3-27『魔女の特性』
「『土輪布山泊』は穴場として人気のあるスポットです。まず、場所が僻地にある。最も近い都市である『マルテの街』からも歩いて数日はかかる場所にあり、険しい森と山道を越えて辿り着ける場所ですから!しかもダンジョンに入るにはこの付近にある村より許可証を発行してもらわなければならず、それがほーーーーーんとうに難しいんですっ!」
……とトルナ先生による説明。
至近距離から……
トルナ先生は肘を曲げながら、右拳を強く握って気合を入れている。
こちらをじっと見つめながら……
「え、えーと、なるほど。よく分かりました。ありがとうございます……」
俺は目力の強い先生に向かって軽く会釈をする。
ひと呼吸おきたい……
いや、おかせてください。
どうでしょうか?他のグループを見て回るというのは?
着々と攻略を進めているようですし……
「こちらこそ、ありがとう!」
「え?」
「僕の授業に出てくれてありがとう!ノーウェ=ホーム君!」
「えっ、俺?」
なんだろう?
ひょっとして、皮肉なのかな?
「光栄だよ!かの『ハイリゲンダンジョン』を踏破した学生が僕の授業に出てくれるなんて!」
……違う。
ガチだった……
先生のダンジョンに対する愛情が。
しかし、前情報では、この先生も例の喧嘩上等教師一派のはずだったんだけどな。
ダンジョン愛は政治的思想を超えるのか?
「どうやら、トルナ先生はモーリッツ派ではあるようですが、そのやり方に同調しているわけではないようですね……」
右からこっそり耳打ちをしてくるリバー。
ありがとう。
「はっはっはー。そんなに警戒しないでくれたまえー。僕はフラットな考えの持ち主だからねっ!ダンジョン以外は、世の中すべてフラットさ―」
「は、はあ」
こちらの意を察したかのようなトルナ先生。
ただ、俺が警戒している理由は、先生がどこの政治派閥に属しているかだけではないんだけど。
「僕はねー、とにかくダンジョンの研究ができればそれでいいんだよっ!だから、モーリッツ先生の下についているのさ。モーリッツ先生の下にいるのが1番この国のダンジョンの研究がはかどるからねっ!」
聞いてもいない内部事情を惜しげもなく話し始める先生。
あの喧嘩上等モーリッツ先生は帝国政府とのパイプが強い。
この国のダンジョンで最も所有権を有しているのはどの機関か?
答えは「帝国政府」だ。
一見、冒険者ギルドと思われそうだが、ウィルヘルム帝国のように政府の力が強い国は、国がダンジョンの所有権を持ち、その管理権を冒険者ギルドに委託している場合が多いのだ。
だから、ダンジョンの研究がしたければ、帝国政府とのつながりを持つことが重要。
ゆえに、モーリッツ派に……
きっとこれはトルナ先生の本心からの言葉なのだろう。
これが演技であるならば、先生は大した役者だし、たとえ騙されたとしても本望だ。
うん、そう思うことにしよう。
「先生はとにかくダンジョンが好きなんですね?」
「そのとおりだよ!ノーウェ君。僕はダンジョンを愛しているんだっ!だから君たちのグループには是非期待しているよ。たとえ『あぷる』であっても、君たちの見地によってひょっとしたら何か新しい発見があるかもしれない。さあ、夢の世界へ踏み出しておくれ!」
「……わかりました……行こう、レミ」
「う、うんっ……」
ということで、トルナ先生を背に、俺たちは『土輪布山泊』に向かった。
……画面上の……棒人間で。
「あ、先生」
「ん?なんだい?」
「なんで、こんなに背景は精密なのに、実際に動いている人の方は『棒人間』なのでしょうか?」
「良い質問ですっ!それは、この『ダンジョンルーラー』の『あぷる』開発をしてもらった際に、ダンジョンの内部や背景はできるだけ精密に作ってもらったんです!かのマーゴット教授と娘のクレハ殿にねっ!?ですが、人間の方は『勝手に作ってくれ』と言われて、結果、こうなりました……」
「あ、そういうことですか……では、行ってきます」
「行ってらっしゃーい!」
解明した。
しょうもない理由がそこにはあった……
よし、先に行こう。
俺たちは、ダンジョンの入口の穴を潜った。レミの操作によって。
「じゃあ、まず『ライト』!」
レミは黄色い棒人間に『ライト』を使わせた。
俺たちを模した「棒人間魔法使い」は色分けされている。
俺が紫色、レミが黄色、リバーが茶色、モモエが桃色、サワーが水色、バランが橙色ね。
入口に近い坑道内はまだ広いので、3人ずつの全後列の布陣。
前列に、俺、レミ、リバー。
後列に、モモエ、バラン、サワー。
これで進む。
ちなみに、この「あぷる」の起動時に俺たちの学生情報は登録されているから、棒人間たちは、俺たちと同じような魔法が使える。
その辺は以前やった『ルームチャレンジ』ってゲームと同じだな。
俺はもちろん『赤魔導師』扱いだよ。
「すごーい!中の造りもそっくりだねー」
「むぅ、このような造りなのだな?帝国のダンジョンというものは……興味深い」
「そりゃ、ダンジョンによって違うよ。ダンジョンなんだから」
「わ、私、ダンジョン初めてなので楽しみです」
「うふふっ、私も~」
学生机ぐらいの大きさのマスボは現在2画面表示で動いている。
片方は俯瞰した形で、俺たち6人の棒人間が歩いている。
もう片方は、レミの視点であり、洞窟内の景色が歩きながら移り変わっている。
「『土輪布山泊』は毎回景色が変わるダンジョンと言われていますね」
「そうなのか?なぜだ?」
リバーの言う通り、このダンジョンは毎回違った造りになる。
正確に言うと、常にアップデートされているんだ。
「それはね、ここのダンジョンの土が『魔土』で、掘っても増殖して埋まるのと、毎回それを掘り進むドワーフ族たちや魔物たちがいるからなんだよ~」
「ほうっ、それは興味深いな」
なんかわからんが、上手くいっているようで何より。
魔帝国出身の貴族であるバランのガイドをしている感が若干あるけど、同じ尊大な貴族でもブルートほどムカつかないのは、きっとバランが根は素直な男なのだからだろう。
ブルートは若干こじらせているからな……
「土輪布山泊」の坑内は、まるで魔物の胎内にいるんじゃないかというくらい、魔力が充満している場所だ。
地面の土も、壁も、天井もみな魔力を帯びているために、穴を掘ったり壁を削ったとしても山がまるで生きているかのように自分で坑内を修復する。
もちろん、掘った場所が翌日……なんてスピードではないから、攻略時はそこまで心配する必要はないが、数か月もすれば、道が1つ消えているなんてことはあるから注意が必要なんだ。
このダンジョンの特性にはメリット・デメリット両方ある。
メリットは、このダンジョンのあらゆる場所で「鉱石」や「宝石の原石」などの貴重な資源が採掘できるのだが、この特性によって、その採掘スポットも修復され、時間をおけば再び採掘できるという点だ。
もちろん、鉱山ダンジョンには、この特性が多少なりとも備わっているものではあるが、この「土輪布山泊」はその回復力が段違いなのである。
一方で、デメリットもある……
「このダンジョンはマッピングが難しいんだよー。しかも、磁石が効かないから方角がわからなくなる危険があるんだよ~」
「むぅ……」
そう。
この坑内は磁石を狂わせる性質の土が混じっているらしく、方位磁針が使えない。
しかも、掘って作った道も修復されるってことで、マッピングが非常に困難なダンジョンなのだ。
「だから、ここのダンジョン近くの村には『マッパー』と呼ばれるマッピング専門の探索者がいるんだよ~。探索者泣かせのダンジョンではあるけど、その分需要は高いんだ」
「ふうむ、なるほど。勉強になるな。魔帝国にも『迷宮ダンジョン』があるが、たしかにあそこも専門の探索案内を雇うからな」
へえ~。
魔帝国には、そんなダンジョンがあるのか。面白そうだな。
「細かいことはおいおいってことで、まずは中央の広場に向かうね」
「あ、レミちゃんって呼んでいい?ちょっと待ってくれる~?」
「え?なに?」
サワーが操作をするレミを呼び止めた。
「左斜め前方の壁に魔物がいる」
「「「「「え?」」」」」
俺は目を凝らして道の左側面の壁を確認した。
……いた!
「本当だ。『イワカベトカゲ』がいる!」
「「「「え?」」」」
「レミ、俺を操作して、左前方に『ウォーター』を放って見て」
「う、うん!わかったよー『ウォーター』」
紫の棒人間が『ウォーター』を放つ。
すると、前方の壁の一部の色が変わり、ビクビクッと動いた。
イワカベトカゲの体長は大きいもので俺たち人間の半分程度。
小さい個体でも50センチはあるから、トカゲ種としては結構大きめ。
「バラン君、出番だよ」
「ぬっ、私か?」
「ああ。『イワカゲトカゲ』の弱点は『火』だからな」
「そうか。ならば『火炎乱縄』を放つのだ」
「オッケー」
オレンジ色の棒人間バランが火を螺旋の縄のようにして放つ。
ボオーーー……
おお、倒した。なかなかの威力。
ちなみにこのダンジョンは火を使っても割と大丈夫。
爆発を誘引するようなものがあまりないからな。
ただし、換気には注意だ。
「それにしても、すごかったな」
「ぬははは、そうだろう、そうだろう」
「いや、サワーのことなんだが……」
うん。火魔法もすごかったよ。
「ぬっ?」
「え、私?」
「うん。なんで魔物があそこにいるってわかったんだ?」
「あ、えーと。それは私の『小魔女』の力だよ。『魔女』って同じ称号名でも人によってできることが違うんだけど、私は魔力を使って視覚的な識別能力を上げる力に優れているらしいんだ~」
なるほど。『魔女』は何かを『見通す力』があるっていうけど、それのことか。
「へえ?じゃあ、魔物に特化した探索に優れているな」
「そ、そうかな~」
「すごいねー、ちょっとジェラシー……」
レミは少し悔しそうだ。
レミも探索は強いけれど、何かを特化して探し当てるのは難しい。
光魔法と風魔法を使って、全体像から識別をしていくからな。
それに対して、サワーの魔法はどうやら人間の五感を魔力で補強してする力のようだ。
だからイワカベトカゲと魔土の壁の微妙な違いをすぐに察知できたんだろう。
本能と思考の瞬発力の差だな。
「まあ、でも実際にダンジョンに入ったらむずかしいんだよね~」
「だろうな」
「どういうことー?」
「ダンジョンってどこもだいたい魔力に溢れているからな。今は画面を通してだったから、サワーもやりやすかったんだと思うけど、実際は、ダンジョン内に溢れる魔力が集中を阻害するんじゃない?」
「そ、その通りだよ~……よくわかったね、ノーウェ君」
「ん……なんとなく」
『魔女』という称号は、魔力に対する感度が人より優れているんだろう。
優れているがゆえに、普段はあまり魔力の多い場所を好まない。
人込みとか……ダンジョンとか……
それがきっと『魔女』という存在を近寄りがたいイメージにしてしまうのだろうな。
「興味深いですね。『魔女』と呼ばれる方々が、なぜものぐさで環境を変えたがらないイメージなのか、ちょっと理解できた気がします」
これまでほとんど会話に参加していなかったリバーが急に食いついてきた。
どうやら、彼の知識欲センサーに引っかかったらしい。
表情からして、きっと魔女専用の集中を高める魔道具か、周囲の魔力を遮断する魔道具でも考えているんだな。
リバーの場合、脳を魔力で補完してるんじゃなかろうか。
あと、モモエはこっちを見てニコニコしていた。
「ううむ、『魔女』という存在もなかなか侮れんな……」
そして、バランは椅子に座りながら足を大きく広げ、腕を組んで難しい顔をしている。
……魔王かっ、お前は!?
攻略は進む。
第1階層のマッピングをするのが大きな課題なんだが、それに併せて、別途いくつかのノルマが各チームに課せられるとのこと。
そのため、第1階層の中央にある広い空洞に各グループが一旦集まる。
俺たちは、途中、魔物に3回遭遇はしたが、わりとスムーズにその空洞へと辿り着くことができた。
この空洞は何度訪れてもほとんどその姿形を変えることはない。
魔土の侵食をうけない理由として、その壁がより硬い鉱物でできているのと、中央に水脈が流れているからだ。
ドワーフ族たちはこの地を「セーフゾーン」と呼んでいて、休憩を取ったり、採掘物の簡単なクリーニングや加工を行ったりするそうだ。
ちなみに、このセーフゾーンは各階層にある。
マッピングに迷った場合はまずここに戻ればいいわけだな。
空洞の中央には、斧を正面に構えたドワーフ族の像が置かれている。
このドワーフ族の斧の指し示す先が北……つまり、坑道の出入口である。
「それではー、全員揃ったようだねっ!?ではこれから各グループの課題を配布します!」
配布?
手に何も持っていないけど……と思ったら、グループワーク用のマスボ画面内にひときわ線の太い棒人間が現れて、何か看板のような物を持っている。
なるほど。この棒人間はトルナ先生ということか。
「さあ、皆さん!これから皆さんにこのダンジョンならではの品を採掘してもらいますっ!!」
太い棒人間のトルナ先生は、採掘品が書かれた、木の大きな看板を掲げた。
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
『小魔女』サワーの名前だけでも覚えて帰ってください。
バラン君は……まあ、いいや。笑
次回、ダンジョン講義終了回。
グループワークと授業の結末は如何に……
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




