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3-33『抽選会』

「春の選抜決闘」……


「プラハ魔法学園」が前身であった「プラハ学園」から魔導師専門の教育機関になったその元年から開催している、由緒正しい学園主催の大会である。


 今年で98回目の開催。


 学園でトップクラスの魔導師たちがしのぎを削り、高め合う決闘大会……


 それが「プラハ魔法学園選抜高等魔術決闘大会(春の選抜決闘)」。


 俺たちはその「春の選抜決闘」の【派閥部門】に参加する。


 前代未聞だそうだ。

 できたてほやほやの1年生派閥がこの大会の、しかも【派閥部門】に参加するのは。

 その長い歴史においても、数えるほどしかないんだと。


 あのジャネット先輩の【魔花】ですら活躍し始めたのは秋からだったんだって。


 1年生が参加すること自体はそう珍しいことでもないみたい。

 大派閥に所属する有望な新入生がこの大会で華々しい学園デビューを飾るなんてことは、春の風物詩になっているそう。


 才能ある新入生が初年度から活躍し、翌年、翌々年とさらに成長し、帝都に名を轟かす魔導師になり、若干の尾ひれを付けながら、将来、規格外の傑物伝説の一端として世の語り草になっていくんだと。


 1年生が派閥の長としてこの大会に出てくるケースもわりとあるらしい。

 例えば、貴族の兄姉が前年まで派閥を率いていたりすると、新しく学園に入った弟に派閥ごとその地盤を引き継ぐということが、ままあるそうだ。


「俺の兄もそのクチだ。宮廷魔導師になった姉の地盤をそのまま引き継いだ」


 隣を歩く風水師……もとい、ポンコツ魔導師が教えてくれた。

 ポンコツの兄は優秀らしく、なんと、2年生にして『殿上人』の1人だということをつい最近知った。


 ジャネット先輩とほぼ同格ということだな。

 

 まあ、でも、魔導師としては優秀でも人間的には同じくらいポンコツな可能性はある。そこはしっかりと見極めよう。


「いきなり1年生が長になるなんて、派閥の上級生から不満が出るんじゃないのか?」


「そうでもない。そういう派閥は貴族家がスポンサーとして後ろ盾になっているし、メンバーにしても、自分が長になって貴族子息の前任者と比較されるくらいなら、同じ血を引いている新入生を担ぎ上げた方がやりやすいのだろう」


「ふーん。兄が地盤を引き継いだのか……」


「う、うるさいっ!」


「お前も引継ぎたかったのか?」


「……いや、今となってはわからんな。兄姉と同じ道を進むことが魔導師として自分の目指していたことだったのかといわれれば、なんか違う気はする」


「……そうか。ポンコツなりにちゃんと考えてはいるんだな」


「ポンコツ言うなっ!!」


 なまじ親兄弟がすごい人だと劣等感も強くなるのだろう。

 俺もそんな人物を間近でずっと見てきたからな。なんとなく分かる気がする。

 いや、あれは劣等感というよりは、親の権力に胡坐をかいている感じだったな。

 すごいのも、村長ではなく、村長の奥さんだけだし……

 全然違うケースか……


 ポンコツブルートは、ある意味この学園に入って、親の呪縛から解き放たれた状態と言える。


 こいつが、親のことをどう思っているのかはわからないが、今は魔導師として独り立ちする大きなチャンスを得た、ということなのだろう。

 まあ、存分に頑張ってほしい。

 派閥内決闘もすったもんだあったものの、無事、ブルートも予選から出場できることになったしな。


 話は戻るが、親兄弟の基盤を引き継ぐ以外にも、新入生が有力派閥の長になるケースは他にもある。


 それは……「買い上げ」だ。


 同じく貴族や大商人家を基盤に持つ子息子女が、スポンサーの力を利用して、派閥を文字通り買ってしまうという方法とのこと。


「それは違法じゃないのか?」


「いえ。まず目当ての派閥に、その子息を送り込みます。そして、その子息がスポンサーである両親の財力や権力を利用して、派閥にポイントを大量に与えます……」


「それで、美味しい思いをさせて骨抜きにしてから要求するということか……」


「はい。一度甘い汁をすすった人間の心はもろいものです。罪悪感もあって、結果的に自ら進んで派閥を譲ります」


「虫唾が走るな……」


「ええ」


 同じく、俺の隣を歩くリバーが教えてくれた。


「ただ、脇が甘いと言われればそれまででしょう。貴族にしても、商会にしても、何の見返りもなくポイントを付与してくれることは、よっぽどの事情や関係性がなければ考えられませんからね」


「……そうだな。自分から甘い汁を飲みに行って……溺れてしまったというわけか」


「徒手空拳でこの学園にやって来て、実力を示して派閥を強くした辺境の街や村育ちの素質ある魔導師が、貴族や商会の人間による甘い言葉に騙されて、気がついたらすべてを失っている……なんてことも、ここではそこまで珍しい光景ではありません。決闘の強さとはまったく別次元の戦いですからね」


 ……と商会の人間が申しております。

 警戒した方が良いのかな?


「実際にどんな甘い汁があるんだ?」


「そうですね……豪勢な食事、豪華な部屋、貴族や商人が遣わした従者、山のように積まれた金貨、あとは見目麗しい愛人……といったところでしょうか?学園に限らず、これらの、帝都ならではの華やかさに溺れる人間は多いですね」


「……ふーん」


「気をつけてくださいね?」


「えっ、俺?」


 そうか、一応、長だもんな。

 気をつけよう。


 ……でも、よく考えたら、愛人はともかく、他はすでに揃っている気がする。


 食事は毎日ご馳走みたいだし、部屋は豪華だし、金貨も山ほど貯まってるし、貴族が送り込んだ……というか、貴族家の子息のヤキソバまん係がいるし。


 まあ、ヤキソバまん係は従者ではないけど。


「まあ、私の目の黒いうちは堕落させませんけどね」


 そう決意じみたことを言うリバーの目が静かに燃えている気がする。


 ……怖っ。


「うむ」


 頷くブルート。

 うむ、じゃねーよ!

 1番怪しいのはお前だ!


 まあ、でも、こうやってリバーやポンコツが脇を固めてくれているから、こっちも心置きなく、自由にやれるってところは確実にある。


 貴族による工作という意味では、実際に怪しい動きがあり、早くに察知したリバーの策によって事なきを得るに至ったばかりだ。


 事実、選抜戦通過の決定がなされる期限ギリギリで、不自然に順位を上げた派閥があったんだよ。


 俺たちは出場権ボーダースレスレに位置していたから万が一の場合、出場できない可能性もあったわけだけど、リバーが派閥間決闘を受けてきてくれたおかげで派閥ポイントを加算できた。


「戦闘方式」だとなぜか警戒されて受けてもらえないんだけど、「射的方式」だったからね。


 魔法射撃自慢の派閥が受けてくれた。

 相手は自信満々だった。


 でも、言っても、俺たちも魔法の発動の速さや命中の正確性なら他に引けを取らないからね。


 ハリー、レミ、ディリカ、エメルダなんかは魔法射的が大得意だから。


 あと、俺は絶対に負けない。


 専用の魔法があるから。


 そんなわけで、決闘に勝った俺たち【紫雲】は、ポイント的に迫ってきていた派閥の追撃を振り切って、最終的には中間報告時と変わらない32派閥中31位での通過と相成った。


 よくよく考えれば、俺たちの下位にもう1派閥いたわけで、俺たちをポイント的に出れないようにするためには、その下位の派閥にもポイント援助するか、あるいは2派閥用意しなければならなかったわけで、最終的には、諦めたのか、不自然に追加されたその派閥のポイントは、不自然に減って、元通りになっていた。


 この手の盤外戦は正直気分のいいもんじゃないね。

 来年は、誰にも文句の言い様がない順位で通過することにしよう。


「そろそろだな」


 ブルートがそう呟く。


 3列で歩く俺たちは、抽選会場である「大講堂」まで、もう少しで到着する。

 すでに、道の両サイドに大勢の人だかりができている。

 なんか、祝いのパレードみたいだ。


 リバー曰く、この抽選会を観戦にきている学生たちや、派閥自体は参加するが、参加定員からあぶれてしまって、観戦に回る派閥メンバーが集まっているのだそう。


 ちなみに、選抜に参加できる派閥メンバーの上限の人数は25人らしい。

 元々、派閥を構成するための定員20名ギリギリの俺たちには関係ない話。


 大講堂内は、1000人以上収容できる広さなので、「選抜決闘」に参加しない学生たちも入場できるのだが、彼らの入場可能時間は、俺たち参加学生がすべて専用の席に着いてからなのだと。


 到着した。


 中に入ると、なるほど、広大なスペースにたくさんの長椅子がびっしりと並んで配置されている。


 何を隠そう、俺はこの建物に入るのは初めてだ。


 「入学式」に出なかったからね。


 講堂内、中央の通路をまっすぐ進み、1段高い壇上から数えて16列目の左側が俺たち【紫雲】の座る席であった。


 最後尾にいたレヴェックとジャックから左奥の席に詰めて座っていき、派閥の長である俺が1番通路側の席に着く。


 あとで、壇上に向かわなければいけないからね。

 派閥の長(あるいは代表者)は、通路側に座るようにというお達しがきていたのだ。


 俺たちがそれぞれの席に着席するとき、なぜか前列、あるいは右前列に座っていた多くの派閥の人たちがこちらを振り返っていた。


 席に着いている人たちだけでなく、壇上付近や、両サイドの壁際に立っている人たちの多くもこちらを見ている気がする。


 物珍しさがあるのだろうか。


 ちょっと嫌な気持ちになるが、まあ仕方ない。

 新入生派閥自体が珍しいらしいしな。


 よく見ると、俺たちより10列ほど先の列に見覚えのある人たちが座っていた。

【魔花】の人たちだな。


 相変わらず、何人かは俺の方を見て睨みつけてきたが気にしない。

 ジャネット先輩はこちらを見て軽く会釈をしてきたので、こちらも返しておいた。


 ブルートは、以前していた貴族っぽい仕草の挨拶をしようとしていたが、

 椅子と椅子の間の幅が狭くて、窮屈な体勢になってしまったらしく、転びそうになっていたので、咄嗟に腕を掴んで引き上げてやった。

 実にポンコツらしい。


 あのジャネット先輩が座る列より前の列に座る学生たちが、この学園における現時点での最上級の猛者たちなのだろう。


 ……腕が鳴るなあ。


 俺は思わずニヤついてしまった。


「ふっ、よくここまで辿り着いたな……」


 ん?

 いや、「入学式」に参加していたブルートやリバーが脇で案内してくれたからね。


 俺が長椅子に着席すると、通路を挟んだ右隣の男が急に話しかけてきた。 


 グレーのローブを羽織った灰色髪の学生。

 前髪が目元まで伸びているので、表情がよくわからない。


「ようやくだ……ようやく君と相まみえることができる。クックックック……あのときの約束を覚えているか?僕が君に言ったことを……」


 えっ?

 今が初対面じゃないんだっけ?


 ……

 …………

 ………………


「えっと……その前に、お名前は?」

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


約束?(彼がノーウェにかけた言葉)がなんだったか確かめたい場合は3-10『光と影』をご確認ください。笑


次回、抽選会の方法とは?

催し物といえばあの人!な彼も第3章初登場!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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