3-12『素振り』
まえがき
派閥【紫雲】は「春の選抜決闘」に向けてメンバー個々のレベルアップを図るため、派閥ポイント200を分配し、各々が「勝手に強くなる」ために模索していくことを方針とし、各自その道を模索していくこととなった……
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俺は再び授業に連行されている。
今回は、両脇を抑えられたり、目隠しをされたりはしていないが、それでも周囲からすればかなり目立っているかもしれない。
「……1つ聞いていいか?」
「なんなりと」
「それは杖なのか?」
「もちろんでござる。これはリバー殿にお頼み申し、拙者が元より持っていたものを腕利きの職人に特注で改良していただいた魔棒でござる」
……棒じゃん。
いや、棒にも見えないんだけど。
杖のような、刀のような、それでいて棒のような……
肩まである黒髪を後ろで結っている男。
そして、黒い薄手のローブなのかよくわからない麻地の服を肌から直接着て胸元を開けているワイルドなスタイル。
『黒魔導師』のダイゴは、片刃の剣のような魔棒を肩に担いで、周囲をギロギロ睨みながら、俺のすぐ隣りを歩いている。
あと、若干距離が近い。
「そんなに周りを警戒しなくていいんじゃないか?それに少し近いというか……」
「いやいや。主殿はこの学園でも有数の綺羅星にあらせられますからな。警戒に越したことはござらぬ。拙者がこの命に変えてもお守り申す」
授業に行くだけなのに大袈裟過ぎるんだが。
あと、呼び名が「主殿」なのもすごく接しづらい。
ある意味、リバーよりやりづらい。
俺は用心が過ぎる魔棒使いのダイゴと一緒に、授業の行われる授業棟を目指している。
「ところで、ダイゴは刀に憧れでもあるのか?」
刀は、帝国においてそれほど一般的な武器ではない。
両刃の剣が一般的だ。
刀も人気はあるのだけれど、いざ実践用の武器となると扱いにくさがあるようだ。
「……そ、そういうわけではござらん」
適当に話題を変えたつもりだったが、あからさまに動揺するダイゴ。
「刀といえば……伝説の勇者が有名だよな」
「!!」
伝説の勇者とは、今から800年も前に実在したといわれる勇者のことで、トレードマークである刀1本で世界を制したという、とんでもない伝説が残っている英傑のことだ。
その勇者は、世の善悪にかかわらず、許されざる者たちをその一振りの刀で断ち切ったといわれており、冒険者ギルド、聖教会、各国政府、魔王軍の幹部、災厄といった、有名どころを分け隔てなくその刀で一刀両断した……と、まるで御伽話のような伝承が各地に残っているのだ。
やった事があまりにも派手過ぎて、その存在を疑う学者なんかも多いらしい。
でも、俺は信じる。
実際にこの目で見たからね。
実在した証拠を。
まあ、若い男であれば、誰もが1度は憧れる存在ではあるな。
村長の息子なんて、よく鍬を刀代わりにしてブルンブルン振るっていたっけ……
その刀で畑の畝ひとつ作れなかったくせにな。
「じ、実は……拙者はかの勇者の子孫なのでござる」
「え?」
「む、無理に信じてもらおうとは思ってござらぬ。で、ですが拙者は父から、父は祖父から代々そう言い聞かされて来たのでござるよ」
「ふーん。ダイゴとダイゴのお父さん、お祖父さんの故郷は?あるいはご先祖の……」
「拙者のでござるか?拙者の家族は祖父の代より『マルテの街』に移り住んだと聞いておりますが、先祖は『シェルミー島』の人間と聞いており申す」
「シェルミー島か……なるほどね」
シェルミー島は帝国の南に位置し、帝都、マルテの街と南下し、さらに南西に進んだ先だ。
もっとも、普通に移動した場合、マルテの街からはかなり迂回しないとあの島には辿り着けないけどね。
間に『マーロック遺跡ダンジョン』があるから。
「し、信じてくださるのか?」
「だってダイゴ自身が信じているんだろう?なら、別に疑う理由がないじゃんか」
「そ、そうでござるが……かたじけない。主殿。実は拙者、魔導師になってからもこの木刀による毎日1000回の素振りを欠かしたことがござらん」
やっぱ刀じゃん!?
急にウキウキして話始めているが、話している内容はドン引きするレベルだ。
何だよ、素振り1000回って?肩外れちゃうんじゃないか?
……まあ、血縁のことはわからないけど、ダイゴの先祖代々に伝わっているなら、あながち嘘とも言いきれず、一定の信憑性はある。
勇者の伝説は大陸中にあるけれど、それもそのはず、理由は、勇者が伝説の武具を集めに各地を回っていたからだ。
その割に、かの勇者の最後の地はどこであったのかは、その存在を認めている歴史家の間でも大きな議論となっており、その地は定まっていない。
それもロマンだけどね。
だけど、俺にはちょっとした確信がある。
伝説の勇者が晩年を過ごした場所はシェルミー島だと。
見てきたからね。
「シェルミー島かあ……」
「ひょ、ひょっとして、主殿はシェルミー島に渡ったことが……?」
「いや、ないよ」
そっちは、ね。
「そ、そうであったか……」
「見たことはある。対岸からね」
「対岸?……ま、まさか!?」
「おっと、着いたぞ。それじゃあ、めんどいけど、おとなしく授業を受けますか」
「わ、分かり申した。おとなしく……していてくだされば良いが」
俺たちは、授業が行われる教室に到着した。
相変わらず後ろの席。
俺とダイゴ以外、横一列誰もいない。
それどころか前の列も座っておらず、俺たちだけ離れ小島みたいになっている。
まるでシェルミー島みたい。
気楽でいいんだけどね。
ただ、こうもあからさまだとね……
差別がしたいのならはじめから授業に入れなければいいと思うんだ。
どうせ、表だってはできないんだろうけど。
「それでは授業を始めるですだよ」
本日の授業は「称号学」。
座学の中でも最も興味深い授業だ。
俺は村生まれの村育ち。悪いやつだいたい村長の息子の友だち。
帝都にあるこの学園に来るまでに出会った称号持ちは数えるほどだ。
一応、学園に入ってからが初めてではない。
そうなると初めて会った称号持ちがブルートになってしまうからな。
それではあまりにも不名誉だ。
いや、クローニ先生の方が先だったか。まあ、どうでもいいな。
それぐらい、称号に関しては知識に乏しいので、この授業で様々な称号が知れるのはとてもありがたく、有意義な気がするのだ。
「……であるからして、称号というものにはランクというものがあるんだに。2文字の称号こそ至高!他の称号に比べてその力の偉大さと用途の幅広さは群を抜いているだに」
……そう思って来たのだが、実際の授業は退屈極まりないものだった。
講師であるチャシウ=ティオンという先生はその巨漢な肥満体から吹き出る汗を手拭いで拭き取りながら何度も同じことを力説している。
いかに2文字の称号が優れているか、いかに2文字の称号を持つ者が帝国内において高い地位についているか、いかに2文字の称号を持つ魔導師が作る世界秩序は優れているか……
2文字の称号の2文字の称号による2文字の称号のための称号学。
それを懇々と説いている脂ぎった大きな丸顔の講師もまた2文字の称号持ち。称号名は『脂湿』。
2文字の称号を礼讃したいならそれはそれで一向に構わないのだが、それならそれで、せめて称号の組み合わせの仕組みだとか、組み合わせによる効果だとか、組み合わせの実例や分類なんかを教えてくれればいいのに。
どんなに称号がすごいところで、結局は使う人間次第なのにね。
まあ、変にこっちを敵対視していない分、先日のヤキソバまんの具の先生よりましか、このヤキソバまんの外側の先生は。
「ぐひっ、ぐひひっ!ぐうの音も出ないでしょうだに。3文字の称号の諸君。まあ、君たちは優秀な2文字の称号持ちの下でサポート役に徹していれば、万事うまくいくだに。この学園では『戦闘方式』以外にも活躍の道はあるだに。頑張りたまえ」
そう言い放ったあとで、外側先生は、今度は俺たちに目線を合わせてニヤッと笑った。
「そして、4文字で『色付き』の君たちは……残念ながらダニにはダニの本分があるだに。まあ、道端の雑草でも抜いているだに。ぐふっ、ぐふふっ」
……結局、今回も思いっきり馬鹿にされた。
なんだ、この学校は!?
ひょっとして座学の授業まで決闘文化なのか?
「では、ここで一旦質問はあるかに?ぐへっ、ぐへへっ」
「はいっ!」
「ちょっ、主殿!?」
俺は迷わず挙手する。
大事なのは聞く姿勢だと1回目の授業のあと、クローニ先生からも言われたんだ。実践しようじゃないか。
「ぐほっ、ぐほほっ。なんだに?本来ならば『色付き』の君に発言権はないのだがに。殊勝な心構えならば答えてやるだに」
「ありがとうございます。先生は先程、2文字の称号が至高。4文字の称号は草でもむしってろとおっしゃっいましたね?」
「ぐひっ、ぐひひっ。その通りだに。これは差別などではなくて、能力の適正というものを鑑みた私なりのすすめだがに」
「では、この学園の学園長も草むしりがお似合いだと?」
「だに?」
「だって、レミおば学園長は『理の賢者』だから4文字の称号でしょう?」
レミから学園長の称号のことは聞いていたのだ。
どんなもんだい!
「レミおばっ、ぐほっ、ぐほぉ!君は何をいうのだに?学園長は1文字の称号だに。この世に数えるほどしかいない崇高な存在だに」
「え?でも、4文字じゃないですか?それにさっき、2文字が至高って……」
崇高と至高はいったいどっちが上なんだ?
「がはっ、がははっ、わかってない、わかってないだに!学園長の称号は『理』の方だに。『賢者』、『聖女』、『魔女』などはあくまで呼称なのであって、その本質と特性はその前にかかる1文字にあるだに!したがって、学園長の称号の本質は『理』だに。覚えておきたまえ」
汗がダラッダラなヤキソバまんの外側先生。ハンカチも見るからにビチョビチョ。
ところで、こっちは王手飛車取りをしたんだが、気づいているのだろうか?
それとも、気づかない素振りで質問から逃げたのだろうか。
……うーむ、これ以上追及しようかちょっと悩む。
ピシャリと言ってやるか?
いや、また帰られても困るしな。
さすがに2回連続で教師を帰らせてしまうと、問題のある生徒という烙印が押されてしまうかもしれない。
すでに、外側先生の言う「2文字の称号の作る世界」は破綻していると思うのだが、それはまあ置いておこう。ここで議論したって仕方のない話だし。
そもそもそんなこと座学にする必要ないし。
俺が言おうかどうか少々迷っているのはもう1つの方……呼称問題だ。
『賢者』や『聖女』などの呼称に本質がなく、文字数に含まないというのであれば……
いや、止めよう。
これ以上波風立ててもしょうがないしな。
「いや、それはおかしいでござるな。恐れながら、チャシウ先生の説が正しく、『賢者』や『聖女』、『魔女』があくまで呼称であり、その前の1文字に本質があるのだとすれば、『魔導師』も呼称にござろう?そうなると我々『色付き』もすべからく1文字ということになるでござる」
「ぐへっ?ぐはほっ??」
ぶっ込んだーーー!?
俺が自重したのに、なにを思ったのか、隣に座っていたダイゴが核心を突いてしまった。そんな素振りはまったく見せなかったのに!
「き、君は何を言っているのだに??」
……こうして、俺の第2の座学も途中で終了となった。
今回は、俺悪くないよね?
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
ダイゴ君は反応が速すぎる男のようです。
3度目はまともな講師による、まともな学生のための、まともな授業……のはず!笑
次回、因縁をつけられる2人。
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




