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幕間⑰『今後の大仕事』

「ふふふっ……」


 ノセック家当主代理リバーは、互いに拳を突き合わせることで、ソースとそれを使った料理の完成を喜び合い、互いを認め合い、そして今後の大仕事に向けての誓い合いを行った2人の料理人を眺めながら微笑んだ。


「ムッシュ……いや、ご当主殿」


「私はあくまでも代理ですよ。なんでしょうか?」


「ふむ、それではリバー殿とお呼びしようか。貴殿に相談したいことがある」


 いつになく、真面目な表情で、紫マントの吸血鬼は帽子を胸に当てて、ソナタ商会の役員家であるノセック家の当主代理に向き合った。


「なるほど。商談ですかね……どういったご用件でしょうか?アプス様」


 リバーはおもむろに手を差し出すと、アプスはその手をしっかりと握って握手を交わした。


「どうか……このアプスに、こちらのソースとこの料理を売っていただきたい!」


 意気投合していた2人の料理人が、今度は、突如始まった2人の商人間の交渉をじっと見つめる番である。


「……それは、この2つの独占販売権ということでしょうかね?」


「いかにも!このアプス、このソースと、この麺料理の持つ魔力に大いに魅せられた。我が一族が総出でこのソースと料理をこの帝国中……いや、大陸中に広めることを約束しよう。どうか、私にこのソースと料理を売り捌く権利を分けていただきたい」


「たしかに、最初のうちは、誰かの一手に販促を任せるほうが上手く行くとは思いますが……ワイズマン、貴方はどう思いますか?」


「……私ですか?」


「はい。このソースの考案者は貴方ですから」


「私は、最終的には坊ちゃんにご判断いただきたいと思っていますが、料理人の立場から申し上げますと、このソースのよき理解者に販売を委ねることには、大賛成です」


「おおっ!友よ~」


 吸血鬼がやや大げさに手を広げて感情を現している。


「分かりました。それでは、こちらのソースとこの料理を大陸中に広める仕事を貴方たち吸血鬼の一族にお任せいたします。ただし、これは私と貴方の一代限りの契約とさせていただきたい」


「ふむ。貴殿の目の黒い内はしっかりと監視するということだな。なかなか手強い御仁のようだ。しかし、貴殿と私は寿命が違う。結果的にはいずれ私たちに利することになるかもしれないよ?」


「望むところですよ。その際は、私の後任の目が私よりも黒くなるように育てるまでです」


 そういうとリバー=ノセックは、吸血鬼アプスに右手を差し出した。


「ふむ、分かった。厳しき友よ!末永くよろしくお願いする」


 再度、差し出された手を、吸血鬼一族の現当主であるアプスは強く握った。


 ワイズマンはその様子を眺めながら、身震いした。

 主人であるリバーのこの握手に至る決断は速かった。

 だが、その決断の速さに対して、ことの重大さはまったく釣り合っていないと思えるほどだ。


 この握手はただの握手ではない。

 帝国内でも警戒される存在……とりわけ「聖教会」が危険視する存在とリバーが対等な取引相手となるということだ。


 政治的には非常に危険な橋を渡る。


 それなのに、この若き商人は、そこにまったくの躊躇いを見せなかった。

 短絡的に物事を進めるタイプではなく、むしろ熟考に熟考を重ねるタイプなのに、だ。


 武者震いをするワイズマンの背筋が自然と伸びる。


「そう遠くないうちに、このソースの模造品やこちらを真似た料理はすぐに出回ると思いますけどね」


「それも望むところさ。このソースに対する情熱においては、何人なんびとも我ら吸血鬼一族をそうたやすくは上回れないことを約束しよう」


「取り分……販売権は、折半ということで、金銭報酬以外の特別報酬はワインでよろしいですか?ソース5本につきワイン1本でどうでしょう?」


「3本!」


「欲はその身を灰にしますよ?2本」


「ふむ……」


「真面目に商売をすれば、いずれ帝国内のどこかにワイナリーや畑を持てるかもしれませんよ?ソナタ商会の保証付きで……1本!」


「乗った!必ずソースを売り切ってみせよう。大船に乗ったつもりで、大量生産してくれたまえ」


「ふふっ、なんとも心強いですね。では、増産計画を進めていきます」


 商談は無事に終了したようだ。

 これから、ソースを帝国中に流通させ、その料理を全土に轟かせるための大仕事が控えている。


 やらなければならないタスクは山積みだ。


「……そうだっ!どうであろう?リバー殿、ムッシュワイズマン、ムッシュタイガ!私にこの麺料理の名前を付けさせてもらえないかね?食欲をそそり、人々に馴染みやすい、素晴らしい名前を考えてしんぜよう」


「……大丈夫ですかね?」


「『血の麺』とか『ドロドロ麺』とかはごめんだぜ?」


「とりあえず……案を伺ってみましょうか」


 3人はいぶかしんだ。


「心配要らない!個性的かつ、この麺にピッタリの名前にするよ~……そうだな……」


 ……

 …………

 ………………


「……『ソースヤキソバ』という名はどうであろうか!?」


 ……

 …………

 ………………


 ……まんまじゃねーか!?


 3人は心の中でツッコんだ。


 ……だが、そのネーミングに異論がないこともたしかであった。


 ◇その夜◇


 ワイズマンは、連行されていた……


 ソナタ商会のお墨付きを得て、晴れて協力関係になった吸血鬼アプスに連れられて、岩鬼族のいる北の山脈を目指していた。


 ……超スピードで……


 ……はたして、飛行によって連れられることも連行と言うのだろうか?


 きっと言うのであろう。とりあえず、背中合わせになって、その身を吸血鬼に委ねているという現実を考えないように、違うことに思いを巡らせるとしよう。


 ……身震いするから。

 ただでさえ寒いし……


 幸い、そのネタはある。


 出発前に主人であるリバーによって、ワイズマンとタイガは大きな課題を課せられたからだ。


 ◇遡ってアプスとの契約締結直後◇


「さて、これでめでたくソース販売の懸念は払拭されました。事業における大いなる進展です……それでは次の問題解決と参りましょうか」


「「え?」」


 上機嫌でリバーより手渡されたワインを楽しみ始めるアプスをよそに、ワイズマンとタイガの2人は、主人からの新たなる提案に困惑の表情を浮かべた。


「来月、この帝都で大掛かりな『凱旋祭り』が行われます」


「……ひょっとして聖女様がお戻りになられるのですか?」


「はい。その前祝いとして1週間ほど祝いの祭りを行うのがこの帝都の慣例ですね」


「あー、そういやー」


「ブホッ!!」


 遠くで誰かがむせ込む音が聞こえたが、それは置いておいて、話の続きを聞く。


 どうやら、当代の聖女の発案らしい。

 ある回から、巡礼帰りの度に「自分の凱旋を祝え」と皇帝陛下に懇願したらしく、これは一見すると、かなり傲慢な考えに思える。


 だが、実は裏があるという話だ。


 聖女の凱旋のために行うことといえば、祭りとその街の大きな道路の清掃。

 ただ、掃除しろと言われても、人々の不満は募るし、それを公共事業として行っても様々な軋轢を生む。


 だが、祭りのためと言って、聖女が御墨付きを出すことで、そこに携わる人は、清掃という行為にどこか崇高な使命感を抱くのだ。


 大通りの清掃作業は、大聖堂系の孤児院の子どもたちを中心に行われ、そのあとで、労いの意味も込めて子どもたちが喜ぶ店が立ち並ぶ祭りを催すのだ。


 この祭りという自分たちも「遊び心」をもって行う試みとその準備としての「清掃活動」によって、街も、街の人々の心もきれいになる……


 ……そんな効果を狙っての『光の聖女』の施策だという見方のあるこの活動に、ソナタ商会も帝都の商会として参加する。


「そして、あの『新しい道』が聖女凱旋の道となるようですね……どうやら、あの男はそれを狙って行動を起こしたようです」


 少し緊張感が走る。


 リバーとタイガの2人から……


 あの男……とは、どうやらワイズマンの主人にとって、そうとう因縁深い相手のようだ。


「なんということだ……私が、この地を楽しめるのはあと数週間しかないのか……」


 別方面で、嘆いている者がいる。


 それは一旦、置いておこう。


「タイガ、見返してやりませんか?」


「見返すでがす?坊ちゃん!?」


「ええ。この祭りは、あの道を作った男にとっては、肝入りです。あらゆる酔狂な催し物を用意していることでしょう。我々は、そんな試みを潰します……もっと魅力的で、子どもたちや人々の目を引き、心を掴んで離さない、特別な食べ物によって、ですね……」


「そ、そうか!?『ソースヤキソバ』でがすね!?」


「なるほど!」


「ふむ、そいつは良いな。この『ソースヤキソバ』の魔力、いや魅了によって、早い内から『聖教会』の子どもたちを虜にするというのはなかなか痛快なことだな」


 離れて置いておかれていた吸血鬼までもが賛成した。


 それほどまでに、リバーからの提案は魅力的なものであった。


 俄然、やる気が湧いてくる。


 これは、大仕事になる……


 ……今はなき、あの下賤でも親しみ深い地で出会った最低な料理人2人にとって、そして、この地で煙たがれている存在の吸血鬼一族にとっても……!


「ただし、そのためには1つ課題が残ります……」


「「「課題?」」」


「はい。祭りにはたくさんの人が集まり、そこら中を歩き回ります。そこで開く移動馬車の屋台で出す料理……それは、手に持って食べ歩きができる、食べやすい品である必要があります」


「なるほど。ソースヤキソバは座って食べる分にはいいが、食べ歩きには難しい料理ですね……人の流れが止まってしまう」


「そ、そうか……」


「ふむ……」


 せっかく完成したかと思った料理であったが、その進化を待ってはもらえない……そして、料理人も……

 ソナタ商会のリバー=ノセックという男の下で働くということは、どうやら、そういうことらしい……


 ……望むところだ!


 この試みは、きっと遠くない将来……いや、近い将来、学園で花開くことになる。


 目を閉じれば、学生たちがその品を手に取って笑顔を見せて歩いている情景が思い浮かぶ。

 きっとタイガも同様の絵を思い描いていることだろう。


「まあ、時間はまだあります」


「よしっ、やろう!」


「応よ、やるぜっ、ワイの字!」


「ふむ、その意気だよ。では、早速他の仕事を済ませてしまうとしようか。ムッシュワイズマン!」


「え?」


「早速だが、岩鬼族の住処に向かうとするよ~。今夜にでも!私の翼と魔力で、君と一緒に闇夜の大空へっ!!」


「え、俺?」


 ……置いていってくれないかな。


 ワイズマンはそう心から願った……


「そうだよ。これから私は販促のために、各地に飛び回らなければならないんだ。そこには苦難を伴う場所もある。不本意だが、あの村の祭りにも出向かねばなるまい。そのためにも、景気づけ……もとい、手始めに岩鬼族の集落から始めるよ」


 ……だが、そんな願いも叶わず、相手はなりふり構わず、そして、ワイズマンは飛んだ。


◇そんなわけで再び上空◇


「……あっ!」


「ん?どうしたのかね?友よ」


「岩鬼族……思いついたぞ!?……ワーーーー!!」


 瓢箪から駒……塞翁が馬……吸血鬼と空……


 アイデアを思いついた瞬間、下を見て我に返り、卒倒しそうになったワイズマンであったがきっと、この行きの、道なき道は収穫の多い旅路であったことだろう。

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


本日23時に⑱『エピローグ』の更新で幕間は終了となります。


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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