3-73『魔導師の決闘』
『認識阻害』の魔法を使って攻撃するとき、最も効果的な場面はいつか?
それは、効果が切れる間際である。
『認識阻害』が掛かっている間に……なんていうやつは2流。
掛けた直後に気を逸らせて攻撃をし始めるのは3流。
1流は、相手にとってのまどろみと現実の狭間を狙う。
夢うつつが狙い時ってわけだね。
まあ、俺も魔物以外で『認識阻害魔法』の使い手にそんなに会ったわけじゃないけどさ。
えっ、どこぞの銭ゲバ?
あいつは、存在そのものを認識阻害したい。
むしろ、してくれ。金輪際!
第2決闘の【紅七星】戦でディリカやレミたちが『認識阻害魔法』を使っていたけれど、あの『ハバメル』という魔法を使うのであれば、他の属性魔法なんかと組み合わせつつ、その効果が切れる瞬間に魔法を使った方が良い。
つまり、あの魔法は、実は遠距離攻防よりも、近接戦闘に向いているんだ。
遠距離だと相手も判断できる間が生まれるけど、近距離だとそうもいかなくなるからね。
まあ、第2決闘に限っていえば、相手の『先読み』を防ぐ目的だったみたいだから、あれはあれで、正解な使い方ではあったけど。
さて、この凶悪な『ミラージュミスト』による認識阻害……
阻害というより改変に近いか。
幻と現実の狭間を狙うことの意味は……といわれれば、それは相手の思考の隙を作ることに他ならない。
見ているものが現実か、それとも幻か……
どれだけ他の感覚を研ぎ澄ませようとも、その情報を整理する過程の中で、多少なりとも戸惑いは生まれる。
これまで2回、先輩の思考の隙を突いてこれたけれど、それは慢心によるものだった。
さすがに3度同じ轍を踏むことはないだろう。
だからこそ、こちらで作り出すしかない。
その隙を。
ブォーン……ブォーン……ブォーン……!
俺は先輩の真似をして巨石の魔法を3連発で放つ。
大きさまでは真似できないけどね。
ペタリッ……
そして、放った石を『ウインド』で追いかけ、『壁ぬい』を発動して、石の下面にべったりと貼り付く。
さて、どこまで行けるだろうか……
「……『武石降離』」
「『ウインド』」
ボガーン、ボガーン、ボガーン、ガラガラガラ……
うおぅっ!
先輩の放った巨石が3つ飛んできた。
想像以上に見破られるのが早かった!
ほんの一瞬だけだったな。
「……よく迷いませんでしたね?」
「……いや、石にへばり付いているお前が仮に幻でもとりあえず潰しておこうかと思った。『武石』」
ブォーン……!
……たしかに。
言われてみれば、攻撃を躊躇う理由はないな。
「なんでそんな真似をしているかって、その理由に疑問はあるけどな。まあ、お前ならやりそうだし……『武石』」
ペタリッ……ブワッ……ペタリッ……ブワッ……
なんと!すでにこちらの性格まで読んでいるとは……
コイン先輩、侮り難し!
「なるほど。でも、今もまだ先輩は『まやかし』の中にいるのかもしれませんよ?」
「ははっ、お前が魔法だけでなく、その言葉によっても幻惑してくることは理解しているつもりだ。すべては確かめてみれば済むことだな」
ご名答。
魔導師同士の戦いは、何も魔法だけじゃない。
言葉による誘導、挑発、騙し(ブラフ)……頭脳を用いた会話戦も勝負の内だ。
この種の戦闘時の化かし合いは、ほとんどの魔物相手にはできない戦いだからな。
あいつら、むしろ化けるし……
この駆け引きが楽しくて仕方がない。
とまれ、『ウインド』と『壁ぬい』で先輩の石も利用して近づかせてもらった。
その身体がかなり近くに、大きくなってきた。
コイン先輩からは俺がどう見えているかな?
あ、目を瞑ったから見えないか……
さあ、来い!
「『邪愚鍋』」
ブォーン……ブォーン……ビュンッ、ビュンッ……シュパパパパ….
空中、四方八方に配置された大中小、様々な大きさと形状の石による無差別乱撃……
どれか1つでも当たればこちらの動きは止まり、さらに連撃が襲ってくる。
さっきはまだ発動者である先輩との距離が微妙に遠かったから耐えれたけれど、ここまで近づき、囲まれた中で喰らったら、まずアウトだろう。
1発でも問答無用に勝負を決められるその威力が素直に羨ましい。
まあ、この技で来るだろうな、とは思っていたよ。
「『王手待ち』」
先輩の『領域支配』は風を全体に行き渡らせた場合だと半径10メートルない程度のようだ。
それは、俺が今囁くように唱えた『王手待ち』の射程範囲と同じくらい。
いや、こっちの方が少し広いか。
どちらにせよ、目と鼻の先の距離。
例えるなら、道伝いに街と街が見えるくらいの間隔……
その範囲で、コイン先輩が発動した魔法がまるっとなかったことになる……!
『王手待ち』という魔法は、「森の賢者」とよばれる魔物の専用魔法で、相手の発動した魔法を1回だけなかったことにできる魔法。
先輩の『邪愚鍋』という魔法は元の状態に戻った。
消えたのではなく、元に戻った、というのが重要。
「……な!?」
先輩は閉じていた目を大きく見開いた。
「だから言ったでしょ?まだ、『まやかし』の中かもしれないって」
あと少し……
俺は駆け出して一気に距離を詰める。
本当の目と鼻の先までね。
『ミラージュミスト』と『王手待ち』は、連動させるとこれ以上ないくらい相性の良い大技コンボだ。
現実と幻の境界を曖昧にした上で、相手の現実まで変えてしまうからね。
凶悪でしょ?
ただ、難点もある。
燃費が激しく、これを使った場合、あっという間に魔力量が底を尽く。
今の状態の俺では、中級魔法残り数発分しか放てなくなってしまうほどに。
つまり、チャンスは1度きり。
タッタッタ……タッタッタ……
足で近づき……
「『ウインド』」
ビュンッ……
前方に飛ぶ。
これから繰り出す魔法にすべてがかかっている。
これまでの戦いで打った布石は、すべてここで回収するためだ……!
「もらった」
俺は先輩の顔面めがけて渾身の魔法を放つ。
「『防塞頭金』」
「え?」
コイン先輩は、俺が魔法を放とうとしたその瞬間に、胸から上の上半身に金剛の防護を施した。
「……そう来ると思っていた。お前を真似て、俺も終わりから逆算してみたんだ。それで、過程がどうであれ、執拗に下ばかりを狙っていたお前は最後の大技は上を狙ってくるだろうってな」
……マジかよっ!?
この数分でどんだけ成長するんだ、この人は!?
完全にしてやられた……
……
…………
………………
なーんてね!
パフッ……
「え?」
そもそも、もう大技は使えないんですよ。
こっちの最後の布石は1番の省エネ魔法、『マジックパフ』なんです。
「こっちも逆算してたんです。『ハイファイア(火槍)』」
自分でも気づいていない癖を直すのはなかなか難しいもんだ。
コイン先輩が俺の性格からの行動を読んだように、俺も先輩の性格から由来する癖は読んでいた。
そこから決め打ちするだけ。
『マジックパフ』の最大の利点は、魔力量消費の少なさもさることながら、放った後に他の魔法を放つための「待ち」の時間がほとんど存在しないこと。
『れんぞくま』と同じくらい……いや、ひょっとしたらそれ以上の速度と頻度で、他の魔法を発動できる。
『フロート』と双璧をなす手軽さ。
面白いよね、それを使う魔物の希少さは天と地ほど開きがあるのに。
だから、『マジックパフ』とハイ級の属性魔法の組み合わせもまた、使い方によっては効果的なコンボとなる。
コイン=ドイルという男は、守りに絶対の自信を持っている。
俺が大技をチラつかせれば、戦術における終着点では、必ず1番の防御技を使う。
それゆえの1つ手前での『王手待ち』だったんだよ。
たとえ、最上の魔法で身を守ったとしても、発動者が人間であるなら、意識を含めてすべてを網羅できるわけじゃない。
認識のズレ、心理の盲点、思考の隙……
その穴を突けば、中級の魔法であっても、絶対に、相手を貫くことができる。
みんな、見ていてくれ!
グサッ……ボッボァー……!
「ぐはっ……」
槍の形になった『ハイファイア』がコイン先輩の右脇腹を貫く。
ドーーーン……ガンッ……!
仰向けに倒れるコイン先輩。
胸から上に纏った硬石の鎧が舞台の床とぶつかり金属音が響き渡る。
「おおっとぉーーー、これは決まったかぁーーーー?」
先輩は床に伏したまま、身動きが取れないでいる。
必死で身体を動かそうとはしているけれど……
うまく反応しないようだ。
人間である限り、いくら身体や自身の魔法を鍛えたとしても、攻撃を受けたら守り切れない場所がある。
そして、1度ダメージを受けたら、回復魔法でも使わない限り、しばらく動けなくなる部位も……
「無理です。これはマスクストップぅーーーー!!勝者ぁ、ノーーウェ=ホーーームぅ!!……『グランヒール』!治療班、急いで舞台にっ!!」
途中でマスクを剥いだ、白いスーツの立会人兼治療院長の判定により、倒れたコイン先輩は決闘続行不能となり、俺はブロック戦大一番の決闘に勝利した……!
第3戦……ノーウェの勝利!
第3決闘
【紫雲】VS【堅切鋼】
2勝1敗で【紫雲】の勝利!!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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皆さん、肝臓を大事にね……
次回、久々にあいつが登場します!
2話前に光っていたあいつです……笑
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




