも、こいつを見つけて、村に帰る途中に力尽きてしまったらしい……」


「そ、そうか……悪かったな。重いなんて言って」


「気にするな」


 重いのは事実だし。


 俺の父ちゃんはただの村人だ。

 ただし、最強の村人だ。

 だから、俺は最強の魔導師になる。


「それより、君の称号のことだけど……『赤魔導師』というのは本当に確かか?」


「え?そ、そうだと思いますけどっ」


「どこで調べた?」


「え、えーと」


「何か引っかかるのかーいぃーー?ノーウェ君ぅんー!?」


「いえ、彼女の攻撃魔法を見ていないので、何とも言えないですけど。ちょっと回復魔法の力が尋常ではないな、と」


「ふむぅーーー」


「じ、実は……『称号』は調べてはいないんです」


「え?」


「び、貧乏で、孤児院も教会系ではなかったもので……」


 ああ、そういうことか。

 孤児院と言っても色々種類があるが、彼女が育った孤児院は民間の色々と問題ありの所だったのだろう。

 なぜ、そのようなことを知っているかというと、俺のいた村では、悪ガキが大人に怒られる際に「あんまり悪さをしていると『孤児院』に入れるぞ」と言い聞かされるからだ。


 初めは、教会系、政府系、領主系、民間系と孤児院にも色んな種類があることがわからず、巡礼のシスターが村にやって来たときは、連れていかれると思い、みんな泣き出す、なんてことがあった。


 結局、そのシスターは、強烈でアクの強い人ではあったが、そこまでのゴミクズではなく、孤児院の違いもその人に教わったんだが。


 称号は教会に努める聖職者が鑑定するものだ。したがって、教会系の孤児院なら鑑定料はタダ。


 政府系にしても領主系にしても彼らにすれば、1人当たりの鑑定料など微々たるものだし、『称号』を持つ魔法使いがいれば、むしろ彼らにとって非常に有益な存在になるので、むしろ鑑定を薦めるくらいだが、問題は民間系の中の悪徳な業者。


 彼らは孤児を、奉仕して金を作る道具としか見ておらず、孤児たちが稼いだ金の大部分を搾取する。


「毎日のように、回復魔法で人の怪我を治していたもので……それで、やっとの思いでお金を貯めてここに入学したのですけど、ずっと負け続きで……でも、ノーウェさんのおかげで、苦しい状況からやっと解放されました。この御恩は一生忘れませんっ!本当にありがとうございました」


 そう言って、頭を下げるモモエ。

 彼女の回復魔法がただの才能ではないことは、彼女のこれまでの孤児院での厳しい生活が雄弁に語っている。


 自分が何か力になれればいいが、考えがまとまらず、つい言いよどんでしまう。


「院長~!院長~!!」


 俺たちの間に気まずい沈黙が流れる中、白衣を着た2人の男女の職員が担架を持って走ってやって来た。取り巻きたちも一緒だ。戻ってこなくていいのに。


「え?院長?」


「んぅんーーーそれは私のことだねえぇーーー。私は、事務局長兼治療院長だからねぇいぃー」


「え?えええーーー??」


 聞いてないんですけど。

 そんなに偉そうな役職名がついた人だとは知らんかった。


 受付の窓口で、ただの変態事務職員だと思ってしまい、申し訳ございません。

 キャリーさんは、やって来た職員2人に、ゴミクズを担架に乗せるようにテキパキと指示を出している。


「今後の治療の指示をしなければならないからぁーーランチを食べられないのが残念だがねえー。けどぉ、おかげで良いものが観れたよぉーアイツも悔しがるだろうねえぃいーー」


 そうか、結局このあと担架で運ばれるゴミクズに同行するから、キャリーさんはランチを逃してしまうのか……気の毒だな。あと、アイツって誰だ?


「院長。患者の血中酸素濃度が下がっています」


 担架にゴミクズを乗せたあと、魔道具を用いて何かを測っていた救護の職員がキャリーさんを呼ぶ。


「んぅんーー大丈夫だとは思うけど、この汚れた状態で回復魔法を掛けても却って危険だしねえぇーーーうーーむぅーー念のためしておいた方が良いかねえーー」


「「「「「え?」」」」」


 そう言うと、キャリーさんは、突然、顔につけていた透明のマスクを剝ぎ取って、ゴミクズのトラスカムの顔に装着させた。


「「「「「っ!!!!!!!」」」」」


「こひゅーこひゅーぶひゅーきひゅー……」


 白目のゴミクズが何かを訴えているようだが、よくわからない。


「さて、では私はこれで失礼するとするよ。ノーウェ君、ブルート君、モモエ君、君たちの今後の検討を祈っている!お前たち、これから処置室に向かうぞ」


「「はいっ!!」


「「「「「え?え?えーーーー???」」」」」


 俺も、ブルートも、モモエもその場に立ち尽くした。

 ゴミクズの取り巻きたちは数秒放心状態であったが、慌ててキャリーさんたちのあとを追う。


 何というか、最初から最後まで強烈過ぎる人だ。


「たしかに、あれだと後遺症が残るかもしれませんね……精神面で……」


 モモエがぽつりと呟く。


 うん、確実に後遺症トラウマが残ると思う。


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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