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3-60『時の解釈』

◇会場内<第3者視点>◇


 熱狂のあと、会場は数分の静かな間が続いた。


 ここまで快進撃を続けてきた【紫雲】の敗北。


 大方の予想通りの結果ではあったが、それにしても、『殿上人』の率いる大派閥の壁は高すぎた……という感想がその場の大勢を占めていただろう。


 次の1戦に移るまでのインターバルの時間は、この第1戦の決闘の評価と【紫雲】という派閥の強さの位置についてで話題が持ちきりとなっていた。


 静かではあっても、場の議論は尽きない。

 学生ランク25位の猛者、『風切』のクォーター=ムソウによって身体を切り刻まれたカーティス=ダウナーの治療や、彼が決闘時に作り出した大穴の補修によってかなりの時間的な余裕が生じたこともある。


 だが、それ以上に、この静かなる喧騒は、第1戦の結果が生んだ会場内の空気……ため息やどよめきといったある種の暗い反応によるものが大きかった。


 失望ではない。

 前評判通りの結果ではあった。

 それでも……と期待を寄せていた者も、一定数はいただろうが、大勢ではない。


 では、どういった暗さか?


 ……それは、嘲り、安堵、溜飲の下がる思い等々、総じて、この前代未聞でその実力が未知数であった新興派閥の足を引っぱり、その評価によって、彼らの可能性や本来の実力を引きずり下ろそうという心理である。


「なんだ、【紫雲】大したことないじゃん!?」


「化けの皮が剥がれたな!」


「やっぱ、『殿上人』擁する大派閥とは格が違うよ……」


 第1戦を観戦して、【堅切鋼】の圧勝と受け止めた者たちは、したり顔でそんなことを言い始める。


 たしかに、圧勝には間違いないが、見る者によっては、まったく違う見方ができる決闘であったのだが、観客というものは、今、目に映る刹那的な情景しか受け入れない。


 そして、それが絶えず更新されていくのである。


 ケン・セツ・コウ!

 ケン・セツ・コウ!


 工務のことなら


 ケン・セツ・コウ!


 ケン・セツ・コウ!

 ケン・セツ・コウ!


 決闘もお任せ


 ケン・セツ・コウ!


 第2戦の開始が近づくにつれて、大派閥特有の応援が始まり、集団による大きな声がアリーナに反響する。


 元々、どっちつかずのニュートラルであった観客たちも第1戦の結果を踏まえ、今ではほとんどが【堅切鋼】側の声援に参加している。


 一般客は気まぐれだ。

 たった1つの決闘の結果が、次の評価に直結する。


 今や、完全にアウェイとなった会場の中心にある舞台に、2人の男子学生が静かな足取りで向かった。


「レディースぅーーアーンドぅジェントルメンぅーー、これよりぃーー第2戦を始めますぅーー。まずは紫コーナーぁ、何かあるぞと思わせてくる油断ならない策士コンビぃーーーリバー=ノセックぅーーとぉハリー=ウェルズぅーーー」


「これぐらいの方が却って決闘に集中できるな」


「ええ。思いっきり暴れてやりましょうか」


「らしくないこと言ってんのな!?昨日の『草刈り』の影響出過ぎじゃね?」


「ふふふ、では、全部ノーウェのせいということで」


「それ、それ!」


 完全アウェイの空気感もなんのそので軽口を言い合う2人。

 その場だけまったく違う時が流れているかのようだ。


「続いてぃーーー、青コーーナぁーー、成長著しいぃーー派閥の将来を担う2年生コンビぃーーー、ペニー=ソセキぃーーー、ニッケル=エンシュー」


 ひときわ歓声が大きくなる。


 相手は2人とも2文字の称号持ちで100位以内に入る2年生コンビだ。

 ペニー=ソセキが49位、ニッケル=エンシューが54位と、第1決闘で戦った【波羅須免土】の学生たちトップのパウワー=ハラルド(46位)とほぼ同格に位置しており、リバー、ハリー共に、これまでで最強の相手と対峙することになる。


 ペニーが『水溌すいはつ』、ニッケルが『青嵐せいらん』。

 この第2戦も下馬評では圧倒的に【紫雲】側が不利の予想。


「それではぁーーー、決闘開始ですぅーーー!!」


「悪いな、1年。俺たちは来年の今頃はこの大派閥を背負って行かなきゃいけねえんだわ。だから、こんな所で立ち止まっているわけにはいかんのよ」


 ペニー=ソセキの周囲に無数の水泡が生み出される。

 ブルートのように水膜を張るわけではなく、ノーウェの『ヴァインバブル』のように顔ぐらいの大きさのものでもなく、拳大くらいの水泡をこれでもかというくらいに発現させ、自身の周囲を覆っている。


「そうそう。俺たちはより強大な相手に向かって、認められようとしているわけだからね。君らとは立ち位置が全然違うのよ。高みってやつが」


 ニッケル=エンシューも当然のように『領域支配』を展開する。

 こちらは、青色の風がビュンビュンとニッケルの周囲を覆い、近づくものを皆吹き飛ばしそうな勢いだ。


 防御は最大の攻撃……


 【堅切鋼】という派閥の座右の銘とでもいうべきか。


 第1決闘でもそうであったが、まず、自身の守りを完璧にした上で、敵への対抗策を構築していく。


 そんな派閥の伝統は、すでにこの2年生たちにも引き継がれているようで、見るからに攻略のし辛い構えを見せている。


「はて……来年とは、ずいぶんと気の長い話をされていますね。大丈夫ですか?『時は金なり』と言いますよ?」


「何!?」


 ドッ……ドドドドドドドドド……


 リバーは魔法を発動させ、自身とハリーの立ち位置に焼き固めた土の塔を作り出し、


「ああ。来年は……なんて悠長なこと言ってたら、あいつの場合、飽きてどっかに行っちゃいそうだからな。認めてもらうなんて言ってないで、俺たちはさっさと追いついて、昨日の分も含めて借りを返さないといけないんだわ!」


「……生意気な奴らだな」


 7、8メートルの高さの土塔の上から、2人の新入生魔導師は、上級生たちを見下ろした。


 ……

 …………

 ………………


 見下ろすだけで、特に何もしないリバーとハリー。


 「時は金なり」という言葉はいったいなんだったのであろうか。


 ……

 …………

 ………………


「おいっ、どういうつもりだよ!?」


「はて……?」


 開始の合図から30秒は経っているが、両者に動きはない。


「はて、じゃねーよ!?ずっとその上で待っているつもりか?」


 下からペニーによる苦情が入る。


 もっともな意見ではある。


 ……もっとも、お互い様ではあるが。


 ブーーーーブーーーーブーーーー!!


 ピーーピーーピーーー……!!


 遅れて、ようやく観客たちから非難のブーイングがあがる。

 若干、理不尽なことではあるが、そのブーイングの対象はほとんど【紫雲】側のリバーとハリーに集中している。


「卑怯だぞーー」


「新入生なんだから思いっきりやれよー」


「ビビっているのかーー?」


「ペニー、やっちまえー」


 ……などと野次が飛び交う。


 やっていることには、まず「守りを固める」ということで大きな違いはないのだが、第1戦の結果と新入生というバイアスが非難と声援を一方的なものにしてしまっているようだ。


「はっ、そういうことかよ」


「どうした?ペニー」


「あいつら、このまま引き分け狙いなんだよ。だから、ああやってこっちと距離を保っているんだ」


 リバー=ノセックとハリー=ウェルズの2人は策士として、すでにかなりの学生に認識されている。

 その2人がどのような作戦を取るのか、ペニー=ソセキも楽しみにしてはいたが、今、想像しているような考えからくるものであれば、少々興醒めだ。


「けっ、勝負しないつもりかよ。じゃあ、こっちから場に引きずり出してやる」


「何をするつもりだ?」


「まあ、任せろ。『嵐棒らんぼう』」


 ニッケルは、支配領域の中から、その身体よりも長く巨大な嵐(風と水)の棒を作り出し、リバー=ノセックの作り出した土塔に近づくと、思いっきり振りぬいた。


 スコーーーン……


 塔の下部が、嵐の棒によって弾き飛ばされる。


 ズーーーン……


 弾き飛ばされた土塊分、塔の高さは明らかに短くなり、見下ろす新入生2人との距離は近づく。


「ハッハー!!さっさと引きずりおろすぜい!」


 スコーーーン……


 ズーーーン……


 スコーーーン……


 ズーーーン……


「はぁ、はぁ、どうだ!?」


 ニッケルは上を向いた。


 ……しかし、縮まっていたはずのその距離は、最初にみたときと同じように見える。


 錯覚だろうか?


 スコーーーン……


 ズーーーン……


 スコーーーン……


 ズーーーン……


「……なっ!?」


 変わらない……


 土の塔は、なおも7、8メートルの高さを誇っている。


「そりゃ、こちらも魔法をつかえますからね」


 なんということだろうか、ニッケルが必死で土台部分を弾いて、塔の高さを縮めようとしているその傍から、このリバーという男は、減った分だけ、自分の足元の土を積み上げて、補強していたのだった。


 なんていう卑怯な男なのだろうか?


 もてあそばれている……


 ニッケル=エンシューは、その顔をこれでもかというぐらいに紅潮させる。


「落ち着け、ニッケル。もういい。一気に攻めに行くぞ!?」


「ペニー……」


「元々、俺たちの方が格上なんだ。初めから2人で一気に攻めれば事足りる話だろ?行くぞ」


「……そうだな。じゃあ、行くか!『嵐高渦らんこうか』」


 ニッケルの巻きあげた嵐によって、ペニーの周囲の泡と共に上空へと向かう2人……


「……やっと来ましたね。残り時間を考えると遅いぐらいでしたが」


「ああ。『時は金なり』だな。ブーイングの中待っていた甲斐があったよ」


 残り時間8分30秒……


 土塔の上で待ち構えるリバーとハリーは顔を見合わせて、ニヤリと笑った。

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


途中の応援の歌は某工務店のCMっぽい感じです……笑


ラララランララン♪


次回、「草刈り」での顛末……


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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