表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

141/449

3-26『ダンジョン講義』

 ……気まずい。


 俺は今、モモエと一緒に歩いているのだが、非常に気まずい。

 なんというか、会話が続かないんだ……


 普段はそんなことはない。

 ……緊張しているのか?

 まあ、それも多少はあるのかもしれない……


 向かう先は、学術棟なんだ。

 これから3回目の授業に向かうわけね。


 べつに、授業に行くだけならそこまで張りつめた空気にはならないんだよ。

 むしろ、前回ダイゴと歩いたときの方が、よっぽど変な汗をかいた。


 1回目に至っては、目隠しされていたしな。


 パッカパッカパッカパッカ……ガラララー……ガシャン……ガシャン……


「ん?この学園で馬車なんて走っていたんだ?」


 黒光りする大きめの馬車が俺たちを追い越していく。


「今日からですね。『選抜戦』がいよいよ始まりますので、『ビッグエッグタイマー』が学生や学校関係者だけではなく、一般開放されます。それに合わせて、定期巡回馬車の運用が始まりました」


「へえ~」


「すごいですねっ」


「……」


 ……うむ。

 会話が続かない……


 俺のせいでもないし、もちろん、モモエのせいでもないんだ。


 俺たちは、4人で歩いている。


 右からリバー、俺、モモエ、レミの順で……


 さっきから、レミが一言も発しないんだよ。


 普段、あんなにおしゃべり……いや、話し好きなのにさ?


 どうしたもんかと思う。


 経緯はよく分からないけど、俺の勘によれば、リバーが悪いって言っているんだ。


 ちょっと説明というか、コミュニケーション不足なんだと思う。リバーが。


 いや、派閥のことやそれぞれのことについてリバーはちゃんと説明をしてくれる。

 むしろ、俺たちの中で一番気が回ると言っていい。

 だけど、説明であったり、なにかを分かりやすく伝えるというようなこととはまったく別種の、それこそ、とりとめのない会話が、日常において大事な場合もあると思うんだよね。


 昨日なにした?

 ボーっとしているブルートのヤキソバまんとソーメンまんをバレないようにこっそり入れ替えた……うーん、味の系統が似ていると気づかないんじゃないか?……じゃあ、今度はピリ辛トマトパスタまんにしてみるか?……みたいなね!?


 そこに大した意味はないけれど、お互いにとって大事な儀式というか、確認のし合いみたいなことってあるじゃん?


 まあ、ブルートは案の定、上の空でソーメンまんをそのまま食べていたけど……


 リバーは、実は、そういう部分に関してはひょっとしたら拙いんじゃないかって疑惑がなきにしもあらず。


 殊に、レミに関しては……


 ある意味、それぐらい気の置けない存在であるってことなんかもしれんけどね。

 幼馴染の微妙な距離感ってやつがあるらしいから判断がつかないけど。


 このことをちょっと他の誰かに相談しようともしたんだけどさ。


 ほら、俺も当然ながらそんなことよく知っているわけないからさ?


 俺の身近にいた女性なんて、鬼怖い村長の奥さんと悪魔みたいな守銭奴銭ゲバシスターぐらいだったからね。参考にならないよね。


 最初は、ハリーに聞こうかと思ったが、あいつもそれどころじゃなかった。


 今、ハリーにこれ以上コミュニケーションについて悩ませるわけにはいかないよね。


 次に考えたのはカーティス。


 これは、直接聞いてみたんだよ。お土産に、先日のお返しとして五平餅を持って行って。


 返事は、「放っておくか、好きに言わせておくのが一番」だってよ。


 参考になるやら、ならないやら……


 あとは、癪だけど、ブルートって手もないわけではなかった。

 あいつ、幼馴染いるしね。最近、通い詰めているみたいだし……


 でも、よく考えたら、ブルートがそんなことに手練れなわけがないから、止めておいた。


 そして、ここまでズルズルと引きずってしまったわけだな。


 この気まずさを……


「あ、あの馬車は違う色していますよ!?」


「あれはドクター巡回馬車ですね。治療院のスタッフが定期巡回に使っています」


「はえ~」


「すごいですね~」


「……」


 こっちの馬車は白塗りで、しかも白馬が引いている。

 でも、あまり視界に入れたくない。

 変な人が中にいると嫌だからね。

 馬車の窓に仮面が貼りついていたら……そりゃ、恐怖だよ。


 ……お分かりだろうか?


 たぶん、モモエも俺と同じくらい、この場の解決策を見出せずに困っている。


 なんとなく分かる。


 よく考えたら、モモエもこれまでの人付き合いという意味では俺と大差なさそうだからな。ずっと生気のない怪我人だけを直していたわけだし……


 そんなわけで、俺たちは気まずい雰囲気の中、学術棟までとうとう来てしまった。


 まあ、授業になって何らかの変化が生じてくれることを願うとしよう。


 俺もさすがに3回目の授業で先生を帰らせるわけにはいかないからな。


 気合を入れる。


「乗らない、仕掛けない、論破しない」


 挑発に乗らない。

 論争を仕掛けない。

 論破しない……だ!


 今回は、ちょっとした期待感も実はあるんだ。


 俺たちが受ける授業は「ダンジョン学習」というダンジョンに関する講義。


 過去2回受けているリバーに聞いてみたところ、この授業は講義と言ってはいるが、グループワークが主体だそう。


 何やら、大きめのマスボを使って特定のダンジョンに関する研究をグループごとに毎回やっていくんだと。

 俺も大陸内のダンジョンは数えるほどしか知らないし、ほとんど行ったことがないから楽しみだ。


 ……あ、いや、リバーとレミの件も期待できるんじゃないかと思ってね。

 なんと言っても、グループワークだし。

 一緒に何かをすることでほぐれるものもあるよね。


「さーて、皆さーん!それでは今日も『ダンジョン』研究をしてもらいますよぉ!この僕の研究のために……いや、皆さんの今後のために、ダンジョンの知識を身に着けることは大事ですからね。では、今回は、6人1組のチームになってくださあぃ!」


 ……野望が隠しきれていない先生がこの授業の担任のようだ。


 冒険者風の恰好をして腕まくりをして、今すぐにでもダンジョンに向かいそうな出で立ち。短髪でチェックのシャツを着た男の先生。


 魔導師っていうよりも、探索者って感じだ。

 ただ、実際の探索者に比べたら、ちょっとガリガリで頼りない感じ。


 羽根のついた帽子を被っていると探索者感が増すよね。

 あと、まだ肌寒いのに、なんで短パンなんだろう……


 まあでも、1回目のヤキソバまんの具の先生や2回目のヤキソバまんの外側先生のようにこちらを敵視しているわけでも、蔑視しているわけでもないからいいかな。


 ……やたらハイテンションだけど。


 グループワークは6人。

 毎回違うらしい。前回は3人だったのだと。

 俺たちは、合わせて4人だからあと2名加えなきゃいけないが……


「おいっ、『色付き』!こないだはよくも俺をだましてくれたな!?あのあと大変だったんだぞ!?」


「ノ、ノーウェ=ホーム君よね!?よかったら私と……」


「はいー?」


 以前にもあったな、こんなこと。

 2人いっぺんに話されると声が重なって何を言っているのか聞き取れないんだ。


「むっ!」


「むー!」


 そして、なんかにらみ合っているし。


「んー、とりあえず2人とも一緒にグループワークしようか?ちょうど、こっちは2人足りないし」


「「え?」」


 戸惑う2人。

 こっちはもう授業中の揉め事は御免なのだよ。


「どうする?早く決めないと、他が決まっちゃうと思うけど……」


 周りを見渡すと、続々とグループが決まり始め、6人ずつのかたまりで机や椅子が分けられていっている。


「わ、私はもちろんいいけどっ」


「ふんっ、そんなに一緒のグループになりたいなら、なってやらないこともない」


「はいはい。じゃあ、机寄せて~、みんなもいいか?」


「もちろんです」


「は、はいっ」


「うん……」


 ということで、妙に息の合っている2人の学生がグループワークの仲間に加わった。


「そろそろグループが決まったみたいですねぇ~。では、初めてダンジョンに向かう冒険者チームにとってまず大事なのは自己紹介です!お互いにしっかりと自己紹介をし合って打ち解けてくださーい!あと、ダンジョン探索におけるリーダーも決めてね!あ、ちなみにご存じだと思いますが、僕の名前はトルナ=メマコーンでーす!称号は『暖錠』。ダンジョンを愛し、ダンジョン研究にこの身を捧げる男でーす」


 そう言って肘を曲げ、親指を立てて白い歯を見せるトルナ先生。

 研究者というわりには、日に焼けていて活発な印象だ。

 暑苦しいと言い換えてもいい……


「じゃあ、早速、自己紹介をしよう。俺はノーウェ=ホーム。称号は『紫魔導師』。ただの元村人」


「リバー=ノセックです。称号は『土庵深どあんしん』です。ソナタ商会の者です」


「も、モモエです。称号は『桃魔導師』です。こ、孤児院育ちです……」


「レミ=ラシードだよ。称号は『遠近光えんきんこう』。冒険者志望だよ」


 俺たちからさっと自己紹介を済ませる。


 残る2人は顔を見合して見つめ……いや、にらみ合っている。


「私はっ、サワー=グラース。称号は『小魔女こまじょ』ですっ!帝都出身です」


小魔女こまじょ』?

 初めてのパターンだ。

 自己紹介を先んじた薄青色のふわふわしたロングパーマの女子学生は、満面の笑みでこちらを見ている。


 ジャネット先輩の派閥の顧問がたしかなんらかの『魔女』の称号らしいから、その流れを汲んでいるのだろうか。


 それにしても……

 ぼっち体質なのかな?

 他に友だちと授業を受けているふうでもなさそうだし。


 それなら、モモエたち女性陣と仲良くしてくれるといいな。


 俺たち4人は拍手で迎え、そして、その視線は最後に残った1人に集中する。


「ふっ、この私が最後というわけか……ふふふっ、いいだろう。真打ち登場というわけだな。ならば刮目して聞くがいいっ!この私こそ、かの魔帝国随一の軍人貴族、レイホーン男爵家第一子にして嫡男のバラン=レンホーン=シアスキー1世である。称号名は『火煉ひれん』。学年順位5位にして、これからメキメキと頭角をあらわし、魔帝国の未来を預かる男であるからして……」


 ……多弁が過ぎる!


 そんな自分語りに熱中しているからダイゴの不意打ちに対処できないと思うのだがな。


 それと刮目しても話は聞けないと思うぞ……


「えーと、なんて呼んだらいいの?バラン?」


「ぬっ、馴れ馴れしいやつだな」


「じゃあ、バレンシア?」


「なんでだよっ!?」 


「んじゃ、2世か?」


「代替わりさせんなっ!」


 うむ。


 話すとなかなか面白いやつだな。

 こいつは、なかなか素質がある。

 たぶん、そんなに悪いやつではなさそうだな。

 ブルート並みに残念な感じではあるが。


「家名が真ん中なのは、魔帝国のルールかなんかなのか?」


「いえ、そんなことは聞いたことがありませんね。学園の『殿上人』に同じ魔帝国の貴族の方がおられますが、我々と変わりません」


 リバーがすかさず答えた。

 どうやら、俺たちと同じ、名前と家名の呼び方が向こうでも一般的なようだ。


「ふっ、よくぞ聞いてくれた。ならば、特別に教えてやろう」


「いや、別にいいや」


「なぜだ!?」


 時間ないしな。


 聞いても、しょうもない答えしか返ってこなそうな気がするし。

 勘だけど。

 今日はよく働くんだ、俺の勘は。


「じゃあ、早速だけど、このダンジョン探索のリーダーを決めよう!推薦方式にしようか」


「……ふっ、それならば適任はこの男爵家嫡男であるこの私……」


 推薦方式と言ったのに、早速、自薦しているやつがおる。


「俺はレミがいいと思うな!」


「えっ、私?」


「ああ、みんなはどう思う?」


 俺は周りを見渡した。


 レミも戸惑いつつも、どこか、意見を待っている様子だ。


「それでしたらノ……ぐふっ」


 おっと、右肘が滑った。

 すまんね、俺の勘がそうさせているんだよ。今日は大忙し。


「……わ、私もレミが適任だと思います。ダンジョンに関する知識も経験も彼女が1番ですから」


「そ、そう……でも……」


「レミが適任だと思う人」


「「はーい」」


 モモエとサワーが勢いよく手を挙げて乗ってくれた。


「むっ」


「むー」


 なんか視線を合わせてバチバチしている気がするけど、よくわからないから気にしない。

 俺の勘も働き過ぎて休憩中みたいだし。


「ちょ、ちょっと待て、なぜ魔帝国のダンジョンも経験したことのあるこの私ではなく、そこのチン……ぐはっ」


 おっと、失敬。

 今度は左肘が滑った。


「き、貴様。なにをする!?」


「すまん。『色付き』は強い魔力に反応してたまに肘が滑るんだよ。さっきもあったろ?」


「ぬ?そうなのか?ならば仕方がないな、むはははは……」


「それより、バランの称号は『火煉ひれん』だっけ?ずいぶん強力そうな魔法の響きだな?」


「むははは、分かるか?さすがは魔帝国男爵嫡男である私が認めた男だ。良かろう。特別サービスで教えてやる。『火煉ひれん』とはお前の想像通り灼熱の火を操る最上の称号だ」


 あ、認めてはいてくれたんだ?

 ありがとう。


「じゃあ、ここぞという時の魔法ってわけだな。そういう魔法の使い手は、探索ではリーダーとして前を引っ張るよりも後ろでどっしりと控えてくれていた方が周囲は安心だぞ?」


「ぬ、そうか……ならば、後ろを守るとしよう。むははは」


「た、単純……」


 レミがボソリと呟いた。


 たぶん高笑いしている本人の耳には届いていないからOK。


「とりあえず、満場一致ということでいいですかね?」


 目配せ後、進行を代わったリバーが採決をとる。


「「「「異議なし!」」」」


「よろしいですか?レミ……」


「う、うん。わかった……!」


 ふうっ……

 まだぎこちなさは残るも1歩進んだ気がする。よかった、よかった。


「ではでは〜、いよいよダンジョン攻略を始めますよ!?本日の課題となるダンジョンの舞台は……でろろろろろろ〜……なんと!マルテの街の東に位置する『土輪布山泊どわふざんぱく』です!皆さん、『あぷる』の『ダンジョンルーラー』を起動してくださいっ!」


 ハイテンションなトルナ先生のアナウンスのあと、レミが操作を行い、グループに1つずつ支給されている大きなマスボにダンジョンの入口らしき風景が映し出された。


 天然の岩の要害というべきだろうか?

 巨大な岩壁が連なってできた岩の山の一部に、人の手で作られた四角い穴の入口が見える。


 周囲のごつごつした岩場の地面といい、岩山の一部にまるでドワーフの髭のように茂り、垂れ下がっている草葉といい、かの難関ダンジョンをまるでその場に行って撮ってきたかのように精密に映し出している。


「おおっ、すごい!」


「すごーい!ここも本物そっくりだね~」


 レミも行ったことがあるらしく、俺と同様に驚いている。

 他の面々の表情から伺うに、この中で、このダンジョンに入った事のある人間は俺とレミだけのようだ。


「それではっ、早速ダンジョン攻略&研究といきましょう!レッツゴー!!」


 ブオンッっと音がしたと思ったら、「土輪布山泊どわふざんぱく」の入口に6体の棒人間が出現した。


 ……棒人間っ!?


 ……背景との落差が激し過ぎる……!

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


トルナ先生のモデルは某元テニス選手です。笑


次回、ダンジョンに潜ります(棒人間が)


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ