3-55『ある教師の特別業務 其の2』
退屈極まりない。
あ、いや、この私、クローニ=ハーゲルは、『ハイリゲンアリーナ』の観客席付近に立ち、監視の特別業務に就いている。
特別業務……つまり、SP業務!
この業務の役得はただで決闘が全部観られることだね。
立ちっぱなしはきついけど。
学生といえども、この学園の選りすぐりの強者たちが創意工夫を重ね、切磋琢磨する光景は眼福だよ。
だがね……
もう少し、荒れてもいいんじゃない?って思う。
内容も、結果も……!
小波乱と呼ぶべき事象はいくつか起こっている。
抽選会第3巡の派閥が第2巡を破ったりね。
この選抜に出ている時点で、皆、猛者には違いないのだけれど、選考基準である派閥ランクが必ずしも強さを表す指標ではないために、こういった番狂わせはしばしば起こるんだよね。
例えば、仮に、第2巡の派閥のメンバーのランクの平均値が第3巡の派閥のそれよりも高かったとして、実際にポイントでも上回っていたとしても、予選ブロックに向かう際の戦略次第では、容易に波乱は起こり得る。
実力面で見ても、平均のランキングでは劣っていても、派閥の長や幹部クラスの実力では上回っていることもざらにあるからね。
あとは、集団戦の連携プレーの成熟度によっては多少の実力は凌駕してしまうなんてこともあるのだよ。
そういった各自の戦略、実際の決闘における戦術なんかを見るのも、この大会を楽しむポイントさ。
でも、そういった話はどうやら、あくまで10位より下のランキングでの話みたいだよ。
これまでの予選の決闘を見るかぎり、10位以上……『殿上人』と他の派閥には圧倒的な差があると言わざるを得ないね。
わかってはいたことだけどね。
それでも、8位〜10位の『殿上人』成り立ての2年生たち相手なら善戦するところも出てくるかななんて思っていたけど、全然、そんなことなかった。
1度その地位に就いた者の強さを見たよ。
10位台の派閥の長からすれば、まだ手が届く存在だと思ったのかもしれないが、圧倒的な属性魔法の支配力の差を見せつけられていたね。
地位が人を作るとはこういうことなのかもしれないな……
私の教務主任や学年主任やこの選抜運営委員も誰かに譲りたいな……
きっと役職が人を作るよ。
……どうせなら教授に頼んでマムンクルスにやらせてみるか?
えっ、ダメ?
……話を戻すとだね。
運営はあれこれ模索して予選のブロック戦に工夫を凝らしてみたのだけれど、結果的にはあまり波風の立たない予選になってしまっているよ。
決闘ごとにお題を設けたことも、当初から懸念されていたとおり、より多くの魔導師を抱える大派閥に利する形になり、前評判どおりの順当な結果が多い。
まあ、運営側のこの新たな試みにより、決闘自体の面白さは増したとは言えるから、モーリッツたちがした提案は来年も続けることになるんだろうな、とは思う。
中継アプリの視聴数も好調らしいしね。
それでも、私には不満があるんだ。
ここまでの決闘を見る限り、どの派閥も、本選での戦略ばかりに取られて、予選への取り組みが今一つのように見受けられる。
もちろん、『殿上人』が戦力を温存するのは理解できる。
彼らは君臨する者たちであると同時に、次世代を育てる使命も派閥として持っているから、予選を新戦力を試す場にしたりもしているんだ。
その証拠に、3年生が長の派閥なんか、どこも第2決闘が終わった時点でいまだに派閥の長が登場していないのだからね。
この層の厚さと、統率力には素直に感服するよ、私は。
問題は、それに挑む、ブロックの他の派閥たちの姿勢だ。
どこも『殿上人』の派閥に対して主戦力を投入していない!
結果、行なわれているのは退屈な帳尻合わせ。
たしかに、『魔導師』にとって、その頭脳を駆使して戦略を練ることは重要だけどさ?
君たち、まだ学生だよ?
この程度の舞台で、そんなにみみっちい戦略で得意になっていていいのかい?
それじゃあ、先に進んだとしてもたかが知れているというものさ。
どこかに、もう少し気概のある派閥はないもんかね……
……ああ、あの派閥は脇に置いておいてくれるかな?
あれ、気概があるというより、ちょっとおかしい子たちだからさ。
なんか、第1決闘の初戦に、ブロック内ランキング2番手の派閥相手に圧勝しているしさ。
第1戦は、まさかの派閥TOP3を投入するし……
第2戦は、上級の『領域支配』を持つ策略家をハリーと双子たちが翻弄していたし……
胸を借りて飛び込んで行って、見事に吹っ飛ばして行ったよね。
胸のすく思いと言われればそうなんだけど……やっぱり、少し複雑なわけさ。
派閥としても、その異常な成長具合にさ!?
さらに、問題は第2決闘の【紅七星】戦だ。
第2決闘に出場した彼女たちは、なんかおかしな魔法を使っていたよ。
私にも、それがなんであるかよくわからなかった。
推測はできるんだけれどね。
……というのも、SP任務をしていて、会場内でおかしな魔力の波長を感じ取り、その出力減を探ったんだよ。
そしたら、とんでもない人物がそこにいた。
……『聖女』アルテさ。
その政治における辣腕ぶりと、『魔導師』としての実力から、帝国中にその名を轟かせており、彼女の伝説に憧れて聖教会で修行を志す人間が後を絶たないと言われる一方で、その実像を知る人たちからは尋常じゃないほど恐れられていると聞く……
近からず遠からずの場所からの伝聞では、そんな感じの御方だよ。
私よりだいぶ若いのに大した御人だよ。
できるだけ関わりたくないから、この学園に姿を現さないで欲しいのだけれどね。
彼女がノーウェ君とつながりがあることは分かっていたのだけれど、今回の、突然の来訪はどういった目的なのだろう?
だって、会場にノーウェ君いないんだよ!?
ふむ。そうなると、彼女はノーウェ君以外の【紫雲】メンバーとも繋がりを持ったということになるね。
これはいよいよまずいなあ。きな臭いよ。
彼女が張っている結界も、SP任務従事者としては、止めさせなきゃいけないよね?
幸い、ほとんどの人間が彼女のしていることに気づいていないし、また、それが決闘をしている舞台に影響しているわけじゃない。
あれば、中にいる白鼠が止めているからね。
そうなってくると、彼女の行いを咎めるのは、舞台の外を守るこの私の仕事となるわけだ……
気が重いなあ。
『聖女』は苦手なんだよ。『黒魔導師』の私にとっては、相性が悪いんだよね。
できるだけゆっくり『聖女』の元に向かったら、なんと!救いの手を差し伸べてくれる者がいました。
イトヤ=ラクシナ……要するに『魔女』ババア。
まさか、彼女が助太刀してくれるなんて。
いや、そういうつもりではないんだろうけどさ。
なんとなく、2人のやり取りを遠目から伺っていたら、話は済んで、『聖女』アルテはその場を立ち去りました。
ラッキー!
ババアは悶絶しています。人のものをなんでも見境なく食べるからだね。
ちょっとは自分で苦労して調達することを覚えた方がいいんじゃないかな。
これが、舞台の中と外で起こったちょっとした波乱だったよ。
……ということで、舞台外で起きようとしている波乱に目だけ光らせながら、舞台内で他にそういった波乱を起こそうとしている、気骨のある派閥がないものかと私は見守っていたわけさ。
すると、もう1派閥、いたんだ。
Eブロック。
先ほど、私のために防波堤役の仕事をしてくれた、イトヤ=ラクシナが顧問を務める『風華』のジャネット嬢が率いる【魔花】が君臨するブロックにおいて、抽選番が第4巡にもかかわらず、他の2派閥を破り、最終の第3決闘で『殿上人』の派閥に対して挑戦状を突きつけた派閥がね。
Fブロック同様、このブロックも第3決闘は、本来であれば消化試合の様相が強くなる。
どちらも2連勝して、本選出場を決めたからね。
これまでの彼らであれば、今後の本選に向けた戦略として、第3決闘はわざと負けて主力を温存していたことだろう。
でも、第1決闘と第2決闘の様子を見る限り、そのような手に出るようには思えない。
ひょっとしたら、消化試合と思われていた第3決闘が、意外な好カードになるかもしれないよ……?
第1決闘と第2決闘に出ていなかった、【魔花】の派閥の長、『風華』のジャネット=リファと、まるで生まれ変わったような、熱い戦いぶりを見せる頭脳派派閥【魔転牢】の長、『氷狐』のガイル=ワイリーの1戦が期待できるかもしれない……
そして、Fブロックも興味深い。
私の授業に出ている教え子たちが登場するからね。
明日が待ちきれないよ。
ちなみに、彼らにとっての休養日である今日はAブロック~Dブロックの第3決闘戦が『ハイリゲンアリーナ』で開催されています。
まあ、派閥ランク1位の【蘭光】や2位の【炎城桜】、4位の【羅雪】が出るから観客は大入りなんだけどさ。
肝心の長が、結局予選に1度も出て来ないし、予定調和な決着だから、なんも面白味がないんだよね。
まあ、次の本選第1回戦(ベスト16)は1対1の代表戦という1発勝負だし、抽選をし直すことになるから、皆、そこに照準を合わせてきているんだろうね。
見てる方はまあ退屈だった。
ということで、本日の最終決闘が終わったところで、私はさっさと切り上げたよ。
日はまだ高いので、飲むのは早いし、ちょっと学生たちの様子でも見に行こうと思って、私は学園内を歩くことにしたよ。
『ハイリゲンアリーナ』から学生寮のある方角へ。
噴水を越えて、セピア寮のある大きな道路に差し掛かったあたりで、なんかおかしな魔力の波長を感じたよ。
その方角に向かってみた。
そういえば、この一角に【紫雲】の派閥専用の家があるんだっけか?
でも、魔力の放出が起こっているのは、家の中ではなく外だ。
裏手に回ると、1人、遠くから何か魔道具の長い筒のようなものを覗き込んでいる女子学生を発見。
あの子は……『魔女』の一派だね。
その筒で何を見ているんだい?
ほうき星を探しているのかな?
いや、違う。
まだ日も暮れていない。
彼女が目を凝らして、見えないものを見ようとして覗き込んでいる、その魔道具の筒の先端が指し示す方に目をやると……
男子学生が4人、伸びきった草の無法地帯のようになっている場所で、何やら魔法の打ち合いをしている。
……あれは、【紫雲】のメンバーだね。
ノーウェ君、ブルート君、リバー君、ハリー君か……!
君たちは何をしているんだい?
なんか、まるで決闘みたいに本気で魔法を打ち合っているように見えるんだけど……
君たち、明日決闘だよね?
どんな派閥とやるか分かっている?
今日は休養日のはずだよ?
気がついたらいつだって、ひたすら魔法を放っていなければ気が済まないのかな?
彼らは……まったく!
……そんなお小言を言いたくなるくらいに、彼らは鬼気迫る表情で魔法をバンバン放っています。
どこかで私が止めに入るべきだろうか……
「きゃっ!!」
……あっ!
ノーウェ君の放った『風の刃』の魔法が、遠くから偵察?をしている『魔女』の女子学生の魔道具を真っ二つに切り裂いてしまったよ。
彼には……ノーウェ君には、くれぐれも迂闊に近寄らない方がいいと思うけどね。
うっかり八つ裂きにされてもしらないよ?
◇翌日◇
そんなこんなで、いよいよ、やって来ましたよ。
Fブロック第3決闘が!
第3決闘は……
第1戦……5対5(集団戦)
第2戦……2対2(タッグマッチ)
第3戦……1対1(個人戦)
……となっています。
当日朝に発表された出場メンバーとその組み合わせのインパクトは絶大で、『殿上人』の上位派閥が出場した昨日よりも多くの人がこのアリーナに詰めかけている模様。
目玉は、第3戦。
『石嶺』のコインドイルVS『紫魔導師』のノーウェ=ホーム。
学生ランク7位に位置する3年生の『殿上人』コイン=ドイルを相手にノーウェ=ホームがどんな戦いをするのか?
ノーウェ=ホームという、入学して快進撃を続ける未知の存在に対し、コイン=ドイルという男がはたして「最初の壁」となるのか?
観客の興味はそこに集中しているのだろう。
少し離れた場所で立っていても、その熱気が伝わるよ。
まあ、その気持ちも分かる。
でも、私は【紫雲】という派閥単位でも、この第3決闘でどんな戦いを見せてくれるのか楽しみにしているんだ。
なんと言っても、相手は大派閥。
その中でも、最も「手堅い」と言われる、強固な結束力と熟練の技を持つ【堅切鋼】が相手だ。
いくら【紫雲】といっても、現時点では「高すぎる壁」であると思う。
でも、だからこそ、自分たちの足元をしっかり見据えて、その立ち位置をしっかりと確認してほしい。
特に、最初の5人は、私の「黒魔法」の授業に出ている、いわばかわいい教え子たちだ。
頑張ってくれたまえよ。
……ん?
なんだって、みんなして黒いフード付きの如何にも怪しげなローブを着ているんだい?
『黒魔導師』だからってさ!?1人は『赤』だけど。
しかも、その立ち位置を確認するように、五芒星の形に整列しているよ。
先生、昔を思い出して、ちょっとばかり恥ずかしくなってきちゃったよ……
学んで欲しいことって、そういうことじゃないんだよなぁ……
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
先生、赤面……笑
次回、第3決闘 VS【堅切鋼】第1戦開始!
そして、黒の魔導師の集団に名前が……
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




