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3-40『奇抜な王』

 ハリー=ウェルズは飛んでくる魔法に対し、1人で対処していた。


 本来、「王」という存在は守られるべきもの。

 まず、自分で動いてはいけないし、それ以前に1人きりになってはいけない。


 そして、仮に何か秘策があったとしても、最後まで隠し通しておくべきものだ。


 だが、彼はこの戦術における「常道」を用いることをしなかった。

 この数週間、一緒に戦術論を戦わせていた相手による「詭道」の講義の影響で、少々麻痺させられていたのかもしれない……


 それでも、彼が脳内で行なっていた予測は、この作戦は、成功する可能性が極めて高いと何度も知らせてくれていた。


 相手から放たれた魔法のうち、ハリーから見て外側のものに対して、双子たちが迂回するタイミングを見計らって、まず対抗の『火玉』を放つ。直線ではなく、広角に。


 ボガーーーン……


 ボボボガーーーン……


 着弾の音。


 だが、それを確認している余裕はない。


 今度は両手で『火玉』を作る。


 ドーーーン……ボボボボッ……!


 さらに、もう1発。

 今度は『替え氷玉』。


 シューーー……ピキピキピキ……!


 わずか1メートルに満たない自身との距離で、敵の攻撃魔法にハリーの氷は迎え撃ち、相殺される。


「ふう……」


 なんとか間に合った。


 煙や水蒸気で敵陣の様子が見えづらい。


 1人、見事に倒せたようだ。


 相手は……左手奥の学生……おそらく、新入生のロット=アプード。


「チッ……!全員戻りなさい」


 ロッソ=ハラーの号令により、ハリーは確信を持った。


 敵の陣形はこれまでの「雁行」から指揮官であるロッソの前に横並びになる陣形に変更されていく。


「戻ったデス。ホウジュンの方は、相手に上手く防がれたデス」


「作戦AHA」……アウェイ・ヒット・アウェイ、鶴翼。


 相手の魔法を避けながら大きく迂回し、敵の死角に入ったその瞬間に一気に攻撃に転じ、魔爪による攻撃を1発。そして、成否にかかわらず、放ったらすぐ戻ってくる……そういう作戦であった。


 アルトが代表してハリーに報告する。


 左から迂回して『火の爪』を放ったコークンの攻撃は不意を突かれた相手に上手くヒットしたが、右から迂回攻撃を試みたホウジュンの『氷の爪』は敵のスペンサー=ダールの盾と咄嗟の結界によって、防がれてしまったようだ。


 右側からの攻撃はどうしても盾を持っている手の方からになるので難易度が上がる。


 それに、倒れた学生が新入生ということを考えると、連携不足だったということも考えられる。


 何にせよ、ひとつ状況はこちらの有利になった。


 再びのにらみ合い……の間に、立会人であるキャリー=オオバ治療院長が倒れた生徒を抱えて舞台の縁へと運ぶ。


 基本的にはノックダウンした生徒は放置だが、状態的に、倒れ込んだ命の危険がある場合は立会人の判断でほんの少しの間のタイムが取られたり、今回のように、余裕のある局面では、隙をみて、立会人が退場者を舞台から退かせる場合がある。


「チッ……これだから低ランクの1年は足を引っ張ってくれる。いい気にならないでください?ここからが本番ですよ」


 ロッソ=ハラーは、自身の周囲を四面体の「領域支配」で覆った。


 他の3人のメンバーは、その領域には入っておらず、その前で盾を持って身構えている。


「……あんたらの仲間じゃねえのかよ」


 決闘中なので、冷静でいなければならないが、それでも聞き捨てならない言葉に、ハリーの胸中がざわつく。


「何を言うかと思えば……くくっ、くふふっ……」


 ハリーの言葉に赤いローブの魔導師はきょとんとした表情になり、そのあと、おもむろに笑い始めた。


「あのねえ。これは『王取り』なんですよ?『王』以外のメンバーは全員、『王』のために存在する……謂わば『駒』です。『王』が勝ってこその勝負なのですから、『駒』は『王』のために尽くすのが道理というものですよ」


「……『駒』?」


「そうです。そうです……その様子じゃ、納得していないようですね?やれやれ、これは拍子抜けですね。せっかく、低ランクとはいえ、あの『湯蛇』の薫陶を受けた者と骨のある戦いができると思っていましたのに……」


湯蛇ゆだ』……レオ=ナイダスのことだ。


 たしかに、共に戦術の勉強会を行い、ハリーにとって学びとなった部分は多い。

 だが、薫陶を受けたかと言われると、自分とはまったく違うタイプの男であるし、べつに師弟関係になったつもりはないので、微妙なところだ。


 それでも、このロッソ=ハラーという男が、かの戦術狂をやたらと意識していることだけは分かった。なんの因縁があるのかは知らないが……


 一見、言っていることは似ている。

 レオ=ナイダスもハリーに対して散々「指揮官たるものときに非情になれ」と言ってきた。


 それでも、その言葉の真意と、そもそもの出発点は大きく異なるように感じる。


「まあ、君みたいな低能には、『指揮官』というものが何たるかを理解できないようですね?。がっかりです。では、『網がけ』を」


「「「はっ!」」」


 ロッソが「駒」と称した3人は、何も言わず、盾を前にかざしながら、足並みを揃えてじりじりとハリーたちの方へと近づき始めた。


 相手方も相当な共同訓練を積んでいることが伺える。


 一歩一歩の進み方、盾を構える位置、その姿勢……どれをとっても一糸の乱れがない。


「ほうっ!」


「「ほうっ!!」」


「はっ!」


「「はっ!!」


 かざされた盾が、魔法をすべて防いでやると主張せんばかりに……

 こちらが攻撃する間を与えずにじりじりと寄ってくる。


「ハリー?」


「分かっている。作戦『CBT』(シービーティー)鶴翼」


「アイアイ!ハリー」


 再び、双子たちが鶴翼に広がる。


「ふっ、低能が……バカの1つ覚えみたいに……」


 だが、今度は相手の動きが違った。


 3人の内、両サイドの2人が、それぞれ、双子たちの動きを察知して、同様に両サイドに広がって、その正面から迎撃する。


 まるで、獲物が動き出してから「投網」をするかのように……


 相手チームの両サイドが双子をそれぞれ相手していれば、自ずと中央のメンバーが余る。


 中央にいた相手の魔導師、2年生のダイラクが、盾を前に掲げたままこちらにどんどん迫ってきた。


 明らかに「王」であるハリーを狙いに来ている動き。

 おそらく、両サイドに散った2人は囮だ。

 彼らに双子たちの対処をさせ、その間に、「王」の首を獲りに来る。


 一連の動きから、ハリーはその予測をした……


 ……数秒前……双子たちに作戦を伝える少し前に!


「今だ!」


「「『ハイストーン』」」


 両サイドで鶴翼に広がっていた双子たち……


 その中で、先程は攻撃を行っていなかったアルトとシャウが、舞台中央に向かって魔法を放つ。


 その先にいるのは……ハリーに向かっていた2年生魔導師のダイラク。


「くっ!『炭固すみがため』」


 ガンッ……ガーーーン!ドガッ……ガキーーーン!!


 両サイド斜めからの攻撃だったが、ダイラクはなんとか、横に向けることで、防護面積を増やし、さらには、火で炭化させた土の補強によってカサ増しした盾によって、アルトとシャウによるストーンの攻撃被害を最小限に留めた。


 さすがの反応。

 常に状況が変わる戦況に対して、経験と日頃の鍛錬の量が伺える。


 だが……


 防いだのもつかの間、岩攻撃による衝撃をなんとか防いだその盾の前には、自ら奇策を講じ、それに身を投じる「王」の姿があった。


「『風玉』……『替え火玉』!!」


 確実に仕留める……


 前身した『王』は、自身が放った『風玉』を追いかけながら、次にはもう第2撃の準備をしていた。


 ビューン……ブワッ……!!


「うおっ!」


 突然の、胸元への風の来襲によって、ガードが弾き飛ばされ、ダイタクは、思わず両手を万歳してしまった。


 そこに、不意に現れた第2撃……


 映像を観て研究したとしても、身体は反応しない……


 ゴオッ……ボボボボボ……


 人の思考と動作の隙を突いたその『火玉』はダイタクの上半身にクリーンヒットし、その身を燃やした。


 ところが……


「くふっ、釣りですよ。引っ掛かりましたね?言ったでしょう?仲間とは所詮、駒だと……」


 ダイタクが仰向けに倒れていく間……


 ハリーの瞳に映る情景は殊の外鮮明に、そしてゆっくりと、スローモーションに進んでいく……


 その眼前に赤ローブの魔導師が放った、巨大な炎の塊が迫っていた……


「「「「ハリー!!」」」」

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


一転ピンチ!


次回、ハリーは敵の網を抜けられるのか?


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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