3-22『英雄論』
まえがき
派閥【紫雲】は「春の選抜決闘」に向けてメンバー個々のレベルアップを図るため、派閥ポイント200を分配し、各々が「勝手に強くなる」ために模索していくことを方針とし、各自その道を模索していくこととなった……
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「本当に良かったのですか?」
「分かって聞いてんだろ?」
「ええ」
リバーが悪戯な笑みを浮かべる。
なかなか人の心理を突いてくる憎たらしい笑みだ。
俺たちは、件の陰謀論の出所を突き止めたあと、『紫雲城』に戻っていた。
リバーの入れてくれた紅茶を飲みながらソファでくつろぐ。
リバー自身も腰掛けて、ティーカップの下の皿を持ちながら優雅に紅茶を飲んでいる。
「救ってほしい……なんて他力本願なマインドでは難しいでしょうね」
「ああ」
気になったのはそこだ。
俺の悪い噂を流したことについては、謝ったんだからそれで終わりだ。
裏事情も知ることができたし。
ただ、救われたいと言う割に、自分の腰を上げる気があるのか分からない言い方が気になった。なんか無性に腹が立ったと言ってもいい。
やったことある人なら分かると思うけど、少しも自分の力を使わない脱力した人間を持ち上げるのは並大抵の力では無理なんだよ。
酔いつぶれた人間とか、喧嘩で白目向いている人間とか……
俺はそのために『フロート』を手に入れたようなもんだ。未だかつて発見した者がいない魔物を探してまでしてな。
仮に、立ち上がりたいにしても、自分の確かな意思と、たとえ僅かでも自分の力を使わなきゃいかんよ。
「……とはいえ、彼らのときは、ノーウェは『道』を示しましたよ」
「……むう」
紅茶が渋い。カップの底に近づいているからかな。
リバーが言う彼らとはうちの他のメンバーのことだな。
派閥結成の会のとき、俺は火と水の『れんぞくま』をあいつらに見せた。
きっとそのことを言っているんだろう。
「というわけで、私に1つアイデアがあります」
「リバーに?」
「はい。目には目を。『陰謀論』には『英雄論を』……です」
「はいー?」
俺にはリバーの言っていることがよく分からなかった。
◇噴水広場近くの訓練場◇
俺たちは再び噴水近くまでやって来た。
ピギーはもういない……いや、いた。
他の女子学生たちに囲まれて可愛がられているようだ。
「フードパーク」にいたときにリバーから聞いた話だが、最近の肉付きのいいフォルムとのそりのそりと太いお尻と尻尾を揺らして歩く様子が映像に撮られ、「あぷる」に流されて人気となっているようだ。
なんでも「ツチネコ」と愛称が付けられているらしい。
まるで「ツチノコ」みたいだな。
ちなみに、「ツチノコ」は実在するぞ!?
しかも、あいつら宙に浮くんだぞ!?
「はっはっは!参加できて、某、光栄の至り」
「然り」
砂利混じりの土床の闘技舞台の上に立つ俺の向かいにいるのは2人の派閥メンバー。
レヴェック=リヴァロとジャック=モントレーだ。
つばの大きめな、赤いハットを被っているやや恰幅の良いレヴェックと細身で身長の高い、黒のニット帽を被ったジャックはなんか対照的なコンビだ。
先日行われた【魔転牢】との決闘戦でもこの『赤魔導師』、『黒魔導師』のコンビは活躍し、リバーやハリーの指示を受けていい連携を見せていた。
実はこの2人の連携の良さには秘密がある。
……というのも、この2人はこの「プラハ学園」に入学する前からの仲で、レヴェックは男爵家であるリヴァロ家の子息、ジャックはそのリヴァロ家に使える名誉騎士であるモントレー爵を父に持つ。
親同士が主従の関係。だから、2人の関係もその延長にあるように見える。
学園にいる間は気にしなくていいのでは、と少し思ったりもするが、こればかりは元村人の俺が指摘することでもないし。
それに、俺も村長の息子を一応は立ててはいたしな。
ちょいちょい締め上げてたけど……
そんな2人がなんで俺と対峙しているかというと、それが今回、リバーが考えた試みらしい。
「それでは、今から皆さんに『戦闘方式』での決闘をしていただきます。勝敗の決め方は『相手に魔法を当てること』です」
リバーがコホンと咳払いをひとつしたあとにそう宣言する。
その手にはマスボがしっかりと用意されており、俺たちの方に向けられている。
「それでは行きますぞ!ノーウェ殿」
「私も胸を借りるつもりで参ります」
「どうぞどうぞ」
貴族らしく、こちらを攻撃する前に帽子のつばをくいっと動かして合図をしたあとで宣言をするレヴェック。
……貴族らしいといったけど、こうやって決闘前に優雅な所作をこちらに見せてくれる相手は初めてかもしれない。
他に対峙したやつは、いきなり魔法を放ってきたり、人を下に見て馬鹿にしてくるやつらばかりだったもんな。
……と、油断をしていると、この2人は意外と危険なんだよ。
「『ハイウインド』」
「ハイヤァーー!!」
ほらね。
ジャックがレヴェックの放った風魔法の上に乗っている。
波乗りじゃないんだから……
ブルートがこの前の決闘戦で水魔法の上に乗ってからというもの、うちの派閥ではこうやって魔法に乗ろうとする試みが流行っているんだ。
まだできるメンバーは少ないけどな。
ジャックは体幹が強くてバランス感覚に優れているんだろうな。
ブルートほどじゃないけど。
そう考えるとあいつはやっぱ天才型だよ。
……ってそんなこと考えている場合じゃない。
ここは1つ……
「『シェル』は禁止ですよ。赤魔法だけです」
ですよね〜。
仕方ない。
「『ウインド』」
「イヤッハー、もらった!」
ジャックが地面を蹴って、ついてくる。
ジャンプ力がすごいのではなく、地面に足をつけるタイミングで足裏纏っていた『ウインド』を放出したんだな。
器用なやつ。
さらに、右手の拳にはすでに『アイス』を纏わせている。
先を先をと読めている証拠だ。
みんな成長している。
だが、残念。
俺の放ったのはただの『ウインド』じゃない、『れんぞくま』だ。
バビューン……
「くっ、2段とは」
そう。『ウインド』を放ったあと、『ハイウインド』で方向転換をしてジャックとレヴェックの間に入る。
とりあえず連携を分断。
挟撃の恐れはあるけどね。
ボワッ……
ほら、来たよ。次が……
「今だっ、ジャック」
レヴェックのファイアが飛んでくる。
俺は火の玉に向かって行き、掌に『ウォーター』を作り、無理やり相殺。
動けば狙いはつけづらい。
「「何と!!」」
さ、攻守交代。
ボウワッ……ゴォー……
今度は俺の『ファイア』。
レヴェックの元へ……
「なんの」
レヴェックも『ファイア』で応戦。
だが、追加がないことで油断したね。
「おわっ、ちゃっちゃ」
足元がお留守だよ。
何も、足が使えるのは君らだけじゃないからね。
「あ、『アース』?」
そう。地面から『アース』。
レヴェックがバランスを崩す間に『ウインド』で近づいて……
ポンッ……
肩をウォーターを纏わせた手でポンっと。
「くっ、不覚……」
戦術は気づきだからな。
固定観念がどうしても自分の能力を狭めてしまう。
同じ属性魔法の『れんぞくま』とは限らないということを覚えておいてくれ。
攻めの場合も、守りの場合も。
「まだまだぁっ、『ハイアイス』」
氷の槍が飛んでくる。
おおっ、3本。
「『ハイファイア(壁)』」
じゃあ、こっちも形状変化。なるべく高くね。
さあ、ジャックは、固定概念に囚われないでいられるかな?
「ぐっ……」
バビューン……
……残念。
必ずしも右か左かだけではないんだよ。
……上もあるんだ。
だから、壁を敢えて高くしたんだよ。
「うっ!」
「『ハイアイス(雨)』」
氷を雨状にして上から注ぐ。
「そこまで!ノーウェの勝利」
「ぐおぉっ、無念!」
ふうっ、何とか勝ったな。
まあ、でもすごい成長度だと思うけどな、実際。
実に頼もしい。
◇『紫雲城』リビング◇
「まさか、あそこで『アース』とはやられましたわい。ハッハッハ」
「いかにも!私もつい、左右の道しか見えていませんでした」
ソファに座り、紅茶を飲みながら感想戦をする俺たち。
レヴェックもジャックも負けてもこうやって爽やかというか度量が広いというか。
出されたクッキーを3つ、4つまとめて取って口に入れるレヴェックは度量だけでなく、懐も大きい。
これがブルートなら3日間はブツブツ文句言ってくるからな。
ヤキソバまんを何個も食いながら……
「投稿完了いたしました。これで『陰謀論』に対抗して『英雄論』が生まれてくるはずです」
「はあ~……」
紅茶を啜る。
まだ気持ち的にすっきりはしない。
「そろそろ覚悟を決めましょう。残念ながら『陰謀論』を消すことはできませんから」
慰めにも似たリバーの言葉を何とか受け入れようとする俺。
まあ、仕方ない。
「僭越ながら、某もリバー殿の策は良策だと思いますぞ、ノーウェ殿。『陰謀論』はいわば見えない者たちの妬み嫉みが生み出す呪いです。呪いを打ち消すには聖なる『英雄論』というリバー殿の対抗策は理に適っており申す」
レヴェックからの言葉。
彼もまた貴族の事情に詳しいから、こういった政治的な動きには敏感なのだろう。
それは分かる。
「まあ、『英雄論』は劇薬でもありますけどね。どちらにせよ、ノーウェという存在が実像から離れることは違いないですし、結果、新たな軋轢を生むことも往々にしてあります」
……そうなんだよな。おそらく俺の気にしているところはその点なのだろう。
この派閥のように、俺の目の届くところで、俺の実像を知る人たちと何かを目指すのは良い。メンバーも俺を知っているし、俺もメンバーを知っている。そこに軋轢が生まれたとしても、いくらでもぶつかり合えばいいんだ。
だが、俺という実像から離れたところの争いが起きたときに収拾がつけられるのだろうか。いや、きっとできないことも出てくるだろう……
「……それでも、信じるべきです。今回の動画のようにノーウェや私たちの実像を見て、這い上がろうとしてくる者が出てくることを」
「「然り!」」
「ノーウェ殿。某らもついておりますぞ!?」
「いかにも!私も微力ながら」
「ふふふ、そうですね」
……
…………
………………
こうして、学園の「ノーウェ陰謀論」を唱える一派への対抗策として、「俺VSレヴェック&ジャック」の派閥内決闘を映した映像が、「陰謀論」の本拠地である「あぷる」内に投下された。
「英雄論」の行く末を見守る監視役はリバーが務めることになり、レヴェックとジャックがそれを補助してくれることになった。
俺は彼らを、そして映像の先にいる人たちをとりあえず信じることにする。
「称号」でも「地位」でも「種族」でも「出生地」でもなく、ただ魔法に対して忠実であろうとする者たちが増えることを。
そして……この先、本当の「英雄」が何人も生まれてくれることを願って。
……
…………
………………
あと、「ノーウェ=ホーム陰謀論」に「ノーウェ=ホーム、転移魔法所持者説」と「ノーウェ=ホーム、トカゲ人間説」が加わったそうだ……
……なんで!?
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
派閥メンバーも着々と力を付けているようです。
次回……から、しばらく幕間としてノーウェ入学前の話が続きます。
その名も「プロフェッショナルたちのプロジェクトY~〜学園名物料理の誕生秘話〜」
春休み企画のつもりで肩の力を抜いて楽しんでいただければ幸いですm(_ _)m
目指せ、グルメタグ回収!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




