3-52『対面』
はらわたが煮えくり返る思いだ。
憤懣やる方ないと言った方がいいか、抑え難い怒りが込み上げてくるというべきか……
とにかく、腹が立って仕方がない。
非常にムカつく。
どうしてくれよう!?
なんのことかというとだな……あの生臭のことだ。
おかしいとは思っていたんだよ。
急にディリカやレミが俺に部屋でじっとしていろなんて言い出したことには。
なんか裏があるんじゃないかとは思っていたよ。
だけど、あの対戦相手の貴族の先輩の発言を聞いたあとだったから、このことだったんかな?……と危うく騙されるところだった。
真の黒幕は別にいたんだ。
なぜ分かったかというとだな?
うちのメンバーが『結界魔法』を使っていたからだよ。
まあ、気づいたのは俺じゃないんだけどね……
ほら?
俺には規格外のマスボがついているからさ。
勝負が決まるところで、ディリカたちが説明のつかないおかしなことをしていたので、なんでだろうと思って眺めていたら、優秀なこいつが教えてくれたんだ。
『ハバメル』、『マガド』、『フィガド』という聞き慣れた3種の魔法を彼女たちが所持しているとね。
こんな魔法を伝授できる人間は限られている。
問題はどうやってあの銭ゲバが、彼女たちとつながりを持ったのか?……だが、モモエがあそこで鑑定を受けたりしているしな。
いや、それは大した問題じゃないな。
俺?
もちろん、あの銭ゲバに教わるなんてことないね。
そんなことをすれば、魔石がいくらあっても足りない。
そもそも、あの3つの魔法の代わりになる魔法持ってるしね。
だいたい、代替する魔法はあるんだい。
さて、これからが問題だ。
あの生臭銭ゲバ、どうしてくれよう?
毒蛇のようにスルスルと潜り込んできて、こちらをじわじわと侵食してくる侵入者には制裁が必要だ。
大掛かりな策を練らなければならないので、俺1人では少し心細い。
ちなみに、カーティスは勝敗が決まると、さっさと部屋を出ていってしまった。
表向きは「ディリカを労いに行く」とか言っていたが、内心は俺の気配を察して、面倒くさいことから「とんずら」したんじゃないかと思っている。
あいつ、そういうところがあるしな。
リバーに相談するか?
……いや、レミとの関係上、いつ裏切られるか分からないな。
却下だ。
うーん、どこかにいないもんかな?
あの毒蛇女と同じくらい狡猾で、蛇のように抜け目なく、突拍子もない、優れた策を練ってくれそうな人は……
ピローーーン!!
……なんだよ。
何か良いところまで出かかっていた気がするんだが、マスボの音に気を取られて忘れてしまった。
目を向けると、立体映像の大樹が口から魔石のようなものをペッと吐き出している。
まあ、手紙と違って、魔石じゃ原料は違うからな。仕方ないんじゃないか。
魔物扱いの魔樹でもない限りは……
魔石は急に光り出すと、そこから新たな映像を中継し始めた。
「本選進出おめでとう。ノーウェ=ホームよ」
マスボ越しに対面で向かい合う人物は、目元に白い仮面を着けていていかにも怪しい感じだ。
それよりも異様なのは、その髪型。
虹色をしている……
いや、比喩表現ではなくて……
「ありがとうございます……あのー、どちら様ですか?」
「うむ。分けあって素性は明かせぬ。ソナタ商会所属で上級生である俺が、新入生のお前に直で接触しているとバレると色々とうるさい奴がいるもんでな」
……今、思いっきり素性を明かしていた気がするけどな。
あとでリバーに人相を確認してもらおうっと。
録画しといてな!?
知らんけど、優秀なお前ならきっとできる!
派手髪の先輩は、派手な柄シャツの胸ポケットに入れてくしゃくしゃになっている、何やらメモ書きのようなものをおもむろに取り出した。
「えー、まずは本選進出おめでとう……」
それは聞きましたよ?
「君たちが本選に出場したことはよろ……こばしいことだが、そ、れは……相手の問題であって、君たちがじつりょ……」
たどたどし過ぎる……
明らかに読まされている感じを見せるぐらいなら、せめて練習をしてきてよ!?
「あー、面倒くせえな」
派手髪の先輩は、元々くしゃくしゃであったメモをさらにくしゃくしゃに丸めて後ろにポイっと放り投げた。
なんというか、豪快な人だ……
「だいたい、副主任の先公ふぜいがこの俺に指図するなって言うんだよな!?そう思うだろ?ノーウェ=ホーム」
「え?ええ、まあ、そうっすね……」
同意を求めないで欲しいんですが……
そもそも先輩、あなたは誰ですか?
「がははっ!そうだろ?そうだろ!?なかなか話が分かるじゃねえか。まあ、まどろっこしいことは嫌いだからぶっちゃけるけどよ?お前のことを目の敵にしている先公どもは、お前を本選の1回戦に出場させたくないらしいぜ?そのために、次のブロック予選の第3決闘に、お前に出て欲しいんだとよ」
「あー、そういうことですか……」
俺のことを目の敵にしている先生というのは、あの残念なおっさん先生一派のことだな、きっと。モーリッツ先生だっけ?
その一派の1人がこの派手髪先輩に何やら指図をしたということか。
ようやく話が見えてきた。
「まあ、そんな奴らの思惑なんかはどうでもいいんだけどよ?予選の中継の視聴率は右肩上がりでウハウハだし、今度の第3決闘の相手は俺の将来の同僚が出るから、是非とも戦って欲しいんだよな?俺としては……」
「誰が同僚だよっ!お前は……」
急に派手髪先輩の横から声がした。
映像が、そちらにシフトする。
そこには、頭にタオルを巻いた派手髪の先輩と同じくらいの体格の男子学生がソファに座って片手で頭を抱えていた。
あの人は……
「悪いな。ノーウェ=ホーム。こいつのどうでもいい事情は忘れてくれ」
「は、はあ……」
「自己紹介が遅れた。俺はコイン=ドイル。次の第3決闘でお前たちと当たる【堅切鋼】の派閥の長をしている3年だ」
ああ!そうそう。抽選会で第1巡でくじを引いている人の中にいた。
「ノーウェ=ホームです。よろしくお願いします。コイン先輩……と……」
「ああ、こいつはサンバだ。サンバ=オンドレア。どうか、『アホのサンバ』と呼んでやってくれ」
あっという間にその素性が、名前まで明かされた。
「がははっ、アホ抜かせっ!まあ、そういうことだからよろしく頼む、ノーウェ=ホーム」
そういうことって、どういうことだ?
アホでいいのか?
「よろしくおねがいします。サンバ先輩」
一応、今のところは礼節を保つ。
「まあ、それで、こいつの話した教師たちの思惑だとか、その他諸々の面倒くさい事情が絡んではいるわけだが、ブロック予選として見た場合は、もう俺たち【堅切鋼】と【紫雲】はガチでやる意味はなくなったわけだ」
「たしかに……」
そういえば、双方が2勝したんで、ブロック予選の勝ち抜きが決定していた。
それどころじゃない状況だったんですっかり忘れていた。
「まあ、そういうわけで、俺たちの第3決闘はまったくの消化試合になっちまった。1位か2位かは本選には関係ないからよ」
「そうなんですね」
そんなことをリバーが言っていたような気もする。
「ああ……でも、やらねえか?」
「え?」
「教師たちの企みとか、このアホの金儲けとかはどうでもいい。だが、お前とここで戦わなければ、本選含めてこの先戦えるかわからねえからな。1対1の最終戦でガチな勝負がしてぇ」
「……」
「もちろん、断ってくれてもいい、これは俺の勝手なわがままで、いわば魔導師としてのエゴだ。だから……」
「いいですよ」
「うん?いいのか?」
映像越しのタオルを巻いた先輩は、いくらか驚いた顔をしているような気がする。
だが、この提案は俺にとっては、むしろ願ったり叶ったりだ。
「ええ、やりましょう。俺たちの目標は別に本選で勝ち進むわけではないですし、それに……」
「それに?」
画面の相手を見て思わず顔が綻ぶ。
「俺のこの大会での目標は、とにかく強い魔導師と戦うことですから。よろしくお願いします、先輩!どうか、思いっきりやらせてください」
そう言って、俺は頭を下げた。
「ふ、ふははははっ、がはっ、がはっ!」
コイン先輩の横から大きな笑い声が聞こえる。
「お前はうるせえよ」
コイン先輩は横を向いて、嗜めるように文句を言っている
おそらく、隣で笑っているサンバ先輩に向かってだろう。
「ふっ、思いっきりやらせてください……か。生意気なやつだな。だが……嫌いじゃない。思いっきりやろうぜ」
そう言って先輩は笑みを浮かべると勢いよくタオルを取った。
タオルに押さえつけられていたアッシュカラーの短髪が一斉にピンと立つ。
気合い入ってんな〜。
「はいっ!」
望むところだ……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
消化決闘でも互いに全力でぶつかるようですね……よかった。笑
次回、『石嶺』のコイン=ドイルという男とその派閥……
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




