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3-20『陰謀論』

まえがき

 

派閥【紫雲】は「春の選抜決闘」に向けてメンバー個々のレベルアップを図るため、派閥ポイント200を分配し、各々が「勝手に強くなる」ために模索していくことを方針とし、各自その道を模索していくこととなった……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 俺は今、1人の男と向かい合っている。


 その場には他に誰もいない。


 つまり、これは純粋な男同士の1対1の勝負である。


「ノーウェは『陰謀論』をどう思いますか?」


 ん?心理戦か?

 その手は食わないぞ。


 俺は冷静に手札を見つめる。


「『陰謀論』?……ああ、あの怪物のような魔物が帝都周辺のあちこちに出始めているっていうあれか?それが他国の工作じゃないかって噂されているやつ?」


 平常心で事を進めれば自ずと道は開かれる。


 ほらね。


 あと1枚で「宮廷魔導師団ロイヤルマジシャンズ」だ。


 あとは運を天に任せるだけ。


「……ノーウェらしいですね。私はもう少し規模の小さいものを想定していました」


「……というと?」


 土の魔法よ来い。

 我が元に集まるのだ。


「学園内で今、まことしやかにささやかれている噂のことです」


「噂?」


 くっ、来ない。

 水の魔道具はいらんのだよ。

 焼きそばまん係で十分間に合っています。


「まず、『ノーウェ=ホーム、異国人説』」


「ぶっ」


 一応、帝国領出身なんですけど。

 あそこを帝国領じゃないと言われればそれまでだけど、そうなった場合、たぶん困るのは帝国だよね?


「んな、根も葉もない」


 土がなきゃ根も葉も生えないんだよ。

 さっさと俺の元にやって来い。


「次に、『ノーウェ=ホーム、本当は2文字の称号説』」


「ぶふっ」


 さすがに、その説は草生える。


 何かのカムフラージュに名乗ってみようかな。

 何が良いかな?


「2文字の称号は自然の力が必ず1文字は入っていますからね。この学園でもそれを根拠に神に愛されし力と強調する一派がいるくらいです」


「あー、あの人達ね」


 俺が名付けるとすると何がいいかな。

『青筋』とかか?


 ……いや、なんか違うな。


『紫芋』?


 ……これも違うな。


「私なら土を入れますけどね」


「まあ、そうだろうな。リバー、すでに持ってるしな」


 そして、俺も土が欲しい。


 ……あ、しまった。

 頷いてしまった。


 バレてないかな?


「最後に、『ノーウェ=ホーム、マムンクルス説』」


「いやいやいや……」


 俺は首をブンブン横に振る。


「研究室に出入りしてますしね。何も知らない学生から見たらあり得ない話ではないかと」


「それを信じた所でな……それにさっきから俺がしょうもない変な人間になっているだけじゃ……どこがいんぼ……」


「それです!」


「え?」


「スカウトです。『建築ギルド連合ビルダーズ』ですね」


「ノー!!」


 リバーは無情にも俺の捨て札「土の魔道具」をスカウトし、役上がりしてしまった。

「建築ギルド連合ビルダーズ」は土と水の魔法札、そしていくつかの属性魔道具札を揃えることで完成する役だ。


 しかも、俺の狙っていた「宮廷魔導師団ロイヤルマジシャンズ」とは土と水の魔法札がかち合う。

 俺の上がり札のほとんどはリバーの手中にガッチリ納められていたわけだ。

 おそらく俺の上がりの確率はほとんどなかっただろう。


 ……くやしー!


「やはり『宮廷魔導師団ロイヤルマジシャンズ』でしたか。スケールが大きいですね」


 え?そっちの話だったの?

 陰謀論の話ではなく!?


「これまでの3つの説はたしかに荒唐無稽こうとうむけいな話ではありますが、ある面においては実によくできています」


「……というと?」


「一見、それは飛躍が過ぎるのではと思う夢物語のようなことと、現実味のあることの境界を狙って作るわけです」


「むぅ」


「異国人説」は俺の暮らしていた村があまり知られていないから。

「2文字の称号説」は俺の魔法が特殊なせい。

「マムンクルス説」は教授の研究室に通っているため……か。


 たしかに、一見現実離れしているように思えるが、よく考えるとあり得なくもないなと思えてくるギリギリのラインな気がする。

「だからああだったんだ」というような後付けが作れそうな感じではある。


「そこに悪意を込めれば陰謀論の完成ですね。ノーウェは異国人だからこの学園を壊そうとしている。ノーウェは称号を偽って人々を欺いている。ノーウェはマムンクルスだから人間とは相容れない。故に、『ノーウェ=ホームはこの学園秩序、ひいては帝国秩序を崩壊させようとしている勢力によって送り込まれた魔導師である』……というように。あとは世間が勝手に話に肉付けをし、尾ひれを付けます」


「いったい何だってそんなこと……」


「彼らからすれば、事の真偽は問題ではないのですよ。この手の陰謀論によって対象の噂がネガティブな形で広まれば成功なわけです。逆に受け取る側もノーウェという新入りの異質な存在を妬む者たちは事の真偽に関係なく乗ってしまい、悪く広めてしまう……」


「……つまり、誰かが世間に対して意図的に俺に関するネガティブな印象を植え付けようとしている?」


「そういうことになりますね」


 なんたるちゃー。


 無駄なことをと思いつつも、いたいけな、いち新入生に対してそんなことをするやつがいるなんてあまり気持ちの良いもんじゃないな。


「探しに行きませんか?」


「何を?」


「この学園内の陰謀論の出所を。面白そうです」


 リバーは、眼鏡のかけ位置を1度調整してからニヤッと笑った。


「乗った!」


 こうして、俺とリバーは陰謀論を探しに街(学園内)へと繰り出した。


 しかし、陰謀論は、いったいどこを探せば見つかるのだろうか? 


 向かいの家?違うな。


 家(『紫雲城』)を出て、皆が集まる噴水前広場まで足を進める。


 ……あ、いた。


 ピギーだ。


 俺に近づいて喉をゴロゴロ鳴らしているので、顎下を優しく撫でてやる。


 モモエと一緒にいるときによく撫でていたから今ではすっかり俺に慣れているのだ。


 かわいいやつだな、お前は。


 ブルートを見なかったか?

 あいつ今迷子なんだ。

 心の迷子。

 道を外れなければそれでいいけどな。


 それにしても、お前だいぶ肉が付いたな。


 いや、良いことだぞ。


 もうどっかのゴミクズに目をつけられるんじゃないぞ?


 ピギーは満足するとコテンと身体を横に倒して日向ぼっこを始める。


 さて、それでは真剣に陰謀論を探すとしますかね……


 ……でも、本当にどこに行けばいいんだろう?


「噂の出所を探るには、まずは噂が多く集まる場所に行きましょうか」 


「……と言うと?」


「食事処はそういった話題が食事のスパイスとなります。ちょうどタコもどき屋で新作を作ったそうなのでいかがでしょう?」


「乗った」


 こうして、俺たちは「フードパーク」で情報収集をすることにした。


 ◇『ビッグエッグタイマー』フードパーク内◇


 これが噂のやつか……


 俺の目の前には平べったい食べ物が置いてある。


 1番外側の膜が薄焼きの卵。

 その内側にタコもどき焼きを平べったくしたような生地。

 中心にヤキソバまんの具。


 なんかの円盤のようだ。


 なんだこの食べ物は?


 卵焼きとタコもどき焼きと焼きそばまんの良いとこ取りをしていてさながら皿の上の小宇宙だ。


 そして、その味たるや、ソースによって生み出された味の一体感とビックバン!


 ソースがもたらす圧倒的な旨味、ソバと生地のもちもち感、タコもどき焼きのコリコリした感触とざっくりキャベツの甘味、卵のほっくり感……


 1枚で得られる満足感。これ即ち至福。


「満足しましたか?」


「あ、はい」


 食べ終えて山葡萄の炭酸水を飲む。

 爽快。

 ここで、先日リバーたちが開発した炭酸水製造の魔道具が試験的に運用されているんだ。

 うーん、うまい!


「顔を動かさないで聞いていてください。このフードパーク内に私たちの噂をしているグループがいくつかいます。今、それを吟味しています」


「えっ?」


 そんなことしていたの?

 俺が皿の上の宇宙に飛ばされていたときに?

 リバーは食事テーブルの上でマスボを動かしている。


「でも、噂になっているなら、何組かそういうやつらがいるのはおかしいことではないのでは?」


「ええ、もちろん。問題は噂への食いつき方が自然なものなのかどうかということです」


「なんかしたのか?」


「はい。ノーウェがピギーを撫でているときに簡単な撒き餌をしました。『あぷる』を使って、私たちの行動を学園中に配信してみたんです」


 え?マジで?

 俺がピギーと話しているところも映っているのか?それはちょっと恥ずかしいぞ。


「そこは大丈夫です。ピギーに被害が行くのは嫌ですしね」


 なんだ。ならよかった。理由は釈然としないけど。


「れも、それりゃあ、どうやっれみわけるんら?」


 俺はグラスに残った氷を舐めながら質問する。

 氷に移ったほのかな香りと甘味がまた良いんだよね。


「ここに私たちが来たのを見てマスボを使い始めたグループが4組。正直、その中から悪意ある者を見分けるのは難しいですね」


「まあ、それはそうだな」


「ですが、私たちがここに来た後で、何食わぬ顔でやって来て、そこから私たちを時折見ながらマスボを操作している2人組がノーウェから見て左の奥の席にいます」


「たまたまじゃないのか?」


「たまたま私たちのあとを追って、ノーウェがトイレに入って手を洗うのを待ち、食べ物を選んで座ったのを見計らってから、席に着きますかね?」


 そういえば、俺はこの建物に入ってから1度トイレに立ち寄った。

 直前でピギーに触っていたしな。

 食事前だから手を洗った。


 てか、なーんだ。初めから目星はつけていたのか。


「さて、鬼の交代です。どのようにして追いかけましょうかね。何かノーウェにアイデアはありますか?」


 うーん。変に追いかけてもしらばっくれそうだし、ここは意外性を持たせたいな。


「『パーティナイトメア』は……さすがに迷惑だよね?」


「他の学生にも影響を与えてしまいますしね。商会の人間としても、『ビッグエッグタイマー』内の光を全部消されるのはちょっと……」


「じゃあ、良い案がある。今度は俺が餌を撒こう」


「ほう!?」


「そっちの行動は任せた!『ウインドーメクルメクレオニクル』」


 俺は風に溶け込んで姿を消した。

 さあ、俺の姿を見失ったやつらはどういう手段に出るかな?


 俺はゆっくりと左の方に座る2人の男を見る。


 男たちは案の定、狼狽して、何度も首を振って周囲を見渡している。


 じゃ、捕獲といきますかね。


 ……

 …………

 ………………


「……なるほど。別の説がまた加わりそうですね」

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ご存じかもしれませんが……ノーウェは意外と天然です。笑


次回、2人の相棒による捕獲作戦!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!



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