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1-14『ブルートの秘密』

 

「ざ、戯言(ざれごと)を……」


 どこぞの悪役みたいな台詞を吐くブルート。

 その前に、まずは、床を汚したことを謝ろうか。


「ノーウェ君はこの学園の最強になるの?」


「なるつもりだよ」


「この学園の最強になるってことは、今、トップに君臨している学園最強の魔導師を倒さなきゃいけないんだよ?勝つつもりなの?」


「勝てる方法が見つかればね」


「……そういうことか!」


「それは、目から鱗ですね」


 え?何が?当たり前のことしか言っていないと思うんだけど!?


「くっ……くっそぉーーーーーー!!!」


 ど、どうした?思春期か?

 急にブルートが大声で叫び出した。

 床にお茶をこぼしたり、大声を出したり、迷惑極まりない奴だな、お前は。


 触るもの全部傷つけそうなくらい、触れちゃいけない感じをブルートが醸し出しているので、俺は何事もなかったかのように、レミとリバーの方に向き直る。


「私が目から鱗と思ったのは、ノーウェ様のお言葉から察する相手の攻略法が、私たちが習ってきたものと真逆であったからでございます」


「うん?攻略法?」


「私たちの住んでいた街ではね、幼い頃から如何に魔法を尖らせるかを教えられてきているのよ。相手を倒すためには自分の武器をどれだけ磨けるかが重要だから」


「帝国ではそれが一般的ですね」


 あ、なるほど。

 だからブルートは魔法を尖らせる、尖らせると言っていたんだ。

 あの時は剝き出しのナイフみたいな野郎だと思っていてごめんね。

 ……今もあんまり変わらないか。


「まあ、言っていることはわかったけど、それはずっと自分の剣を磨き続けているイメージだな。剣を磨いていても敵は倒せないぞ?でも決闘は魔法でさえあれば、どんな武器でも、どれぐらい使っても、どうやって倒してもいいんだから、ひとつの戦い方に固執する必要はないじゃん!?相手によって武器が違うんだからこちらも変えればいいんだよ」


「……たははっ……」


 ポリポリと頬を掻くレミ。

 まだ何か、会話が正しく嚙み合っていない気がする。


「ぬおおぉぉーーーーーー!!」


 ブルートが再び癇癪を起こした。

 何だ?そろそろ変身するのか?


「ブルートはね!?『秘密』があるの」


 ん、何か急に込み入った話になって来たな!?

 青春か?


「ブルートが『水豪』という称号を持っているのはご存じですよね」


「うん」


 わりと戦ったばかりだしな。さすがにまだ忘れてないぞ。


「2文字の称号は本来3つの属性魔法を使えるのよ。でも、ブルートは『水』一辺倒で他の属性魔法が使えないの」


「う、うるさいっ」


 涙を流しているブルート。

 いや、冗談ではなく本当に涙を流していた。びっくりした。


 さすがに、その涙を俺は馬鹿にはできない。ブルートは馬鹿だけど。


 察したから。


 ブルートは、きっと小さい頃から周囲に期待されてきたと同時に、ひとり思い悩んでいたのだろう。

 自分には素質があるはずなのに、なぜ水属性の魔法しか使えないのだろうか、と。


 そして、その不安を払拭するため、一心不乱に自身の水魔法を磨いてきたはずだ。

 だから、あそこまで器用に水の形を変えられるんだな。


「ヤキソバまん、食うか?」


 俺はブルートにヤキソバまんをそっと差し出した。

 3個目。決してお腹がいっぱいになったからではない。


「くっ、上から見下ろしやがって!今に見ていろよ。いつか、再決闘でお前を跪かせてやるからな!」


 上からなのは俺のせいではない。お前が床に突っ伏しているからだ。

 あっ、ヤキソバまんは食べるのね。


「その意気だ。ないものを嘆いているよりよっぽど良いと思うぞ。ブルートにできることは多いんだから」


「え、俺?」


「「ブルートに?」」


「だって、グラン級の『水魔法』をあれだけ器用に色んな形にしたり、同時発動したりできるのだから、戦いの中で工夫できることなんて無限にあるだろ?高威力の魔法を持てなくて四苦八苦している奴なんてごまんといるんだぞ!?」


 俺もその中の1人だ。

 攻撃特化の強力な魔法を持っている勝ち組のくせに何を泣くことがあるのだろうか。


「けど、属性魔法1つだと相性が悪くて勝てない相手もいるよ?」


 レミが首を傾げる。


「なんで?」


 俺も首を傾げる。


「いや、だって例えばリバーのような土魔法の使い手には水は通りにくいし、風魔法で分散させられることもあるし……水は火には強いかもしれないけどさ!?」


「でも、決闘相手は『土』でも『風』でもないじゃん!?」


「「「……あ!!(?)」」」


 ようやく話の噛み合わない箇所とその原因が判明した。

 俺は、戦う相手のことを考えてずっと話していたのだが、3人(?)は、戦う相手の魔法のことを考えて話していたのだ。これは、3人が稽古ばかりをしてきた弊害なのかな。


 俺の魔法は、武器で例えるならたくさんの種類の武器だ。長さも刃の厚さもそれぞれ、用途も様々だ。その点では有利と言える。ただし、業物ではない。

 いや、業物ではあるが、クセが強すぎて扱いが難しい武器というべきか……


 対して、ブルートの魔法は、いわば銘のついた一点物の武器といえる。しかも、彼はそれを数本所持しているのだ。二刀流もできるのだから戦術の幅なんて、いくらでも広げられるだろう。


 その武器では戦い辛い相手も確かに存在する。だが、決闘というものは、相手の武器を壊す戦いではなく、対戦相手を自分の武器で倒す戦いだ。

 レミが食堂で話していた自身の戦い方である「得意なフィールドで戦う」ということとその根底にあるものは同じである。

 自分の得意なフィールドを見つけ出す作業が、決闘前か決闘中かの違いなだけだ。


「完璧な人間なんてこの世にはいないよ。常時、魔法で自分を守り続けることができる人間なんてこの世に存在するわけがないし、強大な威力の魔法を打ち続けることができる人間もいない。だから、どんな相手でも戦いになったら、相手を分析し、倒す突破口を見つけるだけだよ。たとえ勝率が限りなく低かったとしても、相手は生身の人間なんだから」


「うん、そうか!そうだよねっ」


「得心がいきました」


「そ、そうか……だから、俺はあの時お前に……」


 どうやら、彼らも俺の言わんとしていることを理解してくれたようだ。

 こりゃ、敵に塩を送っちゃったかな。


 本来、悩んでいるのは俺の方だ。

 ベースの魔法はハイ級。魔力はある方だとは思うが、測定を行ったクローニ先生の反応をみるに、特段飛びぬけているわけでもない。

 相性の悪い魔法の使い手なんて山ほどいる。


 でも、だからこそ、面白い。

 自分よりも強大な魔法を使う相手のほんのわずかな穴を見つけ攻めていく。

 ギリギリの緊張感の中で行うこの作業が、いつも、何よりも楽しい。


 俺がこの学園で勝ち抜いていくためには、常に自分の魔法のことを考え、相手の魔法のことを考え、最良の戦法を考え抜いていかなければならないから。


 誰よりも魔法のことを考え、魔法に優しくなれる者でなければ、最強、そしてその先の最高の魔導師にはなれないのだから。



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