3-31『巡回 其の3』
すったもんだがあったものの、ハリーと双子たちの筋肉戦術訓練および講義については、一定の進展があるように思えた。
……あれで、どうやってさらなるポイントにつながるのかは知らんけど、まあ、あの軍人さんも、数年前村に来たときの左遷部隊と違って、今はそこそこ偉い人になっているみたいだし、きっと、成果が見られれば評価をしてくれるんだろう。
双子たちもたくさんの力こぶを作っていたし……
ハリーも、レオ先輩との戦術論がだいぶ深まっている感じだったしな。
だが、目の前の5人……1人の男の頭めがけて水魔法を垂れ流しているが、なんの目的でこんなことをしているのか、さっぱりわからない。
いじめか?
俺は仲間内のいじめは絶対に許さないぞ!?
えっ、ハリー?
あれは、いじめじゃない。
筋肉相互理解だからな。
大事なことだ。
俺には理解できないけど。
「……で?これはいったい何をしているんだ?」
「……これか?全員で魔力調整をしながら、一定の魔力の魔法を発動させる訓練だ。時間区切りで水量を変えながら訓練しているんだ」
カーティスが答えた。
なるほど。
魔法を発動させるときに、魔力を均等に放出させることはすべての基本だ。
属性魔法の均等化、『れんぞくま』をするときに同じ出力で発動することなど、応用をするには基本技術を習得することが第一歩となる。
この基本ができていないと、応用もあったもんじゃないからね。
今ここで、初心に帰って、焦らずにこの訓練をしているカーティスたちは、地に足が着いていると言える。
……岩の上だけど。
「……で?なぜダイゴの頭の上に……?」
「知らん」
「えっ?」
「あいつから言い出したことだ。なんか、我慢を覚えるために精神を鍛える鍛錬だって言っていたぞ。あとは、本人に聞いてくれ」
……なるほど。
これは意味のある行為なのか?
……いや、ダイゴなりに考えた結果なのだろう。
おそらくバランを出会い頭にボコしてしまった反省から来ているのだろうな。
気を落ち着けたいのであれば、べつに、水に当たる必要はないと思うのだが、ダイゴはダイゴなりに考えがあってのことなのだろう。
黙って見守ることにした。まあ、ダイゴはすでにポイント稼いでいるしな。
「ポイントはなんとかなりそうか?」
「ああ。学内『あぷる』で『黒伝話』という依頼募集の掲示板を立ち上げてな。『黒魔導師』や『赤魔導師』の属性魔法の汎用性に特化した仕事を募って、俺たちの誰かが請け負う仕組みを作ったんだ」
「へえ~、それはすごいアイデアだな!?」
「……まあ、ほとんどリバーが肉付けしてくれたんだけどな。俺は『全属性が使えることを活かした仕事』がないか、あいつに相談してみただけなんだが……」
なんとも、リバーらしい。
ちょっとした発想を言語化し、肉付けして、立派な仕事にしてしまうんだ。
「それでも、その発想に至るのはすごいけどな。学内冒険者ギルドみたいだな」
「ははっ、たしかに」
「これまでどんな仕事の依頼がきているんだ?」
「多いのは魔道具の実験や魔石の魔力充填が多いな。俺たちなら属性魔法全般をほぼ一括で作業できるから雇う方からしたらかなり効率的なんだそうだ。こっちとしても、魔力の均等化の訓練になるから助かっている。たまに、『黒猫を探してくれ』なんて、変な依頼もあるけどな。べつに、『黒魔導師』だからって黒いものが得意なわけではないんだけどな……」
「ははっ、たしかに」
うむ。
ここは大丈夫そうだな。
安心した。
「そういえば、ノーウェの決闘、見させてもらったぞ」
「ん?ああ、ギャンビット先輩とのやつか」
「ああ。お前が色々と試そうとしていたのが分かったからな。あれは俺たちメンバーに向けて見せていたんだろう?」
「ああ、気づいたか」
「つき合いが長いからな。ノーウェ単独なら『青魔法』で事足りた決闘だったしな。俺たちより実力が上の『領域支配』をしてくる先輩たちにどうやったら対抗できるか……最近みんなでよく話しているよ」
「……そうか」
伝わったなら何より。
あとは、個人の発想力と訓練次第となる。
「1つ、頼みがあるんだが……」
「どうした?」
「あのギャンビットとかいう先輩の水の膜に渦潮を作っていたあの魔法のやり方のコツを俺たちに教えてくれないか?あれだけはどうしてもよくわからない」
「ああ、いいぞ!じゃあ、これからみんなで訓練とするか!?」
「頼む」
「ブワーーークションッ!!」
下で盛大にくしゃみの音がした。
「「……」」
俺たちはその日、暗くなるまで6人で一緒に魔法の訓練をした。
◇フードパーク内◇
辺りがすっかり暗くなったので、俺たちは訓練を切り上げ、夕食をとるために『フードパーク』に集まった。
広めの10人掛けテーブルの席にできるだけ詰めて座る俺たち。総勢12名。
ちょっと狭い。
参加メンバーは、さっき見廻ったハリー組とカーティス組に加えてリバー。
女性陣はどこにいるのかわからない。
ブルートは行方不明。
「で?リバーはここしばらくどうだったんだ?」
俺は左隣のリバーに尋ねた。
ちゃんと自分の役割を忘れてないぞ!?
目の前の「グツグツ亭特製溶岩鍋」に絶賛目を奪われているが、耳は傾けている。
「決闘ではなく、魔導師としての研究、分析を将来の仕事に考えている新入生やフリーの学生を集めて派閥を作ってもらい、彼らに分析の依頼発注するための専用『あぷる』を開発しました」
うむ。中の具材はきのこ各種に……お!ドウクツウナギが入っているじゃないか!
金属製の鍋のスープの中に真っ赤な溶岩石がぶち込まれていて、表面がボコボコ煮えたぎっている。
このワイルドさがドワーフ料理の真骨頂だよね。
リバーの言っていることはだいぶ理解不能だったけど、要はカーティスたちが使っている、リバーが開発した「あぷる」のように、分析や研究をしたい学生に、してほしい人たちが依頼できるものなのだろうと想像する。
「以前、話していたあの変態クズ公子の派閥メンバーか?」
「そうですね。以前までのアイデアですと、魔道具開発がメインでしたが、彼らに再結成してもらった派閥の中に【魔道具開発部門】と【魔術分析部門】を置いてもらいました。これで各方面に対応できることになります」
魔術分析は、測定を行なって、個人の魔力や属性魔法のバランスを測ったり、称号を参考に依頼者にとって有益な魔法の行使の仕方を客観的なデータを元に助言するらしい。
個人単位、あるいは派閥単位でも依頼があるらしく、大派閥なんかは、自分たち専用の分析派閥を傘下にしている場合もあるとか。
「まあ、自分のやりたいことに集中できる派閥ってのは大事だよな」
「ええ。『戦闘方式』の決闘ばかりが魔導師の頂ではないですし、様々なレベルでの争いがこの学園にはありますからね」
その通りだな。
1番になりたいといっても、1番の成り方は無数にある。
学生ランキングだけが1番の成り方ではないんだ。
リバーは、そんな学生たちの相談に乗り、派閥結成の手助けをし、「あぷる」開発を行なうことでポイントを稼いでいるらしい。
うむ、熱々なスープも、このとろけそうなドウクツウナギの身肉もたまらん!
「ときに、ノーウェ。その違った趣の争いについてですが……貴方またやらかしましたね?」
「ブホッ!」
……なんの話だ?
筋肉の話か?
でも双子たちのハリーに対する態度も軟化したしな。
……代わりに、向かいに座るハリーがこっちをじっと睨んでいるけど。
「なんだ?またノーウェがやらかしたのか?」
「しょうがないやつだな」
左隣に座るカーティスが話に入ってきた。
そして、いつもよりも目つきが悪いハリーもブルートみたいな台詞を吐きながら加わった。
ここぞとばかりに……
「なんの話だ?身に覚えがないぞ」
「『春の選抜決闘』から私たち【紫雲】を外せと運営にクレームが入ったそうですよ。もちろん、そんな意見は一蹴されたようですが、予選や本戦では相当な嫌がらせを受ける可能性がありますね」
「……なぜ、そんなことに」
「こっちが聞きてえな」
「同感」
「まあ、そうですね」
辛辣。
こんなに肩身の狭い派閥の長が未だかつていただろうか……いや、いない。
カーティス、ハリー、リバーの3人はそんな身体を小さくする俺を見ながらニヤリと笑った。
「まあ、いつものことだからな。長い付き合いだから慣れたし」
「うちのリーダーのやることだからな。それに、ハードルがより上がるならそれに越したことない。望むところだ」
「そうですね。目にものを見せてやるとしましょうか」
「お、お前ら……」
俺は今、猛烈に感動している……
気をつけないと、涙と鼻水が溢れ出てきてしまいそうだ……
きっと特製溶岩鍋が燃えるように熱いのがいけないんだな……
「ブワーックショイ!!」
別の場所から、ツバと鼻水が盛大に飛んだ音がした……
あいつ、風邪引いたな……
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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違うレベルの争いも激化していくんでしょうかね……
次回、予選前の最終報告会!全員、無事にポイントを増やせたのか……?
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




