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3ー11『ハリーの災難』

まえがき

 

派閥【紫雲】は「春の選抜決闘」に向けてメンバー個々のレベルアップを図るため、派閥ポイント200を分配し、各々が「勝手に強くなる」ために模索していくことを方針とし、各自その道を模索していくこととなった……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ハリー=ウェルズは「神童」と呼ばれていた。


 それは何も魔法に限った話ではない。


 勉学にしても、騎士としての武器を持った訓練にしても、貴族としての所作にしても、魔導師という道と平行して学んだあらゆる学問、訓練において、彼は他より一歩先を進むような男であった。


 だが、歳を重ねるにつれて、ハリーにとっては、それが却って足枷になってしまった。


 何でもできる反面、これといった突出した面もない。


 いや、実際は全てが満遍なく秀でていたのであるが、秀才の器用貧乏であるがゆえに陥るコンプレックスの罠にはまってしまっていたのだ。


 これで、彼の称号が特別なものであればまだ、このコンプレックスの沼から脱却することができていたかもしれない。


 だが、彼の称号は『赤魔導師』。


 まさに、器用貧乏のど真ん中に位置する称号であった。


 それでも、ノーウェとの出会い、そしてかの派閥決闘3連戦を経て、ハリーは自信を深めることができ、魔導師としての第一歩を踏み出すことができた気がしていた。


 ……そう。魔導師としては……


 他方で、彼の心には依然として秀才コンプレックスが残っていた。


 悲しい哉、彼が天才か馬鹿であればそのような足に刺さった些細な棘のようなものは、気にせずに踏み歩くか、あるいはそもそも感じずにいるものであるが、ハリーは秀才であるがゆえに、彼らから学ぼうと一念発起したのである。


「ハリー、楽しみデスね!?ボクたち強くなれるんデスよね?」


「あったりまえデスよ、アルト!ハリーが私たちに嘘をつくはずないのデス!どっかのブルートとは違うのデスから」


「……ああ、そうだな」


 学術棟へと向かうハリーと双子たち。

 ハリーの両脇をアルトとシャウがトコトコ歩き、後ろをコークンとホウジュンが続いている。


 自身に対する謎の信頼とブルートに対する謎の低評価に困惑するも、とりあえずこの場は無難に相槌を打つしかない。


 すでに、賽は投げられたからだ。


「それにしても、がるる~、帝国軍の関係者が講師に来てくれるなんて、すごいなぁ」


「うるる〜、上級生ってだれなんだろね?」


「……まあ、着いてからのお楽しみだな」


 ホウジュンの疑問をはぐらかすハリー。


 実は、双子たちには今回の勉強会の主旨こそ伝えはしたが、その斡旋者が誰であるかは明かしていない。


 かの人物の異様な出で立ちを含めた奇人ぶりに、彼らが難色を示したら困るからだ。


 そういう意味では、ハリーは彼らに対して多少の罪悪感を抱いていた。


 嘘はついていないが、かといって伏せていた情報があるから。


「ところで、どうしてブルートが嘘つきなんだ?」


 気まずくなったハリーは、噴水の十字路を通り過ぎたあたりで、何かをはぐらかすように聞いてみる。


「ブルートはこないだの決闘戦で約束したのデス!頑張ったらボクたちに美味しい『カルボナーラまん』をご馳走してくれると!」


「オイラたちには『ラグーパスタまん』をご馳走してくれるって言ってたよ、がるる~」


「そだね~!」


「でも、私たちの分をブルートは全部1人で食べちゃったのデス!残っていたのはみすぼらしい『ソーメンまん』だけだったのデス!」


「そ、そうだったのか……」


 おそらく派閥間決闘3連戦の第1決闘終了時の控室での話だ。


 あのとき、ハリーは次の決闘であるROOMのことでリバーやレミと話していたため、他のメンバーたちの状況をあまり把握していなかった。その間に起きた出来事だったのだろう。


 ソーメンまんも甘じょっぱいタレが効いて案外オツな味なのだが、いかんせん、中にソーメン以外の具が入っていないから人気がない。

 チーズや乳製品、加工肉が好きなアルトとシャウ、煮込み肉が好きなコークンとホウジュンの好みではなかったようだ。


「まあ、あんときのブルートの大将は気持ち的に大変だったからな。許してやってくれ。帰りに『フードパーク』の『帝都まん屋』に寄って買い食いしてかえろう。大将のおごりってことで」


「「わーい!やったーーー!さすがハリーなのデス!!」」


「「ひゃっほうるる~!!」」


 ハリーの罪悪感はさらに深まった。


 たとえ、饅頭代をブルートから実際に徴収するかどうかは、脇に置いておいても……


 ◇学術棟C館◇


 学術棟はA館、B館、C館と3つの大きな建物がある。


 A館は主に座学の授業を行う教室が連なり、


 B館は主に学生たちが派閥の活動を行う部室が置かれ、


 C館は多目的の会議室や広いホールがそれぞれ配置されている。


 今回の会合はC館の多目的ホールで行われる予定となっていた。


「やあ、やあ、よく来たね!待っていたよ~、偉大なる小さな魔導師さんたち」


「あー!あのときの笑い上戸のヘンタイさんデス!」


「そーデスね!?バスローブのヘンタイさんデス!」


「がるるる~」


「うるるる~」


 ハリーたちがホールの扉を開けて入室した瞬間に、広間の奥に陣取っていたバスローブの男が両手を広げて歓迎する。


 驚く双子たち。


「私はまだ兵隊さんではありませんよ。学生ですから。それに兵隊さんはこれからここにやって来ますよ」


「ヘンタイさんがやって来るのデスか?」


 意図的に都合よく聞き間違えているのか……


 それとも、本当に聞き間違えているのか……


「この度は、『勉強会』の企画にご賛同いただき感謝いたします」


「なんの、なんの。堅苦しい挨拶は抜きにしようじゃないか、ハリー=ウェルズ。君がこの企画を公募してくれたときには、我が意を得たりと心が踊ったよ」


「それはなによりです」


「「デス!!」」


 上機嫌のレオ=ナイダス。


 彼は、近くにある椅子に腰かけると、脚を組んで、上に乗せている方の足のスリッパをパカパカ動かしながらマスボを操作し始めた。


「早速だが、ここに講師をお招きするよ」


「お願いします」


 部屋の中は、いくつかの会議用のテーブルと椅子が置かれている以外は他に配置物はなく、その中央に簡易的な闘技舞台を模した床のデザインとなっている。


 本格的な魔法訓練をここで行うには、いくつかの結界魔道具を用意しなければ難しいが、簡単な運動や演習めいたものはいつでもできる仕様だ。


 ハリーはレオ=ナイダスに、結界魔道具の用意が必要かを事前に確認していたが、返答は「初日から3日間は特に必要ない」との返事だった。


 この言葉を、秀才ハリーは、レオ=ナイダスがこの勉強会の最初の3日間において、魔法を実際には使わずに、戦術の確認や開発に向けた協議や座学のようなものをメインにやっていく心づもりなのだろうな、と勝手に解釈していた。


 その上で戦術の天才にして奇人レオ=ナイダスから学べるものがあればいいと……


 ……だが、悲しい哉、それこそが、秀才ゆえに陥る落とし穴なのである。


 ギィィーーー……


「総員、整列!レオ=ナイダス氏とご学友に敬礼!および挨拶はじめー!!」


「1番。曹長、槍隊所属!ローランド=ギョレイラ!ゴリラ獣人の家系であります!」

「2番。曹長、弓隊所属!エイナール=ウェイク!狐獣人のハーフであります!!」

「3番。曹長、歩兵部隊所属!ボーデー=ビルダー!虎獣人のクォーターであります!!」


「そして、私、軍曹、マスルマン=アープ!筋肉を愛する『帝国軍筋弾愛同盟』会長でもあります!!」


「よろしくお願いしますよ、マスルマン軍曹、それに皆さん」


「「「「はっ!光栄でありますっ!よろしくお願いしますっ!!!!」」」」


「「「「「……っ!?」」」」」


 部屋に入って来たのは、一般的な魔法使いのイメージとは正反対の筋骨隆々の武人たち。その筋肉武人たちがまだ学生のレオ=ナイダスに恭しく挨拶をしている。


 曹長を名乗る獣人族の血が色濃く残る容姿の筋骨隆々の兵士が3名と、彼らよりもさらに一回り大きな筋肉の鎧をまとっている人族の軍曹……


「レオ=ナイダスさん!?……こ、この方々は?」


「え?軍の関係者の方々ですよ!?事前にお伝えしていたでしょう?」


 たしかに、聞いてはいた。


 軍曹クラスの帝国軍関係者が来るとは。


 でも、その佇まいが想像していた人物像とはちょっと違う……いや、だいぶかけ離れていた。てっきり、魔導師団に所属するような人が派遣されてくると思っていたからだ。


「さあ、さあ。せっかくお招きしたのですからさっさと取り掛からないと時間がもったいないですよ。始めましょうか、双子さんたち」


「「「「え、何を??」」」」


「何を、って訓練に決まっているじゃないですか。強くなりにきたんでしょう?それではアープ軍曹、よろしくお願いします!」


「はっ!承知致しました」


「ちょ、ちょっと待ってください。これから何の訓練をするのですか?」


 事態に置いて行かれそうになっていたハリーは、慌てて質問する。


「何……って肉体訓練とそれぞれの武器の訓練に決まっているでしょう。せっかくそのエキスパートをお招きしているのですから!」


「は、はあーーー?」


 ハリーは驚愕した。


 バスローブの魔導師の言っていることが1ミリも理解できない。


「ど、どどどーいうことデスか?私たち魔法の訓練をしにきたのデスよね?」


「そーデスよ!?」


「はっはー!何を言っておるのかね?魔法を使うには筋肉を鍛えないといけないだろう?」


「「「その通り!!!」」」


「そ、そそそんな理論聞いたことないデスよ。ボクたちの筋肉はまだまだ未発達デスから……」


「はっはっはー!なるほど!それは素晴らしいノビシロだなっ!?いいかい?『全ての道は筋肉に通ず』と言うからね!?ノビシロだよ、ノ・ビ・シ・ロ!」


「「そんなことわざ聞いたことないですよ〜」」


「はっは!まあ、いいじゃないか!さあ、行くよ、キンニクたち、あ、いや、キミたち!」


「ハリー、助けて〜」


 ドナドナされていく双子たち。


 アルトとシャウは軍曹の両脇に抱えられ、必死にジタバタ手足を動かすもむなしく空気の中を泳ぐだけ。


 コークンとホウジュンに至っては3人のいかつい獣人曹長を前に震え上がって、初めから無抵抗だった。


「ちょっと待ってくだ……」


 ホール中央に連れ去られていく4人を救おうと、ハリーが足を一歩踏み出したそのとき、その腕をがしっと掴む者がいた。


「君はこっちで戦術の話し合いだよ!?ハリー=ウェルズ。指揮官という者は、時として非情な決断を取らならなければならないものだ。たとえ、友人を死地に送ることになってもね!?」


 振り返るとそこには、満面の笑みを浮かべる奇人レオ=ナイダスがいた。


「うわ〜ん!ひどいデス、ハリー!ヘンタイさんにボクらを売ったデス〜!」


「ふえ〜ん!そうデス!ハリーも嘘つきデス〜!」


「はっはー!威勢がいいじゃないか。キミたちの心意気は買おう!まずは腕立て伏せからだ。私は算数が得意じゃないから、数を数え間違えるかもしれないが、その時はごめんなー」


「「ヒィー」」


 ……

 ………

 …………


 ……ハリーの罪悪感は増すばかりである。

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ソーメンまんは蒸し鶏と錦糸卵を入れるといいと思うのデス。笑

プロテイン補給の意味でも。笑


次回、ノーウェ再び授業に出る。ネームドキャラの派閥メンバー『黒魔導師』ダイゴが登場!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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