3-56『黒ペン』
◇『ビッグエッグタイマー』◇
第3決闘前日。
ノーウェたちが庭で一生懸命草刈りに精を出している頃、『黒魔導師』集団のカーティス、ブランク、ダイゴ、レヴェック、ジャックの5人は、商業施設内でショッピングをしていた……いや、付き合わされていた。
「なんで俺たちが……」
カーティスが不平を口にする。
大事な決闘前日。
彼らにしてみれば、大会初戦である。
休養日である前日に、できるだけ入念な打ち合わせと戦術や連係の確認をしておきたかったのだ。
それが、昨日決闘に勝利した女性メンバーたちのご褒美ショッピングにつき合わされるとあっては不満の1つも出るのが道理であろう。
「黙って付いてきなさい。あんたたちの買物をしに行くんだから?」
「「「「「え?」」」」」
5人が一様に驚く。
7人の女性メンバーに引っ張られて向かった先は、魔導師のローブが売っている「ローブ屋」であった。
「さあ、みんな!選ぶわよっ」
「きゃー、これいいんじゃないっ!?」
「いやあ、それはないわあ」
「ウケる」
「これはどうですか?」
「うーん、フードはあった方がいいよねー」
「じゃあ、これこれ……」
店に入るや否や、あっという間に品を選びにかかる女性陣。
マネキン役はブランクだ。
店には服を当てられるしっかりとした本物のマネキンが置いてあるのに、ミスティはブランクを固まらせて試着させている。
固まらせる必要はあるのだろうか……
「お、おい……俺たちべつに服なんて……」
「何言っているのよ!?あんたたち、あの大派閥と決闘をするのよっ!?せめて身なりだけでもそれらしくしてないと侮られるじゃない!?」
散々な言われ様である。
「ついでに、立ち位置とかも決めちゃわないっ!?せっかく5人いるんだしさー!?カーティス君を中心にして……」
「それいいっ!」
「おもしろそう!」
ミスティの提案にパルメやエメルダも乗る。
こうして、カーティスたちは、本人たちが望まずしてあれこれとプロデュースされていくのであった。
◇第3決闘当日『ハイリゲンアリーナ』<ノーウェ視点>◇
ようやく、このときがやって来た。
俺たちは、控室を出て、出場選手とその関係者だけが通ることができる通路を進み、舞台へと向かう。
ワーーーワーーーワーーー!!
大歓声がすでに聞こえている。
よっぽど前の決闘が白熱していたのだろうか?
俺たちの前はたしかEブロックの第2カードの決闘だよな?
ということは【魔花】のジャネット先輩たちか……
たしか、本選への出場を決めたとか、昨日、草刈り中にブルートが言っていたような……
本来、消化試合だろうに、決闘後もここまでの盛り上がりを保つほど歓声を得られるとは、さすが、『殿上人』は人気も破格なんだろうな。
俺たちの相手もきっとそれぐらいの人気者なのだろう。
これは、気を引き締めていかないと……!
「それでゅはぁーーー両者、入ぅーーー場ぅーーーですぅーーー!!」
歓声をかち割るかのような大声。相変わらずの……
もう慣れた……
「Fブロック、第3決闘の第2カードもぉーーー本選に出場する派閥同士のぉーーー戦いとぉーーーなりまーーすぅーーー!しかーーーしぃ!!これを消化決闘と思うなかれーーーいぃーーー!!なんとぉーーー両派閥ともぉーーー主力同士がぁーーーここでぶつかり合うぅーーー予定ですぅーーー!!」
オオオオォォーーーーーー!!
歓声が地鳴りのように聞こえる。
……すげぇ、盛り上がりだ。
「まずはぁーーー今大会、ジョーーカぁーーの評判どおりぃーーー、新入生だけの派閥にしてぃーー、上位ランクを圧倒する活躍で2連勝ぅーーー、【紫雲】の入場ですぅーー」
暗めの通路を抜けた瞬間、眩い照明と割れんばかりの歓声が俺たちを迎えた。
「ど、ど、どうしましょう!?お酒も飲んでないのに吐きそうです」
「ちょっと、しっかりしてくださいよ。フィッティ先生!先生が本選の前に来たいって言ったんでしょ?」
顔色の悪い顧問のフィッティ先生(事務員)をブルートがなだめる。
「春の選抜決闘」は派閥戦なので、当然顧問の先生が同伴だ。
しかし、予選はそのかぎりではないので、出なくてもよかったのだが、フィッティ先生も本選からいきなり出るよりは、ということで今回付いてきたんだ。
報告に行ったら、なんで、敗退しなかったんですか!?と真顔で言われた……
顧問が敗退を望むなよ……
「先生、この決闘には俺たちの将来がかかっているんです!あなたが吐いたらすべてがおじゃんです!絶対に吐かないでくださいよ」
「う……うん。分かったわ。だから揺らさないで」
ブルートがかなり大袈裟なことを言っている。
なんかの仕返しだろうか?
「【紫雲】の中で、本決闘に出場するのはぁー、この8名!第1戦はぁー、カーティス、ブランク、ダイゴ、レヴェック、ジャックの『黒魔導師軍団』ぅーー、第2戦はぁー、リバー&ハリーの頭脳派コンビぃーーー、そしてぃー、第3戦に挑むのはぁー、なんとぉーー、ノーウェ=ホームぅーーー!!」
俺たちのメンバーは、上から順に選んだメンバーだ。
この1か月の獲得ポイントのね。
元より、まだ出ていなかったカーティスたちは出場予定だったが、残る3名は、俺、ハリー、リバーとポイント獲得順にご褒美出場にさせてもらった。
第3決闘のお題は2つ。
「星取り」と「運営による属性補助結界魔道具の設置」だ。
「星取り」は、第1決闘で用いられた「王取り」と対になるルールで、制限時間内に残っている星……舞台上に立っているメンバーが多い方が勝ちというルールだ。
「王取り」が「王」さえ残っていれば、とりあえず負けはないのに対して、こちらの方は、残るメンバーの数が同じでない限り、勝敗は決する。
本選では、決着をつける必要性が出てくるため、こちらの「星取り」のルールが採用されるとのこと。
第3戦は1対1なので、俺には関係ない話だけどね。
どちらかというと2つめのお題の方が厄介だ……
「続いてぃーーー!派閥ランク第6位ぃーーー、『殿上人』コイン=ドイル要するぅーーー、学園きっての堅実な職人軍団ぅーーー!新入生派閥の快進撃を持ち前の堅さで止めるのかぁーーーー、【堅切鋼】ぅーーーの入場ですぅーーー!」
先日、映像で対面した、タオルを頭に巻いたコイン先輩を先頭に、いかにもな雰囲気のあるいかつい男の人たちがぞろぞろと後ろに続いている。
タンクトップ姿で丸太のような腕を見せたり、先輩と同じようにタオルを頭に巻く人たちもいて、キャリーさんの紹介の中にもあったように、なんだか、魔導師というよりも、職人の集団のように見える。
男性だけかと思えば、数人の耳の長い、スラっとしたエルフ族の血を引く女子学生たちや、獣人族の学生も列に加わっている。
あとドワーフ族の男子学生もいるな。
個性豊かな集団だ。
うちもだけど……
リバーが教えてくれたんだが、学園内の建設物や庭の多くは、この派閥が造成に関わっているんだそうだ。
そうなると、多様な種族の建築技術や庭園作りの腕が求められているんだろうな。
対面したときも思ったけど、あっけらかんとした気持ちいい性格の先輩といい、この学園には珍しく、とても好感が持てる派閥だ。
「【堅切鋼】の第3決闘における出場者はぁーーー、第1戦に参謀クォーター=ムソウ、カンエイ、ケイチョウ、フホン、ワドーの5名ぃーーー!第2戦に新進気鋭の2年生コンビぃーーー、ペニー=ソセキ、ニッケル=エンシューの2名!そしてーーーいぃーー、第3戦にぃーーー、な、な、なんとぉーーー『石嶺』のコイン=ドイルぅーーーー!!派閥のリーダー同士のぶつかり合いだぁーーー!!」
舞台の対面に着いたコイン先輩が、こちらを見てニヤッと笑った。
ああ、待ちきれない……!
「それでは、第1戦のメンバーは舞台にぃーーーー!!」
でも、まあ、その前に、俺よりも何日も前からこのときを待ち望んでいた奴らがいるからな……
「行くぞ……」
「「「「おう」」」」
まるで闘志を内に抑え込んでいるかのように淡々と声を掛け合い、静かに舞台上へと向かう5人。
その表情は……窺いづらい。
足元まで丈のある、フード付きの黒いローブを全員着ているため、独特の雰囲気がある。
……なんで!?
「俺たちは、闇夜に浮かぶ漆黒の星……『ブラックペンタグラム』」
……はいー?
カーティスが、妙に覚束ない口調で、なんかものすごく恥ずかしいことを宣言しているような気がするんですけどっ!?
もしかして、そういうの都会では流行っているのか?
俺、田舎者だから、その辺の事情がよくわかってないんだけどさ?
舞台上に立つ5人の黒ローブ。
先頭にカーティス。
真ん中にダイゴとジャックが間隔を広めに。
後列にブランクとレヴェック。こちらはやや互いの距離が近い。
ペンタグラム……星……ああ、なるほど。
上から見たら星のような形をしているな。
何か戦術的な意味があるのかよくわからないが、あいつら、ずっと波長を合わせながら訓練していたしな。
ここはしかと見届けよう。いや、発破をかける意味でも声援付きでな!
「それではぁーーー、【紫雲】バーサァスぅ【堅切鋼】の第1戦を始めますぅーー!」
「頑張れっ!黒ペン!!」
俺は彼らに発破をかけた。
「略すなっ!!」
……やっぱダメ?
言いやすいんだけどな。
第1戦
【堅切鋼】
『風切』クォーター=ムソウ(25位)
『波運磨』カンエイ(162位)
『化那土』ケイチョウ(168位)
『火三爪』フホン(173位)
『光繰矢』ワドー(154位)
【紫雲】
『黒魔導師』カーティス=ダウナー
『黒魔導師』ブランク
『黒魔導師』ダイゴ
『赤魔導師』レヴェック=リヴァロ
『黒魔導師』ジャック=モントレー
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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……ギャグと思われがちですが、案外、彼らは本気です。笑
その意味は次回以降に……
次回、開戦!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




