1-18『土屑のトラスカム』
ゴミがゴミのようだ……
猫をいたぶるゴミ。
女の子に石をぶつけてゴミ拾いをさせるゴミ。
俺の紫のローブにケチをつけたゴミ。
とりわけ、最後のが許しがたい。
全部同じゴミクズがしたことだ。
取り巻きは知らない。
女性が痛めつけられているのを一緒になって笑っていたので同じクズ仲間なのは確定でいいだろうが、関係性をよく知らないので、とりあえず、知らない。
きっと、ゴミ周辺の奴ら。
「おい、お前、今何て言った?この俺に?伯爵令息であるこの俺に…」
「知らない。ゴミクズに掛けた言葉なんかいちいち覚えてられるか!?さっさと決闘の条件設定をするぞ、腐れ貴族くずれのゴミクズくそ野郎」
「……」
無言になった。
「いや、黙るのは困るんだが。決闘の交渉ができない」
「お前、死んだぞ?」
「生きている。さっさとしろ」
「これからの話だ」
「死なない。さっさとしろ」
「……」
また沈黙。さっさとしてくれないかな……
取り巻きたちも、さっきまで皆で大笑いしていたくせに、なんで今は全員真顔で血の気の引いたような表情になっているんだ?
こいつら、一心同体か?
「……いっ……おいっ!ノーウェ!?お前、一体どうしたんだよっ?」
横で騒ぐ声。
ゴミじゃない……クズ?……じゃない、ギリギリクズ……じゃない……いや、やっぱギリギリクズ……あっ!なんだ、クズのなりそこないのブルートか。
「決闘を持ち掛けただけだ。それより、お前のマスボって録画ができるんだっけ?」
「え、俺?……のか、ああ、できるぞ1時間くらいなら」
あ、やっぱり、そんなに長い時間できるのね。専用の魔道具並みじゃん。
ひょっとしたらと思って言ってみただけなのだったが。
「じゃあ、頼む。決闘の交渉をする」
ブルートが頷き、マスボを制服の胸ポケットから軽々と取り出して俺たちの方に向ける。
羨ましくはないぞ。
「ありがとう、ブルート。じゃあ、これから決闘前の事前交渉を開始する。そこのゴミ、決闘の方法は『戦闘方式』で良いな?」
「……ああ」
「勝敗条件はどちらかが意識を失うまででいいな?」
「……ああ、殺してやるがな」
「勝者の権利は?」
「お前を奴隷にしてやる!!死ぬまでこき使ってやるよっ!!」
「さっき死んだとか殺してやるとか言ってなかったか?ゴミ語は人と違って論理的でないから本当によく分からないな。でも、その条件は呑めない」
「……はっ、今さら怖気づいたのかよっ…」
「勝者の権利は本来イーブンにするべきだが、お前みたいなゴミ、たとえ奴隷でも俺には必要ない。だから、俺は別の権利を主張する」
「っ!!!」
「そこにいる子はお前が決闘で何かしたのか?」
俺は桃色髪の女子学生を見た。彼女は猫を抱えてこちらと茶髪のゴミを見ながら少々狼狽えているようだ。すまない。
「はっ、ゴミ拾いに興味があるのかよっ。奴隷同士…」
「質問に答えろよ。交渉中だぞ?貴族のくせに決闘の作法を知らない奴だな」
俺も貴族の決闘の作法なんて知らないけどな。
ちなみに、村の決闘の作法は「黙って殴り合う」だ。
俺は魔法ぶっ放すけど。
あー、やっとスッキリして、だんだんと頭が冷えてきた。
なるべく冷静にと自分に言い聞かせていたつもりだったが、ついついヒートアップしてしまった。
いかん、いかん。ここからは、あまり挑発せずに上手く話を進めなきゃな。
「……そいつは、俺が決闘で倒して『ゴミ拾い』役にした。一応、今の所は派閥に入れてやる予定だが、連戦連敗の使えねえドブ鼠だから先のことは知らねえ」
「じゃあ、彼女との決闘の無効化と、お前とお前の取り巻き全員が、この学園に在籍する間、彼女に接触することを禁止、それが俺の条件だ。もちろん、その子はお前の派閥にも加入しない。お前みたいな『ゴミ』を拾う役をさせるのはあまりにもかわいそうだから」
「おい、お前いい加減にしないとコロ…」
「同意するのか?」
「……ちっ、同意する」
「あとは?」
「あん?」
あんあん煩いな。これも貴族の作法なのか?
「他の条件は?」
「ねえ、もうねえから、さっさとコロ…」
「いや、こっちはまだある。俺が勝ったら、卒業するまでお前が貴族の名を語るのを禁止する。お前の家がどれだけでかくて、どれだけ広いかは知らないが、どんな家にだって、埃の1つ、ゴミの1つは出るからな。家の中のゴミを見る度に貴族が何たるかを語られても困るし」
「ああ?ふざけんじゃねえぞ!?だったら、俺は…」
「え?もうないって今さっき言ったじゃん!?貴族のくせに、すぐに前言を翻すのか?貴族の誇りってものはないの?あ、ほこりじゃなくてゴミだもんな、お前は」
眉間に皺を寄せて睨みつけてくるゴミクズ。皺がもう少しで角になりそうだな。
「ぐっ……て、てめえは、もう絶対に、許さねえ」
「はいはい、お許しを。で?場所はどうするの?どうせ、ゴミと戦うわけだから、俺はどれだけ汚れても構わないし、今なら好きな場所を選ばせてあげるけど?」
「……っ、いいんだな?お前、死んだぞ?」
「だから、生きているって。死人と話しているのか?お前は」
「黙れ!……あそこだ!」
ニヤリと笑ったゴミクズは、砂利と土の入り混じった広場を指差した。
「これで、決闘の交渉は終了する。良いか?」
「同意する。あとは、立会人による確認だけだな?」
「ああ、そこが決まれば、正式に決闘の開始だ」
相手が合意したのを見届けて、ブルートの方を向く。
ブルートは口を真一文字に結んだまま、コクリと頷いた。
さて、相手はまるで目で呪わんばかりにこちらを睨みつけているが、その口元はまだにやけたままだ。
察するに、俺を泥沼に引きずり込んだ、とでも思っているのだろう。
それは、こっちの台詞だけどな。
あとは、何とか冷静さを保ちつつ、立会人が来るのを待つか。
ゴミクズは取り巻きの髪を逆立てた男子学生になにやら指示を出している。
立会人の候補でも呼ばせるつもりだろうか。
不正がなきゃいいな。
まあ、判定勝負には絶対にしないけど。評定はどうでもいいし。
「おっやぁーーーーノーウェ君じゃあないかーーーいぃ?」
……ゾクッとした。
振り返ると、そこには、あのマスクをつけたままこっちに颯爽と歩いて来る、全身白づくめの恰好をした事務職員の姿があった。え?外でもあれつけてるの?
「ここでぇ、何をしているのだぃーーー?」
「……いや……あっ!キャリーさん、これから決闘の立会人をしてもらえます?」
「えっ、いやぁ、わたしはぁこれからぁ長めのランチタイムをぉだねぇ……」
「そんなに時間は掛かりませんよ、交渉内容はすでに彼が記録していますし」
「んぅんー?」
マスクに見つめられて、ブルートが一瞬、ビクっとたじろいだが、口を結んだまま、キャリーさんのマスクに向かってマスボを提示する。
「そうかーいぃ、それならぁーー」
「お、おいっ!ちょっと待て!!立会人は今……」
「『さっさと』って言っていたじゃん!?え?それともキャリーさんじゃ嫌なの?」
「んんうーーんぅーー?」
今度はゴミクズがド迫力な顔と透明マスクに見つめられる番。
取り巻きは全員数歩あとずさる。
「わ、分かりました……」
「りょうかーいぃーーーー、では交渉内容を確認させてもらうよぉーーー」
そして、透明マスクが無言でマスボを見つめるという、シュールな光景がしばらく続いたあと、俺たちは決闘場所へと移る。
ほんの数10mの場所だが。
「はいぃーー。では最終確認んぅーーー!!決闘の方法は、『戦闘方式』のノックアウト制ぃーー。どちらかが気絶するまでぃーーだねぃーーー。勝者の権利はぁー、ノーウェ君の方はぁ、そこにいるモモエ君とトラスカム君のぉー決闘の無効化とぉトラスカム君とぉ彼に関係するメンバーのぉー今後、彼女への接触の禁止ぃーーでいいねぃーーー?あとはぁーーートラスカム君がぁこの学園に在籍する限りぃーー貴族を名乗るのを禁止いぃーー」
「はい」
マスクがこちらを向いたので同意する。
あの子、モモエって名前なのか……
マスクに急に話を振られ、ビクっとしている。
反応は皆同じ。
「一方のぉーーートラスカム君のぉー勝者の権利だけどぉ、この学園の校則では『奴隷』は認められないよぉーーー?『従者』ってことでいいかねぇーーー?」
「いえ、ですが……」
「んんんぅーーーー?」
「……はい、わかりました」
「それとぉ、君はぁ、やたらと『殺す』と言っているけどぉーー『殺し』も禁止だからねぇーーーいぃーーー?」
「はい……」
「よろしいぃーー。では、立会人であるこのキャリーがぁーーー『紫魔導師ぃーー』のノーウェ君とぉーーー『ドュビュルッゼイ』のトラスカムくんのぉ決闘を認めますぅーー」
立会人による力強い承認。
「はっ、何だよっ、散々俺をコケにしてくれたお前は能無しの『ドブ鼠』かよ?」
俺の称号名を聞いて、あからさまにほくそ笑むゴミ。
「え?それはお前じゃないの?『ドビュルッゼイ』だっけ?お前の称号」
どんな魔法の使い手だ?
「違う!『土屑』だ!!『ド・セ・イ!』だ!!」
「え?『ド・レ・イ』?」
「殺す」
「んぅーーーー殺しは禁止ぃーーーだよぉーーーんぅーーー!?」
「……はい……」
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




