3ー45『色花』
◇学術棟B館内のとある部屋◇
「へえ~、上手くいったのね?あなたもなかなかやるじゃない?」
「え~?ひどいですよぉ~。私だって『魔女』の端くれですよぉ~?」
黒いカーテンに囲まれた1室に、2人の『魔女』……「魔術協会」に所属する構成員たちが向かい合って座っている。
片や、足を組み、自身の爪の手入れをしながら、年若の少女の報告を聞く、大人な魔女。
片や、自身の薄青色のパーマ髪を指でくるくると巻きながら不平を言う女子学生。
正確に言うと、2人の魔女の内、1人は本物の『魔女』。もう1人は、称号としてはまだ見習いを示す『小魔女』だ。
教師と学生という立場上の違いもある。
「うふふ、そうね」
「でも、私も決闘に参加したかったなぁ~。潜入調査だけなんてつまんないですぅ~」
「決闘はあのコに任せているから大丈夫よ。あなたは、引き続きあの派閥と良好な関係に勤めなさい」
「はぁ~い……」
返事はするものの不満を隠そうともしない女子学生。
『魔女』の称号を持つ者は、彼女のように自分に正直な人間が多い。
それを隠すか隠さないかの違いはあるが、教師の方も自分の心に正直に生きてきている自負はあるので、ともすれば、子供っぽく思われがちな目の前の少女の振る舞いも笑って許容できる。
「1度に成果を求めすぎてもいけないものなのよ。他の先生方を含め、皆、ちょっと急ぎ過ぎだわ……毒だって即効性のあるものはすぐに疑われて見破られてしまうじゃない?ゆっくり、ゆっくり、徐々に蝕んでいく毒の方が、ずっと価値が高いものよ」
「そんなもんなんですかね~。わっかりました~。引き続き、ノーウェ君の近くで色々とちょっかい出していきますね~」
「うふふ。その意気よ」
様々な思惑が交錯するこの「春の選抜決闘」。
予選と言えど、1勝後に迎える決闘と言えど、第2決闘もまた、【紫雲】にとっては決して気を抜くことのできない1戦となる様相であった。
◇マゼンタ寮自室◇
「はあ〜。うまいな、このセーユ味の五平餅は……」
セーユという北方の調味料に砂糖を加えて作るタレが甘じょっぱくてたまらない。
究極の味は「甘じょっぱい」だと、昔誰かが言ってた。
……同意する。
「気を抜きすぎじゃないか?」
ソファにダラりと身体を預けるように座りながらおやつを食べる俺にツッコミを入れる黒バンダナの男……カーティスだ。
「気は抜いてないぞ!?タレがこぼれたら大変だからな。せっかく綺麗にしたソファなんだから!」
「じゃあ、テーブルで食えばいいじゃないか……いや、そういう意味じゃないんだが……」
かく言うカーティスも、その手には五平餅を持っている。
しかも、こいつは、セーユダレよりもさらに難易度の高い黒胡麻五平餅を食べている。
胡麻を擦り潰して粉にしたものをまぶしているわけで、とろみがついてまとまっているセーユダレに比べて、ちょっとした動作で粉が舞う。
一応、別の手で受け皿を持ってはいるが……
ちゃんと目は光らせているのだよ。
広い部屋のソファに男2人座っておやつを食う……
いや、おやつは副次的な目的だ。
俺たちはソファに腰掛け、目の前の低いテーブルに置いたマスボの立体映像によって、決闘中継の観戦をしているんだ。
……自分たちの派閥、【紫雲】の決闘をね!?
普通、派閥メンバーは、出場する決闘でなくとも舞台まで同行するもんだ。
大派閥だと登録メンバーである25人からあぶれる場合も考えられるが、それでもアリーナの観客席の最前列がおさえられているので、そこで応援できる。
だから、こうやって自室で観戦なんてまずない話なんだよ……
どうしよう!?
あいつ、派閥の長のくせにサボっていやがる……とか、余裕ぶっこいて調子に乗ってやがるぜ?とか思われちゃったら……
せめて、病欠と受け止めていただきたい。
「俺も詳しく聞いたわけじゃないんだが、相手派閥の貴族のご令嬢がヤバい人らしいからお前を遠ざけたらしいぞ」
「なんだそりゃ?」
意味が分からない……
ヤバい貴族のご令嬢に心当たりがないのだが。
強いて言えばジャネット先輩か?
でも、関係ないだろうな。
ジャネット先輩ならジャネット先輩と言うだろうし、そもそも予選で当たらないし。
「でも、俺は別件だと疑っているけどな。ディリカが嘘つくときってだいたいわかるんだ……」
さらに意味が分からなくなった。
謎が謎を呼ぶ。
カーティスとディリカの間の謎のコミュニケーションに至ってしまっては、もはや俺なんかに窺い知ることはできない。
なんだよ、嘘が分かるって。
カーティスは実は『黒魔導師』じゃなくて、『魔女』か?
嘘が分かる人間なんて……
俺の人生では村長と村長の息子くらいだったしな。
あれは、嘘と呼ぶにもお粗末なことしか言ってなかったし。
街で女の子に話しかけるときに、さも自分が倒したかのように、魔物の魔石を見せびらかしていたっけ……。
街に向かうまでの道中……
ゴブリン1体も仕留められないのにな。
「そろそろ入場だぞ……」
カーティスが皿をテーブルに置いた。
観戦の邪魔にならないように、隅に。
さすがに、皆が一生懸命に戦っているときに、のんべんだらりんとしているのは、俺も気が引ける。
姿勢を正して、残りを食べるとしよう。
……とうもろこし茶も美味い。
「『花』に属性魔法を掛けながら、味方に回して行くルールなんだよな?」
たった今、別の決闘の勝敗が早々に決してしまったので、ルールを確認する時間もなかった。
なので、どういう決闘になるのか、いまだに今ひとつイメージが沸かない。
第2決闘における、運営から出された条件は「『Flower』方式」と運営による「結界魔道具使用」の2点だ。
運営による「結界魔道具使用」とは、決闘中に舞台の環境を変化させるということらしい。
この2つの条件は、ブロックの他のチーム(【派羅須免土】VS【堅切鋼】)や、または別ブロックでの決闘でも一律で執り行われるものらしいが、「結界魔道具」の内容を別にすることで、見た目に変化をもたせているようだ。
例えば、「風」の結界魔道具を用いれば、舞台内に風が吹いて、キーアイテムとなる『花』の受け渡しが困難になるし、「炎」を用いれば、燃えないように注意を払う必要が出てくる……といった具合に。
魔道具によってシチュエーションが変わるのは観ていてなかなか面白いだろうな……
俺たちの決闘の1つ前に行われた、【派羅須免土】VS【堅切鋼】は、そんな情景を楽しむ間もなく、あっさり終わっちゃったけど。
さて、問題はこの「Flower」という「決闘方式」(『戦闘方式』の派生)の内容だ。
「1分で花が咲くから、咲いたら次に渡さなければいけないんだよな?咲いてから何秒だっけ?」
「10秒だ。正確に言うと、花が咲くまで3段階ある『葉』の状態、『蕾』の状態、『花』の状態。花の状態から10秒間は誰が触っていてもいいが、その間にそれまで育てていたメンバーとは別の人間の手に渡らなければゲームオーバーになる」
「むう……」
質問にカーティスが答えてくれた。
ディリカたちの練習に散々つき合わされたので、ルールを完璧に覚えたそうだ。
なんとも心強い。
花は込めた魔法の属性に応じた「色」が付く。
ちなみに、この花……「マムンフラワー」という名前らしい。
……どっかで聞いた名前だ。
属性魔法を込め続ければ花は咲くが、とくに魔力の強弱が花の咲く時間に影響を与えることはないんだと。
属性魔法とその花の色は……
火魔法→赤色
水魔法→青色
氷魔法→水色
土魔法→黄色
風魔法→緑色
光魔法→白色
闇魔法→黒色
……となっている。
……青魔法は……ないよな。
知ってた。
省かれたなんて思ってないからねっ!
「花をパスされた相手に、1分後、そのまま返すこともできないんだよな?」
素朴な疑問。
これができるなら、2人だけで花の受け渡しをしていれば事足りる。
「できない……花を育てる人と、花の『色』は、少なくとも2回は変わらないといけない」
「むう……」
つまり、火属性の花をパスしたら、少なくとも2回は別の人と属性を経なければ、再度使うことはできないというわけか……
こりゃ、また厄介。
【紫雲】の出場するメンバーの内、『赤(桃)魔導師』が3人いる分、一見すると、属性魔法の汎用性としては有利かと思いきや、『白魔導師』が3人なので、むしろ不利に思える。レミの魔法も光と風で若干被っているし。
俺が相手の指揮官なら真っ先に『赤魔導師』の3人を狙う……
……なるほど、これはハメられた感があるな。
一律のお題のはずだから、運営側の作為ではない気もするが、内部で何かしらの動きはありそうだ。彼女たちを敢えて引っ張りだすとかね。
それぐらいなら、俺でも分かる。
「……心配要らない。彼女たちもそのことは自覚している。お題が出た時点でリバーから伝わっているから、彼女たちなりに戦術を考えているようだ」
まあ、そりゃ、そうだろうな。
このテの策謀をリバーが察知しないはずもないか。
これで憂いもなくなったわけだし、落ち着いて決闘を見守るとしよう。
「それに、ある人物から助言も得ているそうだ。まあ、それがどう決闘で花開くか、楽しみにしておけ」
「んっ、誰のことだ?」
「……まあ、いいじゃないか。そろそろ始まるぞ」
「おいっ、意味深に話を切るなよ。気になるじゃんか」
「……それに、その戦術が上手く決まるとも限らないしな。相手がそれ以上だったら、負けるだろうしな……」
「せっかく盛り上がってきたのに、悲観的なことを言うなよ……」
「すまん。性分なもんでな……」
ズズッ……
ズズズッ……
俺とカーティスはとうもろこし茶を飲みながら、緊迫の第2決闘開始の合図を待った。
※「Flower」のルール
・1分間、属性魔法を込め続けることで蕾がつき、花が咲く。花の色は属性による
・花が咲いてから10秒の間に違う人に花を渡し、違う属性魔法を込めなければならない。できなければその時点で反則負け
・花を持っている相手メンバーを攻撃し、倒すとその時点で勝利(花を持つメンバー以外への攻撃も可能)
・花は少なくとも2人以上の人物、2回以上の別属性での花開きを行なわないと前に咲かせた人物やその色の属性に戻せない
・10分で勝負が決まらなければ引き分け
【紅七星】出場メンバー(7人)
『土宮』マリー=オネット(2年生、33位)
『未魔女』ルー=ネルネ(2年生、209位)
『灸寒蝶』メラ=アババーン(2年生、342位)
『光軌針』エネ=フラーム(2年生、378位)
『土須江』ミヤコ=ブンコ(2年生、489位)
『羽衣帆』ガレット=アガコシ(2年生、593位)
『田井脚』ベッキー=ヤロタ(2年生、622位)
※()内順位は学生ランキング
【紫雲】出場メンバー(7人)
『遠近光』レミ=ラシード
『桃魔導師』モモエ
『赤魔導師』ディリカ=オプミス
『赤魔導師』ミモレ
『白魔導師』ミスティ
『白魔導師』パルメ=レジャノ
『白魔導師』エメルダ=カマンべ
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
相手も一筋縄ではいかなそうです……
次回、敵の指揮官と参謀の実力!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




