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3-38『反逆の王』

◇リバーサイド◇


「君が……『王』じゃない?」


「……つくづく理解に乏しい方ですね。私は、貴方の論理が穴だらけだと言っているだけで、私が『王』でないとは言っていません」


「ぐっ、屁理屈を」


「屁理屈ではありません。ごく自然な理屈です」


「ふ、ふひゃひゃひゃひゃっ、分かったぞ!?本当は君が『王』なんだなっ?それなのにその場しのぎの言葉で時間稼ぎをしようとしているのだろう?ねえっ?ねえっ?」


「やれやれ……ですね」


 リバーはわざとらしく、ため息をつきながら首を振った。


「ふ、うふふっ、ふひゃっ、もう君の手は読めたよ。こんなまやかしの塔も迷路も僕には何も脅威ではない。僕の領域に作り変えればいいだけだからね。ねっ?」


「……」


「『風豹大廻ヒュージュジャガーメイル』」


 カスロッジの周囲に風が巻き起こる。

 風の豹が木の幹をぐるぐると回るかのように、カスロッジの周囲を何度も旋回し、風の勢いを増していく。


 風が暴風となり、リバーの作った土壁や、塔を削り取っていく。


「うふふふっ、どうだいっ!?僕のか……グボェーーーーー」


 風が勢いを増したとして、固い土の拳をすべて弾き飛ばせるかといわれるとそうでもない……


 頭の上に大きな土の拳が落ちてきたら?


「ぐっ、上から……なら……うわぁーーー」 


 ボガーン……


 ……何発も。


「すみませんね。カウンターの仕事は得意なもので」


「べひっ!もすっ」


 1発1発が重い土の拳が、カスロッジに降り注ぐ。


「ノーウェの言う通り、やはり、このクラスの学生は、『領域支配』を使えても、攻撃時にいささか隙ができるようですね……追い詰められると無意識に得意な属性に頼りがちになるようですし」


 決闘の真剣勝負の間においても、その瓶底眼鏡の男は、冷静に敵の観察を忘れない。


 今度は、カスロッジの足元の地面が揺れる。

 揺れたあとに地面の土が大きく盛り上がる。


 ゴゴゴゴゴッ……ゴゴゴゴゴッ……


 ヒュンッヒュンッヒュンッ……ガガガガガ……ガガガガガ……


 盛り上がった土の塊が竜巻の内部で割れて、中心にいる男にその破片が飛び散り、その身体を容赦なく傷つけていく。

 竜巻の外側からの攻撃は防げても、内なる攻撃は防げない……むしろ大惨事だ。


 相手の穴を突いた、実に理に適った攻撃である。


「何より、精神的に脆い……」


「ぐ、くそぉーーーー」


 無数の土塊による攻撃を受けたカスロッジは、体勢を立て直そうと、一旦、風を呼び戻して自身に纏わせる。


「ぐひゅーーひゅーーーぺっ、ぺっ、ぺっ!」


 ダメージを確認しつつ、風で防護層を作る……

 最も得意な魔法でその身を守る……


「領域支配」の戦法で劣勢に立たされた場合のセオリーではある。

 いや、セオリーというよりも、ごく自然な理屈からくる防衛反応というべきか?


 そして、それは……研究を怠らず、常に日進月歩の、解明されていないものの答えを見つけに行く歩みを求め続ける男にとっては、ありふれた想定内の行動なのである。


 ボゴッ……ドガッ……バキッ……!!


 さも、タイミングを測っていたかのように、旋回していた風の豹をカスロッジが戻したその瞬間、少し離れた位置に立っていた数本の塔が土の拳を持った数本の腕へとその形を変え、一斉に殴りかかってきた。


「ごふっ、ぐへっ、げはっ……」


「あ、気絶される前に、1つよろしいですか?」


 少し離れた塔に立つ男は、土の拳を何発もその身に受けてダウン寸前のカスロッジに上から話しかけてきた……


「な、ん……」


「真実を述べますと、私は『王』ではありません……あしからず」


 ドゴーーーン……!!


 締めの一発とともに、周囲の瓦礫が倒壊し、正解に辿り着けなかった哀れな男に降り注いだ。


 リバーVSカスロッジ……リバーの勝利。


◇ブルートサイド◇


 炎を表面に纏わせた火熱の球体……その中で汗をだらだらに垂らしながら状況を伺っていたセーク=ハラリオンからすれば、それは異様な光景に見えたことだろう。


 数週間前に行われた決闘において、青髪の新入生は、自身で作った大きな魚の上に乗って、空中を泳いでいた。

 それは知識として仕入れていたので、想定をしてきたはずだった。


 ……だが、あまりにも加速しすぎている。


 青髪の魔導師、『水豪』のブルートは、今や、自身が作り出した『水龍』の上に乗って、上下左右、東西南北、縦横無尽にセークの支配する領域の周囲を駆け巡っていた。


 ただでさえ、一度、天の底が抜けたような豪雨を浴びせられたために、急いで張り直した領域結界の、心許ない周囲の炎を喰らいながら、時折、球体の内部に侵入してはまた出てを繰り返し、勝手気ままに、『水龍』はそこら中を泳ぎ回っている。


「くっ、このぉ~、ボクチンを馬鹿にしやがってぇ~!見ていろぉ~!」


 怒り心頭に発したセークは、スピードはあるものの、その胴体が長く、的が大きい『水龍』に攻撃を加えるため、領域から再度数本の『火熱象鼻ひねぞび』を生み出した。


 ……だが、どこかおかしい。


 火象の鼻に元気がないような気がする。

 普段のような固さが足りない。


「『火』、『土』、『水』がお前の属性だってな?3つも使えるなんて羨ましいな」


「ぐふっ、なんだ?ボクチンが羨ましいのかぁ~?そうだぞ~2文字の称号は3つの属性を使いこなすことこそが真髄だぁ~ボクチンの『領域支配』も『火熱象鼻ひねぞび』もボクチンの天才的な魔法の構成力で仕上がっているのだぁ~」


「その2つ、3つのバランスが崩れると脆いんだな。俺は1つしか使わないから分からないけど難儀なもんだ」


「へぷっ!?」


「今のお前の『領域支配』は『水の支配』が細部まで混じっているぞ?」


「へぷしっ!?」


 セークは、その太すぎる首で周囲を見渡した。

「火」と「水」のバランスで維持している「領域支配」が侵されている?

 見た目にはわからないが、焦りとともに、セークの心の中の自信がどんどん消失していく……


「……まさか!?あの龍は?」


「バランスが悪いんだな、お前は。上半身(頭)の血の巡りが悪くて、下半身ばかりに血が行っているから気づかないんだろうな」


「な、なにおぅ~!?」


「いっそのこと一部を切ったらどうだ?少しはましになるんじゃないか?」


「ふ、ふ、ふざけるなぁ~!!子爵家の次男の分際でこのボクチンを~!『火熱象鼻ひねぞび』!ぱおーーーん」


 生意気な青髪の男に向かって「火」と「土」と「水」を配合した攻撃を繰り出そうとする。


 しかし、鼻を持ち上げた象はすぐにへなへなと力を失い、攻撃まで至らずに、その場に力なく萎れていく。


「な、な、な……」


「そろそろ『支配』は終わりだな。『泳弾えいだん』」


 バシューーン……バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシューーン……


『水龍』の口から水の散弾が放たれる。


 だらしなく垂れ下がった象鼻とともに、歪な球体の支配は無数の水の球の嵐によって、ボロボロに崩れ去っていく。


「ぶ、ぶおぉぉぉーーーーまだだぁーーーー」


 慌てたセークは、両手を突き上げて両足を開いた形で踏ん張り、再度領域を展開しようと両手に魔力を集める。


 そのとき……


「『ハイストーン』、『れんぞくま』」


 ゴチーーーン……


「きゃう~~~ん……」


 踏ん張った下半身の中央部に、手のひらサイズの固い石の塊が離れた場所から勢いよく飛んできて、ものの見事に着弾した。


 セーク=ハラリオンは一瞬間に合わなかったその両手で股間を抑えながら、白目を向いてその場にくずれ落ちた。


「うわぁ~……あれ、潰れたんじゃね?あいつも容赦ないなぁ~」


 泡を吹きながらその場にうずくまるセークを見ながら、青髪の魔導師ブルートは独り言のように呟いた。


◇ノーウェサイド◇


 ふむ、違ったか……


 ブルートのアイコンタクトを受けて、俺が対峙している乱暴クズが、何度か繰り返し行っている、『ハイウインド(攪拌)』によって一時的に解かれた『領域支配』を再び構築する行動の隙を突いて、『ハイストーン』を重ねて放ち、ブルートと戦っていた尊厳クズの尊厳を破壊してやった。


 それでも、決闘が終わらないということは、彼は「王」ではなかったということだ。


 少し前に、リバーが頭でっかちクズをノックアウトしていたが、こちらでもなかった。


 ……となると、必然的に、「王」は、目の前にいる最後の1人である乱暴クズということになる。


「残り時間、あと3分ですぅーーーー!!」


「ふんっ、あいつらもまだまだ修業が足りないな。どうだ?ノーウェ=ホーム。さっきから様子見の攻撃ばかりしているようだが、ひょっとして、攻めあぐねているのではないか?」


「……」


「そうだろう。所詮、お前はあの特殊な魔法がなければただの『色付き』だ。手が少ないのだろう?一皮剥いたらただの半端者のお前が、もしや『王』にでもなるつもりか?やめといた方がいいぞ!?『反逆の王』になるだけだ」


「『反逆の王』?」


 一瞬、焦った……なんでバレたんだろうと。

 でも、この乱暴クズは、どうやらまったく違うことを話しているみたい。


 残り3分だし、引き分けに持ち込むための時間稼ぎのつもりかな?


「たまに起こるんだよ……称号という絶対的な格差をわきまえず、3文字の称号が2文字の『称号』の属性における『支配者級』……つまり『王』を偶然ジャイアントキリングしちまうようなことがな。まあ、本当にごく稀な話だがな。そいつらを『反逆の王』と俺らは読んでいるのさ。そして反逆者が『王』になったところで、その支配は長くは続かない……そういうもんなんだよ」


 ふーん……


 だからどうした?って話だな。


「支配者級」というのは『殿上人』のことだろう。

 ブルートの両親が、あいつの兄が「支配者級」になったとかなんとか、馬車の中で話していたな、そういえば。

 この学園一の『水』使いが「支配者級」でブルートの兄ちゃんは「王」ということかな?


 そうだとすると、特に属性魔法に秀でていない俺にはまったく関係ない話になるんだけど……


「『色付き』はさらに格落ちだ。だから、お前が俺に盾突いているということは、3文字が『支配者級』に無謀にも挑んでいるようなもんなんだよ」


「あ、そう……」


「どうだ?どうせならお前の、あの得体の知れない、泡の魔法で攻撃してきたらどうだ?俺様は寛大だから、1度くらいなら受けてやるぜ?」


 ……ふーん。


 挑発をしているのか?ひょっとして……

 乱暴クズは領域を展開しながら、球状の結界を大きくしたり、小さくしたりしている。


 上達すると、ああいうこともできるのね。

 参考になる。


 ……じゃあ、試しに挑発に乗ってみようかな。


「じゃあ、お言葉に甘えて……」


 俺は大きめの泡をいくつも作り出し、乱暴クズに向かってゆっくりと放つ。


「はっ、かかったな!」


 乱暴クズは拳を突き出した。


 得意の水の拳ではなく、本物の拳を、「領域支配」を解除して、まっすぐに突き出している。


 目を凝らすと、指のひとつに、青く輝く宝石の指輪をつけている。

 あれが、おそらくリバーの話していた「防護用」の魔道具だな。


 ようやく、狙いが見えてきた……


 俺が放った泡は、青い宝石の指輪に吸い込まれていく。


「ふんっ、見事に引っ掛かりやがったな。この魔道具は、魔力を込めると、敵の『水属性魔法』を1度だけ吸収してくれる指輪なんだよ。まさか、こんな簡単に引っ掛かってくれるとはな!?わははっ、お前の攻撃で怖いのは、あの魔法だけだ!これでお前は、あのおかしな『泡魔法』を使えないただの『色付き』だ」


 高笑いする乱暴クズ。

 ……滑稽が過ぎる。


「……それ、ただの『ハイウォーター』だぞ?」


「へ?」


 わざとそれらしい形にしつらえただけだ。


「それに、『ヴァインバブル』はこの『選抜戦』で使う予定ないし」


「へ?」


「ちなみに、『ヴァインバブル』は『水属性』じゃないぞ?『無属性魔法』だから」


「へ?」


「もっと言うと、べつに1回限りという技でもないし」


「へ?」


「あと、もう1つ……」


「ふ、ふ、ふざけんなよっ、てめえっ!なんなんだよ、次から次へといったい……」


「……とりあえず上見て」


「へ?」


 乱暴クズは背を反らすようにして上を見た。


「『水天龍』!!」


「へぶーーー」


 それまでブルートが乗っていた『水龍』が頭上のすぐ近くまで迫っており、乱暴クズがその姿を視認するかしないかのタイミングで、豪雨となって、滝のように降り注いだ……


 ザバーーーン……ゴオォーー……


 突然のスコールに天を仰いでふんぞり返る途中であったその頭は無意識にその角度を変えていく……


 ザワーーー……ゴツンッ!!


 圧倒的な水の圧力を受けて、乱暴クズの頭は一気に下方へと押し戻され、頭(額)から地面にぶち当たり、そのままひれ伏した。


 水浸しになった地面に額を押しつけ、乱暴クズは誰に向かってでもなく、ただただ土下座をしていた。


「あと……俺は『王』の座には興味ないな。辺境育ちの元村人なもんで……」


「へ……ぶ……」


「決まったぁーーーー!!第1戦はぁーーー【紫雲】の勝ーーー利ぃーーー!」



 第1決闘 【紫雲】VS【波羅須免土】


 第1戦 3対3『集団戦』…… 


【紫雲】の勝利

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


初戦は快勝でしたね。


次回、5対5のチーム戦に挑むのは……?


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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