3-42『転換』
◇<ロッソ=ハラー視点>◇
「そ、そんなバカな……」
呆然とするロッソ=ハラー。
作戦は完璧なはずであった。
双子の攻撃役たちは単体での攻撃力に乏しいがゆえに、2人1組で攻めて来る。
……であるならば、駒が1つ減ったとはいえ、残る3つの駒が3方向に散れば、おのずと敵も分散し、内1つは相手の『王』に対する『布石』となる。
1つ前の敵の攻撃を見るに、相手は左右から迂回して奇襲攻撃を仕掛けてくる。
攻撃力の乏しい『色付き』の「卵」らしい、みすぼらしい作戦だが、一応の理には適っている。
そこで、ロッソは「網」を張った。
左右の端に、敵の攻撃を向かわせ、敵の2つの攻撃役と指揮官の距離をできるだけ遠くする。
その上で、相手の出方を見て、次の一手を決めればよい。
いくら2対1といっても、残っている駒は、先ほど退場した新入生の駒と違って、そうそうやられることはない。
敵に攻撃をさせつつ、隙ができたときには、ロッソ自ら、その場で魔法を放ち、加勢をする算段であった。
なお、幸いなことに、相手の指揮官のハリー=ウェルズは軽率な行動に出た。
ロッソが、中央に『布石』として置いた駒をわざわざ攻略しに自ら前進し始めたのだ。
たしかに、その駒を倒せば、左右の双子との連携も取りやすくなり、局面がさらに1つ有利になる。
だが、その相手にとってのチャンスは、意図して駒をそこに置いているロッソにとっても大きなチャンスなのだ。
そう思いながら、機を伺い、予想通りに相手が手を尽くして中央に置いた駒を倒したのを見計らって、ロッソは得意の炎の魔法を放つ。
防げるはずがない……
万が一、避けれたとしても、そこからさらに二手、三手と追い打ちをかける準備はできている。
左右の駒はそれを察知し、ロッソの方を向いてコクリと頷いた。
それこそが、ロッソの張った罠……「網がけ」の真髄だ。
一手逃れても、二手、三手……
1度、網に掛かったが最後、絶対に逃がれられない……
……はずであった。
ところが、敵の「王」ハリー=ウェルズは、土壇場で風魔法を連弾し、ロッソが張った網の罠から強引に抜け出てしまった。
自分の策が通用しない?
自分よりもランクが低い下の学年の者に翻弄される?
そんなことは、あってはならない……!
断じて、あってはならない……!
あのようなことは……2度と、起こってはならない!!
◇
時間にしてほんの数秒……
空撃ちされた魔法の矢が飛ぶ時間、ロッソ=ハラーが現実を受け止められないでいる間、風魔法の『れんぞくま』で敵の攻撃を空中で回避したハリーは、舞台の左右にいる仲間メンバーに目をやった。
2組の攻撃役はハリーの無事を確認したあと、それぞれアクションを起こす……
誰からともなく……
「『火爪』」
ザシュッ……ボアー……
「『ハイウインド』デス」
ズシャ……ザシャ……ブワー……
「おごごごご、がふっ……」
「『氷爪』」
ズワシュッ……ピキピキッ……
「くうっ……」
「『ライト』」
ピカッ……
「くっ……目が……」
「『氷爪』連舞」
ズバッシュ……シュウゥー……
「かはっ……」
「『火玉』『れんぞくま』」
ボワッ……ゴオォーー……ボワッ……ゴオォーー……
左右に……放てて当たり前。
朝飯前だと思うこと……
「がああっ」
「くぅぅー」
駒は指揮官の指示がなければ止まる。
だが、こちらは……【紫雲】のメンバー間は、駒と指揮官の関係では決してない。
だから、局面において、好機と見れば勝手気ままに動く。
仲間のコークン&アルトと対峙していた敵の駒、クーシャ=チーは魔爪の斬撃と魔法の連撃を受けてその場に倒れた。
対面では、同じく仲間のホウジュンの魔爪による攻撃とシャウの目潰し、直後に飛んできた火の玉によって、敵の駒、スペンサー=ダールもノックアウトとなった。
先の攻撃で倒れたダイタクと合わせ、舞台に横たわる敵の駒は3体……
残る相手は、手駒を失った「王」、ロッソ=ハラーただ1人。
局面は、ハリーたちにぐっと有利になった……
……はずだった!
「そんなこと……あっていいはずがなぁーーい!!このクソどもがっ!!」
ロッソの周囲を支配していた四方体の炎の領域が、まるでマグマのようにボコボコと気泡のような球体を、その表面に作り始めた。
「まずいっ!総員、帰還」
「「「「アイアイッ!」」」」
「『緋樽丸』!!」
球体の炎が、敵の領域から分離して、次々とこちらに向かって飛んで来る。
「くっ、『氷玉』」
ビュンッ……ビュンッ……ビュンッ……ビュンッ……ボボボボボ……!
急いで、ハリーのいる本陣に戻る左右の双子たち……
だが……
ビュンッ……!
1つの炎の塊が、コークンとアルトに襲いかかる……
ボワッ……!!ゴオォォォーーー!!
「うわぁーーー」
炎の塊が、アルトに当たる寸前で、別方向から走り戻って、その間に入った狼獣人族に被弾し、その体毛を燃やす。
「「ホウジュン!!」」
「くっ、『水玉』、『れんぞくま』」
ハリーが、慌てて、ホウジュンの身体に移った火を消化するが、味方をかばったメンバーはそのまま舞台に崩れ落ちてしまった。
「「「ホウジュン!!」」」
「消火した。大丈夫だ。3人とも、今は前を向くんだ……『ハイヒール』」
「「「ハリー!?」」」
「時間が惜しい。なぜ、ホウジュンがアルトをかばったかよく考えろ!挽回するぞ!?」
「「っ!!……ううっ、わかった(デス)」」
涙を頬に伝わせながらも、口を真一文字に結んで、コークン、アルト、シャウの3人は前を向く。
コークンの左肩にアルト、右肩にシャウがそれぞれ立ち、3人は、文字通り三位一体となった……!
「ゲハハハハ……!何をしようが無駄だぁ~!喰らえ~!私は間違っていない!!クソ共がぁ~!!」
ビュンッ……ビュンッ……ビュンッ……ビュンッ……
「『氷玉』、『れんぞくま』」
ハリーが、3人の前に立ち、敵の炎の連弾を防ぐべく、氷の玉の連弾を放つ。
「総員、右からZGZG……からのROLL」
「「「アイアイ、ハリー!」」」
ハリーは、右斜めに向かって走り出した。
その後ろに3人が続く。
「来るなぁーーー!!私の作戦を無駄にするんじゃないっ!低能どもがぁっ!!」
ロッソ=ハラーは目を血走らせ、何やら喚き散らしながら、再び炎の塊を連続して放つ。
『領域支配』というのは本当に理不尽な魔法だ。
だが、それでも絶対に……突破口はある!
ビュンッ……ビュンッ……ビュンッ……ビュンッ……
「L!」
「「「アイアイッ!」」」
今度は斜め左に進路を変え、舞台中央まで一気に詰め寄る。
「クッ、クソがあっ!!」
「R!」
ビュンッ……ビュンッ……ビュンッ……ビュンッ……ボボボボ!!
ハリーたちのいる地点に炎の塊が着弾し燃え上がる。だが、そこに彼らはもういない。
一糸乱れぬ動きで、4人のメンバーは連動し、ロッソ=ハラーの攻撃を掻い潜る。
「頃合いだ。行くぞっ!」
「アイアイ!行くよーーー『ROLL』」
「「アイアイッ!」」
コークンの肩の上に立っていた2人が手をつなぐ。
それを確認したコークンは、左手でアルトの手を取って、その場で回転し始めた。
「ウオォォォーーーー!!」
勢いが増したところで、コークンは手をつないだアルトとシャウを放り投げた。
狼獣人族の遠吠えとともに、遠心力によって勢いよく前方に飛び出した双子は、その身を回転させながら、ものすごい勢いで空中を移動しながら魔力を込める。
2人の手にはうちわのような形をした杖が携えられている。
この時のために用意した、たとえ回転しながらでも魔法の形状を安定して平べったい形で放出してくれる魔杖だ。
「行くデスーーー『ミニエクスウォーター-スプリンクラー』」
空中を横回転しながら放たれたのは大量の水を伴う魔法。
敵の「王」であるロッソ=ハラーの支配する領域に入った双子は、放たれたグラン級の水魔法を回転しながら放ち、その支配を消火していく……
「ぐっ、この低能のゴミどもがぁー私の領域をぉーーーー」
それまで攻撃に集中していたロッソだが、ここに来て自身の危機を悟り、焦って領域を再構築しようと試みる……
だが……
「低能はあんただよっ!」
思考がひと間、遅かった。
その正面、向かい合う場所には、左肩に狼獣人族の兄を担ぐハリーが、右手に火の玉を発動させながら突進してきていた。
「『火玉』、『れんぞくま』」
「『火爪』!!」
ゴオッ……ゴオッ……ボボボボッ!!
ズワシャッ……ボオォォーーー!!
「ぐわぁーーーー……二度と……負けて……なる……もの……」
全身を炎に包まれた赤いローブの魔導師は、一歩も動かずに、自身の駒も領域も失ったその地に力なく倒れ込んだ……
「そこまでぃーーー!勝負ありっ!!『消火班』、『治療班』は大至急、舞台へっ!!」
第2戦「王取り」、敵『王』ノックアウトにより、【紫雲】の勝利!!
第1戦の結果を踏まえ……
第1決闘【紫雲】VS【波羅須免土】……
【紫雲】の勝利!(1勝0敗)
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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第1決闘終了!
【紫雲】は幸先よく1勝しました!
次回、少し遡って、久々にあの教師の心の声回です!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




