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幕間⑧『区画』

「ま、マジかよ……」


 つい、くだけた言葉で呟いてしまった。


 帝都のノセック家で働くと決めてから口調を昔、店を持っていた頃のものに戻していたワイズマンであったがが、新しい職場となるプラハ学園の広大な敷地の中にある壮観な建物内、玄関入って正面に浮かぶ巨大なモニュメント群のすごさに度肝を抜かれていたのだ。


「マジです」


「し、失礼しました、坊ちゃん。それにしても噴水もすごいがこの宙に浮かぶ砂時計がすごいですね」


 隣で冷静に答える雇い主に恐縮する。

 ちなみに、職場仲間に倣って、ワイズマンも彼を「坊ちゃん」呼びをすることにしている。


「この砂時計は、魔道具でできており、砂が1度下に落ちて再び上に戻る際には色を変えるのです。色は、4元素を表す緑、青、赤、黄の4色と白黒の6色ですね。各色10分ずつ、1巡するのに計1時間。正確に時を刻むと同時に数字で表さないことで、ここでのひとときを満喫してほしいという願いが込められています」


「ははぁ〜。なるほど〜。これを坊ちゃんが?」


「いえ、私は依頼しただけですよ。『一応、時計の機能を果たしつつ、この学園にふさわしい魔法をイメージした魔道具のモニュメントを造ってください』と」


 なるほど。

 これがリバー=ノセックという男の仕事のやり方の基本スタイルらしい……


 先日のラシード家との晩餐会のメニューしかり、この巨大な時計仕掛けの魔道具しかり。


 リバー=ノセックは、自身の思い描くビジョンの中で、これだけは外せないという部分のみを端的に依頼し、後は作り手の腕と想像力に任せる。


 細かい指示を出されるよりも、ある意味よっぽど厳しくはあるが、同時に、一緒に仕事をする上で大きなやりがいを得られる。


 この人の下で働きたい……そう感じずにはいられないのだ。

 弱冠15歳にしてその才覚が備わっていることが、弱冠51歳のワイズマンから見て、自身の雇い主を末恐ろしく感じるところでもあった。


 自分が15歳の頃はまだまだ塩を舐める生活だったというのに……


「さて、行きますか。我々の主戦場はあちらの方です」


 カツカツ……カツカツ……カツカツ……


 大理石のような滑らかな床を2つの靴が音を鳴らして移動する。

 中央廊下の床は仕上がっているが、各店舗の内装はまだまだこれからといったところ。

 所々、工事の機材が建物内に区分けされた店1つ分の区画に見え隠れしている。


 オープンは入学式よりひと月ほど前とのことだからまだまだ半年ばかりの猶予はある。


「こちらです」


「ま、マジですかい!?」


「マジです」


 またもくだけた口調になるワイズマンと淡々と答えるリバー。


 驚きは先程よりも大きい。


 それも無理からぬこと……


 ……広大過ぎるのだ。


 食事処のスペースの区画が……!


 不覚にも顎をカクカクさせてしまうワイズマン。


「ホテルのパーティ会場の3倍はありますよ……」


「ええ。椅子を設置したとして悠に400人分は超えるでしょう。ホテルの大宴会場や学園の各寮の食堂の規模が100人から150人分ですから、その感覚で間違いないでしょうね」


 こともなげに言う雇い主。

 一介の放浪料理人の気持ちも少しは考えて欲しい。


「でも、スタンピードのときは1000人分の料理を賄ったのでしょう?貴方ならできますね」


 そして、こちらの心を読んだかのように畳み掛けてくる雇い主。


 先が思いやられるよ……


「ですが、このスペースにテーブルや椅子を配置したとして……もしや、ビュッフェスタイルをお考えですか?」


 実際にその規模の料理を作れないことはないが、そうなってくると色々と問題が生じてくる。


「いいえ。ビュッフェスタイルを取り入れても良いとは思いますが、それだけでは十分ではありませんね。問題が多いでしょう」


「はい。食事の提供の仕方、お客の皿の選び方と流れ方、混雑具合の調整……一筋縄にはいかなそうです」


「料理面ではどうでしょう?」


「仮にメニューを100考えたとして、日替わりで出すものを変えたとしても、3か月もすれば飽きられてしまうかと」


「それはそうでしょうね。たまの贅沢や旅行先で楽しむ分にはいいですが、毎日ですとただの食堂と大差なくなるでしょうね」


 そう。

 ビュッフェスタイルという目を引く料理をいくつもテーブルに並べ、客に好きに皿に盛ってもらうという方式は、それそのものがご馳走である。

 そして、ご馳走はたまに食べるからご馳走なのであって、毎日だと飽きる。


 実際、ワイズマンも帝都にいた頃は、高級な部類のレストランのシェフを務めていたが、毎日食べに来る客はいなかった。


 いくら華やいだ場になるからといって、ここが学園内という日常生活の延長線上にある場だと考えると、到底上手くいくとは思えなかった。

 よくて食堂のちょっとおしゃれ版ぐらいであろうと……


「……ということは、この時点で、すでに課題はいくつか見えてきています。日常的に食べても飽きない料理を揃えつつ、たまのご馳走も提供する。1つのスタイルではなく、複数の楽しみ方があり、お客の様々なニーズに応えられる空間を作れば良いということです」


 ……そんな絵空事のような空間がはたして作れるのだろうか?


「『公園』をイメージしてみてください」


「え?」


「『公園』はどのような場所ですか?どのような人たちが、どのような目的で、どのように利用しますか?」


 ワイズマンは目を閉じて、公園を思い浮かべてみた。


「子どもと遊ぶ家族連れ……ベンチで一緒に飲み物やお菓子を分け合うカップル……仕事の中休みに休憩をする者……大人数で芝生遊びをする若者……スケッチをする学生……ただ寝転がって空を見る者……こんなところでしょうか?」


「なるほど。では、公園の種類はどうでしょう?貴方がこれまで訪れた公園はみな同じ形をしていましたか?」


「いえ。街によって、場所によって、そこに住む人によって違います。置かれているベンチの種類も違えば、咲いている花、遊具や見世物、池や露店なども違います」


「そうでしょうね。では、それでいきましょう」


「え?」


「私は、ここを『フードパーク』と名付けています。今、貴方が話していて、貴方が見聞きしてきたものすべてを料理、レストランに置き換えてイメージしてみてください」


「……そうか!1つのスタイルにこだわらず、この場所を『食の公園』にする……」


「はい。それもとびきり夢のある公園に、です。それには貴方のこれまでの経験が必ず活きてくるはずです」


 ワイズマンは再び目を閉じた。

 食の公園……そのイメージにもっとも近いものがあるか記憶を辿る。


 いくつかの情景が思い浮かぶ。


 エルフ族の樹霊祭……

 ドワーフ族の武具奉納祭……

 岩鬼族の初酒の祝い……

 マルテの街の大猟漁祭……


「あの、1つ突拍子のないことを話してもよろしいでしょうか?」


「なんでしょう?」


「帝国内各地の伝統的な日常の料理とご馳走をこの地に集めてくるというのは?」


「ほう。詳しく教えてください」


「流通都市であるマルテの街では、年に1度、中央にある円形の大市場で大きな祭りを行います。屋台が軒を連ね、マルテの街に集まる様々な食材を使った屋台料理が当日振舞われます」


「なるほど。この広場の周囲を屋台で囲うということですか?」


「はい。ただし、各店舗は帝国の各地方の名物料理や普段の食事、それと軽食などを振舞うようにしていただきます。そして、他にスペースを作り、そこで各地の祝いの料理、私たちの『スペシャリテ』、季節のフェアなどを置くビュッフェを用意します」


「ふむ。だいぶ公園のイメージが具体化されてきましたね。では、その方針で進めて行きましょう。『区画の制定』、『各地の料理人との交渉』、『食材ルートの確保』など問題は山積みですが、1つ1つ片付けていきましょう」


「はい!よろしくお願いいたします」


「ワイズマン。貴方の伝手と交渉力にも期待してよろしいですね?もちろん、資金面や交通手段については、ソナタ商会が全面的にバックアップいたします」


「もちろんです。元よりその覚悟です」


「よろしい。それでは進めていきましょうか……その前に、もう1つだけ。良いアイデアがあれば教えてほしいのですが……」


「なんでしょう?」


「この学園の名物となるような食べ物が欲しいところですね。学生たちは元より、老若男女、気軽に食べれるようなものが……」


「なるほど。『名物料理』ですか……!?例えば、『タコ焼き』なんかはいかがですか?マルテの街の祭りのときによく売られている丸い形をした軽食ですが。学生たちは喜ぶと思います」


「ああ、『タコ焼き』は私も食べたことがありますよ。レミの大好物ですしね。もちろん、ここの軽食に加えてもいいかとは思いますが、ここは1つ新しい料理を開発してもらいたいですね」


「畏まりました」


 ……また難しい課題が雇用主から課せられた。


 やることは山ほどある。

 はたして半年で終わるのだろうかという不安を抱えながらも、ワイズマンの心は久々にやって来た充実感で溢れていた。


 ◇数日後◇


「とりあえず名物料理と場所のリストを作りました」


「ありがとうございます。貴方自身が出向いた方が良い場合と、商会の現地スタッフに任せられる場合と分けてもらった方がいいですね」


「各都市は、任せても大丈夫かと。むしろ土地勘がある現地のスタッフの方が良い気がします。ただ、岩鬼族、エルフ族、ドワーフ族の各集落には私も同行いたします。優先度としては、ワインも抱えている岩鬼族からですね」


「わかりました……」


 ブーブーブー……


 今後のフードパーク事業の調整をリバーと行っている最中、雇い主のマスボが何かを知らせる告知音を鳴らした。


「……っ!ワイズマン、貴方、『スラム街』に友人がいると話していましたね?」


「はい。友人というか、知り合い程度ですけど……何か?」


「大変です。『スラム街』が区画整理の対象になりました……しかも、執行日が本日となっています」


「なんですって!?」

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


突然のお触れ……その裏には……?


次回、本編に関わる2人の登場!

タイガの住むスラム街はどうなってしまうのか?


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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