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3ー35『前夜祭』

「こ、これはーーーどうしたことだぁ?マジックポッドの誤作動かぁーーー?」


 キャリーさんの声が大音量で講堂内に響き渡る。


 ……ものすごく恥ずかしいんですけどっ!?


「クックック……アッハッハーーー!すっかり道化だねぇ?ノーウェ=ホーム」


「ぐっ……」


 俺の後ろにいる灰色髪の男子学生ナントカ君からも思いっきり馬鹿にされた。

 ちくしょう!


 この屈辱は、今度、実験に付き合ったときに何倍にもして返してやる……!

 ダメ教授め……!


「こ、これはぁー、イレギュラーな事態ですがっ、代わりにグレイ=ゾーエンス君、マジックポッドに手を入れて見てくださいぃーーー」


 ……順番を飛ばされる俺。


 文句の1つでも言いたいが、これは仕方ない。

 キャリーさんが悪いわけでもないし、他の人間で試すのは合理的な判断だ。


 せめて、グレイナントカ君も失敗することを祈ろう……


「クックック……やれやれ、ここでも君の尻ぬぐいをする羽目になるとはね……はあーーー」


「ぐっ……」


 ぐぅの音も出ねぇ……


「ククッ……おいで……」


 すると、どうだろうか……

 1羽の黒い鳥型ミニマムンクルスが彼の手に納まったではないか!?


 ……なんで!?


「決まりましたぁーーー!!グレイ=ゾーエンス君の派閥【灰塵はいじん】はぁーーー『Hブロック』ぅーーー。これによってぇーーー、ノーウェ=ホーム君の【紫雲】はぁーーーFブロックに決まりましたぁーーーー」

 

◇抽選会結果◇


 結果、こうなった……


 Aブロック-

炎城桜えんじょうおう(派閥ランク第2位)】

(長:『焔海えんかい』パージ=ジョート(学生ランク第3位))


 Bブロック-

羅雪らせつ(派閥ランク第4位)】

(長:『雪月せつげつ』シーア=ベン(学生ランク第5位))


 Cブロック-

蘭光らんこう(派閥ランク第1位)】

(長:『閃光せんこう』メーネス=アンフェ(学生ランク第2位))


 Dブロック-

針木しんもく(派閥ランク第7位)】

(長:『光霞こうか』マライア=ミラー(学生ランク第8位))


 Eブロック-

魔花まはな(派閥ランク第8位)】

(長:『風華かざはな』ジャネット=リファ(学生ランク第6位))


 Fブロック-

堅切鋼けんせつこう(派閥ランク第6位)】

(長:『石嶺せきれい』コイン=ドイル(学生ランク第7位))


【紫雲(派閥ランク第36位)】

(長:『紫魔導師』ノーウェホーム(学生ランク第666位))


 Gブロック-【陰忌那いんきな(派閥ランク第10位)】

(長:『宵闇よいやみ』フォルクス=ガント(学生ランク第10位))


 Hブロック-

陶水とうすい(派閥ランク第9位)】

(長:『瀑布ばくふ』カシウ=フェスタ(学生ランク第8位))


灰塵はいじん(派閥ランク第37位)】

(長:『灰魔導師』グレイ=ゾーエンス(学生ランク第827位))


 俺たちが予選でぶつかる『殿上人』は……


 ……学生ランク第7位『石嶺せきれい』コイン=ドイルという3年生の先輩だ。


◇セピア寮スウィートルーム◇


「ぷっ、うぷっ、うぷぷぷっ……」


 高級家具に囲まれ、派手な模様の青と黄と緑の絨毯が敷き詰められた部屋から今にも漏れ出そうになる声。


 その声の持ち主は、ソファの上で巨体を必死に揺らしながら、口を当てて耐え忍んでいた。


「うぜえな……笑いたいなら、いつもみたいに大口開けて笑えよ……」


「ぷっ、ぷぷっ、ぷぅー、わーっはっは、がはっ、がはっ、げほっ!!」


「笑われたら笑われたで、絶妙にむかつくな……たくっ!」


 笑い出す派手髪の男の隣でやれやれと首を振る頭にタオルを巻いた男。


 友人の振舞いに呆れているのか、それとも……


「それにしても、実は、お前ならやってくれるんじゃないかって淡い期待を抱いていたんだが、本当にジョーカーを引き当てるとはよ?8分の1を引き当てるか?普通……うぷぷっ」


「うるせえな……昔からくじは苦手なんだよ。朝、部屋出る前に、コイン弾いたときから引きそうな予感はしていた」


「がははっ、まあ、くじと言っても、ただの運試しではないからな。あのフェスタ家のお坊ちゃんよりかはお前の方が、内心ではあの新入生とやりたがっていたということなんだろうな」


「たしかに、当たるなら予選でとは思っていたな……本選まで日が空くしな。トーナメントで当たるにはリスクが大きすぎるだろう。まあ、そこが選ばれた理由かもしれないがな……だが、まさか本当に俺が鈴をつけに行くことになるとはよ」


「そんなお前に俺からプレゼントだ……」


 派手髪の男子学生サンバ=オンドレアはこの度ジョーカーを引き当てた親友コインにレポートが映っているマスボを手渡した。


「これまでの対戦データか……」


「あくまでも公開されている決闘だがな。【魔花】との決闘分はないぞ」


「ふうん……そういや、お前の腹心は【魔花】との一戦が決まったってな」


「ああ。あの日以来、奮起しているからな。まさか、『選抜』に選ばれるまでポイントを稼ぐとは思っていなかったが、ひょっとしたらこのまま一皮剥けるかもしれん……」


「強欲なやつだ……」


「それぐらいが、部下としては望ましい」


「いや、お前の話なんだが……」


「抜かせっ、がははっ!」


 すっかりいつも通りのやり取りになっている。


 ランク上位にいながら、選抜に参加しない酔狂な男ではあるが、そのペースに流されるままいるのも、これはこれで悪くない居心地だ。


 コインは、マスボのデータをひとつひとつめくりながら、微笑んだ。


「そのレポートを書いた、とある戦術家の見立てでは、使ってくる不思議な魔法はまず底が知れない。どうやら魔物から得ているものらしいから、それも当然だがな。一方の『赤魔法』も次から次へと面白いことをし始めるから興味が尽きない……だと」


「随分、主観的だな。誰が解析したかすぐに顔が浮かぶ」


「がははっ、あいつも『選抜』は高みの見物だからな。今は喜々としてあらゆるデータを掻き集めているらしい……」


「将来が決まっているやつは気楽なもんだぜ」


「お前も決まっているから心配するな。ソナタ商会【建設部】だ」


「決まってねえよ」


「そうだったか?がははっ」


「たくっ……」


 データを入念にチェックする。


 魔法に関しては、ほとんどスキは見られなかったが、ある決闘だけは、他と違う一種の危うさを見せるものがあった。


「『土屑どせい』……」


「お前と同じ『土(石)』だな。たしかに、レオのやつも書いている通り、決闘中の様子にどこか余裕がないように俺も感じたな」


「決闘前交渉まで確認できていればな……」


 残念ながら、映像が閲覧できるのは、原則決闘そのものだけである。

 交渉については、映像保管自体はされるが、閲覧できるのは、運営、立会人、裁定委員のみとなっている。 


「例の、()()()()も入手前のようだったしな。ひょっとしたら、属性的な相性が悪くて手がないのかもしれないぞ……?」


「それでも、血塗ちまみれにはなりたくねえけどな……」


 コインは、ふと思い立って、ポケットに入れていた古びた金貨を指で弾き、宙に飛ばした。


 回転する金貨を、今度は左手の甲と右手の手の平で挟みこむ。


 結果は……裏だった。


「そうでもないってよ。他に手はいくらでもあるらしい……」


『石嶺』コイン=ドイルは、コインの結果を親友に見せながら、笑みを浮かべた。

 最終学年の3年生。将来のことを考えるなら、トーナメントの上の方に行っておきたいわけで、それ故に、今回の相手はあまり当たりたくない相手ではある。


 ……だが、同時に、その心は普段そこまで執着がないコイン自身でも驚くほどに、躍動しているのであった。


◇フードパーク内◇


 その夜、俺たちは、景気づけに「フードパーク」で食事をとることにした。


 参加メンバーは女性陣(シャウを除く)7名とダイゴを除いた全員。


 ダイゴは病み上がりだから不参加。

 女性陣は、疲労がまだ抜けきらないようだ。大事をとっている。

 なんか、うわごとのように「私たちは光を求めている」とか言っていたけど大丈夫かな……


 パーク内は、やけに人が少ないな……と思ったが、今日と明日は「春の選抜」に出場するチームの貸し切りとなっているらしい。


「不本意ですけどね……」


 ……とリバー談。

 学園と大会運営の差配らしい。


 リバー的には、ここのテーマを、開かれた「フードパーク」としているため、「選抜組」がこの場所を特権的に利用するのはよしとしていないっぽい。


 でも、2日後の予選に集中するには適している気がするし、今日と明日の2日間だけっていうなら俺も歓迎だけどな。

 いつもと違い、ちょっとした仕切りもあって、派閥内で話し合いもしやすい。


 今日のメインディッシュは「アックスオックスの赤ワインソース」。

 これぞ肉って感じで盛られていて、中央の大皿を囲んで、早いもの勝ちで取っていくスタイル。


「肉デス~」


「補給デス~」


「「がるるる~」」


 双子たちがものすごい勢いで取っていくので、お代わりがどんどん運ばれてくる。


 その小さい身体のどこにそれだけの肉が入るのか……


 ……うむ。噛みしめる度に溢れる肉汁とコクのある赤ワインのソースの味わい。


 この味には覚えがあるな。

 村にやって来た、おかしな吸血鬼。

 ……あいつ、元気にやっているかな。


 どことなくホッとする感じもする。

 ご馳走なんだけど、温かみがあるんだよね。


「それにしても……早速、やられましたね……」


 リバーがマスボを見ながら天を仰ぐように呟いた。


 俺たちは、リバーのマスボを通して、「春の選抜」の大会運営から送られた、予選ブロックにおける詳細なルール要項を確認していた。


 前回時にはなく、新しく追加された項目。

 それがなんとも厄介なルールであった。


「予選の決闘参加は1人2回まで。しかも、予選の決闘に2回参加したメンバーは、本選第1戦に出場できない……か。一見、俺たち学生の体力や魔力を考えての措置に思えるが……」


「どう考えても、大派閥への優遇策だな」


 ハリーが1つめの変更点を読み上げ、カーティスが感想を言う。


 たしかに、カーティスの言う通り、大派閥など層が厚い派閥の方が有利なルールには思える。


「決闘ごとに日を置きますからね。回復は十分に可能だとは思います……とはいえ、『メンバーが固定化しないことで、より多くの人材が活躍する機会が増える』と言われれば首を縦に振るしかないでしょうね。あちらに大義名分はあります」


 リバーは冷静に分析する。まあ、俺も同意見だな。

 裏があるにせよ、本音が別のところにあるにせよ、建前の部分が正論であれば仕方ない。


「決闘の回数と人数は、第1決闘は2回、3人、5人。第2決闘は1回、7人。第3決闘は3回、5人、2人、1人。3戦の合計出場人数は23人です」


 ブロック予選の各決闘回数と、決闘ごとの参加人数も併せて発表された。

 これが変更点2つめ。


 第1決闘:第1戦(3対3)、第2戦(5対5):対戦相手【波羅須免土】

 第2決闘:第1戦(7対7):対戦相手【紅七星】

 第3決闘:第1戦(5対5)、第2戦(2:2)、第3戦(1:1)【堅切鋼】


 第1決闘が8人、第2決闘が7人、第3決闘が8人の23人が出場しなければいけない人数配分。各ブロックすべて同じとのことなので、一応公平性は保たれているとはいっているが……


 20人全員参加したとしても足りず、3人は予選で2回出場しなければならない……つまり、3人は必然的に本選の初戦に出ることができない。


「初戦の決闘が2回なのは?」


 率直な疑問が浮かんだ。

 勝敗を決するなら、決闘数は奇数にすべきだろう。


「引き分けもあり得るということですね。他の派閥も皆、この人数設定ですので初戦の結果によって戦略も大きく変わります。それに、予選の決闘はすべて10分の制限時間が設けられていますので、決闘ごとにも決着つかずの場合は引き分けがあり得ます」


 勝ち抜きではなく、予選ブロック戦なので、引き分けも問題ないというシステム。

 1つの決闘に引き分けてもトータルで他を上回ればいいわけだから。


 だが、初戦に引き分けでもしたら、一気に予選突破が難しくなる。

 特に俺たちは……


 なぜなら、第3決闘に『殿上人』の派閥である【堅切鋼】との1戦を残すからだ。


「まあ、思惑がどうであれ、みんなが参加できるわけだし、どうでもいいけどな。問題はこっちの『お題設定』の方か……」


「ええ。あからさまな『お題』はさすがに来ないでしょうが、運営が操作できる要素ではあるので、警戒はしておいた方がいいでしょうね」


 ……そう。

 問題は、この3つめの変更点。


 予選ブロックにおいては、決闘毎に、個人や派閥間で交渉するときに決めるような「条件設定」が運営の手によって毎回決められ、それが決闘前に発表されるのだという……


「『理事会』によって急遽ねじ込まれたらしいです。帝国政府の『魔法省』からの要望ということで、『学生のその場その場での対応力を磨いてもらいたい』というのが表向きの理由ですね」


「……裏向きは?」


「……運営が、例えば、特定の派閥を貶めるのに使えるでしょうね」


 ……やっぱり。

 ……どう考えてもこれは……


「す、すまん!俺のせいかもしれんっ!!俺の父は『魔法省』に顔が利くこの学園の理事なんだ!」


 何を思ったのか、急にブルートが頭を大きく下げ、ヤキソバまんの具に顔をうずめた。


 もったいない……じゃない、大丈夫か?

 ソース顔になっている。


 俺がおろおろしていると、3人ぐらいから突き刺さるような白い目の視線が……


 リバー、ハリー、カーティスだ。


 ……分かっているよ。


「あ、すまん、ブルート。それ、お前じゃなくて、たぶん俺のせいだから……」


「えっ、お前?」


「かくかくしかじか……」


「えっ?えっ?」


 俺は馬車での一件をブルートに話した。

 いや、お前の両親をボロクソにけなすつもりはなかったんだよ?


 ただ、あまりにも馬鹿で、良識がなくて、偏見のかたまりで、老害じみた腐ったクズ発言だったからさ?


「ふふっ、そうか……ふふふっ……はははっ!!」


 心配していたら、急にブルートが笑い始めた。

 なんだ?情緒不安定か?これから、怒り出すのか?


「ははははっ、俺は何を小さいことを悩んでいたんだろうな……おいっ、ノーウェ!」


「な、なんだ?」


「親父が何をしてこようが、いくら罠を張ってこようが、どうせなら正面から破ってやろうぜ!この際、大暴れしてやる!」


 ブルートはそういうと、ソースを顔に付けたまま、双子のアルトが取ろうとしていたステーキを1枚ふんだくって、フォークを刺すと、ナイフで切らずにそのまま肉にかじりついた。


「あーーー!泥棒デス!」


「泥棒ブルートデス!」


「はっ、さすがだぜ大将!いい気迫だ」


「ソース顔で言うことじゃないけどな」


「ふふふっ、まあ、でもブルートの言う通りですね。当日になるまで相手がどう出てくるか分かりませんが、万全な準備をして、その場その場で対応しましょう。私たちならそれができるはずです」


 うむっ。

 その意気だな。

 俺も頑張ろう!


 バシッ!

 俺は景気づけにブルートの背中を1回叩いた。


「よーし、じゃあ、明後日からやってやろうぜ!頼んだぜ、ブル坊ちゃん!」


「「「「「ブル坊ちゃん……?」」」」」


 ……あ、しまった。


 つい、その場にみんないたかのように話してしまった。


「の、ノーウェ!お前……!?」


 ソースに塗れた青髪の魔導師は、途端に顔を真っ赤にして怒り出した。


 予選前、俺たちの精神状態は、きっと万全である……


 ※【予選ブロックのルール詳細】


 ・参加登録メンバー数の上限は25人


 ・予選ブロックにおいて、メンバー1人につき決闘に参加できる回数は2回(ただし、同じ対戦相手との決闘に複数参加することはできない)


 ・予選ブロックで決闘に2回参加したメンバーは、次の本選1回戦に出場不可

 →予選ブロックの決闘出場メンバー数の総数は23なので、【紫雲】の場合、3人は出場不可となる


 ・各決闘の制限時間10分→決着がつかない場合は引き分け


 ・決闘直前に運営から決闘の条件となる「お題」が出される(お題告知後にメンバーを決めることは可能)


 ・各ブロック、ブロックの第1決闘・第2決闘・第3決闘の決闘回数と出場メンバー数は同じ。

 第1決闘:8人、計2戦(3対3、5対5)

 第2決闘:7人、計1戦(7対7)

 第3決闘:8人、計3戦(5対5、2対2、1対1)


【Fブロック】

 第1決闘 対戦相手【波羅須免土はらすめんと】(派閥ランク17位)

 第2決闘 対戦相手【紅七星あかしちせい】  (派閥ランク22位)

 第3決闘 対戦相手【堅切鋼けんせつこう】  (派閥ランク6位) 


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


色々ときな臭い気配がしますが、なにはともあれ、予選が始まります。

次回、因縁……初戦の相手と出場するメンバーは?


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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