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3-29『巡回 其の1』

 ガタンッ……ガタンッ、ゴトンッ……


「チッ、ずいぶん揺れるじゃないか。これが最新型とは、『ソナタ商会』も大したことないな……」


 かなりご機嫌ななめだな……


 俺じゃないよ?


 俺がリバーの商会に対してそんなこと思うわけないじゃん?

 それに、揺れるなら浮いてればいいだけだしね。


 カリカリしているのは目の前の貴族っぽい格好をした中年の夫婦。

 2人の向かいの席……つまり、俺の隣の席には執事らしき人が乗っている。


 男性の方は口元に髭を蓄えており、やや恰幅が良い。

 女性の方は男性よりも少し年若な感じだ。

 どちらもやたら広いつばの帽子を被っている。


 向かい合っていて身体が動く度に帽子のつばが迫ってくるので非常にうっとおしい。


 大人3人対学生1人の大変気まずい状況。


 ほんの出来心で、「巡回馬車」というものに乗ってみたくて、商業施設行きの馬車に学園入口の門から乗ってみたら、この貴族との「乗合い」というよくわからない状況に陥ってしまったというわけだ。

 俺の方が先に乗っていたんだけどな……

 相乗りだからって不機嫌な顔をされるのは、心外だ。


「それよりも、旦那様。もうすぐ『春の選抜』が始まりますね?今年はカシウ坊ちゃまとブル坊ちゃま共にご出場なされるとのことで、フェスタ家にとって非常に喜ばしいことですね?」


 ……気になる名前があった。

 フェスタ家?

 ブル坊ちゃま?


 まさかな……


「ふんっ、カシウは『支配者級』の法衣をようやく授与されたからな。思ったよりも時間はかかったが、いずれは頂点を狙えるだろう。だが、ブルート?……あんな出来損ないは話題に出すな。あいつはただの落ちこぼれだ。その証拠に派閥の領袖にもなれてはいないではないか」


「そうですわね。カシウには是非とも『宮廷魔導師』の道を進んでもらわなくては!姉弟続いてなんて鼻が高いですもの。ねえ、あなた?」


「もちろんだ」


 あ……やっぱり、ブルートの両親だったか。

 カシウというのは、以前あいつが話していた兄姉の内の1人だろうな。


 それにしても、自分の子どもを差別するとはひどい親だな。

 俺なんか、義理の両親だったけれど、あの2人は俺に差別することなく接してくれたぞ?

 むしろ、実の息子に対しての方が厳しかった、まである……ある意味差別だな。


「で、ですが……ブル坊ちゃまも先日の2年生派閥との決闘戦では大層ご活躍なされていましたよ?今では個人の学年ランクも3位まで上がって来ておりますし……」


 俺の隣にいる、口元に整った白い髭を蓄えている執事のお爺さんは、必死になってブルートのことを擁護している感じだ。

 家にいた頃面倒見ていたのかな?

 どことなく品がある。


 俺も隣の席に座っているから、なんだか裁判をしているような気になってくる。


 ブルートを弁護する側として。


 ……まあ、俺は貝のように黙秘を貫くけどな。

 巻き込まれたら、実に面倒くさそうだし……


「この時期の学年3位などなんの意味もないわっ。そのうち大きな派閥に所属する生徒に、あっという間に抜かれていくのが目に見えておる。それに、そもそも今年の新入生全体がはっきり言ってレベルが低い!」


 カチーン!

 いやいや、固まろう。俺は貝になります……


「そうなのでしょうか?」


「そうよ、リクトー。だって、今年の学年1位はどこの馬の骨かもわからない平民だというじゃないの。仮にも、幼い頃から英才教育を施された貴族家の人間が、馬の骨にも劣るなんて……ちょっと恥ずかしいわ」


 ……どうも、貝改め、馬の骨です。

 馬の骨は喋りませんよ……

 俺は、平民ではなく元村民だけどな。


「アンテの言う通りだ、リクトー。たまたま運よく選抜に出れたからと言って、聞くところによれば、あやつの派閥は出来損ないで小粒の劣等生の集まりと聞く。そんな派閥なんぞ、貴族家として認めるわけにはいかん。今はせいぜい短すぎる春を楽しめばいいが、いずれ貴族家の支援を受けた派閥に叩きのめされるだろうよ」


「は、はぁ……」


「おほほほほ、そうですわね」


 ひどい会話だな……いくら乗り合っている人間が誰か知らないとはいえ……


「なんにせよ、ブルートは我がフェスタ家にはふさわしくない。カシウが儂の基盤を継ぐ準備が整ったら、トライバル家にでもくれてやるとするか!あそこは男子がいなくて困っておるからな。能無しのあいつには相応しいだろうよ」


「本当に……私、恥ずかしいわ。まさか、フェスタ家の子が『色付き』が多く在籍する掃き溜めのような派閥に在籍するなんて……」


 ガシャーーーン……キキィーーー……


「……ようやく、到着したようだな」


 危なかった。

 もう少しで堪忍袋の緒が切れるところだった。


 ……足で『グルー』。

 地面を柔らかくしておこう。

 『ウォーター』も忘れずにね。


「やはり、専用の馬車を走らせるべきだな。あとで掛け合ってみるとしよ……うおっ……!」


 ベチャッ……


 尻餅をつくおっさん。


「あーあ、足元をしっかりみないから転ぶんだよ。気をつけなよ、貴族のおっさん」


「ぐっ、ぐぐっ、なにを……まさか、貴様がやったのか?この無礼者!」


「どっちが無礼なんだよ。散々汚らしい話を聞かせてくれやがって。おっさん、この学園のことよく知らないなら、あんまり偉そうなこと言わない方がいいよ?」


「な、なに!?……くっ、くははははっ、この儂を捕まえて学園をよく知らない、だと?見たところ学生の分際で、このプラハ学園理事であるこのポンパル=フェスタに!?」


 ……理事ってなんだっけ?

 事務職員みたいなもんか?

 偉いのかな?

 今ひとつわからん。


「知らんけど、仮にも貴族で学園の偉い人なら学生も息子も差別すんなよ。みっともないからさ。恥ずかしい大人だなー」


「まあ!」


「ぐっ、このクソガキがっ!」


「あと、先に無礼を働いたのはおっさんたちの方だからな?馬車ん中で乗り合い客がいるのに、汚ねえつばと臭い息を盛大に撒き散らしまくっていたこともだけど、よくもまぁ、散々、俺の仲間のことを馬鹿にしてくれたな」


 ブルートはともかく……他の派閥の仲間を罵ったことは絶対に許さん。


 ……一応、ブルートのことも許さん。


 いくら親でも言って良いことと悪いことがある。


「あ、あ……!君は!?」


 唯一、ブルートを庇っていた執事さんが、俺を見て声をあげた。


「なんだ?このガキが誰か知っておるのか、リクト」


「は、はい。彼はブル坊ちゃまの派閥の長をしている渦中の人物、『紫魔道師』のノーウェ=ホームその人です」


「な!?ではこのクソガキがムートック家とティラント家の子息を!?」


「は、はい……映像で確認しましたので、間違いないかと……」


 ……どうでもいいけど、人をナチュラルにクソ呼ばわりすんなよ。

 どっちかというと、おっさんの方が今クソまみれっぽいぞ!?


 あと、ティラント家とムートック家って何だ?

 俺と関わり合いのない、知らない家名をいきなり会話に出すなよ。


「ま、まさか……ブルートのやつがこんなクソガキの下に付いているとはな……」


「ほ、ほんと、品がないこと!」


 どっちが、だ?


「品がないのもあんたらの方ね、おばさん。知らない他人の前で自分の子供のことを罵らない方が良いと思うよ?親としての品性を疑われるから」


「ま、まあっ!」


「ふん、なるほどな……出来損ないにはお似合いの不良品の仲間というわけだ。とことん情けない愚息だな、あいつは……」


「おい、おっさん……」


「な、なんだっ?儂はもう貴様のような下賎なクソガキとこれ以上話すことは……」


「とことん節穴だね。あんたらの目は。だから足元がぬかるんでいることにも気づかずに転ぶんだよ」


「貴様……」


「1つ教えておいてやる。目は節穴なおっさんでも理解できるように、耳の穴はかっぽじっておきなよ……いいか?ブルートはいずれ()()()()()()()になる男だ」


「「は?」」


 口をぽかーんと開けるブルートの両親。

 そういう顔はちょっと似ているな……


「だから、これから先、あんたらの方がブルートの恥にならないように、親として、貴族家として、今から身の振る舞い方には気をつけておきなよ?息子の友人としての心からの忠告だからね!?」


「く、くっ、くははははっ!何を言い出すかと思えばっ、ブルートが帝国一の魔導師だと!?馬鹿も休み休み言ったらどうだ?」


「バカッ…………バ~~カ♪」


休み休み言ってみた。


「くっ、貴様、大人をとことん舐めくさりおって……それでは、あいつが帝国一の魔導師になるなら、貴様はいったい何になるというのだ?」


「えっ、俺?俺はもちろん、『最強の魔導師』になるけど?」


「くっ、くふっ、貴様が最強?……これだから世間というものを知らないクソガキは困……」


「あ、馬車が校門の方に折り返すみたいだから、早く乗った方が良いと思うよ、おっさん。今ならまだ恥をかかずに引き返せると思うけど?」


「な、何を言っておる。儂はこれから、理事か……」


「その泥まみれの汚ないお尻で行くつもり?そんなんで人混みの中を歩いたら恥かくだけだから止めておいた方がいいと思うけど……今、俺がブルートの恥になるなよって忠告したばかりだよね?」


「へ?」


 ブルートの父親は、何度か後方を振り向き、自身の貴族らしい真っ白なズボンの後部にべったりと泥がついていることにようやく気がついたようだ。


 さすがにブルートが不憫だよね。


「か、替えの服は?」


「ほ、ホテルにございます」


「くっ……」


「よーく洗って、きれいにした方が良いよ。今ならまだ戻れるかもしれないから。あと、次からは足元をしっかり見て転ばないようにね?ふんぞり返って歩いていると下が見えないから」


 何ならブルートに洗ってもらえ。


「ぐっ、貴様……ノーウェ=ホームと言ったな?覚えていろ?この屈辱は忘れんからな!?理事会でお前たちのことは議題に挙げてやる!おいっ、戻るぞっ!?」


「あ、あなたっ、ま、待ってください」


 荒々しく馬車に乗るブルートの両親と執事。


 俺は、中に入ってもなお、窓を開けてこちらを睨みつけるおっさんの正面に立ち、ローブを脱いで少し魔力を放出する。


「おっさん、あんたこそ忘れんなよ?理事会だか尻会だか知らんけど、俺は、俺の仲間を理不尽に馬鹿にしたり、傷つけるクズは絶対に許さない。今回は、アホのブルートに免じて抑えるが、次はないぞ?」


「ぐっ……」


 ブヒヒーン……ヒヒーン……ブルブルッ……


「な、なんだ、なんだ?うわーーー」


 パカラッ、パカラッ、パカラッ、ガシャガシャガシャ……


 馬車は慌ただしく校門の方に向かって行った。


 ……あれは中でゴロゴロ転んだだろうな……


 ◇


 そもそも……だ。


 なぜ俺が巡回馬車に乗ったかというとだな。


 ……巡回しているんだ。


 派閥のメンバーたちの様子を見廻っているのだよ。


 これも立派な長の務めなんだな。


 ……ということで、着きました、学術棟C館。


 ここでは、ハリーと4人の双子たちが、筋肉戦術訓練とやらをさらに進化させていると聞く。

 正直、あまり行きたくないけど、これも長の役目だから、えこひいきや差別をせずに、しっかりと見ることにする。


 講師が政府から派遣された軍人さんたちだって言うしな。


 さっきのブルートの両親も、貴族家というからには、きっと政府の要人なんだろうけど、こっちの人たちはあんな差別意識、特権階級意識の塊のような人たちではないことを祈る。


 キィィーーー……


『多目的ホール』と書かれた部屋の扉をそっと開ける……


「いいかぁーーー!?筋肉の前には身分も階級もないっ!筋肉の前では皆、平等だーーー!」


「「「「イエッサー、デス!!」」」」


「筋肉の前では貴族、種族、半裸族、等しく皆平等!!いいかぁーーー!?」


「「「「アイアイサー、デス!!」」」」


 ……

 …………

 ………………


 ……俺はそのまま部屋の扉をそっと閉じた。

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


毒親ならぬ泥親ですね……


次回、筋肉回!笑

ご注意下さい。ギャグ回です。

そこで明かされるノーウェの意外な事実……


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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