3-46『土の女王と側近魔女』
「オホホホホ……刮目なさい!この私の『領域支配』を……『土偶乱』」
あ、ヤベェ……
ヤバい人だ……!
やたら高慢そうな茶髪ロングの女性は、羽根のついたカラフルな扇子をひらひらと動かしながら、とびっきりの土魔法を放つ。
ヤバいのは、彼女の放った魔法のことね。
さすがに、映像越しに映る人の性格をどうこういうつもりはないよ……
隣で観戦しているカーティスなんて、思わず五平餅落としてるし。
落ちたのが皿の上でまだよかった。
気をつけろよ……!?
何が危険かと言うと、相手派閥【紅七星】の長と思われるこの貴族の女子学生は、自陣、つまり舞台半面の床を一気に土の地面に変えたかと思ったら、さらに、何人かの土人形を作り出してしまった。
1、2、3、4……8体か?
これによって、開始早々に倍以上の人数差の決闘に見えてしまっている。
ただの土の塊が立っているだけなら、障害物程度でしかないのだが、この女子学生の作り出した土人形は、彼女の支配領域において、ウネウネと動いて、各自がそのポジションを変えている。
明らかに、やっている芸当がこれまで戦ってきた2文字の称号持ちとは違う。
本物だ。
……これは、ジャネット先輩級か!?
「オホホホホ、ジャネットに敗北してからというもの、私はこの技を磨きに磨いたのよ。見ていなさい、ジャネット!貴女のものは私がすべて奪うわ!ノーウェ=ホームも、明日から私の犬よ!」
「は?」
何、ヤバいこと言ってんの?この人……
俺は、そもそもジャネット先輩のものではないし、犬ではなく、れっきとした人間なんだが……
「まあ、ドンマイ……」
呆然とする俺の肩をカーティスがポンと叩く。
世の中があまりにも理不尽過ぎて、涙が出てくる……
俺のいないところでの風評被害が甚だしすぎる。
「しかし、厄介な技だな。それに、ノーウェは気づいたか?」
「あん?」
それどころではないが、戦況を冷静に見つめる。
「……あの隣にいる眼帯の人か?」
高らかに笑う貴族令嬢の隣に、黒い三角帽子を被り、黒のローブを着た小さめの女子学生が不敵な笑みを浮かべながら立っている。
片目に装着した眼帯が特徴的だ。
「……『未魔女』ルー=ネルネ。大会前に派閥に加わった2年生だと」
カーティスが、自身のマスボを片手で操作して調べている。
食べながら操作できるマスボって便利だよね。
『魔女』……
何かを見通す力を持つらしいけど、今ひとつどんな系統なのか分からない称号。
文字数は3文字だけど、『魔女』そのものより若干劣るのかな?
ダンジョンの授業で一緒だったサワーはたしか『小魔女』だった。
……村で祭りのときに、銭ゲバが売ってた「かみくじ」みたいだな。
「吉」の方が「中吉」や「小吉」よりも良いんだよ。
みんな、初めは騙されるんだ。
俺?
3回連続で「大凶」だったから、それ以来、2度と引くのを止めたよ。
あの銭ゲバ、絶対細工していたに違いない。
しかも、くじ1回につきCランクの魔物の魔石1個とかいう、今考えるととんでもない暴利を貪っていやがった……
「『魔女』の魔法って謎だよな……」
「……ノーウェにだけには言われたくないと思うぞ!?」
……ひどい!
そう返されると何も言えねえが……
「まっ、それはともかく。何々……?『ごく限られた領域の未来が見通せる』だってさ」
「……お前のマスボ、性能がすごすぎるんだが」
呆れるカーティス。
ごもっとも。
これに関しては、完全に同意する。
俺の持ち物であるこのマスボもかなりヤバいやつなんですよ。
褒められて気を良くしたのか、めっちゃ大画面に切り替わってるし……
おかげで決闘が心置きなく俯瞰して観れるけどね。
「どうやら、この側近の『未魔女』が参謀役だな」
黒胡麻五平餅を食べ終えたカーティスが、テーブルの上のボールにある、小さな粒の菓子を手に取る。
ふっ、口に入れてしまったか……
そのトウモロコシの菓子は1度口にしたが最後……あとを引いて止まらないぞ?
想い人が全力で決闘に挑んでいるのに、不謹慎なやつだ。
カーティスのだらけきった背徳な所業は、今後のカードとして握っておこう。
「女王『土宮』と側近『未魔女』か……厄介過ぎる組み合わせだな」
「ああ。俺なら戦いたくない……」
おそらく、マスボの映像を通して、俺とカーティスは不穏なイメージを共有した。
近い未来に起こるであろう、考えられる限り最も厄介な戦術を……
「行くわよっ!」
「「「「「ファイッ!おーーー!!」」」」」
対する俺たち【紫雲】側の戦術は如何に?
前列にディリカ(赤)、レミ(光風)、ミモレ(赤)……
後列にカマンベ(白)、ミスティ(白)、モモエ(桃)、エメルダ(白)の並びで、横一線、2列が固まり、ディリカの掛け声とともに、一斉に走り出す。
「おいおい……大丈夫か?事前に所持属性のリスクは想定済みなんだよな?」
「……そのはずだが」
前列に、『赤魔導師』2人と風魔法が使えるレミが固まっている。
これ、前列が全滅したら、即ゲームオーバーじゃん!?
後列はモモエ以外みんな光魔法(白魔法)しか使えないから……
それをまったく気にしていないと言わんばかりに、全員攻撃で敵陣に襲いかかる【紫雲】チーム……
「花」を育てているのは誰か?
横並び2列で一斉攻撃することで、「花」の受け渡しもし易くなるという算段だろう。
知恵を授けたのはリバーか?それとも……
また、相手チームで「花」を持っているのは誰か?
【紫雲】チームの動きを見通す女王側近の参謀はどんな手を使ってくるのか……
迫力の大画面から躍動感溢れる立体的な動き。
何はともあれ、10分で勝敗が決する。
……厄介なことにならないように、みんな頑張ってね。
俺は、立体映像から目が離せなかった。
シャクシャク……
その手に、弾けるトウモロコシ菓子を掴み、口に放り込みながら……
◇『ハイリゲンアリーナ』<第3者視点>◇
「10秒経過ぁーー!舞台上の『魔道具結界』が作動しますぅーーー」
決闘開始の合図のあと、相手のチームリーダーであるマリー=オネットが発動した土魔法の「領域支配」のすごさに圧倒された【紫雲】チームの7人は、一瞬のたじろぎを見せたが、すぐさま、作戦を実行すべく立ち位置を変えた。
前列に赤魔導師2人とレミ、後列にモモエと白魔導師3人……
【紫雲】のメンバー構成と「属性を2回は切り替えなければ同じものを使えない」という「Flower」のルールからして、赤魔導師とレミを前線に置くというのは、危険極まりない布陣だ。
白魔導師3人は光魔法しか使えないため、他の属性魔法が使えるモモエ、ディリカ、レミ、ミモレの内、3人やられてしまうと、その時点で制限時間いっぱいまで戦うことができなくなってしまう。
それでも、彼女たちは、意を決して敵陣へと切り込んでいく。
シュワーーー……シャーーー……シュワ―――……
「おっとぉーーー!今回の『Flower』の環境は『霧』だぁーーー。なんとも濃い霧が舞台一帯に立ち込めて始めたぞぅーーー!」
また悪いことに、今回の環境設定が「霧」となった。
視界が悪くなることによって、相手の「土人形」と敵との判別がよりしづらくなる。
それでも、引き返すことはできない。
「ホーホッホ!玉砕でもしにきたのかしら?まさか、全員攻撃なんて」
「……気をつけてくださいまし、マリーしゃま。何事か企んでいるようでし」
「ホホホ、分かりましたわ!皆の者、前線狙いで囲いなさい」
「「「「「はいっ!」」」」」
令嬢の号令に配置につく他の学生メンバーが呼応する。
メンバーたちだけでなく、8体の土人形たちも身振り手振りで気勢を上げる。
【紅七星】は本陣にマリー=オネットとルー=ネルネを残して、残りの5人が、前列3人、後列2人の隊列を組んで前線に布陣している。
土人形たちは、本陣に3体を残して、5人の前線部隊と交互になるように前後列に並んでいるので、実質前後列5人ずつの10人が並んでいるように見える。
こうして、女子学生7人同士(&土人形8体)の戦いは幕を開けた。
前線のディリカ、レミ、ミモレが相手の「土の陣地」に到達する。
そして、それを待ち構える相手の前線の射程にいよいよ接近して、相手の魔導師たちが攻撃準備に入ったそのとき、ディリカたち前列は、急停止して立ち止まった。
「隊列交換!」
「「「「「おーーー」」」」」
そして、後列の4人が魔法の攻撃準備をしながら前線の3人を追い越していく。
「いきますっ。『サステイン-アース』」
「援護するよー!『サープラス-プロテクト』」
モモエが『アース』を放ち続け、4人の四角く平べったい土の板を成形していく。
それを、ミスティが補強して固くする。
ガンッ……ガンッ……ガンッ……ブワッ……ブワッ……ブワッ……ドガガガガ……
「なかなかやるでし……」
相手の前線が放った魔法は、モモエとミスティが即席でこしらえた土の壁によって阻まれる。
「『グルー』」
相手の魔法を防ぐと同時に前列の残り2人が土壁を溶かす。
「隊列交換!」
「おーーー!」
再び、前列と後列を入れ替える【紫雲】チーム。
「『ルームライト』!」
「「『ハイアイス』」」
「きゃーー」
敵が発動した魔法を土壁で防いだ直後、まずレミが片手で光魔法を放ち、こちらの視界を広げると同時に相手に光の不意打ちをする。、次に、相手の準備が間に合わない隙を突いてディリカとミモレが『ハイアイス』を発動する。
狙った相手は前列端にいた『田井脚』のベッキー=ヤロタ。
身体の上下に氷塊が不意打ちとなって当たる。
「『ハイストーン』」
さらに、モモエが、相手のベッキーに向けて石塊を放ち、相手は敢え無くノックアウト。
相手の攻撃に対する反撃は成功し、人数を削ることに成功した。
「まもなく1分経過ぁーーー」
ここで、最初のターニングポイントとなるアナウンスがあった。
1回目の「開花」のときだ……
「あら?なかなかやりますわね……『土流移動』」
味方を1人失ってもまったく慌てた様子のないマリー嬢。
扇子を持つ手とは別の握り込んでいた手を開くと、黄色い花がふわりと咲き誇った。
今が咲きごろの魔法の花は、令嬢の手を離れ、土の人形の両手に納まる。
そして、人形は地面の土の中に潜り込み、跡形もなく消えてしまった。
マムンフラワーに属性魔法を込め、花を咲かせる必要がある。
所要時間は60秒。
そこから10秒の内に、他のメンバーに花をパスするタイミングと戦術がこの決闘の鍵になってくるのだが、『土の支配』を受けた舞台半面では、その支配者の忠実な僕である土人形は神出鬼没だ。
つまり、その土人形が手に持った新たな「花」の苗も必然的にどこから現れるか、誰に手渡されるかわからなくなる。
相手チームからすれば、これほど厄介な戦術もないだろう。
対抗策としては、敵を1人1人倒していくか、司令塔である、土の人形の主人マリー嬢を倒すしかないのだから。
対して、【紫雲】チームは、それぞれのメンバーが距離を近くに保つことで、花の受け渡しを行なっていく。
ポイントは10秒の猶予時間。
その間は、属性にかかわらず、誰の手に渡っていても違反にならない(花は枯れない)。
「頼んだよーー」
【紫雲】側で最初の花を育てていたのはレミ。
緑色に咲き誇る花は、別のメンバーの手に渡り、流れるようなバトンリレーをしながら、次に花を育てるメンバーの手に納まった……
だが……
「あの子でし!」
「えっ、なんで!?」
【紅七星】の本陣付近で発せられた声に呼応するように、土人形4体が、【紫雲】メンバー1人の周囲を囲んだ……
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
敵もさる者……
いきなり絶体絶命のピンチ……
次回、【紫雲】側の秘策は……
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!
※ルー=ネルネが、マスボ操作をしている→不敵な笑みを浮かべているに修正しました。当初魔道具使用可にしていた名残でしたm(_ _)m




