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3-51『聖女と魔女』

「へえ、やるじゃん」


 第2決闘の興奮とどよめきの余韻が残る中、聖女アルテは、ほんの数分前に発したのと同じような言葉を呟いた。


 「春の選抜決闘」予選Fブロック第2決闘【紫雲】VS【紅七星】の決闘戦は、下馬評では圧倒的に【紅七星】が有利とされていた。


 【紫雲】という新入生派閥は、この大会のジョーカーと目されており、ひょっとしたらランクが上の派閥も食ってしまうのではないかと観客や大会の関係者たちの間では噂されてはいた。

 事実、第1決闘において、Fブロック内4派閥の中では2番手の派閥ランキングを誇る【波羅須免土】に圧勝してしまったのだから、あながちその評価も間違ってはいない。


 だが、それはあくまで主力メンバーの話。


 第1決闘は、ノーウェ=ホーム、ブルート=フェスタ、リバー=ノセック、ハリー=ウェルズといった、これまでに彼らが行なった派閥間決闘において指揮官や副将を務めたメンバーを投入してきたわけだから、そちらのジャイアントキリングに関しては一定の驚きを以て受け止められてはいたものの、どこか納得感のあるものでもあった。


 一方、今行なわれていた第2決闘の7対7の集団戦は、双方全員、女性メンバーであった。


 【紅七星】については、その派閥名が表すとおり、公爵令嬢であるマリー=オネットを長とする女性優位派閥であり、今回、マリー嬢自身が参戦したわけだから、主力投入といえる。


 特に、『土宮』のマリー=オネットは、学生ランキング6位の『殿上人』である、『風華』のジャネット=リファとも過去に接戦を演じたほどの実力者であり、その『領域支配』も破格と評されていたのだから、この第2決闘にかける意気込みは相当であったのが伺える。


 それに対して、【紫雲】のメンバーは、先の派閥間決闘で活躍したメンバーではあるものの、一段低く見積もられていたことは否めなかった。


 そんな中でのこの予想外のジャイアントキリングである。


 決闘を目にしていたものが、驚嘆するのも無理もないことだ。


 だが、聖女アルテの驚きは、そのような観客たちが抱いているものとはまったく異なる観点によるものであった。


 基礎の『結界魔法』である『ハバメル』と『マガド』……


 どちらも、魔法の素養のある教会関係者にとっては基礎中の基礎の魔法である。

 聖教会は「門外不出」などと謳っているが、本来なら、せいぜい護身程度の魔法でしかなく、孤児院で生活する子どもたちが、最初に習う3つの魔法の内の2つである。


 アルテは、この魔法を使って決闘に挑むことを、【紫雲】の出場メンバー……「アンバスターズ」に課した。

 何も、お遊戯の練習の発表会のような意味合いで設けた条件ではない。


 アルテは見たかったのだ。

 凝り固まった「聖教会」の人間の手を離れたところでこの魔法がどのような輝きをみせるのか……を。


 そして、彼女たちは、この魔法を特別なものにした。


 一見すると、『魔女』見習いの未熟な魔法を妨害しただけ……あとは、そこそこ強力な敵の魔法を多少弱体化させただけ……そのように見えるかもしれない。


 ……いや、理由あって、会場にいる観客や映像を観ている視聴者は、そのように見ることもできないのであるが、とにもかくにも、そんななんてことのないように思える魔法が、なぜ()()()()()といえば、今はまだ力の劣る者が、強大で熟練した相手に対して臆せずに前進していく中で使われた魔法だからだ。


 それは、ただ守るために張られた結界ではない。


 相手の懐に潜り込むために使われた「攻め」の結界魔法を自身の教え子たちが、彼女たちの本来持つ魔法と組み合わせながら、この大舞台で臆せずに用いたからこそ、聖女アルテは満足そうに頷いたのであった。


「何やら楽しそうだのう……?」


 おおよそ聖女らしからぬ、足を組んだ姿勢でニヤけるアルテの後ろから耳障りな声が聞こえてきた。


「……チッ、木っ端『魔女』か。人が良い気分に浸っているのに何の用だ?」


 聖女アルテは聞き馴染みのある声に対し、振り返らずに返答する。


「何の用って、私はここの関係者だよ。観戦していちゃおかしいのかい?」


「あんたは、たしか別の派閥の顧問じゃなかったっけ?」


「ふん、今しがた決闘をしていた両派閥とも、私が顧問をしている子たちと因縁があるもんでね。代わりに見届けてあげていたのさ」


「へえ」


 この『魔女』が顧問をしている派閥は、昨年からの新興ではあるものの、公爵家令嬢を筆頭とし、学内でもかなりの勢力になっていると聞く。

 アルテは、学内の、特に学生の内部のことに関しては、そこまで詳しいわけではないのでノーウェや「アンバスターズ」たちが大会前にそれほどの相手とすでに因縁があることには素直に驚いた。


 驚く一方で、ノーウェなら、それぐらい暴れていてもおかしくはないと妙に納得もしてしまったが。


「そんなわけで、生徒のために重い腰を上げて来てみたら、珍しい顔が何やらおかしなことをしているもんで気になってねえ」


「何の話だ?」


「とぼけんじゃないよ。私には()()()()だよ。誤魔化せると思ってんのかい?ここは学園で、これは生徒にとって大事な大会なんだ。あんたのような部外者が神聖なこの大会を邪魔する権利はないよ」


「邪魔?何の話だ?私は観客として危なくないように舞台の外側に結界を張っていただけだけど?」


()()()()()()()攻撃魔法を防ぐのかい?そりゃ初耳だねぇ」


 チッ……


 今度は聞こえないように心の中で舌打ちした。

 『魔女』は束になっても木っ端と思ってはいるものの、このような戦いにおいては、油断のならない者もいる。

 後ろの席に座っている『魔女』のように……


「……『タコもどき焼き』食うかい?」


「話をはぐらかすんじゃないよ……もらうけど……」


 まだ、手に持っている箱は渡さない。


「これは、別にあんたたちや、他の勢力に向けてやっていることじゃないよ。もちろん身内(聖教会)も含めて、ね。ただ、今、この状況を悟られたくないやつがいるだけさ。だから気にしないでもらえるかい?」


「……誰だか知らんが、そのたった1人のためにここまで大掛かりなことを?」


 聖女アルテは、ここまで……会場から舞台が見える一帯に『認識阻害の結界』を張り、そこにいる観客だけでなく、映像を通して観ている者にも、「アンバスターズ」が具体的に何をしていたのかははっきりとはわからないようにしていた。


「まあ、そういうことだね。あんたには分からないかもしれないが、私が警戒している人間は『魔女』でも、『賢者』でも、その他のどの小うるさい学園関係者でもないんだよ。あんたらは、所詮、箱の中でペチャクチャ喋っているだけの存在だからさ」


「とても気にしないでくれと頼み込む人間の物言いではないな……部外者のお前がここの学生にちょっかいを出しているのを私が見逃すとでも?」


 背中に伝わる圧力……


 聖女アルテは1つ大きなため息を吐くと、立ち上がって、後ろの席の『魔女』と向き合った。


「べつにあんたの学年の子でも、あんたの派閥の子でもないだろう?」


「教育者にとって、学生は皆、守るべき存在だよ」


「実に学園の関係者らしい傲慢な考え方だね。学生だって一己の人間なんだ。すべて管理されるべきではないし、学外での社会活動だって学生である時分からやっていても何も問題ないはずだろ?うちの修道院の子なんてもっと小さい頃からしているぜ?」


「社会活動と言っても過度な危険が伴うものは認められないからねぇ……」


「じゃあ、学生の魔術教会への出入りも冒険者ギルドへの登録も禁止するんだね。公平性ってやつを守るためにも!せいぜい籠の中で餌だけをつつくように育てな」


「……何を企んでいる」


 聖女は、中身が残り2つとなって軽くなった箱を『魔女』に手渡した。


「おや、興味があるのかい?いつも事が起こるともっともらしい不吉なことを言いながら引き篭もるくせに。日々を過ごすのにやっとの思いで暮らしていて、必死で救いを求めている者は、遠くから予言めいたことを言ったり、押し付けがましいアドバイスを自慢げにする奴のありがたい言葉なんか求めちゃいないんだよ」


「……」

 

 『聖女』と『魔女』は仲が悪い……


 元来、ことわざのように言われてきていることではあるが、少なくとも、聖女アルテにとって、その言葉の意味は、迷信のような曖昧な解釈が残されるものではなく、はっきりとした「姿勢」の違いによるものであった。


 自分で動こうともしないやつにかける言葉はない。


 目の前で「特別」になろうと必死に飛ぼうとする未熟な魔導師たちの方が、彼女にとってはよっぽど貴重な、尊敬に値する者たちだ。


 それが分からないのであれば、せいぜいしたり顔で引き篭もっておけ。


「そうそう、私からも1つアドバイスだよ。こっちを警戒する前に、もう少し足元に気をつけるんだね。『怠惰』も過ぎると、足を掬われて、放り出されることになっても知らないよ」


 聖女アルテは一気にまくし立てると、口笛を吹きながら、観客席を離れ、出口のある通路の方へと向かった。


「ふんっ……言いたいことだけ散々抜かしていきおって」


 憤慨する『魔女』は、箱に入った「タコもどき焼き」を1つ摘まんで口の中に勢いよく放り込んだ。


 ……

 …………

 ………………


「くっさぁ~」


 タコは使われていないのに、口中に溢れる、腐敗しかけた海産物特有の生臭さ……


「あやつ、なんでわざわざ干しイカなんぞ混ぜ込んでいるのだ……?」


 第2学年教務主任の『魔女』イトヤ=ラクシナは、大好物の「タコもどき焼き」を食べて悶絶した……

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


学業と課外活動……その対立はいずれ……


次回、しっかりバレてるっ!?


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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