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3-63『ギリギリ』

 一進一退の攻防……

 両者が手を出してハッと息を飲む展開。


 残り時間7分30秒と、会場内に設置された黒いマスボ板に表示されている。


 決闘が2分を過ぎたあたりから、急激に静から動に変わったところで、観客たちはブーイング混じりの声援を中断し、その戦いに徐々に目を奪われ始めていた。


 傍から見れば、この戦いはそのように見えていたかもしれない。


 だが、片や相手の予期せぬ動きに翻弄されて、正真正銘のギリギリ……


 片や、想定外の相手の動きはありつつも、終始、求めている目的どおりに事が進行している。


 この内実を鑑みれば、現在の主導権を巡る攻防や今後の決闘自体の勝敗の行方は別として、この決闘によって得た収穫は、すでに天と地の差と言えるほどのものがあった。


 ハリー=ウェルズとリバー=ノセックのこの決闘における目的の第一義は、勝利ではない。


 彼らにとっての「強者」の実力とその原理を身をもって体験するとともに、即座に分析し、丸裸にすることだ。


 そして、それは同時に彼ら自身のためだけでもない、大きな意義となる……


 相手が血気盛んで、やや自信過剰な2年生コンビであってくれたことで、望外にも、強さの秘密の解説まで得ることができた。


 『領域支配』の改良は……属性魔法を自身の身体にまとわせながら、攻防一体の戦術に転化する。


 少なくとも、これまでのデータ取りにおいては、そのような戦術の糸口が見え隠れし、ニッケルの発言もその仮説の裏付けをしてくれている。


 ところで、この2人の頭脳派コンビは、勝利を目指していないのだろうか?


 ギリギリの戦いをしていないのか?


 余裕?


 いや、そんなことはない。


 彼らは、実際に【堅切鋼】相手に本気の勝利を目指している。


 それは、2人が前日に派閥の長から説かれた、この「強者たちとの戦い」における本筋から、少しばかり脱線することではあるが、彼らのリーダーの意に反してでも成し遂げたい、頭脳派参謀コンビだからこそできる、別の意味でのギリギリの戦いをしている最中だ。


 強者の戦いを肌で実感するといっても、そこに前情報があれば、よりその難易度は減る。


 ハリーとリバーは、次の第3戦に上手くバトンタッチを果たすために、相手の生の情報を臨場感をもって伝え、そのために神経を頭脳と肌感覚の双方に集中するというタスクを自分たちに課してこの決闘に挑んでいた。


 綱渡り……

 まるで崖の上を歩くような。


 片側は頭の中で高速に分析処理されていく情報収集の時間計測(加算)……


 反対側はこの決闘において、勝利へと導くための戦術の策定とかかる時間の計測(減算)……


 互いがその両方を行き来しながら、最良の結果に導くために微調整をし合いつつ、この決闘をコントロールしているのだ。


 4分経過……


「『火炎玉』、『れんぞくま』」


 ハリーの補強された「火の玉」が連弾として、上級生2人に襲いかかる。


 倒すためじゃない……


 観察するためだ。


 まだ、時間は十分にある。


「ぐおぉーーー、『離触塗リプレント』」


「むぅーーん、『嵐散気らんちき』」


 ペニー=ソセキは、周囲の泡を一気に上方満遍なく噴出して、「火炎玉」にぶつけている。


 ニッケル=エンシューは、水を伴った風を上方に巻き上げて放出し、「火炎玉」を飲み込ませようとしている。


 その一瞬の間合いで、2人の周囲から『支配力』は低下しているように見受けられるが、はたして……


 4分30秒経過……


「『土発天どはつてん』」


 間髪入れずに今度はリバーが地上から鋭く尖った細い土の針を大量に放つ。


 ブスッ、ブスッ、ブスッ……


「ぐうぅ!」


「がはっ!」


 大半の土針は、身体に到達する前にかき消されてしまったが、それでも、残る針が2人の身体に突き刺さる。


「おい、ペニー!このままだと分が悪い。俺が全力で守るからお前が攻めてくれ。次のタイミングで反撃しよう」


「……分かった」


「『嵐散気沢技らんちきさわぎ』」


 ニッケルが先ほどよりもひと回り大きい『嵐の領域支配』を発動させる。

 その嵐は、ニッケルの周囲だけでなく、ペニーをも巻き込んで、近づくものを吹き飛ばす勢いだ。


「5分経過ぁーーーー」


 残り5分……


 上級生2人は、時間の半分か過ぎて、ようやく危機感を募らせる。


 焦りの種類が変わる。


 先ほどまでは、功を焦ってしまっていたが、1度、本分に立ち返る。

 「守りから攻め」が自分たちの派閥の真骨頂。

 タッグマッチであれば、それを分担することもできる。


 『領域支配』の発展版を試すことに気を取られ過ぎて、その本分を忘れてしまっていた。


 そんな2人を見ながら、ハリーもまた冷静に観察と計算を続ける。


「次の段階だな……『氷粗雨ひょうあられ』!!』


 相手の戦法が変わったことを確認したハリーは、次の手を打つ。


「玉」を放つ手段は変わらないけれど、その大きさを変えてみる。


『ハイアイス』を指から発動するイメージで……


 10個分の「玉」を発動!


 ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……


 ピキピキピキ……


 小さな10個の「氷玉」は、散らばった状態で下に向かって放たれると、『嵐の領域』に侵入し、内部を凍らせていく。


 補助結界の作用も得ていたが、数を分けたことでその威力は分散し、相手の身体にまでは到達しない。


「まだだっ、もう1発くるはず」


 敵の反応を聞きながらひと呼吸……

 何も、馬鹿正直に毎回『れんぞくま』をしてやる必要はない。


「『替え氷粗雨ひょうあられ』!」


 もう1回。


 残り4分30秒……


 再度、氷玉群を塔の上より、下に向かって放つ。


 ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……


 ピキピキピキ……


「今だっ!」


「おうっ!『撥水渦孔はっすいかこう』!!」


 相手の発動の隙を突いて直線的な泡の砲撃……のはずであったが……


「『れんぞくま』『氷盤アイスボード』」


「なっ……!」


 ハリーは自身を守るように厚い氷の盤を張る。


 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ……


「ぐっ……」


 それでも、脇から漏れて侵入する泡の魔法によってダメージを受ける。


 ある程度の被弾は覚悟の上だ。


「ちっ、どうなってやがる」


 ドオォーーーーン……!


「ぐうぅぅーーー」


「大丈夫かっ!?ニッケル!」


 ハリーの『れんぞくま』と『替え玉』の違いに幻惑される上級生2人の横から、土の拳による強打が再び襲いかかる。


『土庵深』の称号を持つ男の強打ブローは重い!

 ダメージを最小限に抑えたとしても、領域を整え直すのに、どうしても多少の時間がかかってしまう。


 残り4分……


 1発1発は軽いが、速さがありリズムを変えてくるハリーの連弾……


 ここぞというタイミングで襲いかかるリバーによるブロー……


 意図して、上下に挟撃されているペニーとニッケルが、新入生2人のコンビプレーに翻弄されていることは、誰の目にも明らかであった。


「『氷粗雨ひょうあられ』」


 ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……


 ピキピキピキ……


 残り3分45秒……


 始めてみて、ようやくこのヒリヒリするような感覚が苦痛ではなくて、快感なんだということが分かってきた。


 ……これが、あいつが見ている景色(世界)か。


 どうぞ、攻撃してもいいよ?

 あんたらは前を行くしかないんだから。



「どうする?ペニー」


「ちょっと待ってくれ」


 何かがおかしい……

 攻めているのに、いざ拳を振り上げて突き出したときには、相手がもうそこにはいない……

 それどころか、振り出そうとした瞬間に相手に小さいものを1発入れられて、一手挟まれたり、拳を振りぬいた直後に、顔面に反撃を入れられて調子を狂わされている感覚。


 刻一刻と時間は少なくなり、焦りが生まれ始めているが、ペニーは一旦冷静になり、気を引き締めて思考する。


 このままこの戦法を続けていても、相手を倒せるかわからない。

 戦術変更が必要だ。


 今回の一戦は、幸い「王取り」ではなく、「星取り」だ。


 1人倒せば、結果的に「勝ち」は拾える。


 取れる戦術は2つ。


 1つは1対1の状況を作り出して、実力差で押し切る。

 上のハリー=ウェルズをニッケルに任せ、自身は下にいるリバー=ノセックにあたる。


 もう1つは、こちらで相手に戦術的に一泡吹かせ、2対1の状況を作り出して相手1人を確実に仕留める。


 残り3分30秒……


 ギリギリいけるか。


「ペニー?」


「ああ、大丈夫だ。固まった」


 ペニーは、嵐の中でニッケルに作戦を告げる。


「分かった。一泡吹かせてやろうぜ!?」


「ああ、俺たちの18番だからな『泡沫孔砲ほうまつこうほう』」


 ペニーは先ほどよりも威力の低い泡の水砲を放つ。


「……『氷盤アイスボード』」


 パリィーーーン……


 ここに来ての弱い一撃に、上部にいるハリーは怪訝そうにしている。

 とりあえず流れを引き戻すための布石。


 ニッケルはリバーの不意打ちを警戒している。


 先ほどまで自分たちがやられていたことをそっくりそのまま返してやる。


「『泡沫孔砲ほうまつこうほう』」


「『氷盤アイスボード』」


 パリィーーーン……


「『泡沫孔砲ほうまつこうほう』」


「『氷盤アイスボード』」


 パリィーーーン……


 冷静に自分たちがやられて嫌だったことを返し、相手に思考の隙を与えない。

 相手がたとえ連続して魔法を放てようが、こちらも威力を抑えて放てばなんてことはない。

 自分たちでも容易にできる。


「『泡沫孔砲ほうまつこうほう』」


「『氷盤アイスボード』」


 パリィーーーン……


「『泡沫孔砲ほうまつこうほう』」


「『氷盤アイスボード』」


 パリィーーーン……


 残り3分強……


 相手が守勢に回り始めている。

 ペニーは自身の作戦が機能していると確信を持った。


 蝿のようにうっとおしかったハリー=ウェルズの魔法の連弾は影を潜め、こちらにとって一番嫌な状況で放たれるリバー=ノセックの強烈な一撃も、その適切なタイミングを測れないでいるようだ。


 冷静になってみれば、なんてことはない。


 敵の攻撃には癖がある。


 初めから、この癖をしっかり踏まえて、戦術を決めていればこんなに時間を無駄にすることはなかったのだと、ペニーは自分自身を恥じた。


 まあ、決闘は水物だからそんなこともある。

 フラフラしていたっていいじゃないか。


 終わり(結果)さえ良ければ!


 残り時間……3分!


 まだギリギリ間に合うはずだ……!

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ここまでハリーとリバーのペースで進んでいますが、はたして……


次回、残り時間……


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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