3-17『資産家の胸中』
まえがき
派閥【紫雲】は「春の選抜決闘」に向けてメンバー個々のレベルアップを図るため、派閥ポイント200を分配し、各々が「勝手に強くなる」ために模索していくことを方針とし、各自その道を模索していくこととなった……
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西の森の大屋敷の主である資産家ライオネルは紆余曲折、波瀾万丈な人生を送った。
元々は街でも裕福な資産家の家庭生まれ。
だが、12歳の頃に父が事業に失敗し、酒場の住人に成り果てる。
母はそんな父との間で喧嘩が絶えず、しまいには愛想を尽かし、他所で男を作って出て行ってしまった。
ライオネルもそんな家族を見限るのに時間はかからなかった。
齢13にして故郷の街を出て、帝都にあるスラムに身を寄せた。
そこで3年も生き抜くことができたのは、彼が幸運の星の下に生まれていたからだろう。
いくつかの軽犯罪には手を染めたが、幸い、その経歴に大きな傷がつくことはなく(元々0ではあったが……)、ライオネルは少ない資金を元手に行商を始めた。
もちろん、そうそう上手くいくはずがない。
そこから10年以上、彼は食うにも困るほどギリギリの生活を続けたが、ひょんなことから、その運命を大きく変える商品と出会う。
家族の温かさと歯を食いしばるような努力の結晶とも言える、甘くて堅い逸品を生み出したのだ。
その商品によって、彼は成功し、さらに10年も経つ頃には莫大な資産を所持する帝都でもなかなか例を見ない一代での成り上がり者となった。
遅咲きではあったが、晴れて地位も手に入れ、妻を娶り、長女を授かった。
……そして、そこから傾斜のきつい坂道を転げ落ちるが如く、一気に転落した。
「お前のせいで、お前のような盗っ人のせいで私はぁーーーー!!」
「いったい何の話だよ?私はまだ何も盗んじゃいないよ!?」
聖女アルテは困惑した。
いや、今はさすらいのアンデッドハンター、ニーゼ=ヨコーセだが、自分に集まる疑いの視線に、彼女は珍しく大きな動揺を見せた。
なにか心当たりがあったとして、疑われたり、濡れ衣を着せられるのであればまだ演技のしようはある。そんな訓練は嫌というほど積んできた。
だが、実際にやってもいないことを疑われるのは心外だ。
これから隠し財宝を探そうと思っているのであって、まだ金貨1枚も盗ってはいない。
一応、これから拝借するつもりだったので、その種の後ろめたさはある。
だから、余計に焦った。
「せ、聖女様?まさか……」
「やってない、やってない!第一、やっていたらここにわざわざ来ないだろうが!?」
周囲の者は困惑したが、ニーゼの言い分に「それもそうだ」と頷き、一定の理を得たようで、その眼差しは多少は柔らかくなった。
それに、よくよく考えれば、ここのアンデッドを倒して隠し財宝を探すのが当初の目的でもある。
「ふん、誤魔化しても無駄だぁーー!こんな身体になっても、儂の鼻は衰えてはいない。お前からプンプン匂っておるわ。行け、クインシーよ。我らが宝を奪い返すのだ」
スケルトンナイトが鎧と骨をガシャガシャ鳴らして襲いかかる。
「お守りします!」
剣を交えたのは巡礼騎士団長ジュリア。
金属音を鳴らしながら、2人の騎士が激しく交戦する。
疑惑が完全に晴れたわけではないが、職務は全うしなければならない。
ジュリアは必死に相手の騎士の攻撃を押し返した。
「『アンバスターズ』。いよいよあんたたちの出番だよ。私が援護するから、心置きなくあの言いがかりリッチをやっちゃいな」
「「「「「は、はい!!」」」」」
7色のゴーグルを掛けたシスター服の女子学生たちは、もやもやっとした心をそっとその場に置いて、やむなく敵のボスである資産家リッチに対峙する。
「『シスターオブクロース』」
ニーゼが魔法を唱えるとシスターたちの服が輝きを放つ。
ご丁寧に、シスターたちの服の色に合わせた色を持つ眩い光が彼女達を包み込んでいる。
「きゃっ」
「すごーい!」
「ぼやぼやしてんじゃないよ。相手の魔法は多少これで軽減するし、あんたらの魔法の威力も上がるからさっさと仕留めるんだよ」
「よしきた。イエロー、行くよー。『ルームライト』」
「ぎょえーー」
シスターイエローの放った照明魔法の光を浴びて、資産家リッチとスケルトンナイトの動きが鈍化する。
「ジュリアさん、援護します。ピンク、行きます。『サステインーライト』」
「ああ、助かる。うおおっ」
シスターピンクの放つ光の照射によって動きを止められたスケルトンナイトは、ジュリアの剣の圧を受けて後方に押し返される。
「小癪な。『巳練瓦増し』!!」
資産家リッチは、呪文による反撃を試みた。
杖を空中に掲げると、上部にあしらった宝玉が光を放ち、その上からいくつもの瓦のような形をしたレンガが生まれ、蛇のようにぐるぐると空中を旋回したあと、一斉に攻撃に転じる。
「……って、なんで私ばっかを狙ってくるんだよ!?『セイクリッドシールド』」
ガンッガンッガガガガ……
何十枚ものレンガがニーゼのみを狙って襲いかかるも、聖女の張った強固な結界盾にぶち当たってボロボロに崩れ落ちていく。
……なんかいたたまれない。
せっかく結界魔法張ってもらったのに意味ないし……
見習いシスターたちはそう思ったが、首をぶるんぶるんと振って目の前のことに集中する。
「まずはあの杖ね。私が狙うわよ。レッド前進するわ!グリーン、援護頼んだわよ」
「OK!グリーン、行くね。『ライトアロー』」
シスターグリーン(エメルダ)の特性は形状変化で魔法を文字通りより尖らせる。
穴でも開けられるのではないかというくらいに錐のような形をした光の矢が数本、資産家リッチを狙う。
「くっ!『赤練瓦装甲』」
ザンッ!ザンッ!ザザザザン!!
「ぐう……」
資産家リッチは赤いレンガの壁を作るが、鋭利な錐の光は壁に穴を開けていく。
壁より漏れて差し込んだ光がその高級そうなローブに当たり、黒い瘴気が漏れ出る。
「今よっ!『火漸発止』」
相手が気を取られている隙に、先に走っていたシスターレッドが、飛び上がって狙いを定め、資産家リッチの杖目がけて平べったい炎の塊を放った。
バンッ!ボアァ!!
「ぐわっっちゃぁーーー」
杖が資産家リッチの手の骨から離れたのを好機と見た3人のシスターが駆けだす。
「仕上げっ。オレンジ、やっちゃうー。『スプレッドーストーン』」
「私もっ。『スプラッシューライト』」
「ににーん!『風柳』」
まず、シスターオレンジがまず放射状に飛ぶ石魔法を放ってレンガの壁をなぎ倒す。
バガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ゴゴゴゴ……
次に、シスターアクアが粒状の光を資産家リッチに放ち、その状態を仰け反らせる。
「グギャギャギャ……」
ドスーーン!
最後に、シスターイエローが、仰向けに倒れた資産家リッチの羽織る高そうな法衣の肩口目掛けて鋭利な金属製の小型ナイフを放つ。
ビシッ!ビシッ!
「ぐっ、身動きが……とれん……」
ジタバタする資産家リッチの前に最後の1人が上から見下ろすように立つ。
「仕上げだよっ!ホワイト行くよっ!とびっきり!の『ミスティックライト』!!」
「ぎゃーーーーー」
◇数分後◇
「……で?とんだ濡れ衣を着せられたわけだけど、せっかくだから一応話は聞こうか?……というか、なんでこんな姿になっているんだよ、こいつは!?」
イカゲソを噛みながら近くにあった椅子に座り、足を組みながら尋問を始める『聖女』。
目の前には、数分前までリッチだった資産家。
今では人間の老人の姿をして手を後ろに縛られている。
「ふんっ、盗っ人猛々しいやつだな。お前はあやつの娘じゃろう?」
「えっ、誰?」
「しらばっくれるな。門の前で『ヨコーセ』と叫んでおったではないか!?あの裏切り者のリーケンの娘なんじゃろう?忌々しいが、わしの孫ということにもなる」
「……えっ、誰?」
全員困惑する。
ニーゼ=ヨコーセは世を忍ぶ仮の姿で、中の人は『光の聖女』アルテなので、「ヨコーセ」というのは偽名のはずだ。
「せ、聖女様?家名ないですよね?」
「じいさん、私は聖国の教会生まれだ。聖教会生まれのシスターは姓を持たないんだよ。『ヨコーセ』というのは仮で付けた名前だ」
嘘偽りない真実である。完全に濡れ衣だ。
正確にいうと咄嗟に付けた名前なので、以前どこかで見た名前が潜在意識に残っていたのかもしれないので不用意ではあったのかもしれない。
「嘘も大概にせいよ。証拠にお前は懐の中に忍ばせておるではないか!?儂が心血注いで発明し、権利ごとあの男に奪われた代物を!」
アルテは、何のことだろうと思ったが一応、シスター服の胸のあたりを探ってみた。
……出てきた。服の内に拵えたポケットから。
……瓦煎餅1枚が。
……手も叩いていないのに出てきた。
……カッピカッピになって、いつのものだかもわからない瓦煎餅が……
「おおおおーーークリスティーーーナ!!」
「はああっ?」
人間の老人の姿に戻った?資産家リッチはアルテの差し出した瓦煎餅を前にして大声で泣き出した。
その胸中や如何に?
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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煎餅が紡ぐ悲哀の物語……?
次回、解決回!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




