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1-12『団欒の食堂』

 食堂は広い。

 様々なスタイルのテーブルが見る限り50以上は設置されている。

 椅子の数がテーブルに対し4~6つだからざっと300~400人は一度に集まれるな。


 俺は、まばらに席について食事をしている他の生徒たちを眺めながら、椅子をやや後傾し、ヤキソバまんをかじる。

 まさかこの食堂にもヤキソバまんがあるなんてな。

 このアツアツ、ホカホカの柔らかい食べ物はこのプラハ学園の名物だそうだ。

 隣に座って苦虫を嚙み潰したような表情で眉間に皺を寄せているブルート曰く。


 俺たちは比較的最初の方にこの食堂にやって来たようで、その時は食堂内の学生の数もまばらだったが、今では多くの学生たちが楽しそうに夕食を取っている。目の前の席は空いており、周囲にどんな人たちがいるのか一望できる。


 制服、私服、寝間着?と色んな装いの生徒たちの集団が目に映る。

 制服組の多くはこちらを睨んでいる。あそこは殺伐としているな。

 座っているメンバーは全員女性。ああ、あれだ。あれは、派閥【魔花】の面々だろう。


「制服のスカーフが緑だったら彼女たちだ。あとは胸に金属製のバッジがついているのが見えるか?あれは派閥を表すエンブレムなのだが、それが花だったら【魔花】の奴らだよ」


 ブルートがテーブルの上を見つめながら説明をしてくれる。

 彼は絶賛、残ったおかずとにらめっこ中だ。

 根菜の煮物を食堂のおばちゃんが作ってくれたから、彼にもおすそ分けをしている。

 すりおろしニンジンは作らなかったが、ブルートは器に残されたいくつかのニンジンのかけらをじっと睨んでいる。


 丁寧に説明をしてくれたり、一緒の席に着いてくれたり、嫌いなものも何とか食べようとしたりするあたり、姑息だけど意外と律儀な奴なんだよな……ヤキソバまんも何も言わずに黙ってもらってきてくれたし。


「派閥のエンブレム?」


「そうだ。派閥の結成を学園に申請する際にデザインを渡せば学園側が作ってくれる。多くは自分の派閥の名前かリーダーの称号に因んだデザインにするな」


 なるほど。

 だからあの派閥のエンブレムは【魔花】と『風華』に共通する花のデザインなのか。

 案内係改め説明係のブルート。おそらく彼も派閥のエンブレムを作るときのアイデアをすでに考えているのだろう。


「さては『水竜と水飛沫』のデザインだな?」


「な、なぜわかった……」


 そりゃ、わかるだろう。顔に出ているぞ。

 そんなに驚かれると逆に困るのだが。


「ぐっ、あと4人だったのに……」


 別に決闘の判定は「勝負なし」だったのだから、残りを集めればいいと思うけどな。

 まだ10日も猶予があるわけだし。


「やっ、ここ座って良いかな?」


「どうぞ」


「ありがと」


「失礼しますよ」


 急に、目の前に食事の載ったお盆を持つ2人の学生が現れ、相席を求めてきた。

 1人は茶髪のショートヘアーの活発そうな女子学生。

 もう1人は大柄なのに丁寧な口調で礼儀正しい黒髪ツーブロックの男子学生。


 他にも空いているテーブルはたくさんあるのに相席を求めてきたのは何か理由があるのだろうか。

 ブルートは引き続き下を向いたままなので、俺が代表して返答しておいた。


「ノーウェ君だよね?初めまして。私はレミ=ラシード。同じ新入生だよっ」


「同じく。私はリバー=ノセックと申します。どうぞお見知りおきを」


「俺の名はノーウェ=ホーム。ただの村人。こっちはヤキソバまん係のブルート」


「おいっ!紹介するならちゃんとしろ。俺は期待の新人生『水豪』のブルー…ゲッ」


 視線を正面に移したブルートは2人を視認するとあからさまに嫌そうな顔をした。


「やっ」


「どうも」


「ん?2人ともブルートの知り合い?というか、どうして俺の名を?」


「そりゃ、ジャネット様に勝った人の名前は覚えるよ。今、ノーウェ君の名前はこの寮内で急速に広まっているからね」


「そこにいるブルートも一応寮内の新入生の中では有名人ですよ。まあ、彼の場合は、悪評ですが」


「うっ、うるさいっ!」


 ブルートの悪評は仕方ない。だってブルートだもの。


「ブルートはねー、もう15戦もしているのに、私たちが決闘しようって言っても逃げるの」


「え?逃げたり、拒否したりしたらマイナス査定になるんじゃないのか?」


 クローニ先生がそう言っていたはず。


「それは立会人になれる学校関係者のいる前で宣言した場合ね。立会人が確認し合うまでは成立にならないから、その前にバックレれば逃げられるのよ。それと他の決闘が控えているといっておけば一応逃げ口上にもなるよ」


 ふうん。それは盲点だな。奨励はしているけれど、学生同士の所までは学園側が追い切れていないのが実情なのかな。それなら非公式の決闘なんかもありそうだな。


「そうか。もう少しルールについて調べてみようかな。それより、2人は貴族と執事かなんかの間柄?」


 レミとリバーの2人は私服で、貴族というよりかはちょっと裕福な平民って感じ。

 貴族様だったらあまりくだけた話し方もどうかなあと思ってもみたり……

 ……よく考えたら、ジャネット先輩とも普通に話してしまっていたな、今さらか。


「あははっ、違うよ。私は冒険者の娘。私の家系は代々魔法の扱いに長けた冒険者の一族なの。称号は『遠近光(えんきんこう)』得意な魔法は光と風だよ。」


「私は商会の人間です。称号は『土庵深(どあんしん)』と言います。土と火の魔法が得意です」


「リバーのお父さんは『ソナタ商会』の役員なんだよ。私たちは幼馴染同士なんだ」


 俺でも知っている大商会だった。

 ソナタ商会は今では『シンフォ商会』と並ぶ、帝国内における2大商会と言われていて、帝国内全域に支店を持っている。以前隣の村にソナタ商会の行商が来たと噂になっていた。

 結局、偽物だったみたいだけど。

 偽物の壺を買わされていた隣村の村長の顔が今も忘れられない。


「3文字の称号なんだね?俺は『紫魔導師』だよ」


「知っているよ。やっ、『紫魔道師』がどんな魔法を使うのかはわからないけれど、あっちの人たちがずっと『紫魔導師のくせに』って喚いていたからね」


 そういってレミは親指を後ろに向ける。

 見ないでもどの集団か分かるから、俺は確認しない。


「レミは事情通なんです」


「さすがに情報が早すぎない?」


 決闘が終わってすぐにこの食堂に来たんだぞ?


「あはは。私は探索系の魔法使いで、冒険者を目指しているからね。ダンジョンや狩場では情報が命。ジャネット様が『決闘』を行うと聞いてからずっと探っていたのよ」


 レミは光と風が得意な魔法だと言っていた。それならば、洞窟や森なんかでも重宝される斥候職系冒険者になれるだろうな……ん?それなら……


「ん?だったらなんでジャネット先輩の派閥に入らないんだ?先輩なんて探索のスペシャリストじゃん!?」


「たははっ、あそこの派閥は基本貴族の子しか入れないのよ。厳しい選抜があるし。それに、いくらジャネット様が探索者としてすごくてもお話しすることなんてむりむり」


 たしかに、決闘ならともかく、派閥の中に入ってあの刺すような視線を搔い潜って進むのは難しいだろうな。


「それにちょっと、あそこの気風が合わないかなって……」


 ……たしかに。【魔花】メンバーの座るテーブルの方に目線だけ移してみたが、全員こっちを凝視しながら、山盛りのパンや肉をすごい勢いで頬張っている。

 何の訓練だ?


 怖いんですけど。

 あれは俺を睨んでいるのか、それとも何か監視しているのか……


「そこで!君だよ、ノーウェ君。君は派閥を作らないのー?私たち加入するよー」


「え、俺?」


 考えたこともなかった……


「うーん。俺は辺境からやって来たしがない村人だからなあ……」


 派閥って面倒くさそうだし。


「それに、俺についてきてくれる人なんていなそうだし」


 ここに知り合いがいない俺にとって仲間を20人集めるのはハードルが高すぎる。

 強いて言えばブルートだが、彼はまだニンジン2個目を食べ終えたばかりだ。

 あと3つもかけらが残っているし、よく考えたら彼は派閥の仲間ではなく、しがないヤキソバまん係だった。


「そっかー。良い案だと思ったんだけどなー」


「無理強いはいけませんよ、レミ」


「2人は自分の派閥ではなく、どこかの派閥に入るつもりなんだな?」


「うん。私たちは使える魔法と『称号』の性質上、補助的な役割が向いているからね。派閥の長ともなると決闘では『戦闘方式』が多くなるから難しいんだ」


「派閥には入るつもりですけどね。派閥の戦いにはサポート役が鍵となるような決闘方式もたくさん出てきますから、成績を上げるチャンスなのです」


「え?そうなの?」


「ノーウェ君、この学園や決闘のことまだ全然知らないんだね!?それで、もうこんなに活躍しているなんて、ほんと大した大物だよね」


 え、俺?

 まだ決闘1勝しただけだけど。


「個人の決闘は4種類。ご存じですか?」


 リバーが丸い眼鏡をくいっとした。彼は眼鏡を掛けている。分厚くてレンズの奥の彼の目がよく見えないほどの丸眼鏡を。物腰穏やか、背が高く、服もパッチリ、短髪で前髪の半分をオールバック気味に整えていて、側面はツーブロック。格好良いオーラが溢れ出ているのに、眼鏡だけがやたら浮いている。


 彼はヤキソバまん片手の俺にも懇切丁寧に教えてくれた。ちなみに、これは2個目。屋台で買ったのと合わせると3個目。


 個人の決闘方式は主に4つ。

 すでに行った「戦闘方式」と「探索方式」の他に、「射的方式」と「造形方式」がある。


「射的方式」は文字通り魔法を的に当てるもので、発動速度や精密性を競う。


「造形方式」は同じ材料を元にした製作品を、魔法を用いて作り、そのでき映えで勝敗を競うものだ。

 例えば氷の彫刻が課題の場合は、魔法を使って大きな氷塊を削っていく。

 火魔法で溶かしてもいいし、風魔法で削ってもいい。水の水圧を使う手もある。

 この方式は魔法の精密動作性と発動の持続力、魔力量が問われる。芸術的センスも。


 この4つの決闘方式の中から、自分の得意なものを選び、かつ自分の得意なフィールドで決闘を行うために交渉していくことが重要なのだとか。


 レミは「探索方式」や「射的方式」が得意で、リバーは「造形方式」が得意だそう。2人は自分たちの得意な方式ですでに何人かに勝利しており、ブルートにも決闘を持ち掛けたが、前述の通りブルートは逃げ回っているそう。「戦闘方式」でも構わないと言っても断られたって。


「2人は『戦闘方式』でも勝っているんだ?」


「うん、相手と戦い方は選ぶけどね。私のウリは素早さと遠距離攻撃だから、なるべく広いフィールドで制限時間を設けて戦うようにしているんだ。交渉時の腕の見せ所だねっ」


 そうか。制限時間を設け、遠距離から的確に魔法を当てて判定勝負に持ち込む。相手より魔法を多く当てる自信が彼女にはあるのだろう。そういう戦い方もあるんだな。


「私は土魔法による防御結界を作り、相手に攻めさせてからのカウンター狙いですね。当たればそれなりにダメージを与える自信はあります」


 リバーは対照的に近距離で相手に攻め込ませる戦法が得意のようだ。土の壁を魔法で崩すのは確かに難しい。


「それで、派閥の決闘についてですが、派閥間決闘はまず3種類ございます」


 1つ目は「代表戦」。文字通り派閥内で代表を決めての1対1。だいたいリーダー戦だ。


 2つ目は「団体戦」。派閥の中から決闘する者を奇数選び、こちらも1対1の決闘によって勝敗を決する。5人ずつで戦うのが一般的だが、奇数であれば人数は問わない。勝敗の決め方には勝ち抜き戦と星取り戦の2種類があり、勝った人数の多い方が勝ちとなる星取り戦の方が一般的なのだと。

 

 3つ目は「集団戦」。団体戦と名前が似ていて紛らわしいが、こちらは複数対複数で1つの試合を行う方式のことだ。リバーが言っていた「サポート役が鍵となるような決闘方式」とはこの方式のようだ。ちなみにこの集団戦を複数回行い、星取り戦にすることも可能。


 派閥間決闘では、リーダー同士が交渉を行い、まずこの3種類の戦い方を選ぶ。

 次に、選んだ戦い方について、さらにどのような決闘方式で戦うかを決める。


 例えば、5対5の集団戦を選んだとして、それが必ずしも「戦闘方式」である必要はない。

 集団で「造形方式」の決闘を行い、より素晴らしい石の彫像を作り上げた方が勝ちとする勝負もできるというわけだ。

 また、団体戦や集団戦の星取り方式で1戦1戦決闘方式を変えることもできる。

 大きな派閥同士の決闘だと、大掛かりな舞台が設定され、観客も相当数入れた上で、決闘方式を変えながら試合を行うと、大層盛り上がるそうだ。華形はやっぱり戦闘方式みたいだけどね。


「どうしてみんな派閥に入るかというとね?強い所に入って自分を守ってもらえるということもあるけど、派閥間決闘が成績を上げるのに有利になる側面もあるからだよ?」


「派閥間決闘が?」


「そう」


「決闘に負けた場合のマイナス査定も成績に加算されることはご存じですか?」


「うん」


 たしか、クローニ先生がそう言っていた。


「派閥間決闘の()()()()()()()()()()()()()()()()ので個人には及ばないのです。星取り戦などでは、戦略的にわざと負ける『捨て試合』などもありますからね。逆に、自分が派閥間決闘に参加した場合、勝てば個人でもプラス査定ポイントがもらえます。例えチーム戦の補助的な役割でも等しくもらえるのです」


「はえ~」


 そう考えると、派閥を作るメリットの方が大きいような気がするな。

 今、最後のニンジンに勢いよくフォークを刺したブルートが派閥作りに躍起になっていたのも頷ける。そんなに気合入れんでも……


 俺はどうだろうか?

 ランク上位を目指すのであれば派閥に入っていた方がよい気がするが……

 学生ランクかぁ……母の願いを守るためには、避けては通れない道ではある。


「それとね、派閥間決闘で勝利すると派閥自体にポイントが貰えるから、強い所は派閥内で決闘をさせて、そのポイントをメンバーに振り分けるなんてこともできるんだよ」


「え?」


「しかも、派閥間決闘と同じく、こちらも、たとえ決闘に負けたとしてもマイナス査定にはなりません。大きい派閥は派閥内の競争も激しいですが、派閥自体が大量のポイントを有していますから、その分恩恵も大きいのです」


 なるほど。

 それであんな鬼の形相をしながら大きなステーキ肉にかじりついているのだな……

 ……いや、関係ないか。


「よろしければ、派閥と個人の決闘ポイントに関して詳しくご説明致しましょうか?」


「そうだね。それに、私たちは履修登録をもう済ませているから、授業のことも色々とアドバイスできると思うよ!?それに、ノーウェ君が手に入れた豪華な部屋を見てみたいし」


「え、いいのか?それは助かるけど」


「「もちろん!!」」


 いつの間にか食事を終えた2人がこちらを見てニコニコと微笑んでいる。

 レミはとても話がしやすく、話しているとこちらも元気になるくらい明るい。

 一方のリバーは、落ち着いていて何か話しているだけで安心感を得られる。


 いいコンビだな、と俺は思った。そして、ここに来て初めて友だちができた気がする。


 2人に感謝の意を表し、互いに握手をしてお膳を片付ける準備に入ると、2人の顔が俺の隣の方を向いて固まっている。


「ゔっ……ボエッ」


 最後のひとかけらを口に入れて咀嚼そしゃくし、飲み込んだブルートが、煮物の器に、泥状になったニンジンを盛大に吐き出した。


 ……汚っねえ。




ここまでお読みいただきありがとうございました。面白かったと思った方は是非、良いね、評価、ブクマ登録を何卒よろしくお願いいたします。


評定ポイントと派閥ポイント、派閥戦の概要については改めてまとめたものを投稿します。

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― 新着の感想 ―
やはり本文にあとがきに置くべきような文が混ざってますね。 些細ではありますがちょっと気になる。
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