3ー18『モモエ特派員の臨時リポート其の3』
まえがき
派閥【紫雲】は「春の選抜決闘」に向けてメンバー個々のレベルアップを図るため、派閥ポイント200を分配し、各々が「勝手に強くなる」ために模索していくことを方針とし、各自その道を模索していくこととなった……
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も、モモエです。ここからはハイパーエクセプショナル会員様のみの限定公開となります。そのリポート役が私でいいのでしょうか?
と、とにかく、私たちはついに「ダンジョンハウス」の主である魔物リッチと対峙し、これを討伐することに成功しました。
で、でも、問題があります。
私たち「アンバスターズ」による光魔法攻撃は、資産家リッチさんに効果てきめんで、仕上げにミスティちゃん(シスターホワイト)の『ミスティックライト』がとどめを刺しました。
刺したはずでした。
しかし、ミスティちゃんの魔法には「特性」があるのです。
『ライト』が過剰に魔物の魔の成分を浄化してしまうために、魔物そのものが変質してしまうことがあるのです。
以前、ピッグニックにミスティちゃんがこの魔法を掛けたとき、ピッグニックはただのブタさんに変わってしまいました。
ミスティちゃんはそのとき、上から見下ろして「魔法が使えないピッグニックはただのブタよ!このブタ!」と言っていました。
……蛇足ですね。
そんなミスティちゃんの魔法がリッチにどう作用したのでしょうか?
なんと!元のおじいさんの姿になってしまったのです。
名前はライオネルさんと言うそうです。
ライオネルさんはニーゼさんの取り出した瓦煎餅を見て号泣しました。
あの煎餅の形は私たちが大聖堂でいただいたものとはちょっと違いますね。本物の屋根の瓦の様に波打っています。
縛られた手を開放され、煎餅1枚を手に取って女性の名を挙げて泣き出す資産家おじいさんに全員ドン引きしています。
いや、部下のスケルトンナイトだけは、彼に寄り添ってその背中を優しくさすっていますね。スケルトンのわりに優しいです。
「儂には娘がおったのだ。名をクリスティーナと言ってな。妻を亡くしてこの身ひとつで育て上げた。なのに、あの男が!番頭のリーケン=ヨコーセがわしの宝物である娘とこの瓦煎餅を両方とも奪い去っていたのだ」
「あ、なるほど!どこかで聞いた名前だと思ったら、信者からの貢物の箱の裏に書いてあった名前か」
アルテさん(ニーゼさんはもうややこしくなるし、おじいさんの血圧が上がるのでやめますね)はイカゲソを噛みながら、右手で拳を握り、それで左手の掌をポンッと叩きました。
どうやら、彼女の偽名の由来は、瓦煎餅の箱だったようです。
すべてが繋がりましたね。
その後、ジュリアさんが事情をきちんと説明し、何とかライオネルさんの誤解を解くことはできました。
アルテさんが、リーケン=ヨコーセの血縁ではないことよりも『聖女』であることの方がなかなか信じてもらえなかったんですけどね。
それからライオネルさんの身の上話を伺いました。
ライオネルさんは壮絶な幼少期と苦難の青年期を過ごしたあと、苦心に苦心を重ねてようやく瓦煎餅を生み出し、それを帝都で販売したことで大成功を収めました。
その発想は、幼い頃にお母さんに作ってもらった蜂蜜入りの甘いお菓子とスラム街で人の家の瓦を自分で焼いたレンガと無断で変えながら転売していた思い出から来ているそうです。
さらっと罪の告白がありましたが許しましょう。
時効ですし、スラム街という言葉に私はちょっと思うところがあります。
瓦煎餅の販売事業は大成功だったそうです。
それはライオネルさんの店が皇室御用達のお菓子屋として認められたほどで、その頃、順風満帆なライオネルさんは遅咲きながら結婚し、1人の女の子を授かって幸せの絶頂に至ったそうです。
それがクリスティーナさんですね。
しかし、彼に転機が訪れたのは、クリスティーナさんが10歳になった頃。
可哀想なことに、愛する奥さんを病気によって失ってしまったそうです。
そこからライオネルさんは、すでに多感な年頃になっていたクリスティーナさんを必死に育てました。
ですが、いつしかできた親子の間の亀裂は、年を重ねるごとに大きな溝となり、クリスティーナさんが18歳になったときに事件が起こったのです。
それが8つ年上の番頭格であったリーケン=ヨコーセという方との駆け落ちですね。
このリーケンさんのことも、ライオネルさんは16歳の頃より10年もの間、手塩にかけて育てたと言っています。
そんなライオネルさんの心もいざ知らず、2人は家を飛び出したばかりか、大事な瓦煎餅のレシピまで盗んで別の場所で商売を始め、いつの間にかこの帝都でも有数の商会である「シンフォ商会」に身売りして、「本家瓦煎餅」を名乗ることで皇室御用達の菓子の名誉まで奪ってしまったそうなんです。
なんて悲しい話なんでしょうか……
「嘘だね」
「なっ……」
話を聞き終わった瞬間にアルテさんが断言しました。
それはもうバッサリと……
「じいさん。隠し事はいけない。私は『聖女』だ。いわばアンデッドの専門家なんだよ。私の前でアンデッドの嘘や隠し事が通るわけないだろう?」
「な、なんの話だ」
どういうことでしょうか?
私は、ジュリアさんを見ました。
ジュリアさんもじっと腕を組みながら何度も頷いています。
「仮に、あんたが番頭に娘も菓子も名誉もすべて奪われて没落し、そのリーケンって男を怨んだとしよう。だが、それだけじゃあ、決してリッチにはなれないんだよ」
「……うっ」
「人が何もない所で高位のアンデッドになるために必要な要素がわかるかい?それは、『未練』だ。『未練』と『怨み』は似ているようで違う。リッチのような高位のアンデッドになるためには『怨み』だけではなく、自分の身を呪うほどの強い『未練』や『後悔』が必要なんだよ」
「うっ、うっ、うーーーーー」
ライオネルさんは再び泣き出しました。
どうやらアルテさんの見立てが正しかったようです。やっぱりすごいです。
それから隠された真相が語られました。
ライオネルさんは、娘のクリスティーナさんとの関係がギクシャクし始めてから酒に溺れてしまったようです。
帝都での人間関係にも煩わしさを感じ、独断でこの地に屋敷を移し、帝都での販売事業のすべてを番頭さんに押し付けたそうです。
それだけならまだしも、諌めるクリスティーナさんに何度か暴力を振るったりもしたそうです。
最低ですね。
酒を始めた原因は奥さんを失った悲しみからみたいですが、だからといって未来を一緒に生きる大切な家族に手をあげることは許されません。
絶望したお嬢さんは帝都の番頭さんを頼ったみたいですね。
どこで歯車が狂ってしまったのか……
その愚かな行いをした自分への後悔とやり場のない怒りを向けた相手への憎悪が彼をリッチにしてしまったのですね。
「で、あんたはこれからどうするんだい?」
「わ、儂は……」
どうするんでしょう?
ライオネルさんはリッチでしたが、今はもう浄化されました。
怨みがましいことを言ってはいますが、正気は保てています。
瘴気は保たれていません。
ミスティちゃんによってきれいさっぱり払われました。
問題は今ライオネルさんがどんな状態かということです。
「あんたは浄化された。もはや魔力と瘴気によってアンデッドを生み出し使役する力はない。身体は肉が付いたがアンデッド、心は元のあんたになったと言える」
アルテさんの見立てでは、ライオネルさんは瘴気を払われて正気に戻ったアンデッドということになるみたいです。
「もはや、ここで生き永らえても儂は……」
「なんでさっ!?娘さんに会いたくないのっ?」
レミちゃんが大声で尋ねました。
お父さん、お母さんになかなか会いたがらないレミちゃんが言うのもおかしな感じですね。
「娘は儂を見限って捨てたんじゃ。儂が親父を捨てたようにな……今さら会いたくはないじゃろ」
「そんなー……」
「名誉の方はどうだい?」
「え?」
「あんた最初に言っていただろう?娘も名誉も奪われたって。とり返したいとは思わないのかい?」
「それこそ今さらじゃろ……本当に望んでいたものはもはや永遠に手に入らないのじゃから。儂はここで残った者とただ日々を送るだけじゃ」
……そう聞くと、ものすごく残酷なことをしてしまったような気がします。
永遠の贖罪……アンデッドになるということは「聖教会」においては何よりも重い罪に当たるそうですが、だからと言って、生前のライオネルさんがそこまでの罪を背負うべきだったのでしょうか……
最低な人ではありますけど。
「ふーん。まあ、あんたがそれでいいって言うんならいいんだけどね。手に持ったそいつの匂いをちょっと嗅いでみなよ。その節穴な鼻でさ?」
アルテさんがライオネルさんが持っていた瓦煎餅を指差ししました。
「こ、これは……!?」
「『変わらない、嘘のない、この堅さと味わい……ライおじさんの瓦煎餅』」
「ううっ……ま、まさか。そんな……」
どういうことでしょうか?
話が見えません。
「あんたのことだったんだな……私は煎餅と蜂蜜にはうるさいんだ。『ライおじさんの瓦煎餅』の売りは『王蜂ロイヤルゼリー』を使用していること……違うかい?」
「ううっ……だ、だが。あいつらはシンフォ商会に身売りしたんだ。商会にも方針があるのだろう。大量生産する場合、『王蜂ロイヤルゼリー』は品薄になる。品質の劣る『軍曹蜂蜜』を使ったとしても文句は言えまい」
「たしかに、ね。『軍曹蜂蜜』を使っていると謳っていれば問題ないけどな。だが、実際はそうじゃない。シンフォ商会で売られている『本家瓦煎餅』は『王蜂ロイヤルゼリー』を使っていると言いながら実際はこの通り、『軍曹蜂蜜』を使っているのさ」
「ううっ……うおぉーーーー」
ライオネルさんの嗚咽が部屋中に響き渡ります。
ガシャガシャ……
ガシャガシャ……ガシャガシャガシャ……
その声を聞きつけ、数人のスケルトンたちが部屋に集まってきました。
彼らはこれまで、いったいどこにいたんでしょうか?
「儂は……儂の人生はいったい……」
「無様だね」
「ううぅっ……」
アルテさん再びばっさり。
「あんたが最初に失ったものは、娘でも名誉でもない。何だかわかるかい?」
「わ、儂が最初に失ったもの……?」
「ああ。あんたが失った……いや、捨てたのは『生き様』だよ。『変わらない、嘘のない』瓦煎餅を作ることがあんたの『生き様』だったんじゃないのかい?その『生き様』を捨てたときからあんたは無様なアンデッドに成り下がったのさ。あんたに娘と番頭を責める資格はあるかい?」
「う、う、うわおぉーーーーん……ぐぇっ、ぐぇっ」
ドーンとアルテさんは人差し指をライオネルさんの眼前に突きつけました。
スケルトンたちがライオネルさんの周囲にワラワラと集まってきましたが、何もせず、泣き崩れる主人を見守っています。
リッチの瘴気が払われた以上、アンデッドを使役することはできないはずなのですが、この様子ですと、共にアンデッドになる前からの信頼関係があるのでしょうか?
「おじいさんっ!そこで諦めるのっ?娘さんとわだかまったままでいいの?おじいさんが本物の瓦煎餅を作り直せばいーじゃん!?」
「わ、儂が……本物の……?」
「そーだよ。私の友だちにソナタ商会の人間がいるから口利きするよ。そうして本物の瓦煎餅をもう1度帝都で流行らせればいいんだよー」
それまで黙っていたレミちゃんが急にまくしたてるように言い出しました。
さっきまで口をきかないと言っていたリバー君にどうやらレミちゃんから口利きをするようです。
「そうだね。それがどれだけの『贖罪』になるのかはわからないが、アンデッドとしてこれから生きていく以上、もう1度『生き様』を示す必要があるんじゃないかい?」
「う、ううぉぉーーーん。せ、聖女様ぁーーーーー」
やっぱりアルテ様は聖女様なんですね。カッコいいです!
それにどことなくノーウェ君に似た感じもします。
以前に2人は姉弟みたいだと思いましたが、ひょっとしたら、それは2人の生き様が似ているからなのかもしれませんね。
「よしっ。私たちも協力しよう」
「せ、聖女様?」
傍で聞いていたジュリアさんが驚きの表情を浮かべました。
「ここにいるジュリアはお使いのエキスパートだからな。あんたに材料となる物資を届けてくれるだろう」
「えっ、私?」
「問題は『王蜂』の方だが……ジュリア、『アンバスターズ』!」
「はっ、はいっ」
「「「「「はいっ」」」」」
「あんたたちに依頼を出すから、巣ごと取って来てやんな。こいつらアンデッドだから刺されても心配ないしね。庭も広いし、養蜂には最適の場所だろう」
「か、畏まりました」
「「「「「分かりました!」」」」」
どうやら、私たち「アンバスターズ」の次の依頼が決まったようです。
「ありがたや……なんと、ありがたや……」
「定期的に私がここに来て味を確かめるからな!?無様なもん作るんじゃないよ」
「は、ははー」
こうして、ただのアンデッドおじいさんになったライオネルさんの処遇は決まりました。
彼は、贖罪として、また、失った「生き様」を取り戻すために、この「ダンジョンハウス」で改めて瓦煎餅作りに励むそうです。
後々の話ですが、聖教会の『光の聖女』様のお墨付きを得て、この地はめでたく?「禁足地」となり、出来上がった品はジュリアさんの「巡礼騎士団」を通して、「ソナタ商会」に定期的に送られることになりました。
ライオネルさんを慕うアンデッドのスケルトンたちは、同じく館の住人たちで、生前はライオネルさんを支えていたそうです。
リッチとなったライオネルさんに無理やりアンデッドにされたわけですから、何かしらの恨みを抱いていてもいいはずなのに、皆、これからも彼に寄り添って一緒に煎餅作りを手伝うそうです。
この館に侵入した際に、私たちが彼らの姿を発見できなかったのは、地下にある隠し部屋にいたからでした。
そこには、瓦煎餅作りに必要な機材が置かれており、もう10年以上経つというのに、いまだにピカピカに磨かれた状態でまるで操業再開を待ち望んでいるようでした。
リッチマンズチェスト……資産家リッチの隠し財宝とはこの事だったのですね。
今度こそ皆心を1つにして、生き抜いて欲しいです。
生きてさえいれば、何度だってやり直せる……のですから。
アンデッドですけどね。
◇帰りの道中◇
「ふふふーん。アンデッドを叩いたらお煎餅がひとーつ。リッチをボコしたらお煎餅がたくさーん♪」
……
…………
………………
すべてを台無しにするかのような歌を口ずさみながら、ルンルンでアルテさんが軽やかに先頭を歩きます。
ひょっとして、すべてはお煎餅をただで手に入れるためだったのでしょうか……?
……こういう抜け目ない所もノーウェ君のお姉さんみたいだなあと思いました。
現場からは以上です!
◇
追伸。余談ですが、以降、西の森の中を箱を抱えて鼻歌混じりに軽妙に歩く聖女様を見かけた者たちの間で、「聖女が怪しげな品を密造している」という噂がまことしやかに囁かれたのはここだけの話です。
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
これが後に帝都全域を揺るがす、商会同士の面子を賭けた経済戦争(煎餅戦争)と大決闘に発展するとは……
とりあえず、めでたしめでたし。笑
次回、緊迫の中間報告!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




