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3-83『申し出』

◇「本選1回戦(ベスト16)」翌日◇


 今日は完全休養日。


 俺は、派閥の持ち家である『紫雲城』のソファにゆったりと腰掛けている。


 片手に山ぶどうスカッシュ、片手に紙札を持つスタイル。


 うむ。

 今回は「役」まで遠い感じ。


 ここは最低限、相手に振り込むことは避けたい。


 それにしても、昨日のブルートは圧勝だったな。

 4日前の派閥内臨時決闘、『芝刈り』でのポンコツ具合はいったいなんだったのか……と思ってしまうほど、ブルートの魔法は冴えに冴えていた。


 実際、相手の、なんか扇子持って踊ってた人の『領域支配』を文字通り切り崩すきっかけとなったあの水魔法と風魔法を合わせた鮫の牙は、『草刈り』中も何度試してもできずにいて、夕暮れまで居残り練習をしてようやく何回か成功できる程度にまでなった技だった。


 なのに、昨日の決闘ではパーフェクトに発動。

 ……あいつ、ひょっとして本番に強いタイプか?


 ……俺は、ジュースの入ったグラスを置いて、手札を1枚切った。


 ……通った。


 最初の引き運が悪くても、洞察力と勘を駆使すれば、負けることはないんだよ。


「『スカウト』!」


 カーティスの捨てた手札を「スカウト(引き抜き)」するブルート。


 昨日の決闘と同じように、積極的に動いている。


 ……序盤の「スカウト」は、狙っている「役」を表明するようなもんだから、あまりしない方がいいと思うけどね。


 「役」はいくつかの揃った「パーツ」の組み合わせによって決まる。


 「パーツ」は、同じカードだったり、同種のカードの属性違いだったり、同属性による決まった並びの配列だったり、いくつか種類があるが、他人から「スカウト」した場合、そのカードの配属先である「パーツ」の手札を晒さなければならない。


 この「パーツ」によっては、決まった役しかできない場合もあるので、晒された「パーツ」と捨て札によって、スカウトした者がどの役を狙っているのかが読めるということだ。


 まあ、ブルートの場合、今、引き運があるから、役上がりの際に、自分で上がり札を引く、「ハイアー(登用)上がり」を狙っているのかもしれないけどね。


 ……それか、なんも考えていないか。


 俺は最近、引き運がないから、ここは大人しく静観して様子見だ。


 引き運がない、というより、寄ってこなかったからな……くじが!


「それ、『スカウト』!」


 またもや、ブルート動く!


 2つパーツが開かれれば、ほぼ何を狙っているのかが分かる。


 しかも、自分の手札を眺めながらニヤついているので、もう「役上がり」まであと1札だということが分かる。


 山から引いた札を手札と照らし合わせもせずに捨てているしな。


 でも……


 大丈夫かぁ?


 お前が狙っているであろう手札は、俺が2枚持っているんだけどな。


 もちろん、俺はこの札を切らんよ。


 あとは、他のメンバー次第だが……


 このカードゲーム、「宮廷魔導師団ロイヤルマジシャンズ」において、他のプレイヤーも猛者揃いだからね。


 淡々と表情を変えず、手堅い役を狙い、滅多に「スカウト負け(スカウト上がりをされること)」をしない、人呼んで「絶対不動うごかずのカーティス」……


 多彩なカード戦法で臨機応変に戦う、人呼んで「究極万能オールラウンダーのハリー」……


 派閥内大会における現王者にしてこれまでの最高勝率を誇る、人呼んで「完璧頭脳パーフェクトブレインのリバー」……


 彼らが、このブルートの動きを見て、うっかり「スカウト上がり」をされるなんてことはまずあり得ない。


 えっ、俺?


 俺は、人呼んで「ヤマ勘のノーウェ」だよ。

 ……ダセェ。


 一応、栄えある初代王者なんだけどな……

 不思議とそんなに負けてはいないんだけどね。


 ブルート以外の3人の札状況を確認する。


 カーティスは、おそらく、この場は「役上がり」を諦めて降りている。


 ハリーはまだ迷っている感じか……

 どちらにも動けそうな捨て札の状況だな。


 リバーは、相変わらず手の内が読めない。


 俺はというと、早々に「役上がり」を諦めているので、あとは、他のプレイヤーに「スカウト上がり」をされて「スカウト負け」(「振込み」ともいう)することがないように、相手の「捨て札」や比較的役に繋がりにくそうな札を捨てていくだけだ。


 ちなみに、このゲームのルールとして、「自ら捨てた札と同じ札は『スカウト上がり』できない」というものがあるので、「スカウト上がり」されたくない場合は、そのプレイヤーがすでに場に捨てている札を捨てればいいわけだ。


 ブルートの開示している「パーツ」は両方とも水魔法にまつわるもの。

 そうなるとこの男が狙っている「役」は水関係で、2種類しかない。

「水龍魔導師団」か「水先案内人」のどちらか……


 2つの「役」の違いは、同じ水魔法の札から派生するパーツの違いだけだ。


 派生といえば……


 本番に強い男、ブルート=ポンコツ=フェスタは、昨日の決闘の最中に、何度も試行錯誤していた『鮫の牙』の魔法技を成功させただけでなく、自身の周囲に水玉を張り、自在に動きながら相手に不意打ちとなる横からの一撃を加えたり、いくつもの『蛇の牙』を作って放ったりしていた。


 あれ、決闘中に思いついて試していたよな?

 直前に、動きを空中で確かめてから、そのあと、攻撃を開始していた。


 あの踊りは、見ていてなかなか恥ずかしかった……

 鮫の腰の振りに合わせてブルートの尻がくいってなっていたところが特に、ね。


 1つのことに集中し過ぎると、周りが見えなくなって行き詰まることはあるものの、その壁を越えたら、枝分かれしてなっている実を一気に獲るかのように、次々と技を生み出していくあの集中力と才能には正直恐れ入る。


 今は、1つのことしか見えていない状態だけどな。


 俺は淡々と、ブルートの捨て札の中から、リバー、ハリーが狙っていなそうなものを照らし合わせて順に捨てていく。


「できたっ!『水龍魔導師団』だ」


「「「「え?」」」」


 まさかっ!?


 俺たちは、「ハイアー(登用)上がり」を果たしたブルートを全員凝視していた。

 やはり、この男には引き運が来ているのか?


「ふはははは!風が吹いているぞ!」


 うーむ……

 なんとなくムカつくが、勝負は勝負だからな。

 ここは素直に褒め讃えるしかないか……


「……ブタですね」


「え?」


 リバーが急に呟いた。


「ブルートは『ブタ』です」


「り、リバー!おっ、お前何を言う……」


「ブルート、よく見てください。貴方の手は『役』が成立していません。『役』が成立していない状態で上がることを『ブタ』といいます」


 俺はブルートの手札をよく見てみた……


 ……あ、ホントだ。

 ブルートは、「水の魔法」と「風の魔法」を1枚間違えている。

 たしかに、パッと見だと、青と緑だから見分けがつきにくいことはあるものの、ずっと手札として持っていれば気づくだろうに……


 画竜点睛を欠く、とはこのことだな。


 ポンコツのポンコツたる所以だ。


 青ざめるポンコツ……


「ノー!!」


 そして、叫ぶポンコツ……


「ブルートは、これで最下位が確定しました」


「ブタ」によるペナルティで持ち点を失い、ポイントマイナスとなって敢えなく撃沈。


 初歩的なミスだから言い訳のしようもない。


 数秒前の高笑いがなんだったのかというくらいブルートは沈んでいる。


 ポイントマイナスが発生した時点で勝負ありとなるので、順位はそこまでて稼いだポイント順となる。


 勝者はリバー。

 2位はハリー。

 3位は同ポイントで俺とカーティス。


 俺とカーティスはポイントの積み方がまったく違うけど、同じ点なのが興味深い。


 まあ、負けなきゃなんでもいいや。


「大将ごち」


「もうハンデポイント持った方がよくないか?」


「う、うるさいっ!」


 ブルートは負けが込んでいる。

 たまにとんでもなく馬鹿勝ちすることがあるが、5回に1回あるかないかだな。


 なんていうか、大きな役を狙い過ぎなんだ。

 あまり他人のこと言えんけど。


「さすがに今回はブルートも惜しかったし、食事奢りではなく、『ヤキソバまん』で手を打つよ」


「くっ……!」


 歯ぎしりをするブルート。

 惜しいと言われると余計に悔しくなるもんな。


「『カルボナーラまん』も頼むデス」


「『ラグーパスタまん』も」


 腕立てやスクワットをしながら追加注文をする双子たち。


 追加注文はともかく、この部屋の筋トレを禁止にできないものか……


「某もご相伴させてくだされ。『マカロニ&チーズまん』が新発売されたそうですぞ」


「私も」


「ぼ、僕も」


「拙者も」


 レヴェックとジャックとブランクが、3人で陣地取りのボードゲームをしている。

 ダイゴは、それを眺めて順番待ちをしている。

 あのゲーム、最近流行っているらしい。


「えっ、俺が?」


 困惑するブルート、なぜか8人分増えたからな。


「私たちはパス」


 頭に湯気の立つタオルを巻きながらゴーグルを着けている女性陣。

 認識阻害魔法の訓練中だと。


 ……リラックスしているようにしか見えないけどな。

 魔法発動してねえし……


「そろそろ始めましょうか」


 カードをまとめ終わったリバーが立ち上がり、鞄からノートサイズのマスボを取り出して操作を始める。


 そう。

 今日の集まりは、オフの日のゲーム大会ではない。


 いや、それもあるけど……


 ここに派閥メンバーが全員集合した理由は、明日の「春の選抜決闘 本選第2回戦(ベスト8)」についての決を取るためだ。


「昨夜、運営から発表がありました。本選は1対1の代表戦を2戦行う『副・大将戦』に決定しました」


 ブルートの兄ちゃんの予言通り、決闘は「副・大将戦」となったようだ。


 どうやら、ブルートの兄ちゃんは占いに関しては弟よりも格上らしい。


 ブルートなんて、「風の流れが良くない」とか言って選び直した席で見事に敗北を喫しているしな。


「それでは、出場メンバーを決めましょうか。まず、『アンバスターズ』は『パス』とのことですので、残る13名から2名選ぶことになります」


 え?

 「パス」ってこっちのことだったの?

 「創作まん」のことじゃなかったのか。


「俺たちも今回は辞退させてもらう。まだ実力不足だ」


 続いて辞退を申し出たのは、カーティスたち「黒魔導師軍団」。


 彼らは専ら属性魔法の均一化、グラン化を目指しているから、それが叶うまでは派閥間決闘の個人戦は極力行わないとのことだ。


 カーティスらしい、地に足が着いた考え方でいいんじゃないかと思う。

 闇雲に思いっきり突っ走るよりも、1つ1つ、慎重に調べながら進んだ方がいい場合もあるからね。冒険者にとって、その姿勢はすごく大事だ。


「俺も今回は遠慮する。【堅切鋼】との戦いで、自分に足りないものがよく分かった。まずはそれを克服してえ」


「私もですね。今後について、少し思案したいところです……とりあえず、個人戦は辞退します」


 ……とハリーとリバー。


 【堅切鋼】の2年生コンビと戦った2人は決闘には勝った。


 だが、相手との実力差ははっきりと感じた、と2人とも話していた。


 俺も、コイン先輩との火力の差は感じたけど、対抗する術はある。


 ハリーとリバーも、その頭脳を駆使すれば、嵐と泡の2文字称号コンビを翻弄でき、相手を撃破することも可能だろうが、勝利の確率を上げるためには、やはり決め手に欠ける。


 それをなんとか開発しなくては、ということなんだろうな。


 その気持ちも分かる。


「ボクたちも辞退デス。もっと筋肉をつけないといかんとデス!」


「そーデスネ!」


「「がるるる〜」」


 ……筋肉はもういいんじゃないかな?


 その気持ち、全然分かんねぇ。


「『副将・大将』戦ですし、我々としてはノーウェとブルートに託したいということですね。ここからは、2人にお願いしたいところです」


 それが、他の派閥メンバーたちの申し出であった。


 次のベスト8以降、ベスト4・決勝と勝ち進んでいったとしても、彼らは、代表戦(1対1)には出ないという意思表示だ。


 ここからの戦いは毎回『殿上人』との戦いになってくるので、それは言ってしまえば、【堅切鋼】クラスと都度、決闘していくということになる。


 その中での代表戦ということはコイン先輩、あるいは副長のクォーター=ムソウ先輩クラスの強敵と毎回対峙していくというわけだからね。


 そこは、ブルートと俺が任されたということだ。


「あとは、どちらが副将戦、大将戦に出るのかということだけですが……」


 リバーが俺とブルートを見る。


「俺はどっちでもいいんだが……」


 俺がハリーとカーティスを見ると、2人はゆっくりと頷いていた。

 これは、話した方が良いということなんだろう。


「……実は、一昨日の『本選抽選会』の途中で、ハリーとカーティスといたときに、【陶水とうすい】の長であるブルートの兄ちゃんから接触があった」


「兄貴から?」


 ブルートが顔を上げる。


「ああ。ブルートの兄ちゃんが言っていたのは、『大将戦』の方が、2戦合計で引き分けた場合の判定のウェイトが高くなるということと、ブルートの兄ちゃんは『大将戦』に出るそうだ。だから、俺に『大将戦』に必ず出ろと……」


 ブルートの表情が強張る。


「判定のルールは、その通りですね。あとは、通常であれば、『大将戦』に派閥の長が出るものですが……」


 進行役のリバーがブルートを見る。


「頼むっ、ノーウェ!俺に『大将戦』をやらせてくれ」


 ブルートはまっすぐに俺を見つめて頭を下げた。


 ……やっぱそうなるよね~。


 まあ、俺は本当にどっちでもいいんだが……


「……ブルートにとっては、兄貴との対決はどういう位置づけなんだ?」


「俺にとって……兄はずっと超えたいと思っていた存在だった」


 いつになく真面目な表情のブルート。

 それだけでも、ある種の覚悟は窺える……が……


「思っていた?」


「……ああ。家ではずっといじめられていたし、疑似決闘で何度も負けてきたからな。だが、今は兄を超えることが俺の最終的な目標ではないということに気がついた……」


「……」


「俺が目指しているのは兄を超えてその地位を奪うことでも、家をどうこうすることでもないからな」


 ブルートは、背筋を伸ばして、顔をしっかりと上げてそう宣言する。

 その所作、実にアンデッドもどきらしくない。


「……それでも、戦いたいのか?」


「ああ。それでも、自分がどこまで近づいたのかを知りたいし、俺は兄を《《越えて》》いきたい……!だから、やらせてくれ」


「そうか……じゃあ、いいよ」


「えっ?」


「だから、いいよ」


 自分で頼んだのにきょとんとした顔するなよ。


「そ、そうか、すまん……」


「まあ、その前に『ヤキソバまん』買って来いよ。お前、負けたんだから」


「う……」


「約束は大事ですね。頑張ってください」


「そうだぜ、大将!頑張れや。あと、ちゃんと自分の手札は確認した方がいいぞ」


「悪いな、いつも。あと、博打するときはあまり顔に出さない方がいいぞ。見え見えだから」


「う、うるさいっ!お前ら」


 リバー、ハリー、カーティスに背中を叩かれるブルート。

 皆の檄を受けながら、ブルートは走って飛び出して行った……!


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


どうやら、兄弟対決となるようです……


次回、相手側の事情……


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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