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3-59『1歩踏み出す覚悟』

「……ふう。それじゃあ行くか」


「むっ、承知仕った」


「ははっ、腕が鳴る」


「や、やるの?」


「ああ……4人で行くぞ!レヴェック頼む」


「任されよ!このレヴェック、しかと送り届けますぞ」


 陣形「ブラックペンタグラム」が破られた今、できることは多くはない。

 

 このまま遠距離での魔法の打ち合いをしたところで、ジリ貧になることは自明の理であった。


 そのような状況でできることといえば、1つしかない。

 ディリカたち「アンバスターズ」が身をもって実行したような奇襲……いや特攻である。


 決まる可能性は薄い。

 彼女たちには、秘策があった。

 派閥の長であるノーウェを裏切ってまで隠し通していた秘策が……


 カーティスも、彼女たちとの合同練習でそのことに気づき、隠し事にまで付き合う羽目に遭い、結果的にノーウェを欺く作戦に加担したわけであるが、そうまでして彼女たちが得たかった「何か」を、彼もまた痛いほどよくわかっていた。


 自分たちには今のところない。

 その「秘策」となる魔法が。


 ならば、今できる「最高」を思いっきり相手にぶつけるだけだ。

 ここまでの期間で、皆で高め合った魔法の最大公約数的な「最高」を。


 そのために必要なものはただ1つ……

 「覚悟」だ。


「……準備はいいか?」


「「「おう(うん)っ!」」」


 被弾する覚悟……

 外してしまうかもしれないが、それでも恐れずに放つ覚悟……

 近距離で相手に当てる覚悟……

 強大な者に対して向き合う覚悟……


「……何からにする?」


 どれも当たらずとも遠からず……

 いや、どれも少なからず当てはまっているが、とどのつまり、今の自分に必要な「覚悟」はただ1つ……


「「「『氷』」」」


「……分かった。じゃあ、行こうか」


 周囲の評価……

 自分自身の葛藤……

 描いていた理想の自分が崩壊する可能性……

 自分が()()()()()()()()のではないか、という恐れ……


 すべてひっくるめた今の自分から少しでも変わるということを恐れない……

 1歩だけ前に踏み出す「覚悟」だ!


「よろしい。では、行きますぞ!?『スプレイ-ハイウインド』」


 『赤魔導師』レヴェック=リヴァロが風の中級魔法『ハイウインド』を放つ。

 彼が、『赤魔導師』として魔法の研鑽を積む中で見出した、魔導師としての特性は、魔法を放射状に、可能な限り広角に放つこと。


 レヴェックの放った『ハイウインド』は、扇のような形で、前方の広い範囲に風を送っていく。


 シュタッ……ビューン……


 シュタッ……ビューン……


 シュタッ……ビューン……


 シュタッ……ビュッ……ビュッ……ビューン……


 『赤魔導師』の送る風に、4人の『黒魔導師』がジャンプして乗り移り、一気に敵との間合いを詰めてかかる。


 この1歩が大事。


 ……というより、この1歩が作戦の全て。


 カーティス=ダウナー、ダイゴ、ジャック=モントレー、ブランクの4人は風に1歩、踏み乗って、敵陣目掛けて特攻を開始した。


「おいおい、こいつらもかよ!?……この派閥、ちょっと活きが良すぎるんじゃねえか?」


「ああ。思い切りが良いな……潔いと言うべきか?ワフフッ!」


「第2決闘を観ておいてよかったね、こりゃ……」


「……」


 風に乗って向かってくる『黒魔導師』たちの様子に呆れる4人。


 事前に、他の決闘データを観た上で、この派閥のメンバーは、魔法になんらかの方法で乗れるということは分かってはいたが、まさか皆が皆できるとは思ってもみなかったからだ。


「さて、どうする?副棟梁」


「各々が相手してやれ」


「いいのかい?」


「ああ、仮に何か秘策があったとしても分かりようがないからな。とりあえず、4対4で対処だ。ただし、敵の指揮官は残しておけ。俺が対処する」


「了解。『徐波弓(じょはきゅう)』」


 一気に近づいてきた『黒魔導師』たちをワドーの放つ向かい風が出迎える。

 攻撃力はない。

 ただ、進撃を止めるためだけの魔法だ。


 それでも、レヴェックの広域に広がる風魔法はあっさり相殺されてしまう。

 これは練度の差なのか、それとも元々の威力の差なのか……


「「「「『クワッドーハイアイス(氷華ひょうか)』」」」」


 予定より遠い場所からの発動になってしまったが致し方ない。

 この勝負、相手に先手を打たせた時点で負けだ。

 奇襲は常に相手を先んじればこそ意味がある。


「ホ!デケェな」


 巨大な花びらのような形をした氷塊が【堅切鋼】陣営に、襲いかかる。


「感心している場合じゃねぇ!行くぞ!?『冥流粉砕槌ミョルミル』」


「あらよっと!『遠路波留波留エンロハルバル』」


 ドクワッシャーン……ガリガリガリガリ……


 均一な四角い花弁が4つ。

 冷気を伴い、強化されたハイ級を4つ合わせた、グラン級の威力でもって、【堅切鋼】前衛のドワーフ族2人を凍らせにかかるも、彼らの放った歪で巨大なハンマーによって、氷は粉砕されてしまう。


 2対4……


 あっさり、阻まれる。

 分が悪いのは火を見るより明らか。


 それでも、先を見て今できる最善は目指す。


「「「「『クワッドーハイファイア(火鳥かちょう)』」」」」


 再び、『黒魔導師』たちから魔法が放たれる。


 今度は、超グラン級の火の鳥。

 胴体部分に2発、翼部分に2発ずつの『ハイファイア』が組み合わされている。


「ホ!こりゃ手ごわい」


「おい、ボウズ、どうやらお前の出番だぞ!?」


「行けるか?……フホン。できれば、そのまま、奥まで頼む」


「……ガルルル〜」


 白銀に輝く体毛をした狼獣人族の学生は、前衛のドワーフ族を追い越して、自ら火の鳥の中に飛び込んで行った。


「『爆爪猛怒バクソウモード』」


 ザシュッ……ゴオッ……ボガーン……!


「くっ、『ハイウインド』」


 火の鳥に巨大な炎の狼の爪が応戦し、ぶつかり合いながら爆ぜる。


 中央のカーティスは爆発に巻き込まれないように風魔法で炎を押し返す。


「グルル〜」


 しまった……


 炎をもろともせず、火をまといながらこちらに走って向かってくる狼獣人。


「「「『ハイウォーター』」」」


 ダイゴ、ジャック、ブランクが水魔法で援護してくれるが、相手は俊敏な動きで交わしていく。


 ビュンッ……


 火をまとった獣人族は、『黒魔導師』4人を標的にはせず、その防衛ラインを持ち前の瞬発力であっという間に突破してしまった。


「ホ!崩れたな」


「ワッフッフ!戦術を発展させるのはお前さん方、【紫雲】の専売特許ってわけではねぇのよ」


 ……やられた。

 相手にも獣人族がいる時点で警戒すべきだった。


 一瞬の後悔がカーティスを襲う。


「『讃品乃矢さんぼんのや』」


 そして、戦いの場において、ほんの一瞬の、小さな後悔が大きな隙となり、相手にとっての大いなる好機へと変わってしまう。


「うっ、うわぁーー」


「ぐっ、なんの」


「くっ、まだまだ」


 手を残していたワドーが、まるでタイミングを見計らっていたかのように、3本の光の矢をブランク、ダイゴ、ジャックを狙って放つ。


 光の矢は放物線を描いて、3人の元へと降り注いだ。


「ホ!ようやく崩れたなぁ」


「ワッフ!じゃあ、行くかっ!」


「行くか……」


 攻撃を受ける3人に向かって行くドワーフ族2人とエルフ族の上級生たち。


「黒のペンタグラム」は破られ、4人の「特攻陣形」による同属性攻撃も破られ、それぞれが1対1での勝負を余儀なくされる。


 戦術的には、すでに完敗だ。


 しかも、相手はまだ余力を残している。


 ……そう。ここまで、敵の指揮官であり、2文字の称号持ちである『風切』のクォーター=ムソウは、ほとんど戦いに参加していない。


 情けなくも、それが現時点での、自分たちの現在地。


 ……ならば!


 カーティスは、相手の指揮官がどっしり構える敵陣に向かって走り出した。


 今が敵わないのであれば、未来を見ながら戦ってやる。


 ここは、決闘の場であって、魔物相手の命の取り合いをする場所ではないのだから……!


「ほう。向かって来るか……」


 敵の指揮官が呟く。


「ええ。()()()胸を借りるつもりだと言いましたからね」


 カーティスは走りながら集中する。

 何度もイメージトレーニングをしてきたし、試すこともしてきた。


 1歩先に進めた今であれば、ほんの数メートル先だってきっとできるはず。


「『グランアース(クエイク)』」


 ゴゴゴゴゴゴ……


「おおっ!?」


 ボガンッ!!……ガラガラガラ……ガシャーーーン!!


 相手との距離およそ5メートルほどの地点で放ったカーティスの土魔法は、敵の指揮官の周囲数メートルを揺り動かし、地割れを起こし、陥没させるほどの穴を空けた。


「……すごいな。ひょっとして、初めから狙っていたのか?」


「いえ……見よう見まねの技なんで、最後にやってみようと思いました」


 空中で足元に空いた穴を眺めながら、感心する素振りを見せる敵の指揮官クォーター=ムソウは、カーティスの言葉を聞くと愉快そうに笑みを浮かべた。


「……なるほど。末恐ろしいな。最初にやっていた『ブラックペンタグラム』……とやらもお前が考えたのか?」


「ええ、思いついたのは……それから、みんなで話し合って今の形になりました」


 緊迫の場面で会話ができるほどの絶望的な差……


 風の『領域支配』相手に『地割れ』は無効だと言わんばかりに、風使いの上級生はそのまま宙に浮いている。

 虚をついて、そこから『グランストーン』を叩き込むつもりであったが、やはり、風使い相手には、無謀が過ぎたらしい……


 いつまでも浮いていられそうな様子から察するに、他の補助属性は「火」と「水」か?


 そんなことをゆっくりと頭の中で考えながら、カーティスは、自分でも驚くほど落ち着いた心持ちで会話を楽しんでいた。


「完成形と戦ってみたかったが……それをかすのは酷だな。来年の春は、観客席から楽しませてもらうとするよ」


 ブーーーン……


 風の領域によって、その身を包みこまれる。

 温かい風だ。


「ありがとうございます……きっと、そう遠くない未来に完成させますよ」


「ふっ、末恐ろしい……いや……頼もしいな。頑張れよ。『風切乃刃かぜきりのやいば』」


 シュパンッ……ザシュッ……シュパパパパパ……


 『黒魔導師』カーティス=ダウナーは、空間内で次々とでき上がる風の刃によって、その身体を切り刻まれ、血を吹き出しながら、その場で仰向けに崩れ落ちた……


 微笑みながら……



「おいおい……容赦ないな。副棟梁」


「ドワーハッハ!たしかに」


「ワッフッフ!ちげぇねえ」


 クォーターが、敵のノックアウトを見届けて、その『領域支配』を解除した頃、他のメンバーも仕事を終えて、陥没して穴の空いた本陣近くまで戻って来た。


「いや、餞別だよ。思いっきり胸を借りに来た有望株へのな」


「ふーん。そんなもんかね」


 ……シュタッ!


 本陣から少し離れた場所に降り立ったクォーターは、前方を確認する。


 相手の本陣では、ちょうどフホンが、相手の『赤魔導師』に強烈な炎魔法の一撃を見舞っているところであった。


「……来年を楽しみにしているぞ。『ブラックペンダグラム』!」


「副棟梁、やっぱ気に入ったんじゃ……」


「違う!」


「ドワーハッハ!副棟梁、模型とか作るの好きだもんなあ」


「ワッフッフ!そうそう。依頼でも、設計図だけでもかなり時間かけるくせに、いつも、さらに模型まで作るぐらいだからなぁ。ああいう立体的な陣形に心をくすぐられるんだろう?」


「違うってば!」


 【紫雲】VS【堅切鋼】


 第1戦……【堅切鋼】の圧勝!

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


縦でも平面じゃねーか?というツッコミに備えて……微妙に立ち位置が前後しているらしく、立体的なんです……『ブラックペンタグラム』笑


初戦敗北……

大派閥の壁は厚いようです。


次回、第2戦開始!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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