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3ー19『中間報告』

まえがき

 

派閥【紫雲】は「春の選抜決闘」に向けてメンバー個々のレベルアップを図るため、派閥ポイント200を分配し、各々が「勝手に強くなる」ために模索していくことを方針とし、各自その道を模索していくこととなった……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 早いもので「春の選抜派閥決闘戦」まであと2週間。


 今日、俺たち【紫雲】の元に出場可否の通知が届く予定。


 周囲にはメンバーたちがまだかまだかと結果を固唾を飲んで見守っている。


 ギルド専用の家『紫雲城(ちょっとダサいと思うのだが、多数決で選ばれたんだから仕方ない)』のリビングも20人全員となるとなかなか狭く感じるものだ。


 リバーが搬入した大きなテーブルを中心に、四方を長めのゆったりソファが囲んでいる。


「決まりました。32派閥中31番目の順位での通過です」


 リバーの報告を聞いて、周囲からおおっ、とため息にも似た歓声が上がる。


 ギリギリだったな。


 1年生派閥ということを考えれば、それでも十分快挙だけど。


「来週、抽選会が行われ、細かいルール規定の発表もあります。改めて抽選会の概要を話しますと、32チームを8つのリーグに分け、各4チームでリーグ戦を行います。これが予選リーグと呼ばれるもので、予選を戦って上位2チームのみが本戦のトーナメントに進みます」


「予選のリーグを選ぶ抽選会が来週というわけだな?」


「はい」


 ハリーが確認を行う。

 だいぶ見慣れてきた光景だ。


「重要なのは、上位8チームずつ抽選でリーグが振り分けられるということです。我々は下から2番目ですので4巡目。つまり、確実に予選リーグの段階で1巡目に抽選を引く、いずれかの『殿上人』の派閥と当たります」


 ざわざわ……


 2度目のどよめき。


 派閥戦に出場する『殿上人』は8人。

 学生ランク1位の人は除外。

 よくわからないが、特殊な派閥だかららしい。


 あと、4位の人は休学中だそうだ。


 そう。ダメ教授の娘さんね。


 それ以外の誰かとは必ず当たるということ。


 皆がどういう心持ちで聞いているかわからないけど、予選で必ず『殿上人』に当たれるわけだから良い抽選方法だと思うけどね。


 逆に『殿上人』からすれば、本選までは『殿上人』同士で潰し合わないで済むけど、2巡目以降の抽選次第できついリーグにもなり得るわけだ。


 この『殿上人』や上位チームにとって戦いたくない下位の手強い派閥をジョーカーというそうな。


 今年はどの派閥がジョーカーなんだろうか。


 ともあれ、やる事は決まった。


 あとは、本番までにピークを持っていくだけだ。

 精神状態のね。


 それは魔導師にとって1番重要な観点といえる。


 これが騎士だったりすると、肉体のピーキングも必要らしいけどな。俺は知らない。


 魔導師がその実力をいかんなく発揮するためには良好な精神状態でいることが肝要であり、俺も大一番の狩りのときなんかは、事前に何度もイメージトレーニングをしたもんだ。



 そんなわけで、本番2週間前の皆の個々やチームとしての精神状態を測るのはリーダーの俺にとって大事な仕事というわけだな。


 さて……


 俺は周囲を一通り見渡す。


 ……ビジュアル的に明らかにおかしい集団がいるけど、そこはひとまず置いておいて、気になるのは目の座った4人だ。


「アルト、あそこにワタシたちをキンニク団に売り飛ばしたハリーがいるデスよ」


「シャウ、見ちゃいけないデス。裏切り者のハリーを見たらカルボナーラまんが食べたくなるデス。あのほかほかの頭に齧りつきたくなるデスよ。デス!デス!デス!ボクたちは毎日フロッグバードのササミ焼きを食べるデス。それが筋繊維を修復してマッスルアップするのデスよ」


 ……すごく不穏なことを言っている気がする。

 誰だ?あの双子に筋肉増強理論を叩き込んだのは?


「うるる〜、筋肉増強、マシマシマッスル〜」


「がるるる〜、ほんとに、ほんとに、ほんとに、ほんとに、キンニクだ〜。不死身!マッスルパーク!」


 ……なんということだ!こっちの双子は筋肉最強唱歌を口ずさんでいる。


 あれを歌いながら筋トレをすると不死身の肉体を手に入れられるなんて本気で思い込んでいるヤバいやつらの18番を。


 4人の双子コンビはひどくやさぐれだ眼差しで1人の男を睨んでいる。


 その男はトレードマークである赤いキャップを、珍しくつばの部分を前にして目深に被っている。


 大丈夫か?


 さっき聞いたリバーの報告では、彼らと奇才レオ=ナイダス先輩との合同戦術講習会は順調との話だったが、まったくそのようには見えないんだが……


 と、とりあえず、他を見よう……


 俺は次にカーティスたちの方に目を向ける。


 カーティス、ブランク、ダイゴ、ジャック、レヴェックの5人。『黒魔導師』軍団だな。

 レヴェックは『赤』だけど。


 ソファに横並びに腰掛けているが、全員目の下に真っ黒なくまを作っている。


『黒魔導師』だけに、な。


 まあ、頑張ってくれ。


 話に聞いた限りではクローニ先生の授業で課題を山盛りされた上に、実技で盛大にしごかれているらしい。


 変な言葉を覚えて帰って来なければそれでいいよ。


 ……なんか、テーブルに置いたマスボに手をかざし、時折魔力を放出しながらブツブツ呟いている、かなり怪しい黒ローブの集団に見えるけど、気にしないよ。


 次だ。


 カーティスたちの向かい側のソファに座る人たち。


 さっき先送りにしていた人たち……シャウを除いた女性陣だ。


 全員、足を組み、あごを少し上に上げて向かいの『黒魔導師』を見ている。いや、見下ろしている。


 異様なのはあれだ……


 顔に装着しているゴーグル。


 全員同じ形で色違いのゴーグルをしている。


 何それ?


 あ、よく見ると2人だけ違う方を向いているな。


 黄色いゴーグルは……レミだな。

 なんかリバーの方を向いているけど、まったく取り合ってもらえておらず、ギリギリと歯軋りをしている感じだ。


 もう1人は、桃色のゴーグル。

 ……モモエだな。

 なんかこっちを見ているな。


 よく分からんけど、手を振っておこう。

 おおっ、返してくれた。


 彼女たちが何をやっているかは知らないけど、温かい目で見守ろう。


 精神状態は……知らん!

 判断しようがない。


「それでは、中間報告を致します」


 「「「「「おおっ……!」」」」」


 先ほどの選抜選考のときよりも周囲が沸く。


 これからリバーが行う報告は、現状メンバー間でどれだけポイントが稼げているかの報告会だ。


「まず、ノルマとなっている60ポイントを折り返しの現時点ですでに獲得しているメンバーを挙げます。まずノーウェ。ちなみにメンバー中最高点の144ポイントです」


 おおっ、と再び大きな歓声のあと、盛大な拍手に包まれる。


 ふっふっふ。なかなか気持ちいいものだな。


 ダメ教授のマムンクルスに魔法指南したことによる評点がほとんどだけど、何を隠そう決闘も1回行っているのだ。ちなみに、ダイゴの魔棒による乱れ打ちを食らっていたどこぞの国の貴族とは別の人ね。


 これで俺の評定ポイントは900。

 3桁の大台も見えてきたね。


「次点はハリー。88ポイント」


 さすがハリー。


 こちらも周囲から感嘆の声と拍手が送られたが、俺のときより若干少ない。

 その理由はポイント差ではなく、刺すような視線が同時に送られているからだ。


 ハリーはレオ=ナイダス先輩との勉強会に加え、戦術論を共著で書き上げて提出したことで評定をもらっている。さらに、改良版マムンクルスの実験役としても協力してくれているので八面六臂の活躍ぶりだ。


 だから本来文句を言われる筋合いはないはずなのだが……


「あいつ、キンニクから逃げて浮気しているデスよ」


「ナヨっちいデスね。タンパク質が足りないデス」


「「ぷ~」」


「「がるる~」」


 だそうだ。


 気にしないでおこう。


「それでは他の60点越えのメンバーを発表します。ダイゴ、レミ、ディリカ、モモエ、ミスティ、ミモレ、パルメ、カマンベの8名になります」


 大拍手がそれぞれに送られた。


「恐悦至極」


「「「「「ふっ」」」」」


 ダイゴは頭を下げて一礼。


 7人の女子メンバーたちは腰に手を置いて「どーよ」とでも言いたげなポーズを取っている。


 おめでとさん。


 ちなみに、女性陣がどうやってポイントを稼いだのか俺は知らない。リバーは把握しているらしいけど、どうやら60ポイント一括で手に入れたらしい。

 

 ……怪しげな勧誘や詐欺に遭っていないといいけどな。

 

 いるんだよ。世の中には、そういう悪徳な行為を働くやつが。

 最初の依頼でたくさんの金貨を報酬にして、2回目以降は下げるんだ。

 もらった方は、1回目にたくさんもらったし……

 あるいは、やりがいがあるし……力がつくし……

 ……なんていうふうに、罪悪感や使命感、充実感といった感情を利用されてついつい続けちゃうんだよな。


 まあ、そんなどこぞの腐れシスターみたいな悪徳なやつはそんじょそこらにはいないだろうから、きっと真っ当に稼いだポイントなのだろう。そう信じよう。


 ……とりあえず、あのゴーグルが気になってしょうがない。


 もう1人の60ポイント取得者、『黒魔導師』のダイゴはあの名もなき魔帝国の貴族をボコした対価が大きかったな。


 いや、あれはなかなか容赦なかった。


「続いて、ノルマの半分。30点を越えたメンバーを発表いたします。アルト、シャウ、コークン、ホウジュン、カーティス、ブランク、ジャック、レヴェック、そして私、リバーの9名となります」


 双子たちは講習会ならぬ筋肉訓練会によって30ポイント獲得。

 残りはどうやって稼いでいくのかはわからないが、ハリーがきっと見守っていくんだろう。不憫だけど……


 カーティス、ブランク、ジャック、レヴェックの4人はクローニ先生の授業とマムンクルスの実験協力で得たポイントだそう。獲得ポイントはまばら。


 カーティスから聞いた。

 カーティスも、なんか一段と落ち着いた感がある。

 なんか開眼したのかな?


 ……あ、五平餅ごち。


 リバーは、淡々と30ポイントきっかり稼いでいた。

 リバーの場合、下手したら「ここからは1日2ポイント」とかノルマを課しても、本当に稼いできそうだから困る。


 レミの「どーよ?」にも、相変わらずの無表情たぶんだし。


 まあ、評定ポイント的には概ね問題ない。


 気になるのは、色んなところで火種が燻り始めている気がして、なんかもやもやっとするけど、本番になれば却って発散できるということもあるから、とりあえずリバーやハリーと連携して、暴発だけはさせないように注意深く見守っていこうと思う。


 まあ、それでもポイント的には、全員順調そうでよかった……


 ……

 …………

 ………………


「……風になりたい」


 ……あっ、1人忘れていた。


 窓の外を見ながら、まだ午前中にもかかわらず黄昏れている男を……


 1番やばい感じのやつ(ブルート)を。


「……天国じゃなくても……楽園じゃなくても……風になりたい」


 ……

 …………

 ………………


 うん。


 放っておこう。


 ◇


 ブルート=フェスタ。

 いまだに獲得ポイント0。

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


順調そうで何よりです!(ブルート以外)


次回、これまでありそうでなかった2人だけの回!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!



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