3-30『巡回 其の2』
差別をしてはいけない……
特に、皆をまとめる役割を担っている者は。
それをすると、結局、不公平を是認し、太鼓判を押すことと同義になるので、差別をされる者だけではなく、差別をされていない方にも影響する。
そう……だから差別はいけない。嫌悪感を抱いてはいけない。
ギィーーーー……
だから、俺は1度閉じた扉を再び開いた。
「いいかぁーーー?ヒーローというものはあらゆる重荷を背負う者のことだっ!小さい動物を肩に乗せる程度では足らん!自分と同じ体格の者ぐらい両肩に乗せれて初めて筋肉ヒーローと呼べるのだぁっ!」
「アイアイ、デス!!」
無茶苦茶な内容の大声がホールに響いてる。
霞む目を凝らして見ると、双子のアルトが肩に妹のシャウを乗せて直立している。
「そうだっ!その姿勢で2人で同じ魔法を放てば2倍の威力!違う魔法を放てば、上半身と下半身の弱点属性が違う魔物が現れても対応できるというものだ」
「「アイアイサー、デス!!」」
……うーん、意味あるかぁ?
すでに、アルトとシャウの2人は手をつなげば、倍以上の威力の魔法を放てるし、上半身と下半身の弱点属性が違う魔物なんて……
あ、1体思い当たる魔物がいるな……
いやいや、そういうことじゃない。
べつに、肩に乗せなくても、レンジ……魔法の射程範囲と方向を調整すればいいだけの話じゃねーか、よく考えたら……
そして、恐るべきことに、シャウを乗せるアルトの肩口の筋肉と上腕二頭筋がこぶのように盛り上がっている。
……うん、訓練は順調そうだね。
邪魔してもいけないから、そろそろお暇しようかな……
「むっ、来客のようだ。皆、そのまま訓練を続けてくれ」
あ、目をつけられた。
いやいや、ただの見学ですからお構いなく。
「え?」
「え?」
「き、君は……ひょっとして……」
「え?」
筋肉モリモリの軍人さんは、俺を見るなり真剣な表情に変わり、こちらにドシドシと近づいてきた。
「ひょっとして……いや、間違いない!マスターノーウェ!!」
「「「「「マスターノーウェ!?」」」」」
え?
……
…………
………………
……俺は固まった。
…………一瞬、記憶が飛んだ。
………………そして、フラッシュバックした。
「……ギャー!ま、まさか、あのときの軍人さん!?」
「思い出していただけましたかっ!?そうです!わたすが、あのとき村でマスターの薫陶を受けたマスルマン=アープでありますっ!」
与えていない、与えていない!
薫陶なんて断じて与えていないっ!
まさか、こんな場所で俺の生涯トラウマランキング上位に位置する人に再会するとは……
ベッドに入れられたバジリスクの子どもと同じくらいの位置だぞ!?
「ぐ、軍曹!この御方がひょっとして例の……」
虎の獣人族であろう筋肉モリモリが近づいてきた。
「かのシャベルベアを生身の身体で弾き飛ばしたという……」
狐の獣人族らしき筋肉マシマシも飛んできた。
「弾き飛ばしたどころか、周囲の木を何本もなぎ倒すほどの威力であったとか……」
顔面ゴリラのゴリラ獣人族らしき筋肉ウハウハも詰め寄ってきた。
怖い、詰め寄らないで!
「その通りだ!マスターノーウェは細身の身体ながらその細胞の隅々まで筋肉魔力を行き渡らせているんだ」
してない、してない。
魔力は行き渡らせても、決して筋肉は付いてこない!
筋肉ってそんなにアクティブじゃないからっ!
「なるほど、『すべての道は筋肉に通ず』ですね!?」
「その通りだ!人は誰もが強くなるために筋肉のパンプアップを図る。だが、筋肉理論の最終章において、盛りに盛った筋肉も最終的には凝縮して細胞に取り込むことで見た目にはスリムになると言われているのだ。それがマスタークラス!絶対的な強者は最終段階で必ずそうなるのだっ!」
「「おおっ!」」
知らない、知らない。
そんなトンデモ理論聞いたことない!
確かにそんな魔物に心当たりがないわけじゃないけど、決して筋肉の話ではないはず!
「もう8年も前の話だ。まだ入隊3年目であった私が初めて遠征部隊に加わり、あの過酷な地で軍事演習を行ったのは。村に侵入する兔の魔物ですらやっとの思いで倒していた我々を尻目に、マスターノーウェと、彼のお義母上であるマスタージャイカは筋肉魔物の最上位に君臨するシャベルベアを片手1本で、いともたやすく張り倒していたものだよ」
「「おおおっ!」」
「「すごいデス!マスターノーウェ」」
「「すごいるる〜」」
違う、違う。
俺のは断じて筋肉じゃない、魔法!
魔法だから!
パッと見、殴っていたように見えたかもしれないけどあれも魔法だから!
本物の筋肉はあの鬼の方!
本物の筋肉……って、もはやなんなのかわからないけども。
あと、双子たちもバッキバキの目のままこっちに来ないで!
ここまで、俺は一言も発していない。
何かを話せば、すべて筋肉に置き換えられそうだから……
なんとか、この場を切り抜けなくては。
俺は数歩あとずさる……
「さあ、マスターノーウェ。ひさびさにそのマジカルマッスルパワーをお見せください。我々と一緒に筋肉の汗を流しましょうぞ!?」
「「デス!」」
嫌です、嫌です。
御免被ります!
俺は周囲を見渡した。
筋肉たちが鍛錬をしていた闘技舞台のような場所から少し離れたテーブルで2人の男が真剣な話をしている。
俺は何食わぬ顔をしながら、そちらの方にあとずさる。
「スピードを活かして、直前でクロスして魔法を放つのは?」
「ふむ。違う属性魔法であればなかなか面白いな。その案は採用しよう。仮に魔法でなくても、違った属性の魔導武器での戦術に転用すれば、彼ら帝国軍人にも役立つだろう。大人数の、部隊単位で行えば、なかなか痛快な戦術になるだろうな。素晴らしいよ」
1人はハリー、もう1人は……レオ=ナイダスという先輩だな。
「ありがとうございます。でしたら、あとで、彼らにやらせてみるのがいいですね。あとは……3人で回転しながら攻撃するのは?」
「ふむ。それは三半規管を鍛えないといけないよ?あの者たちは筋肉を鍛えているが、身体の内部は分からない。目が回らないように訓練することはできるのかな?」
「やらせてみるのが1番では?」
「そうだね。君もなかなか指揮官として覚悟が決まってきたじゃないか」
「開き直りですよ。ここまで来たら」
うむ、生産的な議論をしているな。
ハリーもなんか吹っ切れているようでよろしい。
5人の様子もわかったことだし、ここらが切り上げ時だが、最後に俺からも少しハリーのアシストをしてあげようじゃないか……
「さあ、マスターノーウェ!我らに筋肉を!」
「「「「「筋肉を!!」」」」」
軍人さんと双子たちが俺との距離を一気に詰めてきたっ……今だっ!
「『身代わり』!」
「え?の、ノーウェ!?」
俺はハリーと位置を入れ替えた。
目の前には軍人さんではなく、バスローブ姿の美丈夫が椅子に座っている。
「おや?これはこれは、ノーウェ=ホーム」
「あ、どうも。お初です!レオ=ナイダス先輩」
「レオでいいよ!いやあ、お会いできて嬉しいよ。君とも戦術論を酌み交わしたかったんだ。先日のギャンビットとの決闘はなかなか興味深い戦いだったよ!?面白い試みをたくさんしていたね?是非とも話してもらえるかな?」
「ははは、せっかくのお誘いですが、派閥の長としてまだ廻る場所がありますので、それはまたの機会に……」
ここも長居できないんですよ。
「お、おいっ!ノーウェ!?お前なにを!?わぷっ」
「おや、ハリー君だったか!?どうしたんだい?君も頭脳労働に疲れて筋肉の汗を流したくなったのかな?ハッハッハーーー!」
ハリーが軍人さんに文字通りロックオンされた。
これでよし。
「マスルマン軍曹、そいつはなよっちいやつデスよ?」
「そうデス。軟弱者デス」
「「がるるる~」」
ハリー、これもお前の今後のためだ。
赦してくれ。
「アルト、シャウ、コークン、ホージュン」
「「「「マ、マスター!?なんデスか?」」」」
マスター呼びはやめてほしいデス。
「ハリーには、事前に、筋肉魔術理論の実践術を教えておいたんだ!この実践術は、脳に筋肉を集中する役と肉体に集中する役と2系統必要で両者の連携がひじょーに重要なんだ!」
「「「「連携がっ!?」」」」
「ああ、だから今後はハリーともっと仲良くやることが上達への道だぞ?みんなと違ってハリーは今、脳に大部分の筋肉を使っているのだから!」
「「そーだったんデスか?」」
「ああ、そーだったんだぞ!?ハリーは4人の訓練がある程度進むまでずっと黙っていたんだ。自分が悪者になることで4人が筋肉訓練に打ち込めれば、上達が速くなり、その分早く次のステップに移れるだろうと思ってな……」
「「そうだったんですかー?ハリー!ゴメンなのデス~」」
「「うるるる~」」
4人の双子は感涙した。
「えっ、えっ?」
「素晴らしい!なんという友情筋肉なんだっ!」
「というわけで、ここで1度、みんなで筋肉接待をして、ハリーの頭のリフレッシュをしてあげてくれっ!筋肉汗を流して、頭脳労働を少し休ませれば、ハリーの固まった脳筋肉も超回復するだろう」
「「「「「イエス、マスター!」」」」」
「お、おいっ!ノーウェ」
「じゃ、ハリーあとはよろしく」
「よろしくじゃねえっ、おいっ、ノーウェ!お前、何しに来たんだよ!?あとで覚えていろよ」
ハリーは3人の筋肉軍人に担がれて闘技舞台の方に連行された。
足をジタバタさせているが、虚しく空中を泳いでいる。
……頑張ってくれ。
さっ、次の場所に行くか!
◇噴水広場 芝生地の一角◇
数日前にギャンビット先輩と戦った噴水場を横目に、芝生が広がる一帯にやってきた。
春の陽気のおかげで、芝生が気持ちいい。
踏みしめる度に青い芝生の香りが広がる気がする。
進むと芝生地帯の一角に大きな石塔のような、ほぼ長方形の岩が立っており、そこから水がチョロチョロと流れて小川を作っている、人工の小池がある。
その岩の上に黒い服を着た男が3人と、赤い大きな帽子を被った男が1人、下を覗き込むように立っていた。
目を凝らすと、岩の上の男たちは、水魔法を使って、流れる水の勢いとその量を増幅させている。
カーティス、ブランク、ジャックと……レヴェックか。
さらに、岩の下に男が1人……流れる滝に打たれている。
あれは……ダイゴか。
……
…………
………………
……なにやっているんだ、あいつら……!?
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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彼らも仲直りできてよかったですね……笑
次回、黒魔導師たちの怪しい回
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




