3-49『復讐の女王』
◇【紅七星】サイド◇
「そ、そ、そんな……ボ、ボ、ボクの……」
「落ち着きなさい。ルー」
「は、はいっ、マリーしゃま……」
公爵令嬢であり、派閥【紅七星】の長でもあるマリー=オネットは、自身の得意技が破られて明らかに取り乱している参謀役を嗜める。
威厳はあるが、どこか優しい、聞いているだけで心が落ち着いてくるトーンで……
「今度、貴女をお茶会に誘いますわ。あれは、貴族の嗜みと思われがちですけれど、魔導師としても大事な素養がきっと身につくはずですもの」
「マ、マリーしゃま、そんなことを話している場合では……」
時間は刻一刻と過ぎている。
両者、攻めあぐねている状況で、場は膠着状態となっているが、それにしても、ここにきてマリーの落ち着き払った様子は異様である。
「大事なことよ。魔導師に必要な素養は、何も自分の得意な魔法を磨くことだけじゃないの……どんな場面でも平常心を保つことで初めて自分の得意技を最大限に発揮することができるのよ。私は、それをあの憎きジャネットとの決闘で学んだわ……」
「マリーしゃま……」
「だから、もう1度、状況を見つめ直しましょう。相手はたしかに貴女の『先読み』を防いでいるわ。でも、それだけよ。こちらとイーブンになっただけで、決してこちらが不利になったわけではないわ」
「はい……」
「その上でまずは負けないことよ。残り3分となった時点で、私と貴女ともう1人いれば絶対に負けはないわ」
「ひ、引き分けで良いのでし?」
ルー=ネルネにとってマリー嬢のこの発言は驚きであった。
この決闘に対して執着と言っていいほどの並々ならぬ意欲を見せていたのは、他ならぬこの公爵令嬢であったのだから。
「もちろん、勝つに越したことはないわ。でも、1番大事なことは、このブロックを勝ち抜くこと。そのためには、まず負けないことがマストなのよ」
第1決闘にて【堅切鋼】に敗れた【紅七星】は、この決闘に負ければブロック戦敗退が決まる。
第2決闘ここまでの勝敗は、直前に行われた別カードの決闘を踏まえ……
【堅切鋼】2勝0敗
【波羅須免土】0勝2敗
【紅七星】0勝1敗
【紫雲】1勝0敗
……となっているからだ。
現在、戦っている【紫雲】は第3決闘に【堅切鋼】との1戦を残しており、まず勝てないであろうから、ここで【紅七星】が勝てば、予選通過はぐっと近づく。
その一方で、たとえこの1戦を引き分けても、最終戦の結果しだいで【紫雲】と並ぶので、その場合、最終的に予選通過を決めるのは、この直接対決での結果となる。
タイムオーバーによる引き分け……
だが、その際に舞台上に何人のメンバーが立っているかが、最後の最後で重要になってくる。
「勝つに越したことはないけれど、負けてはいけない。だから、まずは守りつつ、相手を引き込んで、こちらのフィールドで攻撃するのよ」
「承知しましたでし。では、『比羅三土の計』で行くでし!」
「良くてよ。エネ、こちらに。他の皆も戦線後退しますわよ」
「「「「はい、お嬢様」」」」
ルー=ネルネの献策とマリー嬢の指揮により【紅七星】の隊列が変わる。
前線にいた4人の内、エネ=フラームが本陣の2人の間に入り、残る3人は前線を本陣から数メートルの位置まで下げた。
「『比羅三土』、『兎王塁』」
戦線が後退したのを見計らって、マリー=オネットは領域から新たな魔法を展開する。
突如、元の前線があった場所に高さ1メートルほどの三角錐がいくつも出現し、新たな前線の前に、同じくらいの高さの、横一列の土の壁が造られた。
「4分経過ぁーーー!」
残り時間は6分。
【紅七星】は防御特化の陣を構築した……
ジャネット=リファに対する復讐心に駆られているときのマリー=オネット公爵令嬢は、やや過激が過ぎる面があるが、本来はその土の称号よろしく、堅実で保守的な選択を好む女性だ。
おそらく、新たに敷いたこの戦術の方が、本来の彼女に合うものであり、きっと『先読み』以外の魔法で対処する自分と合うはず……
ルー=ネルネはそう確信した。
「さあ、皆でここを死守しますわよ!」
「「「「「はいっ!」」」」」
「『先読み』は利かないでしが、誰が花を持っているかは、魔法を使うその手をよく観察すれば分かるはずでし」
「「「「分かりました」」」」
「絶対に、予選突破して、あの憎きジャネットの前で、四つん這いになった犬のノーウェ=ホームに鞭をくれてやるのですわっ!」
「「「「「……は、はい」」」」」
思想や志向と性格はまた違うものだ……
やっぱりこの人はとんでもなくヤバい人だと、ルー=ネルネは心の中で呟いた。
◇【紫雲】サイド◇
あっという間だった。
互いの魔法を放ち合いつつ突破口を見出そうと、しばしの膠着状態となっていた前線であったが、敵の指揮官の命令によって、即座に、敵の前線は撤収を始め、ディリカたちから見て舞台の奥深くに置かれた本陣近くまで戻って行ってしまった。
さらには、敵の魔導師が数秒前までいた場所に、土の三角錐がいつの間にか、足の踏み場に困るくらいびっしりと並んで配置されている。
しかも、その先には、1メートルほどの高さの土壁ができ上がっており、敵の魔導師たちは、その防御壁で身を守りながらも、こちらを攻撃できる状態だ。
相手の作戦は見るからに明らかだった。
「引き分け狙い……ってこと?」
ディリカが呟く。
「防御戦術だから、こちらが攻めないとそうなるよね……こりゃ、大変だ」
「それな」
パルメとエメルダが反応する。
現状6対6。
元々、強力な土魔法を使う敵の指揮官がいる中で、強固な防護壁まで造られたらたまったもんではない。
はたして、自分たちの力であの防御陣を崩せるんだろうか?
メンバーそれぞれの胸に不安がよぎる。
「『特別』になるんじゃんっ!?」
ミスティの一言に全員ハッとする。
「そうねっ」
「うんっ」
「そうだ」
「それなっ」
「そうですね」
そうだった……
結界術を教わった聖女アルテから何度も言われ、しごかれてきた。
特別になるためには、決して「これでいいか」と立ち止まってはいけない……と。
派閥の長であるノーウェ=ホームからも、この予選ブロックに挑むにあたって、メンバー全員、その心意気を問われた。
自分たちは本選のことを意識して決闘をこなす立場か?……と。
全力でぶつかった先の敗北や引き分けならいい……
……でも、自分が強くなるための決闘でなくて、自分たちが強くなるための大会でなくて、なんのための「選抜」だ?……と。
このまま、手をこまねいているのであれば、せっかく自分たちに「特別な魔法」を教えてくれた聖女アルテや、訓練に付き合ってくれた巡礼騎士団長ジュリアに申し訳が立たない。
何も行動を起こさずにいるのであれば、わざわざ無理を言って、理不尽な自主謹慎をしてもらった派閥の長に会わせる顔がない。
「1回限りになるかもしれないけど、次の切り替えで『《《プランB》》』行くわよっ!?」
「「「「「おーーー!」」」」」
教わった『結界魔法』は1つじゃない。
この大会を迎えるにあたって、「アンバスターズ」は3つの基礎の魔法を死に物狂いで学んだ。
今回の決闘条件であれば、もう1つ使える。
相手は全員上級生な上に、敵の指揮官はこれまで見てきた相手、戦ってきた相手の中でも最上級の属性魔法の使い手だ。
他のメンバーも、熟達者であり、中距離での打ち合いならともかく、近接での戦いとなったらかなり危険な賭けになるだろう。
参謀役のルー=ネルネの持つ属性魔法も彼女たちにとっては未知数だ。
彼女の『見通す』魔法は破ったが、『魔女』は他に得意な属性魔法を持っている。
それでも、腹は括った。
「残り5分ですぅーーーー」
立会人のアナウンスとともに、6人の「アンバスターズ」は、バトンワークをしながら、全員で最後の作戦を遂行するために駆け出した。
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
「特別」になるための戦い……引き分け狙いではいかんのです。
次回、跳ぶ……そして、花を育てるのは誰だ?
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




