3-81『不満なブルート』
◇回想 3日前◇
ギルドの持ち家である『紫雲城』の裏庭……
ノーウェ、リバー、ハリーと『草刈り』の派閥内臨時決闘に興じていたブルートは、不満をその心に溜め込んでいた。
翌日の対【堅切鋼】との決闘に参加できないことについても、少なからず不満ではあったものの、そちらはまだ自分なりに咀嚼して飲み込むことができる。
憤懣やる方なかったのは、急遽行われた派閥内決闘の惨憺たる結果と自分自身の不甲斐なさに対してである。
ノーウェに対しては、これまで何度か行なった派閥内決闘や訓練での対戦のどの場においても、いまだに1度も勝てていない。
どんな条件、どんな局面でも、飄々としながらその場での最適解となる青魔法と赤魔法の組み合わせを一切の躊躇なく繰り出してくるその戦い方に対して、自分はまだまだ圧倒的に経験値が足りない。
場数が足りていないのだ。
その事実は、しっかり受け止めているので、まだ冷静でいられる。
着実に強くなるだけだ。
ところが、この4人それぞれが互いに入り乱れたバトルロイヤル形式の決闘で、ブルートは、リバーとハリーの2人にも遅れを取った。
「草を多く刈った者が勝ち」という特殊な条件のもと、相手の邪魔をしながら、効果的に草を刈る魔法を発動させる……
本来であれば、風魔法の強化を果たしたブルートに有利な条件であったはず。
だが、結果は断トツの最下位。
悔しかった。
アホみたいな威力の刈り技を持っている反則紫魔導師は置いておいて……
リバーには言葉巧みに誘導されて、こちらがいざ魔法を放とうとしたところで地面を操作され、邪魔された。
ハリーには、魔法の発動の速さにおいて遅れをとり、こちらが邪魔をしようにも躱されてしまい、挙げ句には、相手はこちらの邪魔をしながら草を刈るという器用な立ち回りに翻弄された。
頭脳派で器用な2人に対して、分の悪い部分があったにせよ、それを上回る魔法力と、ここ1か月の訓練による成長で、自分の方が上回れると思っていた。
だが、結果は芳しいものではなく、戦術面において、大きく後れをとり、何度も空回りさせられた……
何より、落ち着いて発動すれば2人には決して引けを取らないはずの風魔法が、「草を刈る」、「互いに邪魔し合う」という2つのタスクが求められた瞬間に上手く発動できず、まったくの役立たずになってしまった。
そんな自分が歯痒かった。
だから1人、居残りをしながら残った草を刈った。
自分はなぜ2つのことをうまく同時進行できないのか?
よくよく考えてみれば、属性魔法についてもそうだ。
風魔法の強化は叶った。
でも、「水」と「風」を器用に使い分けたり、分離させて同時に発動させたりが、どうもうまくできない。
自然と融合することはできても……
これでは、巨大な『領域支配』など夢のまた夢だ。
『領域支配』は得意な属性魔法をベースにして、付随する複数の魔法を調整するのが真髄。
それは例えば、炒り豆茶や紅茶のブレンドのように、配合のバランスを試行錯誤し、自分なりの工夫を加えて、独自の持ち味を出すのがその第1歩なのだ。
自分にそのような微細な技が使えるようになるのだろうか?
繊細な調整がはたしてできるのだろうか?
風魔法を単独で使えるようになって、すっかり有頂天になっていた。
まだ、入口にも到達していない……
ブルートは草を刈りながら大いに焦った。
自分にとっての決戦が近づいているこのときになってようやく、足りないものに気づくなんて……
草すら上手く処理できずに、考えに考えた……
考えに考えた結果、はっといつの間にか草が刈れて……
ブルートは、1つの解決策を見出した。
おそらく、ひらめいたのはその頭脳ではなく、魔法を無意識に発動させているその身体……
ヒントになったのは、ノーウェの放ったアホみたいな魔法。
巨大な空気の鎌による1振りで、周辺の芝を根こそぎ刈っていった途方もない技……
ギリギリのけ反って躱すことで間近にみたその魔法を、ブルートの身体は、本人の意識しないところで本歌取りをしていた。
見よう見まねからの反復……からの独自開発……
それこそが、ノーウェ=ホームが一目置き、派閥メンバーが舌を巻く、ブルート=フェスタの特異な才能に他ならない。
温故知新……
『領域支配』は複数の属性魔法を駆使して、自分の支配圏を作り、そこから数々の工夫によって連動し、連続する魔法を行使していくこと。
イメージするならば大きな粘土の塊を千切って様々な形状のものを作っていくようなもの。
ブルートもまた、大きな粘土の塊を作ることばかり考えていた。
でも、いよいよ切羽詰まった状況になって彼の本能は気づいた。
それは……
相手が領域支配(大きな粘土の塊)を作るならば、自分はそれを一刀両断するほどの魔法を作れば良いだけじゃないか……
それが武器を尖らせるってことだろ?……と。
◇回想終了◇
「くっ、小癪な下郎めっ!よくもこの僕の顔に傷を」
「ちょっとは格好良くなったんじゃないか?」
「ほざけっ!『軟扇子』」
フルール=ニーツクは『領域支配』から「炎」と「水」の属性を持つ身体よりも大きな『扇子』を生み出すと、縦回転させつつ放った。
シャリシャリシャリシャリ……ギュイィーーン……!
馬車の車輪のように高速で回転する扇子は、ブルート目がけて唸りを上げて飛んで行く。
「『大鮫咬』」
パンッ!
ゴワーーー……ブーーーン!
シュパンッ!
放った2つの大きな扇子は、飛沫を上げながら横回転でこちらに向かってくるギザギザしたドーナツ状の水魔法の刃によって真っ二つになり、威力を失う。
それどころか、『水の刃』は、尚も勢いを保ち続け、2色の『領域』をズタズタにしながら、フルールに向かってくる。
防御すべきか?
焦った雅やかな優男魔導師は、常に自身を守っている風の塊による魔法の発動に遅れてしまい、咄嗟に、その身をずらすことで、向かって来る刃を回避する手段をとった。
ザシュッ……ガガガガ……!
自慢のローブの肩口が斬られ、1本の大きな傷と付随する無数の小さな傷が服にできてしまった。
「良い模様になったじゃないか?外側がシンプル過ぎるからもっと絵柄をつけた方が良いと思うぞ?」
「き、貴様ぁー!下郎の分際で僕の一張羅を!」
傷ついたのは自慢の服だけではない。
格下に見ていた『領域支配』もままならない下級生に脅かされている自分がいる。
それも、自身の魔法に不備があるわけではない。
相手が、マナーも知らないガキが、ズカズカとフルールの支配する領域に、勝手気ままに入り込んでいるのだ。
「ふざけるなぁっ!『盃燕銘句扇子』!」
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ……
シュシュシュシュシュシュ……
ボボボボボ……シュパパパパパ……
「炎」と「水」の競演による、鋭利な扇子の回転乱舞……
可能なかぎりの数を発動し、一斉にブルート=フェスタの方に向かわせる。
大技に対応されるのであれば、小技を器用に、限りなく増やして相手が対応できなくさせれば良い。
そう思って無数の扇子を発動させたフルール=ニーツクであったが……
「『蛇咬』」
ブルート=フェスタの発動した対抗魔法は、今度は無数の小さい牙……
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ……
ガブッ、ガガガガガガ……
小さな扇子の乱舞は、水蛇の牙によって、あっという間にかき消される。
ほんの数日前までは、小技ができないと悩んでいた男は、1つのきっかけを掴むと、たちまち、誰よりも多芸になる。
まるで、大技(大きな粘土の塊)から無数の派生技(千切られた様々な形状の粘土)が生み出されるように……
これもまたブルート=フェスタという男が身内から恐れられる能力……
1つの問題が解決すると、堰を切ったように、次々と新しいことをやり出す。
まるで、水を得た魚のように……
それもまた、実直に自身の魔法を見つめ続けてきた男だからこそ成せる業である。
「まだまだ足りないな……」
「え?」
空中を高速で泳ぐ鮫に乗る実直な男は何やらブツブツ呟いている。
「これじゃあ、まだ全然あいつに届かない……」
「なっ!?」
フルールが目を凝らすと……
空中に浮かぶマナーを知らない青髪の魔導師は、あろうことか、対戦相手のことをまったく見ておらず、明後日の方を向いていた……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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あいつとは……
そして、せっかくの状況でブルートは何を!?
次回、踊り……?
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




