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3ー50『ロケットダイブ』

 10秒の間……


 だが、彼女たちにとっては、一瞬のこと。

 その間に、しなければならないことがたくさんあったから。


 『ハバメル』を発動させながらのバトンワークは、最速で終わらせた。


 「花」はすでに次の生育者の元に渡っている。


 未来は見えない……


 だから、跳ぶ。


 待っているだけの……ありきたりの魔導師にサヨナラするために……


「行きますよっ!!『サステイン-ハイウインド』」


 切り開くのは、魔導師としてすでにしっかりと歩き出した少女の、決して止むことはない風……


 モモエが広域に放つ全力の『風』に文字通り乗って、5人のメンバーは、一気に相手の本陣へと向かって飛び立つ。


 相手の誰が「花」を持っているかは、まだ分からない。


 1分という制限時間と、敵の指揮官の驚異的な力を前にして、それをじっくりと観察している暇はない。

 その場その場で、できる者が見極める。


 完全に場当たり的な作戦だが、それこそが【紫雲】という派閥の真骨頂。


 -勝手に強くなりやがれ-


 それが派閥の訓示なのだから、霧の中だろうが、土の障害物があろうが、相手が待ち構えていようが、とにかく、辿り着いてみてから、突破口を確認する。


 何もここは宇宙ではない……ただの何億通りもある未来の1つなのだから。


 先頭にミスティ(白)……

 その後ろにエメルダ(白)とカマンベ(白)……

 最後尾にディリカ(赤)とミモレ(赤)……


 モモエは彼女たちを飛ばすために、魔力切れを起こすまで「風」を作り続ける。


 ドサッ……ドサドサッ……ドサドサッ……


 高速の旅は一瞬……


 風に乗って、土の三角錐の地面を跳び越え、敵の魔導師たちの待ち構える土壁の目前に一気にダイブをかました5人は着地もそこそこに次の策に移る。


「行っくよーーー!『サープラス-グルー』」


 最前線に降り立ったミスティが、両手を下にかざし、敵味方、所構わず、周囲の土の支配を受けた地面を思いっきり溶かし始める。


 ゴゴゴゴゴゴ……


「きゃあーーー」


 地面が液状化し、不規則に陥没する。

 土塁の先でバランスを崩す相手の前線。


 両手を広げて、なんとか転ばないようにバランスを取ろうと必死だが、それこそが狙いだ。


 目視。


 前線の3人は持っていない。


 ならば、彼女たちは越える……


「ミモレ!」


「うんっ、行くよぉっ、『ハイウインド』」


 ミモレが両手で新たな『風』を起こす。


 ジャンプして、その『風』に乗ったのは3人。


 エメルダ(白)、ディリカ(赤)カマンべ(白)……


 前線の敵3人を飛び越えて一気に本陣に向かう。


「オホホホホ、来ましたわ。どうやら、やぶれかぶれの玉砕戦法ですわね」


 扇子をひらひらさせるマリー嬢。

 ディリカたちが作戦を開始したときんは、目を大きく見開いていたが、すぐに落ち着きを取り戻している。


 強者の彼女にしてみれば、攻撃手段を多く持たない『白魔導師』2人と発動が速いといってもその威力は中級程度の『赤魔導師』の攻撃など、たとえ捨て身であっても大した脅威ではない。


「離脱した3人の手に『花』はなかったでし。つまり、この3人の内、誰かが花を持っているでし」


 ルー=ネルネの片目が鋭くなった。


 その頭で迅速に答えを導き出す。


 5分がすでに経過。

 残り30秒ほど……


 1つ前は誰だかわからない。

 モモエは2つ前の花を育てた。

 ミモレはその前だが、すでに両手を開いてこちらに向けている。

 最初に育てたのは脱落したレミ。


 ミスティも手を開いたのを目視できた。今は違う。


 導き出される可能性は、必然的に前衛の『白魔導師』であるパルメ、エメルダの2人か、『赤魔導師』のディリカということになる。


 ルー=ネルネは確信した。


「花を持っているのは前衛の誰かでし。みんなで狙うでしっ!」


「はい」


「まどろっこしいですわね。全員まとめて私が叩き落としますわ!」


「『火蛙撫離ひあぶり』」


 両手で放たれる、黒が混じった蛙の形をした燃え盛る火炎……


「『羽虫光針うちゅうこうしん』」


 片手で放つ光と風が融合した、針を持った羽虫の大群……


「『土莉杏ドリアン』」


 楕円の球体の、無数の棘が付いた土塊……


 本陣を守る3人が放った魔法が、すべて飛び掛かる3人に向かって飛んでくる。


「今よっ!」


「「「『マガド』」」」


 魔法が中央最前列のディリカに当たろうとしたそのとき、光の壁が2層、彼女の前に張られ、輝きを放つ。

 その壁の正体は、魔法攻撃の威力を軽減する初級の結界魔法『マガド』。


 ゴォッ……ボワッ……


 シュンシュン……ダダダダ……


 ギュイーーン……ズガガガガガ……


「くぅっ!『土身殴打ドミノック』!」


 光の壁によって弱まったものの、元々の威力が強いために、依然こちらに向かってくる魔法を、ディリカは、右手に発動させた平べったい『ハイアース』によって、なんとか打ち払う。


「きゃあっ」


「きゃっ」


 流れ弾のような攻撃がエメルダとカマンベに被弾する。


 2人は両手を弾かれてその場に倒れ込んだ。


 ……そこに花はない。

 

 もう後戻りはできない。


「もう1発でし!相手は、もう片手塞がっているのでしから」


「ざんねーん、塞がってないわよっ」


「え?」


「だって、私は『花』を育ててはいないもの」


「どどど、どーして?」


 発動の速さで負けるわけにはいかない。


 ディリカは左手に魔力を込める。


 彼女もきっと頂に近い尾根まで登り始めている。


「『火斬発止ヒザンハッド』!」


 左手に発動させた平べったい『ハイファイア』を本陣中央に立つエネ=フラーム目掛けて、平手打ちをするかのように大手を振って放つ。


 3人が前線を死守。

 となると5分の間に本陣の3人で「花」を廻す。


 一瞬の目視で確認したのは、ルー=ネルネが両手で火魔法を放っていたところと、マリーオネットが扇子を仰ぎながら片手で土魔法を発動させていたところ。


 正面の魔導師がどうしていたかまでは目で追えなかった。


 でも、気にしない。


 ……元々、直感に従っているだけだから。


 バンッ……ボッ……ボボボ……ゴォーーー。


「きゃーーー」 


 ディリカが手のひらで、一瞬でスパークさせた炎は、標的の魔導師に直撃し、ダメージを受けた『光軌針』のエネ=フラームはその場に力なく倒れ込んだ。


 強く拳を握っていたエネの片手の手のひらは、握力を失い、蝶番をなくした貝のように開いていく……


 そこには……茶色く変色し、脆くなって枯れた「花」が土の地面に還っていった。


「勝負ありぃーー!【紫雲】の勝利ぃーー!!」


「そ、そんな……でしっ」


 【紅七星】の参謀役ルー=ネルネはまたしても見誤った。


 『先読み』ではなく、肉眼による目視と頭脳による推理を以てしても、誰が「花」を育てていたのか、当てることはできなかった。


 魔法は手で放つもの……


 その常識は【紫雲】には当てはまらないということを、ほんの1分足らずの間にずっと目撃していたはずなのに気付けなかった。


 あれだけ、注意深く観察していたその相手が、足に魔法を発動させ、魔法の風に乗っていたというのに……

 他の場所で、魔力を行使して花を育てているという可能性に思い至らず、彼女たちの()()()()()()視神経を集中させてしまっていた……


「な、なんてことですの……」


 土の要塞で完璧な防護の陣を敷いたはずであったが、最も重要な場所に隙を作ってしまった公爵令嬢のマリー=オネットは、糸の切れた人形のように、その場に力なく四つん這いになった。


 地面の形を変えて移動しづらくさせたとしても、土塁を作って攻撃をしづらくさせたとしても、本陣を守る指揮官の心に隙があれば、たとえ堅固な防護陣でも脆くなる。


「そ、そんな……ジャネット……」


 復讐に囚われた公爵令嬢マリー=アネットは、自らの魔法によって作った土によってその手や膝を汚しながら、呆然と崩れゆく景色をただただ眺めるしかなかった……


 霧が晴れ、『土の支配』を失った土塁と三角錐の障害が粉々になりながら崩れ落ちていく情景と、飛び跳ねて喜びを表す少女の姿を……


「やったーー!!」


 【紅七星】前線の手前で純白の「花」を持って飛び跳ねる『白魔導師』のミスティ……


 彼女が、一体全体どこで「花」を育てていたのか……

 誰にも知る術はなかった。


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ミスティがどこで「花」を育てていたかは、読者の皆様のご想像にお任せします。

(ヒント:タイトル(笑))


次回、会場に来ていたある人物の話。

ノーウェ謹慎の理由も明らかに……


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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