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1-15『ある教師の呟き 其の1』

クローニ=ハーゲル。

 人は私のことをそう呼ぶ。

 だって、私の本名だからね。


 クローニ先生。

 学生は私のことをそう呼ぶ。

 だって、私は学園の教師だからね。


 ……では、私の勤めるプラハ学園について、少し話をしようか。

 私は、この学園に在籍して20年。

 3年前から学年の教務主任を任されるようになり、この前、この職に就いて初めての卒業生を送り出したばかりだ。

 《《学年の教務主任》》という言葉に今は引っ掛からないでくれたまえ。


 いち教師である時は、生徒を送り出すことはかなり感慨深いものだった気がするが、この役職についてからは、感動よりもどこかホッとしたような安堵の気持ちの方が強いね。涙よりため息。そんな最近。


 そして、そんな感慨に耽る間もなく、新たな気苦労が私の下にやって来る。

 今年の新入生たちだ。

 3年生が終わったら、次は1年生に戻り、2年生を経て、あっという間の3年生。

 何、このエンドレス?

 学校が3年制でなく6年制ぐらいになればいいのに。

 というか、全員留年すればいいのに……


 あ、いやいや。

 いけないね。私は教育者だ。

 生徒が社会に出ても路頭に迷わないように、そして生徒が社会に出て恥ずかしいことにならないように、彼らが巣立つときまで私たち教師がしっかりと見守って、ときに助言し、ときに支えてあげなければならない。


 じゃあ、社会が恥ずかしいものだったら?という疑問が沸いたけれど、それは一旦置いておこうか。それは政治家の仕事だ。

 じゃあ、政治家が恥ずかしい存在だったら?


 あ、いやいや。

 いかんね。どうしても追求してしまう。魔導師のさがだ。


 この学園は教育機関であると同時に、社会の縮図であると私は考えている。

 ある意味、生徒にとってこれ以上ない社会勉強、訓練ができる場所とは言えるね。

 物は言いようだ。

 たしかに一理あると思うね。


 だが、それ一辺倒もよくない。

 私は、教育機関とは、社会勉強(訓練)、青春、学問追求の3つをバランスよく生徒が享受できる場所であることが重要だと思っている。

 社会に出る前にそれを十分に体感、体験することで、今の社会に染まり切らずに、悪しきものを変える力になると思うのだよ。


 ははっ、少し青臭かったかね。


 そういう意味では、この学園は昨今、ひとつの方向に傾き過ぎている気がするね。

 学園の決闘システムと派閥運営を見ればそれが顕著にわかるだろう。


 決闘システム自体はとてもよくできていると私は思うよ。


 学生同士が競い合い、凌ぎを削って過ごす日々はこの上ない青春であるし、相手に勝つために日々魔法の研鑽を積めるし、ときに、命の危険が迫るほどのギリギリの勝負に投じるその場は、この競争社会において何よりの社会勉強だ。


 私が今問題視しているのは、派閥運営の方だね。


 派閥の存在自体は否定しない。

 人は1人では生きてはいけないし、3人寄れば文殊の知恵ともいう。

 3本の槍だっけ?いや、矢か。


 志を同じくする者たちが集い、幹を太くすることでより大きな力を持てる。

 重要なのは、その幹を決して腐らせてはいけないということだ。


 では、現状はどうだろうか?

 派閥の長や幹部に権限を与えすぎて派閥内に格差が生まれすぎ問題。

 大口スポンサー(貴族や大商会の子女の血縁)たちがサポートし過ぎ問題。

 カリスマリーダー派閥のメンバーの目が怖い問題。

 それらが決闘システムと合わさって、余計に事態を難しくしてしまっている。

 由々しき状況だね。

 力不足で申し訳ない。


 私にも理想はあるよ。


 派閥の長がある程度リーダーシップ(決断力やカリスマ性)を持ちつつ、信頼のおける幹部がそれを支えつつ、それでいてメンバー間で身分や派閥内での役割にこだわらず、広く意見を言い合えるような環境。うん、そんな派閥あるわけないね。

 あっても、みんなすぐに染まってしまう……


 それでも私は信じている。

 いつか、教え子たちの中からそんなこころざしを持つ者が現れることを。

 そして、そんな志を持った派閥がこの学園を、ひいてはこの帝国、大陸を変えていくいしずえとなることを。私はそんな人材をサポートするために教師をしているのだよ。


 と、いうわけで、私は学園の門の近くにある庭の中央に今日も立っている。


 暇なわけじゃないよ?

 入学式が始まったら忙殺の日々になるから、今から準備しておいた方がいいことなんて山ほどあるんだ。日が暮れたらやるよ。無理なら明日やるよ。

 でも、今はここにいるのが大事なんだ。

 これもまた、大切な仕事なのだよ。


 どんな新入生がやってくるか、最初にこの目で見定めることはね。


 さすがに、もうやって来る生徒はいないかな。

 ……帰っちゃってもいいかな!?


 ……と思ったら、やって来たよ、新入生が!


 紫の珍しいローブを着た、紫髪の少年。

 何か、やたら魔力を帯びたあのローブは一体どこで手に入れたものなのだろう?


 私は学生に質問し、彼が携えてきた紹介状を見せてもらう。

 うーん、聞いたことない村だ。でも、帝国内であることは間違いないな。

 領主印もある。思ったよりも近い場所だぞ?


 彼の称号は……『紫魔導師』

 ああ……『色付き』か。

 すまない、思わず口に出してしまった。


 悪気はないのだよ。

 なぜなら、私も外ならぬ『色付き』だからね。


 私の称号は『黒魔導師(極)』

「極」というのは、この魔法を突き詰めた者だけが得られる称号だよ。

 そのことを知らない者は多いけどね。


 なぜ『色付き』と呟いてしまったかというとだね?

 この学園のもう1つの問題。

『色付き』疎んじられ問題……があるのだよ。


 『黒魔導師』にしろ、『白魔導師』にしろ、成熟するには他の称号を持つ者よりもかなりの時間を要する。

 挫折も多く、殻を破っても、グラン級の壁を越えられる者はほんの僅かなんだ。

 もちろん、多くの『色付き』学生たちにはこの壁を越えてほしいと私は切に願っているのだけどね。

 まあ、越えたところでその魔法使えないのだけれどね。

 強力過ぎて。


 とにかく、問題はこの大器晩成型の『色付き』の卵たちを学園に来た早々に狙う姑息な狼たちが現状幅を利かせているということなのだよ。


 その狼たちも私の生徒だから、教師として一方を贔屓するわけにはいかないけどね。

 影に隠れて卵たちを狙うこの「新入生あるある」の文化が早く消えればいいのにと心から思う。


 そんなことを願っていたのに、まさに私の影からその行為が起こってしまったよ。


 紫のローブを着た『紫魔導師』の彼を狙ったのは『水豪』のブルート。

 貴族子息のいけ好かない奴だね。いや、差別はいけないのだけれどね。


 貴族の子息たちは『色付き』のしかも平民の出の学生たちを『ねずみ』といってさげすんでいる。


 じゃあ、私は『黒鼠くろねずみ』というわけだ。なかなか格好いいじゃないか。ははっ。

 そうすると、事務局長のあいつは『白鼠しろねずみ』だな。ぷぷっ、あとでいじってやろう。


 さて、決闘だよ。

 残念ながら、私にこの決闘を止める手立てはないのだよ、ノーウェ君。

 嫌そうな顔を作っている割に目は爛々と期待で輝いているのはなぜだい?

 いや、わかるよ。全然隠せてないよ。そのオーラも気配で察したよ。


 そして、決闘は始まった。

 私が最初に頭で危惧した予想は外れ、次に肌で感じた危険な予感は当たっていた。


 結果は圧倒と呼ぶべきものだったよ。

 子爵子息のブルートは、その汚れた貴族の精神が順調にスクスク育ちましたという典型のような男なのだけれど、扱う魔法は不思議なほど実直で素質もある。いびつだね。

 そんな彼の放つ最大級の魔法を子供扱い。しかも、ノーウェ君は、私がこれまでにみたこともないような魔法で防いでいる。

 同時発動?いや、違うか。

 結界?……のようだが、あんな魔法、白魔法の体系にはないなあ。


 けど、どこかで見たことある気がするのだがなぁ。

 しかし、君、決闘初めてだよね?

 なんか、場慣れし過ぎじゃない?


 おおっと、いかん、いかん。

 このまま、あんな威力の魔法食らったら、恐れ多くも子爵家の子息であるブルート君が瀕死になってしまう。

 ……それも良い薬かもしれないけど、時間は……ああ、ダメだ。もう18時近い。

 二日酔いで苦しむあいつの就業時間外になってしまう。あとで文句を言われるのも煩わしいから、ここは私が強権を発動して、強引に事を納めさせてもらうとするよ。


 しかし、ノーウェ君はエグいねぇ。

 魔法もだが、その交渉術だよ。

 どす黒いものを感じて思わず睨んでしまったよ。

 ブルートは気づいてもいないし。まあ仕方ないか。ブルートだもの。


 結果は申し分ないし、ノーウェ君が預かることでこのブルートという曲がりに曲がった貴族根性が少しは是正されるかもしれない。そこに先生は期待するとするよ。


 それよりも、ノーウェ君のあの魔法、調べなければ。

 そのためにはまずは彼の素性からだね。


 おいっ、白鼠しろねずみ。あれを貸してくれ。

 わかった、わかった。今度ランチをご馳走するから。

 しかし、彼の村はどこにあるのだい?

 領内の地図を開いても全然見当たらないのだけれど。


 あ、あった!え?ここ?

 こんな魔の森の奥地に村があったのか。

 えーと、近い村でも目方30キロはあるじゃない。


 強さの程度はわからないけれど、間違いなく魔物の巣窟だよ、ここは。

 未開の地だからね。


 うーむ。だが、こうなると得られる情報が乏しいね。

 そうだ。学生証を渡すついでに、本人からさりげなく聞き出してみよう。

 ただじゃあないさ。

 代わりに彼にここの決闘のシステムをもう少し詳しく教えてあげよう。

 決して説明を忘れていたわけじゃないさ。


 やって来たよ。マゼンタ寮。

 相変わらず遠すぎない?この寮。しかもデカいし。

 高さは他の寮の方があるけれど、庭と建物の面積は断トツだよ。

 なんか、知らない間に野菜まで植わっているし。野菜美味しいけどね。


 寮の扉を開けたら、猛獣たちに見つめられました。

 怖かったよ。


 また決闘かい?仕方ないね。

 私に止める権利はないよ。私はしがない学年主任だからね。教務主任?何それ?

 まあ「探索方式」ならいいのではないかな?死なないから。


 それにしても、ノーウェ君、君ってすごいね。

 あの殿上人てんじょうびとであり、公爵令嬢でもあるジャネット殿を「先輩」呼びとは。


 神経が太いのか、策士なのか、スケコマシなのか……

 1人の心を鷲掴みにして、100人の反感を買っているよ。

 ……ちょっと意味が違うか。


 無自覚なら少し痛い目に遭った方がいいと思うよ。先生は。

 自覚して、ならもっと痛い目に遭った方がいいけどね。


 まあ、でも、彼女たちを敵に回したこと自体は、先生、評価するなあ。

 だって、あの派閥嫌いだもの。


 いや、強さは認めるよ?

 それに、長であるジャネット君はわりとまともな学生に見えるのだけれどねえ。

 でも、下につく百人がちょっと盲目過ぎるというか、目が怖すぎるというか……

 彼女を信奉し過ぎているのだよねえ。そのくせ勝手に暴走しそう。


 それは健全じゃないよ。


 この世に完璧超人なんていないのだから、ジャネット殿にだって多少の欠点はあると思うよ。

 なのに、いつまでも妄信していたら、彼女が道を誤った時に誰も注進できないじゃない。何のための腹心だよって思うよね。


 きっと私が、こんなこと言ったら目を真っ赤にして「ジャネット様が道を間違えるはずがない」とかいうのだろう?だから、言わない。君たちには、言葉よりも思いっきり頭を打ちつけるようなショックが必要さ。この決闘がそうなればいいけど……さすがに難しいか。


 それで?ダミーを3つ用意したのかい?やるねえ、ノーウェ君。

 この時点で彼はジャネット殿の手の内を読んでいるということだからね。


 え、私が配置するの?

 それは、あとで何かイチャモンつけられそうで怖いから嫌だなあ。

 順当にジャネット殿が勝てばいいけれど、まだ君の魔法がわからないのだよねえ。


 おっと。今度は先生を脅してきたよ、この新入生。

 誰か気づいて。この危ない生徒に。

 何だろう?ブラフなのか、本当のことなのかわからないよ。

 まさか、不正をしたら《《豚になる》》魔法なんてないよなあ……ないよね?

 私は不正をするつもりはさらさらないし、立会人である以上、どちらかを優遇することもないけれど、そう釘を刺されてしまうと、2人とも困れば良いと思ってしまうんだ。


 探索物とダミーを選びに行ったノーウェ君が戻ってきました。

 何と、探索物は野菜。それも根菜。君、面白いことするね。


 本命の探索物にニンジンを選んだ意図が全く読めないけれど、ダミー3点も根菜にした理由は何となくわかるな。おかげで、探索の難度がぐっと上がった。

 ならば、先生も少しは協力しようじゃないか。

 よりこの探索が難しくなるようにね。


 こうして探索物の配置を終え、無駄に広い寮内と無駄に長い廊下を歩いて戻ってきました、念願の玄関ホール。

 全員目隠しをしているね。ぷっ、笑える。


 では、決闘を始めますよ。


 ノーウェ君、君はなぜ宙を浮いているんだい?


 ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

 もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


 ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!

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