1-17『桃髪の少女と学年2位』
ふう、何か色々とヤバかった。
滞在時間10分足らずで、すでに半日を過ごしたような気になった。
精神力の消費が半端ない……
「商業施設も案内してやりたいが……重そうだな……」
そう。キャリー事務員から受け取った石板のような魔道具がすごく重い。
「商業施設」という心躍る言葉が一瞬で効力を失って掻き消えてしまうほど、これでもかというぐらいの重力を絶えず俺に与えてくる。
「普通、ここで配られる『マスボ』はもっと薄型のもののはずなんだがな……」
「マスボ?」
『マジック・ストーン・ボード』の略だそうだ。リュックの中に入っている俺のやつも意味合い的には間違っちゃいないのだが、厚みと重みと存在感が違い過ぎる。
いつの間にか、ブルートは薄く小さな石の板を右手に持っていた。
ブルートは、片手の指でひょいひょいとその石の魔道具を扱い、魔力を通して、表面に映る自身の情報を俺に見せてくる。これ見よがしに。
なになに?
ブルート=フェスタ
称号名:『水豪』
第1学年
今年度決闘戦績:15勝0敗
評定ポイント(個人):75
学生ランク:962位(暫定)
学年ランク:9位
派閥:未所属
おおっ、こんな感じでデータを見られるのか。面白い。
個人の評定ポイントから学生ランクと学年ランクが自動的に割り出される。
1年生は入学式までは学生ランクも暫定と表記するらしい。
上級生に狙われないような処置だとか何とか。意味あるのかな?
学生は1学年あたり400~500人くらいだそうなので、現在、新学年の中で上位のブルートも、学生ランクにすると4桁に近い順位になってしまうのだろう。
よく見ると、ブルートの持つ薄い「マスボ」を俺はどこかで見たことがあった。
ああ、そうだ。
昨日、クローニ先生が俺の魔力や魔力量を測定するのに使っていた。
そのような機能も搭載しているのか、この魔道具は。
あれ?でも、先生の奴はもう少し大きいサイズだったような気がする。
例えるなら、先生のは手紙の便せんサイズ。ブルートのは小さな手帳サイズ。
……俺のは大辞典サイズだがね……
厚みが違うよ、厚みが……
そして、昨日のことだったはずだが、あの時の光景が随分昔のように感じる……
「これが通常サイズだ。まあ、俺のやつは、最新型の特注品だけどな。何と撮影や録画もできるんだ」
そういって制服の胸ポケットにマスボを仕舞うブルート。
そんな場所に収納できる……だと!?
そして、俺は決闘以来、初めてブルートに勝ち誇った表情を向けられた。
泣かない……泣くもんか!
「ま、まあ、とりあえず、一旦それを寮に置きに行こうか……」
「……うん」
そして、ひどく憐れんだ目をされた。
ちくしょう!
何て日だっ!?
かくして、俺たちは再び寮の方角へと歩き出す。
足早に、とはいかない。
行きの半分ぐらいのスピードで歩く俺。もう、半分おじいちゃん。
噴水の広場まで戻るのにかなりの時間を要し、行き交う人々がゆっくりに見える。
そして、噴水を回りこんだ先、出会い頭のスローモーション……猫だ。
猫の歩みも俺と同じくらいスロー。
……ん?猫?
茶トラの猫は、活発……とまでは行かないが、悠々と石畳の上を進んでいる。
この猫、さっき見かけた猫だよな?
元気になったのか……良かった。
ガンッ……!!
安堵もつかの間、猫が宙を舞った……
バタッ……
猫は再び横たわる。行きに目にしたのと同じように。
見た感じ重傷、いや重体。
ちょっと、頭の整理がつかない……
「きゃあっ」
そしてデジャヴのように繰り返される光景。
桃髪の女子学生が駆け寄って、再び猫を守るように、石畳の地べたに膝を着く。
ガンッ……!!
デジャヴではないと分かったのは、続きが違っていたから。
少女に向かって石の塊が飛んできて、その華奢な背中に当たって鈍い音を立てた。
「おいっ!ゴミ拾い。俺の目の前をふてぶてしく横切ろうとしたその忌々しいゴミをどこかに片付けておけ!」
クズ発言。
そのあとに聞こえてくる数名による嘲りの笑い声。
俺が声の方向に身体を向けると、制服のズボンのポケットに手を入れ、だらしなくシャツをズボンの外に出している茶髪ロン毛の目つきの悪い男子学生が、取り巻きを数名従えて、背中で猫をかばう桃色髪の女子学生を一緒に嘲笑っていた。
「なんだあ?ゴミ拾いのくせに、文句があるのかあ?」
「いえ……」
茶髪男の方を向く女子学生。一瞬、睨むような視線だったがさっと顔を落とした。
反抗できない様子。
あの子はこの男に決闘で負けでもしたのだろうか?
それにしても、同じ学生を「ゴミ拾い」のパシリ扱いするなんて……
なんて非人道的な不良学生なのだろう。親の顔が見てみたいものだ。
「ま、まずいっ……行くぞ、ノーウェ」
急に慌てだすブルート。
あと、こいつどさくさに紛れて初めて俺を名前で呼んだな。まあ、いいか。
行くぞと言われても、この状況でこの場を立ち去るのはさすがに気が引ける。
猫の容態も気になるし。
「あの男に今、目をつけられるのはまずいぞ。あいつは俺らと同じ新入生で、現在学年ランク2位。強力な『土魔法』の使い手だ。称号名は『土屑』」
ブルート曰く、ガラの悪い茶髪の男子学生の名はトラスカム。
ブルートが5人いてもまだ足りないぐらい、見るからにいけ好かん男だ。
学年2位ということは……ブルートよりもランクが7つ上か……
そう聞くと、案外たいしたことがない奴に聞こえるけど、あの傲慢と不遜と過大評価を立体化させたようなブルートがかなり慌てているぐらいだから、2位と9位の間の差は、実際はもっと大きな隔たりがあるのだろう。
強力な土魔法使いというのもなかなか厄介な感じだ。
風水火土を表す昔からの格言でこんなものがある。
疾さ(素早さ)の風魔法
用途(汎用性)の水魔法
火力(攻撃力)の火魔法
堅さ(防御力)の土魔法
実際は、魔力が均一であれば、そう言われるほど属性による大きな力の差はないのだが、土魔法が堅固で防御面に最も効力を発揮しやすい魔法であることは疑いようがない。
それはつまり、属性魔法においてはハイ級程度の威力しか出せない俺にとっては、やや組みしづらい相手ではあるということだ。
仮に森で土魔法を使う装甲の硬い魔物が現れたら、あまり積極的に戦いたいたくはない。
「あーん?お前はブルートじゃねえか?何だぁ?お前も一丁前に従者を引き連れているのかよ?」
考え事をしながらその場に立ったままの俺を置いて、その場からこっそり立ち去ろうとしていたブルートをガラの悪い声が呼び留める。目をつけられたのはブルートの方だった。
従者って俺のことか?
それよりも、この2人はどうやら前々から知り合い同士らしい。
「ぐっ……あの男は伯爵令息だ。取り巻き共も皆貴族の子女たちだ。何度か貴族の茶会に居合わせたことがある」
ブルートがそそくさと戻って来た。どっちなんだよ!?
伯爵令息ということは、たしか子爵よりもひとつ上の爵位だから、ブルートより貴族としての格が高いということか。
この貴族の爵位というやつもなかなか面倒くさい。
村と違って複雑怪奇にして魑魅魍魎。
村で役職名があって偉いのは村長と助役の2人だけ。
そして、村長よりも村長の奥さんの方が圧倒的に偉い。単純明快。
まあ、でも、ここは実力主義の学園だしな。
俺には関係ないことだな。
「それにしても、ブルート、お前の従者のその服装はなんだよ?ぷぷっ、今どきローブだけって……いくらイケてないお前の従者だとしてもダサすぎるぜ!?」
「おい、そこの《《ドクズ》》のゴミ野郎。今なんて言った?」
「あん?」
「いや、何も答えなくて良いからさっさと『決闘』しろ。掃除してやる!このゴミクズクソ貴族腐れ野郎!」
俺は学園に来て初めてキレた。
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




