3-68『乾坤一擲』
反撃を試みる場合、その最も適切なタイミングは、相手が前がかりになって猛攻を仕掛けているときだ。
もちろん、そのラッシュをなんとか堪えるための防御、耐久力を併せ持ち、相手の打ち終わりを的確に見極めて、腹を括った上での渾身の一撃を放つ必要がある。
これは、あくまでも、普通の強者に対しての基本的な反撃戦術だ。
普通じゃない、さらなる強者相手には、戦術において、もう1段階、先回りしなければならない。
なぜなら、彼らは、そんな彼らにとっての想定外をも咄嗟に乗り越えてしまうだけの本能、対応力、判断力といったものが備わっているからだ。
リバーやハリーが奮闘した第2戦でも、相手の先輩たちはその片鱗を見せていた。
こちらの攻撃を本能的に察知して躱したり、咄嗟の判断によって自身の身を守る手段を取ったりしてくるわけだな。
例えば、森を跋扈するオークの上位種は、攻撃を受ける瞬間に鎧のように纏った自身の分厚い筋肉を鋼鉄張りに硬直させ、生半可な攻撃であれば、逆に弾き返してしまうほどにその防御力を一時的に急上昇させる。
あるいは、岩山に棲む巨大な怪鳥は、自身が攻撃されたと認識すると、一瞬でその飛行速度を上昇させ、強弓から放たれた矢をいとも簡単に避けたりする。
認めよう……
コイン=ドイルという先輩は、あの強い魔物たちと同格の強者であると……
……おっと、そんな場合じゃない。
俺は、周囲を固い石の凶器に囲まれている最中だった……
決闘開始時に互いに魔法を打ち合って牽制する中で、俺は、コイン先輩の巨石攻撃とコインサイズの石の散弾攻撃は『マジックボム』と『スプラッシュマジック』を用いて相殺することができていた。
でも、その中間にある、巨石を小さな四方体のブロックに分裂させて放ってきた攻撃に対しては、『コルナード』によって、その勢いを殺して、地上に落とすのが精一杯だった。
先輩は、その様子を見て、散らばり落ちた小さいブロックを「布石」として用いたわけだな。
そんな小箱サイズの石が50個はあるだろうか……俺の周囲半径5メートルくらいを、逃げ場を塞ぐように、上下左右、等間隔に取り囲んでいる。
1つでもぶつかれば、固い拳で1発殴られる以上のダメージは受けるだろう。
それが50……だから50発、全身に打ち込まれるというわけだ。
なんで、こんなに落ち着いていられるかというとだな?
こんな経験は何度もあるんだ。
もっとヤバい状況だったと言ってもいい。
いくら攻撃力のある石のブロックであっても、意思をもって向かって来る魔虫の大群とかに比べたら、なんてことはないしね。
無数の皇帝蜂に囲まれたときなんかはもっと冷汗をかいたもんだ。
それと……
……こっちも、この状況を見越して、ちゃんと「布石」を打っているんだよ。
ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……
「む……」
「『ハイウインド』、『フロート(解除)』」
『領域支配』の特性はあくまでも、属性魔法によって物質なり、空間(領域)なりを支配するところにある。
炎にしても、水にしても、風にしても、土にしても……
そして、それらの複合にしても……
コイン先輩によるこの総攻撃も領域支配の一種だ。
作り上げた「土」のブロックを「風」によって空間支配し、その領域内において自在に操作する。
自分から離れた場所でも、こんな芸当ができる時点で、先輩が規格外であることはもはや語るまでもないことなんだろうけども、とりあえず、対抗し得る手段は2つしかない。
1つは、どうにかして「支配」を「解放」してしまうこと。
これは、先輩と同等の属性魔法の威力や魔力が必要となってくるのでなかなか難しい。相手が熟達者であればあるほど……
ごく1部、スポット的なものであれば俺のハイ級の魔法でもできるけどね。
もう1つの方法は、気づかれないように、その支配を塗り替えてしまうこと……!
同じ属性魔法でこれをこっそりと行うことはちょっと難しい。
先輩ほどの手練れであれば、その領域内で俺が『風』を発動させていることに気づいてしまうだろうからね。
でも、俺には唯一の盲点となり得る魔法がある。
それが、無属性の青魔法である『フロート』だ。
俺ってば、この魔法をまるで「ヤキソバまん係」のブルートみたいに頻繁にホイホイ使うもんだから、派閥メンバーのみんなからは、これをごく簡単な一般的な魔法の部類だと思われがちなんだけど……とんでもない!!
この『フロート』は、俺が手に入れた青魔法の中でも、格別、習得に苦労した魔法なんだよね、これが……!
まず、この魔法を使う魔物は滅多にその姿を見せない、レア中のレアな魔物。
しかも、土色をしていて、森の中でも、木の葉や木の枝や土の色に紛れて見分けづらい上に、すばしっこい。
人前に姿を現わしたとしても、足だけ咬んですぐに逃げてしまうというはた迷惑なその魔物は「ツチノコ」。
俺が、幸か不幸か、この魔物の大好物であるとある食べ物を、どこぞのクソ女の依頼によって調達した帰り道で出くわしたために、一戦交えることになったんだ。
まあ、跳ねるわ、浮くわ、空中でステップするわ、火を吐くわ、で大変だった。
結局、少々こらしめただけで、完全に倒してはいないけどね。
べつに、そこまで人に害をなす魔物でもないしさ。
彼には今後も伝説の魔物として人々の間で噂になっていてもらいたい。
そんなわけで、『フロート(ステップ)』はそのときに得た思わぬ副産物だったというわけだ。
この魔法は本当に便利なもので、俺自身を含め、あらゆる物質を任意で簡単に浮かせてしまう。
もちろん、限りはあるわけだけど、重いものでも単体であれば、結構な重さまでいけるし、軽いものであれば範囲内複数も可能だ。
あんまり多いのは難しいけど。
そして、この魔法の何よりも重要な特性は魔法の上書きをするということ。
つまり、魔力によって浮いている物質に『フロート』を掛けた場合、元の魔法はその効力を失ってしまう。
同時に掛ければ別だけど、それは『紫魔道師』の俺にしかできない。
今回で言えば、コイン先輩の風の支配を受けて浮いていた事実は、『フロート』が掛かった時点で上書きされてしまい、消えてしまう。
そして、俺がその『フロート』を解除したらどうなるか……
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、ガランッ、ガランッ、ガラガラガラガラ……
その答えは、浮力を失ってすべて地面に落ちる……だ!
単純な魔法だけど、使い方次第では恐ろしい効果を発揮することもあるんだよね。
ともあれ、これで目の前の視界が開けた。
ビューーーン……
一気に飛ぶ。
ガラガラガラガラ……ガラガラガラガラ……
後ろでさらに石のブロックが崩れる音がする。
もうそこに俺はいないけどね。
「『ハイアイス(氷槍)』」
前方に飛んだ俺は、一気に先輩に近づくと、『氷の槍』をその右手に発動させる。
「……『嶺護』」
「石のカーテン」を選択したか……
先輩を倒すことのできる可能性は3つ(2つはセットだが……)
「速さ」、「広域」での「高火力」。
どれも俺には心許ない。
特に、属性魔法においては。
でも、接近戦であれば、先輩が大技を用いて対応できない程度の一瞬のスピードを生み出すことはできる……
虚を突き、風魔法によって一瞬のスピードを生み出せば。
案の定、先輩は周囲のブロックを用いた、より固い防御の手段を取らなかった。
俺が生身で飛び込んだということへの考慮もあったのかもしれないが、そう考えるのであればそれはただの傲慢だ。
これは真剣勝負なのだから。
その決断が命取りにならないといいね。
「『れんぞくま』」
俺は、左手に『風』を生み出す。
ハリー……それに他のみんなも、瞬きをせずによく見ておいてくれ。
次のステップだよ。
『れんぞくま』の極意は……どちらが先に放ったか分からないほどの、ほとんど同時発動に近いまでに、互いの間を近づけることにあるんだ。
「『風玉(攪拌)』」
ゴオォーーー……シュルシュルシュルシュルーーーーー……
「ぐっ……」
石のカーテンのすべてを壊す必要はない。
点でいいんだ。
右手の『氷の槍』の軌道に合わせて穴を作る。
それよりも、先輩の身体にまで届く意識の方が大事。
先を見越して、いかに強者であっても防げないように……
ヒュンッ……グサッ……ピキピキピキ……
「ぐおっ……」
石のカーテンに空いた穴を通り抜けた『氷の槍』は、穴から覗いた先に見える脇腹に突き刺さり、コイン先輩はそのまま仰向けに倒れ込んだ……
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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決まったかーーー?
次回、コイン先輩視点です。
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




