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3-65『ノーウェ=ホームという男』

 舞台に上がる階段の前……


 俺は肩で息をしながら無言で舞台を降りるハリーとリバーにハイタッチをする。


 言葉はない。


 さもありなん……


 気持ちは痛いほど分かる。


 強敵と出くわし、倒したときに抱く感情……

 達成感が大きいと思われがちであるが、実は違う。


 それは、あくまでも冒険者の依頼において目当ての魔物を倒した場合など、自分のその時点での実力や目標に見合った相手に限った話だ。


 では、突発的に現れた強大な魔物を死力を尽くして倒したところで抱く感情は何か?


 ……それは、大きな疲労感と己の無力さだ。


 自分は限界ギリギリでようやく倒した相手は、自分よりもはるかに、楽に強烈な攻撃を何度も繰り出していたり、こっちが魔法を100回放ってようやくおねんねするような頑丈さであったり……


 そんなことは、あの森ではザラだ。

 そして、その度に、自分にもっと魔導師としての実力があれば、と悩んでしまう。


 でも、そうやって、悩みながらも前進して強くなるしかないんだよな。

 近道はないから。


 ハリーも、リバーも、見る限り全力だった。

 あいつらなりに考えた作戦をほぼ完璧に遂行し、10分の決闘時間の中の8割は自分たちの思い通りにコントロールしていたと思う。


 戦術的にはほぼ完勝。

 相手の2年生コンビの攻撃をほとんど空回りさせつつ、自分たちの攻撃は有効に叩き込めていた。

 格上の2年生2人の内、1人を見事に倒した。


 結果も内容もそれだけ見れば申し分ないジャイアントキリングだったことは間違いない。


 でも……だからこそ、その疲労感はより大きいものだと窺える。


 相手はその実力をフルに発揮できたわけではなく、その一端を示したのは、決闘においてわずか2割程度……にもかかわらず、そのわずかな時間、数回の攻撃でハリーとリバーの心胆を寒からしめるほどの攻撃ができるわけだから、これが、4割、5割……相手が圧倒的に優勢の場合どうなっていたんだろうということは想像に難くない。


 2人とも、それを分かっているからこそ、笑顔なき勝利なわけだ。


 それでも、1つ言えることがある。


 それは、そんな中でも、格上とされる『青嵐』のニッケルを、2人の機転と魔法で倒せたということだ。

 火力不足で悩まされるのは、俺たち『色付き』、あるいは2文字以外の魔導師の宿命……


 ……だけど、戦う相手は「ドラゴン」じゃないんだ。


 工夫すれば必ず勝てる。


 魔法の威力が足りない?


 相手よりも維持が難しい?


 だったら、その分、頭をより相手より使えばいいだけのこと。

 

 頭脳と魔法の両方を駆使して戦う……

 

 それが本来の魔導師のあるべき姿なのだから。 


 より適切なタイミングで、相手の嫌がる場所に魔法を放てばいいだけのこと。


 だって、ドラゴンとの戦いだってそうじゃないか……


 何が違う?


 今は心にかかったもやも、そのことに気づけば、きっとすぐに晴れるだろう。


 兆しはある。


 俺にハイタッチをしたその手は、力強いものだったから。


 きっと、彼らも乗り越えるだろう。


 だから、そのためにも、今度は俺が証明する番だ……!


 どんなに強い相手でも、同じ人間同士が戦うのだから突破口は必ずあるということを。


「お、おいっ!?ノ、ノーウェ!」


 ん?


 後ろから声が聞こえる。

 震えるポンコツの声が……


「なんだ?」


「い、いや……お、お前が緊張し過ぎていないか……こ、声を掛けただけだっ」


 青いローブを羽織った魔導師は、身を震わせながらそんなことをのたまう。


「どう見ても、お前の方が緊張してるんだが、大丈夫か?……てか、なんでお前が緊張してるんだよ?」


「う、うるさいっ!い、いいかっ!もしこの決闘に負けたら、お前との『ヤキソバまん係』の約束は解除させてもらうからな!?」


 こんな状況で交渉してきやがった。

 なんて露骨に悪どいポンコツ……


「安心しろ。お前との『ヤキソバまん係』の契約は終身だからな……」


「はあっ?」


「……それに、俺は負けない」


「っ!!」


 俺は、ブルートとのよく分からない交渉を終えて、再び前に向き直る。


 対面の舞台奥で同じように案内を待つコイン先輩は、頭のタオルを巻き直しているようだ……気合十分ってやつだな。


「それでゅはぁーーー、お待たせいたしましたぁーーー本日のメインイベントぉーーー、いや、この予選通じて、1番のメインイベントと言っても過言ではないでしょうぅーーー!第3戦の出場者の紹介ですぅーーー!まずはぁーーー紫コーーナーー、神出鬼没、変幻自在、奇想天外な派閥の決闘を体現する男ぉーーー、『紫魔導師』のノーウェ――――=ホ――――ムぅーーーー!」


 べつに、変身するわけじゃないし、そこまで突飛なことをしているつもりもないんだけどな……

 とにかく、キャリーさんの紹介によって舞台に上がる俺。


「ノーウェ!行けーーー!ちゃんと約束は守れよーーー」


「ノーウェ君、頑張ってーーー!」


 派閥メンバーから声援を受けたので、手を振る。


「むはははははっ!貴様は俺の終生のライバル。こんなところで負けてはならんぞーーー」


 一部、観客席からも馴染みのある声が聞こえたけど、こちらは無視しよう……

 あいつ、声がデカいな。


「続いてぇーーーー、石コーーーナぁーーー!これまでに幾度とない猛者の挑戦をその堅い守りと固い意志ではね除けてきたぁ、鉄壁の男ぉーーー、『殿上人』ぉーーー、『石嶺』ぃーーーのぉーーー、コインぅーーーードイーーールぅーーー!!」


 ゆっくりと階段を上がる先輩。


 ひときわ歓声が大きくなる。

 さすが、『殿上人』の決闘ともなると、観衆の熱気がすごい……!


 あと、どうでもいいけど、「石コーナー」ってなんだよ?

 本当にどうでもいいけど……

 「紫コーナー」も大概だと思うけど、もはや色でもないっていうね……


「それでゅはぁーーー、これよりぃーーー、んぅーーー?」


 前方のコイン先輩が立会人のキャリーさんの案内を手で制止した。

 なんかあったのかな?


「決闘の前に、お前に頼みたいことがある。ノーウェ=ホーム」


 え?どうしたの?いきなり……


「……なんでしょう?」


「お前、第1決闘の最中に、あの『泡の魔法』をこの『選抜』で今後使わないって話していたよな?」


 ……ああ、『ヴァインバブル』のことね!?


「ええ。言いましたけど……それが何か?」


「じゃあ、決闘を始める前に使ってみてくれないか?」


「え?」


 なんで!?


「いや、他の奴らもそうだと思うけどよ?俺は、あの『泡の魔法』の対抗策を考えてこの『選抜』に臨んだわけよ?でも、それを使わないってなると、肩透かしを食らったというか、せっかくの対策が水の泡になるっつーか、なんとも寝覚めが悪いのよ」


 ……なるほど。

 言われてみればそうかもしれない。


「まあ、決闘で使う使わないはお前の自由だから、もちろん対戦相手の俺たちには強制はできないんだけどよ?せめて、その対抗策が通用するかだけ試させてくんねえ?もちろん、魔力消費に問題がないならって話だけどよ」


「……うーん。まあ、いいですよ。そんなに魔力を消費するもんでもないし」


「悪いな」


 そう言って、コイン先輩は手の平を俺のいる方に向けた。


「おっとぉーーー、これは決闘前にとんだ物言い……いや、デモンストレーションの提案だぁーーー、しかーーーしぃ、まずはぁーー、この立会人であるぅーーキャリーに話を通してもらいたいぃーーーー」


 立会人がおもむろに透明マスクを外した。


 ……なんで?


「さて、ノーウェ君。君はこのコイン君の提案に乗るかね?」


「は、はい……」


 なんか、動揺してしまった。

 なぜ、いちいちマスクを取らなければいけないのだろうか?

 まあ、そっちの方が話しやすいのだけれども。


「ふむ。では、コイン君もそれでいいかね?」


「ああ」


 ということで、決闘前のコイン先輩の魔法と俺の『ヴァインバブル』によるデモンストレーションが急遽、合意に至った。


「承知した。では、特例ではあるが、両者の合意をもとに、この立会人であるキャリー=オオバが責任もって見届けよう」


 そう言って、キャリーさんは再び透明マスクを装着する。


 ……謎過ぎる。


「それでゅはぁーーー、コイン=ドイルよりぃーーーー魔法がぁ、放たれますぅーーー!!どぅぞぅーーー」


「じゃあ、行くぞ……これが俺の、基本の攻撃だ。『武石ブロック』」


 ギュイーーーーン!!


 ……でかっ!?


 見た目、洋服の引き出し収納棚くらい、あるいは大きめの靴箱くらいのサイズの石のブロックが、一瞬で生成され、放たれる。


 ……ひょっとして、コイン先輩は先に自らの手を見せてくれたのかな?

 考えすぎか?


「『ヴァインバブル』」


 バブル斜光クラブから学んだこの魔法は、向かって来る攻撃魔法に対して100%のカウンターとなる。

 発動が間に合えば、それでおしまい。

 特に大きさや威力の制約なしに、カウンターは確実に決まる、凶悪な魔法だ。


 俺の眼前に作られた泡は、飛んできた大きな四方体の石をあっさりと飲み込み、さらに膨張して、敵に向かって発動し返す。


 ギュイーーーーン!!


「『防塞頭金ぼうさいずきん』」


 キャシャンッ……ピキッ……


 先輩は一歩も動かない……


 なんか、胸から上に膜が張られたような感じ。

 顔がテカテカしている。


 ズガーーーーン……パラパラパラ……


 ……なんと!

『ヴァインバブル』によって威力を増幅させた石のブロックは、先輩の顔面に直撃するや否や粉々に砕け散った。


 おおぉーーーーーーー!!


 観客も一瞬の驚きのあと、大いに沸いている。


 まあ、完全に防ぎ切っているからな。

 たしかに、驚いた。


「俺は元々、守りが得意だからな。それに、他の奴らと違って、俺は『土(石)』と『風』の2つしか属性魔法を使えねえ……だが、その分、『石』の純度や成分を自在に調整できるんだわ」


 ……すげぇっ!


「つまり、攻撃で放った『石』よりも強固な『石』で守った……」


「ああ。意外と便利なんだわ、これが。だから、お前んとこの副長にも『諦めんなよ』と伝えておいてくれ」


「ははは……わかりました。でも、あいつ、元々諦めが悪いんで、大丈夫だと思いますよ」


「そうか……要らぬ心配だったな。すまん。それと、悪かったな。試させてもらって。まあ、上手くいって良かったよ」


 先輩はそう言って、頭のタオルを触って、少し位置を直した。


「いえいえ。まあ、来ると分かっている状況ですからね」


「ん?」


「あ、いや……実際に決闘で使う場合は、流れの中で使いますから」


「……」


 ……???


 ん?


 なんとも言えない空気に……


 先輩の目が少し鋭くなり、キャリーさんはこちらを凝視している。


 怖い……もちろん、後者が!


「お前……まさか、ブラフだったとは言わないよな?『使う予定はない』と言っていたのは……」


 おう?

 そういうことか。

 「間」の理由が分かった。


 さて、どう答えるべきか……


 ブーーーブーーーブーーー!!


 途端に観客からブーイングの嵐。


 音声も拾っているからね。

 俺の発言を受けてのものだろう。


「卑怯だぞ―――」


「騙し打ちかよっ!」


「やっぱりしょうもない派閥なんだな!」


「『色付き』ふぜいがよーーーー」


 しょうもない罵詈雑言が飛び交っている。

 まいったね、こりゃ……

 普通に考えて、ブラフや騙し討ちが目的ならここでバラさないだろうがよ。


 ブーイングの納まらない観客席に向かって、コイン先輩が手で制止するようなポーズを取ると、場が一気に静まった。


 カリスマ性もすごいな、この人……


「1つ言っておきますが、コイン先輩は勘違いしていますよ?」


「……俺が?どういうことだ?ノーウェ=ホーム」


 そう。

 勘違いしてもらっちゃ困る。

 俺の信条を……


「俺が『ヴァインバブル』を使うつもりがないと言ったのは、その言葉のとおりです。先日は、事情があって使いましたが、本来、この『ヴァインバブル』は、どうしようもなく強い敵に出くわしたときしか、使うつもりのない魔法ですから」


「……」


 先輩の目がいっそう険しくなる。


「俺が、この『選抜戦』で『ヴァインバブル』を使うつもりがない、と言ったのは……そこまで手に負えないほどの、真の強敵に出くわさないだろうと思ったからです」


 ……

 …………

 ………………


 静まり返る場内……


 あれ?


「……はっ、面白れぇっ!じゃあ、俺はもう1度、あの魔法をお前に出させなきゃいけないってわけだな!?」


 先輩はそう言うと、巻いていた薄いグレーのタオルを巻き直した。


「こ、これはぁーーーー!とんでもない発言だぁーーーー!?なんて不敵、不遜、傲慢な物言いなんだぁーーー、これは、場が荒れる前にぃーー、主役の2人にはっきりとぉーー、収集をつけてもらいましょうぅーーー!これよりぃーーー第3戦を始めますぅーーー」


「それじゃあ、始めから全開で行かせてもらうぞ」


「どうぞ、どうぞ。俺は様子見しますけどね……」


「……こいつ」


 ……コイン先輩の魔力が高まっていくのを感じる。


 これ、これ!

 これくらいの殺気がないとこっちも気合が入らないからね。


 さあ、いっちょやりますか……!


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


身内の激励も、観客の声援も、先輩の厚意も……

すべて弾き返す……それが、ノーウェ=ホームという男!笑


次回、決闘開始!



ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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